シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その11
「被災者」さえ差別選別する恐ろしい米国社会の暗部
−−避難できる資力のある者だけが「被災者」。避難できない貧しい者は危険人物、監視・弾圧対象−−


はじめに−−全てが軍事最優先。「被災者」も事実上人種と階級で選別

 今回のハリケーン災害に関して、大手メディアで伝えられている事柄だけでは、事の本質、真相はほとんどわからない。確かに、あまりにもひどい対応から、日本の大手メディアさえブッシュ批判を報じざるを得なくなっている。しかし、例えば、米政府が被災者の遺体の報道を一切禁止したこと(これはイラクでの米軍による住民殺戮の写真、あるいは米兵自身の遺体写真さえ報じることを禁じしていることと重なる)については触れられていない。(その後この禁止規制は解除されたが、事実上の規制が続いているのは言うまでもない)
 私たちは、インターネットを通じて知ることのできる様々な情報を加味してはじめて、真実、実相に肉薄することができる。以下に紹介するのは、米の左翼系紙「ワーカーズ・ワールド」が、ハリケーン「カトリーナ」による大惨事が起こって以降、様々な角度から連日報道したものである。巻末にはニューオリンズのブラックパンサー党の古参の活動家マリク・ラヒム氏の目撃談「これはもう犯罪的だ」の抄訳を掲載した。
※「ワーカーズ・ワールド」のサイトは http://www.workers.org/

 ブッシュ政権は、被災者に対してなぜここまでひどい、信じられないような対応ができるのか。対応の欠如と遅れに対してなぜここまで居直れるのか。それは、「テロとの戦い」、すなわち戦争体制下では、自然災害すら、軍国主義的なやり方でしか対応しないという異常な体制になっているからである。それは従来からの人種差別主義、階級差別を極限にまでエスカレートさせることを意味する。

 ブッシュ政権が今やっているのは被災地域の戒厳令体制、治安維持体制の確立なのである。救済はそれに従属する限りで、ゆっくりと行われているに過ぎない。全てが軍事最優先で進められる。避難命令に従わなかった者たちは、国家・行政に従わない者たち、たてつく者たち、反逆者、暴徒、等々であって、救助すべき被災者ではない。避難したくても避難できなかったという事情は彼らにとっては何の意味も持たないのである。要するに、避難しようと思えば避難することのできる資力を持った人々だけが保護の対象としての「被災者」であって、避難することすらできない人々は、政府の避難命令にも従わない危険な人々であって、監視・弾圧の対象でしかないのである。
 まさにブッシュ政権は抵抗する者を無慈悲に弾圧し殺戮しているイラクと同じ観点で、国内の大災害に際して行動しているのである。だからこそ、この被災をめぐっての新たな闘いが、イラク反戦の闘いと直結しているのである。 

2005年9月16日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[1]驚くべき真実を暗示する三つのエピソード――ブッシュ政権は避難できなかった貧しい被災者を救助すべき人々とは考えていない

(1)ブッシュの被災地訪問の映像は“やらせ”
 みなさんは、ブッシュ大統領が二人の黒人少女を抱きしめる写真をごらんになったであろうか。9月2日、被災地の一つミシシッピ州ビロクシをブッシュ大統領が訪れたときの写真である。少女の一人は悲痛な表情で写真の右手を指さしている。大統領は少女の指さす方向を見つめながら二人の少女の肩を抱きしめる。『可哀想な娘たちよ、私が来たからにはもう安心だよ。』とでも言いたげに。


● 9月2日 ミシシッピのビロクシでの写真(ロイター)
http://news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/050903/photos_ts/2005_09_02t184514_450x360_us_weather_katrina_bush

 しかしながら、このパフォーマンスは“やらせ”以外の何ものでもなかった。ドイツのテレビ局ZDFニュースが目撃したところでは、この写真撮影が終わって、大統領と撮影隊が去った後、その写真の背景にあった食糧配給所が取り壊されたというのである。つまり、それは写真撮影のためだけのセットだったのである。ブッシュ大統領は本気で被災者を救う気などまったくなく、批判を塗り隠すことだけに情熱のありったけを傾けているということが、このエピソードだけからでもはっきりとわかる。
※『軍が入ってくる、援助のためでなく鎮圧のために』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0904/
 ブッシュが英雄を演じ、ルイジアナの2人の若い黒人女性を抱擁した、宣伝のための写真撮影の後、ドイツのテレビ局「ZDF News」は、大統領の訪問がまったくやらせであったと報告した。そのクルーは、大統領と「ニュース関係者」の集団が去った直後、ブッシュがカメラの前で訪問した野外の食糧配給ポイントが取りこわされるのを目撃した。設置されていたといわれる他のものもまた同時に、捨てられた。
 ZDFによれば、この地域の人々は再度放置され、自分自身でやりくりしていくことになったという。


(2)ブッシュの母親のとんでも発言
 さらに、ブッシュ大統領の母親が9月5日にテキサス州ヒューストンのアストロドームを訪れたときのことである。彼女は忍び笑いをしながらこう言った。「あの人たちはとにかく恵まれない人たちだったのですわ。ここはとても恵まれてますわね。」と。
 これがアメリカのかつての為政者の妻であり、現在の為政者の母である人物の言葉なのである。貧しい人々に対する彼らの侮蔑的態度は骨の髄まで染み込んだものであることがわかる。
※『デルタ地帯の人々は回答を要求する』(2005年9月8日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/gulf-coast-0915/
 バーバラ・ブッシュはジョージ・H・W・.ブッシュ元大統領およびビル・クリントン元大統領とともに、9月5日にヒューストンのハリケーン救援センターを訪問した。この経験に関して、American Public Mediaの番組「Marketplace」でインタビューされた時、彼女は人々がそこで被っていた災いに関して無神経な言明をした。
 番組編集・放送担当者によれば、彼女は、「すべてのものを失って、家に戻ったり避難している貧乏人についてこう述べました。『彼らにとってここはずいぶん恵まれていますわ。…このアリーナにはずいぶんたくさんの人がいますわね。彼らはとにかく恵まれない人たちだったのですわ。ここは(彼女はわずかに忍び笑いする)彼らにとって、とても恵まれていますわ。』と。」 (9月5日編集・放送担当者による)

 しかし、彼女が「恵まれている」と述べたアストロドームに詰め込まれている約二万人の人々は、ニューオリンズ市内で水も食料もないスーパードームや国際会議場で何日も放置されてから、ようやく移送されてきた人々である。移送の過程で家族や親戚はばらばらになってしまい、多くの人々が、家族や友人がどこにいるのかすらわからないと言って嘆いている。このような状態のどこが「恵まれている」のであろうか。バーバラ・ブッシュの頭の中はまだ、黒人の家族を平気でばらばらに売り買いしてきた奴隷制度時代のままなのではないだろうかとすら疑いたくなる。
※『ニューオリンズへの途上で』(2005年9月8日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/new-orleans-0915/
 政府は調査を試みようともしません。私たちはヒューストンのアストロドームに避難したひとりの女性に話しかけました。彼女は、自分の家族がどこにいるかまったくわかりませんでした。彼女には何も残されていません。彼女はとても心が傷ついています。「私はただ正気を保とうとするので精一杯です。」と、彼女は私たちに言いました。


(3)人命救助をしたパイロットが犬小屋の番人に
 次のようなエピソードも、被災者を助けることに政府や軍がいかに無関心であるかを示している。8月30日に、軍施設に食料と水を届けることになっていたヘリコプターのパイロットが任務を終えてから、沿岸警備隊からの要請に応えて100人以上の人々を救った。しかし、彼らの行為は賞賛されるどころか、任務を逸脱したとして叱責を受け、それに反抗的な態度を取ったパイロットは犬小屋の番人にさせられるという懲罰を与えられたのである。
 このことは、軍隊が何のために存在しているかをはっきりと示している。たとえ人命救助であっても個々の軍人が命令外のことをすれば処罰されるということは、軍は個々の軍人に人命救助などするなと命じているに等しい。軍にとっては、大量の被災者は救助の対象である前にまず第一に暴動を起こしかねない危険な人々として治安弾圧の対象なのである。その第一義的任務を果たすためには、個々の軍人にヒューマンな心など捨てて命令に絶対服従することを強要するのである。
※『デルタ地帯の人々は回答を要求する』(2005年9月8日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/gulf-coast-0915/
 8月30日に、食物と水をメキシコ湾岸沿いの軍事施設に届ける任務を受けた2人の海軍のヘリコプター操縦士が、彼らの任務を終了して後、懸命な救出作業で助けを求める沿岸警備隊からの無線をとらえた。
 彼らの上司に許可を取る連絡をすることができないまま、彼らはその地域に向かった。彼らは屋根の上や家の中に足留めされた人々を拾い上げた。その中には家の屋根に登ることができなかった2人の盲人を含んでいた。当日中に、彼らは110人の人を救った。
 2人のパイロット――デヴィッド・シャンド中尉とマット・ウドコウ中尉――は英雄的歓迎を受けることを期待しながら基地に戻ったが、そこで彼らは、その代わりに彼らの当初の任務から逸脱したとして叱責を受けた。同僚が言うには、ウドコウ中尉は「特に上司に対して不満を声高に訴えた」ために、兵士たちのペットのためにある基地の犬小屋の番人にさせられた。



[2]見殺しにされた被災者−−人命最優先で200万人もの民衆の命を救済したキューバと正反対

(1)行政の徹底した無作為・被災者の放置
 ハリケーン「カトリーナ」による前代未聞の災害は、まさに「人災」であった。老朽化した堤防の修繕費は削減され、緊急災害対策機関(FEMA)は民営化され、事実上解体されていた。初動対応は行なわれないまま、無駄に時間が過ぎた。災害時の要員である州兵は戦争に行っていた。ルイジアナの州兵の3分の1はイラクに派遣されていたのである。ハリケーンの接近は何日も前から予想されていたのにブッシュは牧場で休暇を取っており、現地入りしたのは9月2日になってからであった。しかも、まだまだ一刻を争う被災者が大勢いるというのに、冒頭で述べたように“やらせ”の撮影にカネと時間を浪費していたのである。
※詳しくは「シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その10 ブッシュの被災者放置=人種差別とイラク戦争政策最優先に怒りが爆発

 ニューオリンズ全市に避難命令が出されたものの、実際に町を脱出できたのは、自家用車を持っている富裕層だけであった。黒人が圧倒的多数を占める貧困層はなすすべもなく取り残された。市内のスーパードームなどがそうした人々の避難所となったが、中に入るには4〜5時間の間、雨の中で列を作って立っていなければならなかった。入り口で一人ずつ身体検査をされていたからである。しかも、そこには食物も飲み水もなかった。エアコンのスイッチも入れられず、トイレは詰まったままであった。人々は飢えと渇きと暑さと悪臭に苦しめられた。
※『ニューオリンズで深まる鎮圧と軍事占領』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/gulf-update-0903/
 洪水の後、数万人が何日もルイジアナ・スーパードームと国際会議場に取り残された。そこは人が住むにふさわしいものではなくなった。ドームの職員は、エアコンのスイッチを入れることを拒否した。水洗トイレは水が流れなかった。生存者は死体と並んで収容された。

 こうした人々を市外に脱出させる手だてがないわけではなかった。バス会社は大勢の人々を移動させるのに十分なバスを所有していたのに、それは有効に使用されることがなかった。生き残った人々は多くの車がむなしく水没しているのを見る。
※『ニューオリンズの目撃者は語る「これはもう犯罪的だ」』(2005年9月3日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/rahim-new-orleans-0915/
 ここにはアムトラック(全国鉄道旅客公社)がある。それはこの町から全員を運び出すことができたのに。スクールバスも十分あり、それは2万人を簡単に避難させることができたのに、ただ水につかるがままにされた。私の息子は、40台のバスが水没するのを見た。彼らは盗まれるのを恐れて動かそうとしなかったのだ。

 こうした行政の無作為は、ハリケーンの通り道でありながら、被害が予想されるたびに百万人以上の人々を整然と退避させてきたキューバと比較するとさらに明白である。2004年9月に史上5番目の大きさのハリケーン「イワン」がキューバを襲った。これに対して、キューバは誰も死なせることなく200万人を避難させることで持ちこたえたのである。国連はこれを大惨事の準備のモデルケースと宣言した。
※『人命の損失は避けられた―キューバ国連モデル』(インターナショナル・アクション・センターの声明より)
http://www.jca.apc.org/~p-news/IRQ/hurricane_katrina2.htm
 2004年9月、持続する毎時124マイルの暴風でカリブ海を直撃した史上5番目の大きさのハリケーン「イワン」に対しキューバは持ちこたえた。キューバは総人口の15%以上にもあたる約2百万人を避難させた。10万人が3時間以内に避難した。信じがたいことにこれらの避難者の78%は他の人々の家に歓待された。全寮制学校の子供たちは移送された。動物や鳥も移送された。死者はいなかった。国連はこれを大惨事の準備のモデルケースと宣言したのである。
 米国により45年間にわたり封鎖され隔離された国であるキューバは百万人の人々を人命を失うことなく整然と避難させることができているのである。自然災害が必ずしも惨禍となるわけではないのである。

 被災者への救援は単に不作為や怠慢によって遅れたのではない。救援は遅れたのではなく、意図的に無視され、妨害された。「人災」という言葉ではまだ言い足りない。これは貧民と黒人を狙い打ちにした「大量殺戮」とも言うべきものである。


(2)被災者をだしにした権力争い
 9・11およびその後の「テロ」対策、アフガニスタンおよびイラク戦争においては、平気で国際法も国内法も無視してきたブッシュ政権が、ハリケーンの被災者の救助に関しては、突如「法治主義」の熱烈なる擁護者になったのであろうか。法的手続に手間取って救助が遅れたとも言われているが、実のところ、連邦政府と首長をもつ州政府との間で、被災地での活動の主導権に関する争いが行なわれていたのである。(連邦政府の長は共和党のブッシュ大統領であり、ルイジアナ州知事とニューオリンズ市長は民主党である。)

 9月2日の真夜中に政府はルイジアナ州の知事に対して、指揮権を政府に委ねるよう文書で通告してきた。知事側はこれをまるで「戒厳令」だとして断った。この災害を招いた責任に関しては、政府、州知事、市長が互いになすりつけあっているのに、この地域の活動における軍事的・政治的主導権を握ることに関しては、それを誰が握るかということに関して醜い争いが行われていたのである。被災者の状況は一刻を争っている最中だというのに。
※『軍が入ってくる、援助のためでなく鎮圧のために』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0904/
 9月4日のワシントンポストの記事によれば…「連邦政府は、知事に直属するすべての地元の警察と州兵の統一した指揮権を求めた。ルイジアナ州の政府高官は、そのような権限の移譲が連邦政府による戒厳令の宣言に匹敵するものであるという懸念を表明して、夜を徹しての話し合い後、その要求を拒絶した。州の高官の中には、その要求の背後にある政治上の動機を疑った人もいた。『全く率直に言って、もし連邦政府が地元の州から首尾よく権限を取り上げることができたなら、全ての責任を地元の州に押し付けることもできたかもしれない』とその高官は述べたが、公に語る根拠は持ち合わせていない。」



[3]あらゆるところに人種差別の刻印が。白人の“武装自警団”まで登場

(1)貧しい黒人の緊急避難を「略奪」と報じるマスメディア
 市内の避難所、スーパードームでは、8月30日には食料も水もなくなった。こういう状況の下で飢え死にを免れるために食料や生活必需品を求めて食料品店の戸を破る行為は、緊急避難として法的に保護されるべき行為である。裁かれるべきは彼らを見殺しにした行政機構である。
※『本当の略奪者はだれか?』(2005年9月5日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/real-looters-0915/
 「略奪者」の問題について的確な見通しを与えたのは、米国の新聞ではなく、カナダの「トロント・スター」だった。ハリケーンの襲来後4日も経ってから連邦政府から食料と水が到着したが、それまでに何が起こっていたかについて、その新聞は9月3日に報じた。「何千人もの避難民が昨日[ニューオリンズ]国際会議場の外の通りに立ち並んでいた。衰弱しており、助けを求め、ここに彼らを置き去りにして見殺しにした政府を非難しながら。彼らが言うには、連邦政府がやってくる代わりに、何ももたずに残された者たちに放棄された店の窓を壊して食物と水を分配した「略奪者」によって救われたということである。」

 しかしながら、メディアはそうした人々を一方的に「略奪者」と報じた。しかも、下記の二つの写真に見られるように、同じように荷物を抱えて水の中を歩いている人々が、黒人は“略奪者”として、白人は単なる“発見者” として扱われている。

 ●写真1
   http://news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/050830/1913/w083049ajpg
 ●写真2
   http://news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/050830/photos_wl_afp/050830005619_sx9ch4bd_photo7

※『本当の略奪者はだれか?』(2005年9月5日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/real-looters-0915/
 8月31日に、ヤフー・ニュース・ウェブサイトに掲載された2枚の写真が、ウェブログ作成者たちの注意を捕らえた。両方とも、人々が手に食物を持ち、胸まで水につかりながら歩いているところである。若い黒人男性の写真につけられた見出しが『食料品店を略奪する』(looting a grocery store)であり、もう一方の2人の白人の写真については『地元の食料品店からパンとソーダを見つける』(finding bread and soda from a local grocery store)となっている。
 ヤフー・ニュースは、すぐに写真が2人の異なった写真家によって撮られたものであって、それぞれが自分の写真に見出しをつけただけであると、批判を打ち消そうとしたが、結果は同じことである。すなわち、黒人の若者を犯罪者として扱っているのである。


 一方で、市当局については、自分たちに私有物の使用を合法化する権限を与えている。神聖なる私有権は、どんなことがあっても、貧民大衆が手を着けてはならないというのであろう。
※『本当の略奪者はだれか?』(2005年9月5日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/real-looters-0915/
 AP通信の記事は、市の職員が駅ビルから取った設備を使用することについて報じて、次のように述べている。「非常事態の間、当局には、私有の物資と建物を自分たちの使用にあてる広範な権限がある。」と。


(2)黒人を撃ち殺す白人の武装集団
 緊急避難の正当な権利を行使しているに過ぎない黒人たちが「略奪者」とみなされることは、非常に恐ろしい結果を招いている。アメリカ南部の州では黒人差別が根強く残っている。1992年には元KKK団のメンバーであった人物がルイジアナ州の知事選に立候補して白人票の大部分を獲得した。そんな土地柄で、警察が機能しなくなって無政府状態が生まれ出た時、白人たちは武装し、大手を振って黒人の「略奪者」に制裁を与えようとしたとしても何ら不思議はない。
※『ニューオリンズの目撃者は語る「これはもう犯罪的だ」』(2005年9月3日「ワーカーズ ワールド」より)
 このあたりに小型トラックを乗り回す白人の自警団員の連中がいる。彼らはみんな武装している。そして、自分たちのコミュニティーに属さないと彼らがみなす黒人の若者を見かけると、彼らは銃で撃つのである。私は彼らに言う。「やめろ! お前たちは暴動を起こす気か。」と。
※『ニューオリンズで深まる鎮圧と軍事占領』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/gulf-update-0903/
 クー・クラックス・クランの「元」メンバー、デヴィッド・デュークが、1992年の知事選に立候補した時、白人票の大部分を獲得したこの州においては、武装白人の自警団員が通りを徘徊し、食物を持ちだす黒人の命を脅かしているという報告は、非常に信用に値する。



[4]ニューオリンズを軍事占領下に置き、援助活動を妨害する軍隊

(1)「治安」に名を借りて貧しい人々を弾圧
 ニューオリンズの「治安の悪化」の具体的内容はまさに以上のようなものである。しかしながら、遅ればせながら州兵や軍隊が投入された時、彼らが「鎮圧」の対象としたのは、主として黒人の「略奪者」であった。
※『デルタ地帯の人々は回答を要求する』(2005年9月8日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/gulf-coast-0915/
 9月6日のニューヨーク・タイムズのウェブサイトに掲載された写真は、「ニューオリンズのグレイハウンドバスターミナルに設立された…間に合わせの刑務所」に、圧倒的に黒人男性が多い列ができているのを示した。

 ルイジアナ州の知事キャサリン・ブランコは、本来救援の対象としなければならない人々を「ごろつき」と呼び、彼らを射殺する許可を軍に与えた。
※『正義を要求し、鎮圧に反対するニューヨーク市民』(2005年9月3日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/times-square-0915/
 自動ライフル銃で完全武装した主に白人からなる部隊が到着した時、ルイジアナ知事キャサリン・ブランコは報道陣に恐るべき声明を発表した。「ごろつきたちに言っておく。これらの部隊は撃ち方も殺し方も知っている。また必要ならそうすることにやぶさかではない。」
 彼女が言った「ごろつき」とは、何千人もの飢えた家を失った貧しい人々で、その圧倒的多数が黒人である。彼らはハリケーンによって引き起こされた荒廃の前でも後でも、あらゆるレベルの政府機関に見捨てられた。

 果たしてニューオリンズの水の中に沈む遺体のうち、どれだけがハリケーンの被害によるもので、どれだけが人種差別に凝り固まった白人の武装集団と軍隊による“黒人狩り”の犠牲者なのであろうか。当局はまだ犠牲者数を明らかにしていないし、それを早急に調査しなければならないという気もなさそうである。ましてや一人ひとりの死因の特定などなされるはずもないであろう。


(2)ボランティアの援助を妨害する軍隊
 この地域に展開した軍隊は、援助もせずに人々を弾圧するだけではない。他の人々が援助をするのを意図的に妨害さえした。

 ニューオリンズ市で唯一水没をまぬかれたアルジェ区に住んでいるマリク・ラヒムは、食料も水も支給されないままでいる被災者に食事や水の差し入れをしようとした。ところが、武装した州兵がそれを阻んだのである。自分たちが被災者に必要なものを供給しないだけでなく、近隣の人々の善意すら阻むのである。もはや被災者を救助すべき人間とみなしていないということは明らかである。
※『ニューオリンズの目撃者は語る「これはもう犯罪的だ」』(2005年9月3日「ワーカーズ ワールド」より)
 プラクマイン区から来た人々は、フェリーに救助されて、ここの近くのドックの上に降ろされた。一日中、彼らは熱い日なたのドックの上で、食料も水もなくただ座っていた。多くの人が茫然自失していた。彼らはすべてを失っていた。
 彼らはみんな武装した州兵に囲まれてそこに座っていた。私たちはその州兵に、水と食料を彼らに持ってきてもいいかと尋ねた。私の母と他の教会の女性たちみんなが彼らのために食べ物をつくっていたし、私たちには飲み水も十分あったからだ。
 しかし州兵は言った。「駄目だ。もし全員に行き渡るだけの十分な水と食物がなければ、何も与えてはならない。」 最終的にその人々は他の区から来たスクールバスで連行されるように運ばれていった。

 多数の国際支援の申し出があったが、ブッシュ政権は「私は外国の国家からあまり期待していない。私たちがそれを求めたのではないからだ。」と言って事実上拒否した。自分たちだけで十分なことができると豪語したのである。しかし、その実態は、これまでに述べたように、援助どころか見殺し政策であった。

 驚くべきことに、ブッシュ政権はアメリカ国内の援助団体やボランティアの諸個人すら、現地に入ることを禁じた。素人ではなく、災害時に活動した経験を持った医療関係者や職員が何千人も意欲に溢れて救援に向かったのに、彼らはみな追い返されたのである。
※『軍が入ってくる、援助のためでなく鎮圧のために』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0904/
 ノースカロライナ州ジャクソンビルの「デイリーニュース」は、本日次のように書いている。「〔シェリ〕ガベル救命士はジャクソンビルからやってきた。彼女のような熟練した健康管理プロバイダーと緊急職員が何千人も、ハリケーン・カトリーナのために食物も水も医療もなく置き去りにされた数千の人々を助けようと、破壊されたメキシコ湾岸に集まっていった。」
 しかし、多くの者が追い払われているとガベルは言う。そういう動きはいっそう多くの命を犠牲にするだろうと彼女は信じている。実際、今週の初めに彼女が連邦緊急事態管理局[FEMA]を訪れた時、彼らは彼女を追い払おうとした、と彼女は語った。...
 当局が、救援物資を積んだトラックと緊急災害ワーカーの両方を追い返すところを見たとガベルは語った。...

 現地に入れなくて足止めを食った団体にはなんとアメリカ赤十字も含まれていた。赤十字すらも排除して、いったいどんな援助がニューオリンズで行なわれていたというのだろうか。
※『軍が入ってくる、援助のためでなく鎮圧のために』(2005年9月4日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0904/
※アメリカ赤十字のFAQ(よくある質問)のページ
http://www.redcross.org/faq/0,1096,0_682_4524,00.html#4524
 赤十字の関係者でさえ、自分達がニューオリンズに入ることができないと不平を言っている。赤十字のウェブサイトのFAQページにはこのように書かれている。「国土安全保障省は何度も何度もこのように要請してきている。アメリカ赤十字は、ハリケーンに引き続いてニューオリンズに入ってはならないと。私たちの存在は人々が避難するのをおしとどめ、よそ者がこの都市に入ることを奨励するだろうというのである。」
「人々はまだニューオリンズに取り残され、飢えて、死んでいっているが、まったく残念なことに、赤十字が彼らを助けることは許可されていない。これが国土安全保障省の命令なのである。」

 赤十字の排除という事態からすぐに想起されるのは、イラクやパレスチナで、ひどい虐殺が行なわれる時には、きまって赤新月(赤十字に相当する組織)すら現地に入ることができなかったという事実である。ニューオリンズで「治安」に名を借りた虐殺が行なわれていたのではないかと思わせる出来事である。



[5]被災者救済を合い言葉に、既存の組織を超える平和運動組織と住民組織の新たな連帯

 その後、赤十字については現地入りを許可される。しかしながら、今度はなんと赤十字が他のボランティアを排除する役割を担うようになる。信じがたいことであるが、複数の報告がそれを裏付けている。
 赤十字は他のボランティア団体からその対応の不手際を批判されている。それは逆に言えば、そうした既存の援助組織がいかに腐敗堕落しているかの例証であると同時に、新しい人々のつながりが生まれ、そこに新しい息吹が吹き込まれていることを示すものである。
※『ニューオリンズへの途上で』(2005年9月8日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/new-orleans-0915/
 政府が隠そうとしているこのような犠牲者がいます。すべてが人々のよせ集められた善意に任されていますが、赤十字と政府は何もしません。私たちは、「平和をめざす退役軍人の会」の一人と話をしました。彼の姉妹はこの地で看護師をしており、ここからニューオリンズに行こうと志願しました。ところが赤十字はすでに十分な人員がいるからといってその申し出を断ったのです。
 ここ地元の人々は、十分な人員などいないのを知っています。
※『草の根の救援活動は政府の怠慢を暴露する』(2005年9月6日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0905/
 草の根の民衆のサポートは、FEMAは言うに及ばず、しばしば赤十字より迅速でよく組織化されている。「死刑廃止テキサス連合Texes Coalition to Abolish the Death Penalty」のグロリア・ルバックは、ヒューストンの人々から、特に黒人共同体から多くのサポートがなされたと「ワーカーズ・ワールド」に語った。「ヒューストン、特にフレンチタウン街と、ルイジアナ州の南部との間には、黒人の間にも白人の間にも両方で言語と文化を通して本当の結びつきがある。と、彼女は述べた。多くのボランティアがいるのに、赤十字が彼らを追い返している。」

 貧しい人々、とりわけ黒人のコミュニティが被災者の援助に最大限の関心を示している。それと密接な協力関係をもって、平和運動の組織が実際の援助活動に大きな役割を果たしている。そのつながりはまったく必然的なものである。どちらもブッシュ政権の戦争政策によって、戦地であるいは被災地で愛する者を奪われたのだから。

 当初、愛する息子を失った母親シンディの抗議としてブッシュ大統領の保養地の前で始まったキャンプ・ケーシーは、8月末から全米キャンペーンの旅へと出た。ハリケーンの襲来を知ったシンディは、8月29日の朝、キャンプケーシーに残っているすべての支援物資を災害に見舞われたニューオリンズに送るよう呼びかけた。
 南部諸州をめぐる予定であったキャンプ・ケーシーの一部隊は、ニューオリンズの対岸コビントンに根を下ろし、そこで「キャンプ・ケーシー・ニューオリンズ」として“増殖”して救援活動を行なっている。退役軍人や州兵、家族がイラクで戦死した遺族などを中心としたその部隊は、機動力と行動力をフルに発揮して被災者の援助に当っているのである。
※『草の根の救援活動は政府の怠慢を暴露する』(2005年9月6日「ワーカーズ ワールド」より)
http://www.workers.org/2005/us/update-0905/
 別の新たな事態としては、反戦運動がハリケーン・カトリーナによる災害の生存者を助けている。テキサス州クロフォードのキャンプ・ケーシー――イラクで殺された米軍兵士にちなんで名付けられた――からやってきた派遣団は、ニューオリンズからポンチャートレン湖を渡った向こう岸、ルイジアナ州コビントンでキャンプを設置し、メキシコ湾からなんとか逃れた人々を援助している。「平和をめざす退役軍人の会」の「白バラ」バス第116号は、キャンプ・ケーシー・コビントンを立ち上げた。それは、現在、28番街のコビントン・パイン・ビュー・ミドルスクールで食料と医療サポートを提供している。
 キャンプ・ケーシーグループは、すでに赤十字に水の配送を行い、衛星接続コミュニケーションを提供している。デニス・カイネからのメールでは、彼らが最初の2日間で多くの食料と物資を届ける配給ラインを設置したということである。「平和をめざす退役軍人の会」の他のグループは、商品の積荷をその地域に送っている。




〔抄訳〕
ニューオリンズの目撃者は語る「これはもう犯罪的だ」
2005年9月3日発行
http://www.workers.org/2005/us/rahim-new-orleans-0915/


 以下は、マリク・ラヒムによってインターネットで流されている記事からの抜粋である。彼は、ニューオリンズのブラックパンサー党の古参であり、ニューオリンズとサンフランシスコの公営住宅借家人組合の組織者であり、最近、ニューオリンズ市議会の緑の党の候補者となった。(…)彼が描き出していることは、まさに黒人と貧民に対する意図的な大量殺戮以外の何ものでもないということである。


写真:マリク・ラヒム

 9月1日―これはもう犯罪的だ。みなさんが聞いていることからすれば、ニューオリンズで捕らわれた状態に閉じ込められた人々は略奪者にすぎない。私たちは、もっと「隣人を思いやる」べきであると言われる。しかし、それは去る余裕のある人々が去ってしまうまでのことで、そういう人々が去ってしまった後にもなお「隣人を思いやる」ことについて語る者はいない。

 アメリカでは無一文なら、当てにできるのは自分だけである。人々はスーパードームに行くように言われた。しかしそこには食物も飲み水もない。しかも、中に入るには4〜5時間の間、雨の中で列を作って立っていなければならなかった。みんな入り口のところで一人ずつ身体検査をされていたからである。

(…)

 ここにはアムトラック(全国鉄道旅客公社)がある。それはこの町から全員を運び出すことができたのに。スクールバスも十分あり、それは2万人を簡単に避難させることができたのに、ただ水につかるがままにされた。私の息子は、40台のバスが水没するのを見た。彼らは盗まれるのを恐れて動かそうとしなかったのだ。

 去る余裕がある人々は、自分の所有物を誰かに盗まれるのを恐れるばかりに、水につかるがままにしておいたのだった。乗り物のない家族に自分達の余分な車を貸すことができたのに、そうはしないで、後に残して壊れるがままにした。

 このあたりに小型トラックを乗り回す白人の自警団員の連中がいる。彼らはみんな武装している。そして、自分たちのコミュニティーに属さないと彼らがみなす黒人の若者を見かけると、彼らは銃で撃つのである。私は彼らに言う。「やめろ! お前たちは暴動を起こす気か。」と。

(…)

 ハリケーンは月末にやってきた。それは貧乏人が最も弱っている時だ。食料切符では、一ヶ月のうち三週間分のものしか買えず、月末にはみんな使い果たしている。今、彼らには食糧切符を得る方法もなくお金も全くないので、彼らは生き残るために自分たちにできることをしなければならない。

 多くの人々が病気になり、非常に衰弱している。人々は汚濁水の中を通って歩いているため、小さなかすり傷や怪我が重大な傷になる。

(…)

 私の息子とその家族――彼の妻と、1、5、8歳の子供は、堤防が決壊した時、彼らの家が水浸しになった。彼らは、放棄されたビルで水位より上に2つの部屋があるのを見つけるまで泳がなければならなかった。

 21人の人が1日半の間、その2つの部屋にいた。ボートに乗った男が、「私は誰でも無条件で助ける」と言って彼らを救い、ハイウェイI-10に連れて行って、そこに降ろしてくれた。

 救助の手が伸びてスーパードームに連れて行ってもらえるんじゃないかと誰かが言ったので、彼らはおよそ3時間高速道路の上に座っていた。結局彼らは歩き始めることになり、6.5マイルも歩かなければならなかった。

 彼らがスーパードームに着いた時、私の息子は中に入ることを許されなかった――なぜだか私にはわからないが。それで彼の妻と子どもたちも入ろうとしなかった。彼らは歩き続けた。そして、たまたま、レッカー車に乗った知り合いの男に出会った。その人は彼らに自分のトラックを提供してくれたのである。

 彼らがここに到着したとき、ガソリンが全くなくなっていたので、私は自分のガソリンタンクに穴を開けてガソリンを彼らにあげなければならなかった。それで今、私は動けないでいる。私は自転車でなんとかしている。

 プラクマイン区から来た人々は、フェリーに救助されて、ここの近くのドックの上に降ろされた。一日中、彼らは熱い日なたのドックの上で、食料も水もなくただ座っていた。多くの人が茫然自失していた。彼らはすべてを失っていた。

 彼らはみんな武装した州兵に囲まれてそこに座っていた。私たちはその州兵に、水と食料を彼らに持ってきてもいいかと尋ねた。私の母と他の教会の女性たちみんなが彼らのために食べ物をつくっていたし、私たちには飲み水も十分あったからだ。

 しかし州兵は言った。「駄目だ。もし全員に行き渡るだけの十分な水と食物がなければ、何も与えてはならない。」 最終的にその人々は他の区から来たスクールバスで連行されるように運ばれていった。

(…)

 救援活動のできる人々は船で外へ運ばれている。ここに留まりたがっている人々、人命救助や再建の技術を持っている人々はヒューストンに行くことを強制されている。

 ニューオリンズは油断しているところを不意を疲れて襲われたというのではない。これは防ぐことのできたものであった。
 
 ここニューオリンズには軍隊がいたが、3日間彼らは動員されることすらなかった。あなたがたは、ここは第三世界の国かと思われることだろう。

 私はニューオリンズのアルジェ地区にいる。そこは水びたしになっていない唯一の場所である。水は大丈夫である。私たちのいくつもある公園と学校は、容易に4万人の人を受け入れることができたのに、そのいずれも使用されていない。

 これはもう犯罪的だ。これらの人々は、まさに組織力の欠如のために死んでいる。

 あらゆることが必要なのに、私たちはまだあまりにも混乱しきっている。私は、人々にどんどん事を進めるように、寄付と援助物資を集めるように頼んでいる。しかし、それらを効果的に利用する方法が見つかるまで、数日間保管しておくように頼まなければならない。

 私は、私の所属する緑の党に、事態がもう少し組織化されればすぐにでも、ここにやってきて私たちを助けるようにと促してみる。共和党員と民主党員は、これを防ぐことも、そのための計画を立てることもしなかった。そして、みんなが死ぬかどうか気にしているようにも見えない。