国際社会の重大な危機にあたり、私たちは何をなすべきか・・・私の9条論

深草 徹 (元弁護士、深草憲法問題研究室、「九条の会.ひがしなだ」共同代表世話人)

 ロシアのウクライナ侵略戦争が始まって以来わずか4年余りの間に世界の様相は一変してしまいました。今日時点において、包括的安全保障機構としての国連のもとに、主権と領土の不可侵、人民の自決権、武力行使禁止原則、人間の尊厳と諸人権を相互に尊重しあう第二次大戦後の国際社会・・・正義と秩序を基調とする国際平和を志向する国際社会・・・が崩壊の危機に瀕し、とっくに葬り去った筈の戦争自由、侵略の野放し、人間の尊厳と人権否認、弱肉強食、武力こそ全ての戦前的国際秩序に国際社会が絡めとられようとしています。

 このような事態に直面し、他国からの侵略を防ぎ、平和を守るための抑止力を持たなければならないと主張する人が、増えているように思われます。

しかし、抑止力とは、仮想敵国を見据え、それに打ち勝つ軍事力(自己保有もしくは他国の提供する核兵器を含む兵器体系と兵員及び軍事大国との同盟関係)を持つことを意味します。それは必要にして十分なものでなければならず、当然のことながら仮想敵国から見れば攻撃的なものに見えます。それ故、仮想敵国はそれに打ち勝つだけの必要にして十分な軍事力を備えようとします。その結果、相互のリアクションを通じて、果てしない軍備拡大競争がもたらされ、ついには全人類的破局を招来することになります。よってこれはその主観的意図とは相いれない結果をもたらしてしまいます。

 わが国政府と国民は、そのような抑止力幻想に溺れることなく、世界でも例をみない非軍事平和主義を定める憲法9条を再確認し、これを守ることを世界に宣言するべきであろうと思います。

 ただ、ここで再確認し、守るべき9条について少し説明をしておきたいと思います。それは以下のようなことです。

 9条は第1項で、日本国民は、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」、戦争・武力行使を放棄すると定め、戦争・武力行使放棄は「正義と秩序を基調とする国際平和」の実現と一体であることを明らかにしています。

 さらに第2項では、「前項の目的達するため」、戦力を持たず、交戦権を否認すると定めていますが、この「前項の目的を達するため」とは、逐条検討にあたった憲法改正案委員会小委員会速記録によると第1項の「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」との同文繰り返しを避けただけで、戦力不保持と交戦権否認は「正義と秩序を基調とする国際平和」を希求することと一体のものであることが明らかです。

 これらのことから、9条は、非歴史的・抽象的な非軍事平和主義を定めたものではなく、第二次大戦後にめざすことになった国際社会の理想の実現・・・正義と秩序を基調とする国際平和の確立・・・と表裏一体であり、9条は、戦争と平和に関する国際法の確立、とりわけ国連の創設と国連憲章の制定に至る歴史的経過を踏まえ、この人類の歴史的偉業をさらに推し進めるとの立場から非軍事平和主義を宣言しているのだと考えられます。

 9条の真骨頂は、日本政府と国民は、「正義と秩序を基調とする国際平和」を確立することを通じてわが国において非軍事平和主義を名実ともに実現する義務がある、逆にわが国において非軍事平和主義を実現する努力を通じて、国際社会において「正義と秩序を基調とする国際平和」を確立させる義務がある、そういう二重の規範であるというところにあると言ってよいでしょう。

そうすると9条を現実の政治過程に適用するには、二重の規範の履行状況・進展に即応していなければなりません。そこで現に存在している自衛隊は9条に反し、直ちに解体・廃止されるべきだと解釈すべきではなく、第一には国際社会の状況如何にかかわらずことさらに他国に対する攻撃的なものであってはならず、あくまでも専守防衛に徹しなければならないこと、第二に国際社会の改善努力を怠ってはならないこと及びその進展に応じて兵器体系・兵員を削減すること、第三に国際社会に正義と秩序を基調とする国際平和が実現するのと軌を一にして自衛隊を順次国境警備隊(警察組織)と国土安全保安隊(災害出動部隊)に改変して行き、長い過程を経てわが国に非軍事平和主義を実現することを、わが国政府及び国民に義務付けているというように解釈するのが相当だと思います。

 わが国政府と国民は、こういう9条の意味内容を闡明し、その9条を実践することを世界に向けて発信し、わが国政府と国民が国際社会の現在の重大な危機を克服する先導者となり、個別国家の軍事力よらず、国連こそが名実ともに世界の紛争を審問・解決する最高機関であり、法の支配があまねく尊重される国際社会へと世界を変革する努力をして行かなければならない私は考えます。(了)



投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です