本日、「国家情報会議設置法案」の参議院審議開始―国家の“隠された手”が伸びるとき

白藤博行

 本日(2026年5月8日)、「国家情報会議設置法案」の参議院審議が始まった。「情報は国家なり」と豪語する北村滋ならずとも(同『情報と国家』(2021年、中央公論社)、国家が情報を求めるのは当然であろう。とくに国際情勢が揺れ、サイバー空間が戦場となる時代に、政府が正確な判断を下すためには正確な情報が必要であるというのも頷ける。だが、その情報収集が、国民の知らないうちに、いつの間にか、国民の生活や思想の奥深くにまで入り込むとしたらどうだろう。

国家情報会議設置法案は、2026年4月2日に衆議院で審議が始まり、早くも4月23日には可決された。内閣に新たな「インテリジェンス司令塔」として国家情報会議を設置、その事務局として、内閣情報調査室を格上げして「国家情報局」を設置するという内容である。政府は、この法案は、「組織法だから国民の権利義務には関係ない」と説明するが、この言葉ほど危ういものはない。憲法や法律で保障された国民の人権や権利の侵害に大いに関係するものではないか。

行政法の世界では、組織法の陰に“隠された権力”とその行使が潜むことがある。警察法がそうであるように、警察の情報収集活動は、非権力的行政活動であるという理由から、組織法である警察法第2条の「警察の責務規定」(「公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」)を根拠にして、たとい作用法の根拠がなくても、広範な警察情報収集活動・監視が可能であるとされる。国家情報局が同じ論理を使えば、犯罪も危険もない段階で、つまり予防的な措置として、すべての国民の行動や交友関係などが秘かに吸い上げられ、蓄積され、利用されることになる。国家情報局が、どんなときに、どのような人々を対象に、何をどこまで調査できるのかなど、法案にはなにも書かれてないのだから、ほぼほぼ無制限なインテリジェンス活動が可能となる危険があるのは至極当然のことであろう。

問題なのは、内閣情報調査室(内調)を格上げして国家情報局を設置するという点である。内調は、 戦後日本で政治活動や市民運動を密かに監視してきた「隠密」組織であり、その活動はほとんど検証されていない。内調の“闇・病み”の部分をそのまま国家情報局として維持・拡大するのは、本来改革すべき過去の統治技法を、何らの反省もなく未来に引き継ぐことにほかならない。国家諜報機関が抱えてきた、そして抱え続ける問題である。

さらに、サイバー空間では、2025年に制定された「先制的サイバー防御法」(正式には「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法」)や、同時に改正された警察官職務執行法によって、警察情報と諜報情報の境界がすでに溶け始めていることも問題である。さまざまな通信情報履歴や位置情報その他情報は、利用しようと思えばいつだって、警察による犯罪捜査にも政府による安全保障施策にも利用できるようになっている。今後は、国家情報局の総合調整のもとで、各省庁等のインテリジェンス機関によって収集された情報は、各種インテリジェンス機関で共有し活用されることになり、いわゆる情報の「目的外利用」は自由自在に正当化されることになろう。 国家情報会議と国家情報局は、この巨大な「情報循環」(インテリジェンスサイクル)の中心に位置づけられるインテリジェンスセンターとなる。

国家インテリジェンスが必要だという一般論は理解できないわけではない。しかし、必要であることは、それが無制限でよいということにならない。国家が、予防的に、秘密裏に、そして広範に、個人の人格的領域に踏み込んで情報収集するのならば、そこには明確な限界線が引かれていなければならない。つまり、情報機関・諜報機関に関する行政組織法だけではなく、行政作用法による授権と統制、人間の尊厳の保障に基づく明示的限界づけ、政治と情報の制度的分離、独立した監督機関による監視の整備などが必要である。これらを欠いた情報機関・諜報機関は、「統治の技法」ではなく、もはや時の政権の「支配の技法」へと変質する危険があるからである。

以上のような国家情報会議設置法案の審議にかかる問題点について、以下でお話したり書いたりしてみました。ぜひとも、法案の国家審議中に、ご参照いただき、ご議論いただきたいと思います。

*白藤「インタビュー 戦争遂行へ国家が国民をスパイ/世論広げ人権侵害の悪法阻止へ」(しんぶん赤旗2026年4月11日)

*白藤「「国家情報会議設置法案」の批判的検討―法治主義(組織法・作用法)・人権保障・民主的統制の観点から」(法と民主主義2026年5月号40頁から43頁)
 *「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」の以下の特設ページには、「スパイ防止法」関連のイベントや情報が満載されています。ぜひご覧ください。https://nohimityu.exblog.jp/33877047/


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