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女性2000年会議、日本NGOレポート
by NGOレポートを作る会, 1999.08.13
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F 女性と経済

1.雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保

(1)男女雇用機会均等法等の改正

a 男女雇用機会均等法の強化

    ()募集・採用・配置・昇進における女性に対する差別の禁止規定化
    ()法の実効性を確保するための措置の強化
    ()ポジティブ・アクション促進規定の創設
    ()セクシュアル・ハラスメント防止規定の創設
    ()妊産婦に対する健康管理措置の義務化

b労働基準法の改正

    ()女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制の解消

c 育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の制度の創設(育児介護休業法の改正)

(2)ILO156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約)の批准

(3)育児・介護を行う労働者の雇用の継続を図るための環境整備

1)育児休業・介護休業を取得しやすい環境整備

a 育児休業法の改正

b 育児休業給付及び介護休業給付の創設

(4)パートタイム労働対策の推進

(5)農山漁村における女性の経済的地位の向上

(6)女性起業家に対する支援

(7)無償労働の測定・評価と政策への反映など

(8)賃金格差についての取組

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1 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保

 現在日本経済は深刻な状況にあり、容赦ない人員削減、合理化が行われている。いままでは終身雇用が保障されていた大企業においてさえ、40代、50代で退職勧奨が行われたり、ひとつの部署をまるごと別会社にして賃金を引き下げたり、正社員を派遣会社に転籍している。そのため失業率は5%を越え、女子学生はアルバイトや派遣しか仕事が見つからず、パートは簡単に雇い止めされている。「人手が余っている」と企業は言うが、実は日本の労働時間は、ヨーロッパよりも年間300-400時間も長い。「女性と経済」を考えるとき、一番大切なことは「女性の労働権」の確保である。女性であるために働くことが出来ず、あるいは不利益な仕事にしかつけない状況をいかに打破するかが、この項目での課題である。

 日本政府は国際競争力を増すためにと、労働基準法、雇用機会均等法、労働者派遣法などを改定し、規制緩和の掛け声のもとに「労働者保護」をとっぱらったため、家庭責任を負わせられがちの女性は、結果的により低い賃金で不安定な労働に追いやられている。日本国憲法14条で法の下の平等がうたわれ、労働基準法4条で「使用者は労働者が女性であることを理由として賃金について男性と差別的取り扱いをしてはならない」〔1947年施行〕と明記されてから50年以上も過ぎたと言うのに、雇用における日本の男女平等はいっこうにすすまず、抜本的な対応が必要である。

(1)男女雇用機会均等法等の改正

a 男女雇用機会均等法の強化

()募集・採用・配置・昇進における女性に対する差別の禁止規定化

 募集・採用・配置・昇進について、女性差別が禁止されることになった。しかし間接差別の禁止を日本政府は明記しなかった。これはCEDAWの勧告を無視したことになる。均等法改正の国会審議で、間接差別の禁止規定を盛り込まなかった理由について、国は、「間接差別には、はっきりした共通の概念がない今、慎重にならざるをえない」という趣旨の答弁をしている。つまり、男女平等を実現するのは政府の責任ではなく、世論が変わるのを待つという態度であることがわかる。しかし女子差別撤廃条約では「締約国は法律上の平等実現の責務のみならず、女性に対する差別となる慣習および慣行の修正・廃止」を"遅滞なく追及"しなければならないことになっている。(条約2条、3条、5条)

()法の実効性を確保するための措置の強化

 女性労働者に対する差別が禁止されたが、禁止といっても違反した事業主に対して助言、指導、勧告などの行政指導のほか、従わないときはその旨を公表するとしているのみで、日本の企業側に男女平等の理解ができていない情況の中、どれだけ実効あるものになるのか疑問である。法律があっても今なお結婚や出産で退職を迫られたり、企業の都合で突然解雇されたりしているのが現実である。

()ポジティブ・アクション促進規定の創設

 ポジティブアクションと言う言葉は入っているが、企業がやるなら援助するという弱い条文である。義務化して、女性の配置や昇格を促進しないと、格差は縮小しない。

()セクシュアル・ハラスメント防止規定の創設

 「職場におけるセクシャルハラスメントの防止策」について、現場での認識度の実態を、1998年12月に起きた教育現場でのセクハラ事件を紹介するとともに報告する。

 千葉県立I高校の忘年会で、酔った教頭が忘年会の司会者であった女子教員の胸の中に手を突っ込み、さらに胸の中にお金を入れるという事件が起きた。被害者は、一カ月経ってもショックから立ち直れず、校長に口頭で事実の確認と教頭への指導、県教委への報告を申し入れた。しかし、加害者に反省の色はなく、逆に名誉毀損だと校長に訴えたことで、被害者には仕事上での嫌がらせがあった。労働省女性少年室に相談に行き、県に適正な処置を要請したが現在までなんら説明がない。学校でのセクハラの取組みは悪く、I高校の例のように告発する女性の人格を否定する習慣の壁の厚さがある。特に男女平等教育を推進するべき公的教育現場でのセクハラに対して、労働省から民間企業に対するようには指導、要請できないのが実態。実際に、全国的にも現場での生徒・女性教員に対するセクハラは数知れず、教育現場での立ち後れは早急に是正されなければならない。

()妊産婦に対する健康管理措置の義務化

 日本では働く女性の異常妊娠、異常出産が増えている。母体と子どもの健康を守るためには、産前休暇を強制休暇にする必要がある。産休の賃金保証と代替措置を明記するよう求めたい。今も産休の取れない職場が多く女性が退職に追い込まるケースが多い。

b 労働基準法の改正

()女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制の解消

 日本では、ここ数年労働者保護法が改悪されている。労働組合の組織率が2割という情況で、労使協議に依存した労働条件の決定は、使用者の都合の良い偏った労働条件にしている。時間外労働は、労働者の家族的責任を果たすことを困難にし、女性への負担を増加させている。さっそく自動車産業を中心に女性の深夜労働が広がっている。企業にとってはコスト削減、労働者にとっては健康破壊と家庭破壊である。つまり、女性に対する深夜・時間外・休日労働の規制の廃止は男女の平等にはならないということだ。また日本の労基法改定による女子保護規定の撤廃が、保護規定があっても充分機能していないアジア諸国の女性労働者の労働条件に影響を与えることになる。日本の進出企業がアジアの労働条件悪化に手をかさないよう監視をする必要がある。

c 育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の制度の創設(育児介護休業法の改正)

 深夜業制限の制度の創設は勿論必要である。この中に「事業の正常な運営を妨げる場合を除いて」という文言があるが、これでは企業側の要請があれば、結局深夜業を受けざるを得ない情況になるだろう。実効あるためには、この文言は削除する必要がある。

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(2)ILO156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約)の批准

 政府報告に触れられていないが、1995年に条約批准したにもかかわらず、日本の企業内では露骨な差別がまだまだある。例えば住友生命では、女性職員が結婚して働き続ける旨表明すると、退職勧奨やさまざまな嫌がらせを受け、昇給・昇格でも大きな差別をされる。一人目の子どもを出産したあと、6年間仕事を与えられなかった女性もいる。均等法施行の1986年、一人一人の意見を聞かれることなく女性は一般職、男性は総合職とコース別人事管理にくみこまれた。さらに一般職の中でも、既婚者と未婚者の間に昇格差別がある。未婚女性なら80%以上が昇格する指導職に、既婚女性はたったの7%しか昇格できなかった。1992年と1994年に、大阪婦人少年室に調停申請したが、「一般職の中には比較対象の男性がいないので比較のしようがない」と却下。採用区分が同じ男女間でのみ、均等法違反になるという。明かに既婚女性ゆえの昇格差別でILO156号違反である。住友生命で勤続32-37年の内勤女性職員12人が既婚者差別に対して1995年裁判提訴した。

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(3)育児・介護を行う労働者の雇用の継続を図るための環境整備

1) 育児休業・介護休業を取得しやすい環境整備

a 育児休業法の改正

 1995年育児休業法の改正が行われ、1999年成立した男女共同社会参画基本法では育児の社会化と公的保育制度の強化がうたわれているが、男女の役割分担意識はそう簡単には変わらない。男性優位の色濃い地方では、現実の支援体制の遅れとあいまって働く女性にとって厳しい現状だ。 日本のデトロイトと言われる豊田市のケースを報告する。この町の特徴は、製造業が経済の中心であり、製造業従事者の82%が自動車産業に従事、そこに働く人も男性が圧倒的に多く、性別役割意識が男女共に高い。同市が行った調査では、20代女性では「結婚後も就労継続したい」が80%、子育てと仕事の両立する方法として、保育園・幼稚園の希望が多いのに、公的保育の環境整備が遅れているため、働き続けられない。こうしたシステムがこれまでの自動車産業の成長を支えてきたのであり、日本型産業構造の典型である。子育てのため職場を一旦離れた女性は、再就職が難しく子育て後の40代後半になれば求人の対象にもならない現状である。

b 育児休業給付及び介護休業給付の創設

 育児休業給付金は今回の改正で創設されたが、育児休業前所得の20%及び5%の休業職場復帰金では、特に母子家庭等において経済的に実際の休業取得が難しい。介護休業給付についても、同様である。また育児・介護休業を取るのは、圧倒的に女性であること、 男性は実際には取り難い職場環境と、休業給付である。

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(4)パートタイム労働対策の推進

 パートタイム労働者の67%は女性である。しかも賃金は正社員の半分である。日本の雇用慣行の中では、女性は結婚・出産などでいったん退職したらパートタイマーしか仕事がない。正社員とほとんど同じ労働時間で、同じ仕事をする擬似パートや、長期勤続のパートタイマーの賃金について、雇用形態が違うからと言って、いつまでも労働条件の格差を放置しているのは政府の怠慢である。この問題で画期的な裁判があった。政府報告には一言も触れていないので、簡単に紹介する。1993年10月長野県丸子警報機で働く女子臨時社員28人は、女子正社員との賃金差額等の支払いを求めて裁判を起こした。採用のとき、男性は既婚・未婚を問わず正社員、女性は未婚のみ正社員で、既婚女性は臨時社員。正社員も臨時社員も同じ仕事をしているのに賃金格差が大きい。勤続25年の原告は、正社員の初任給より低い賃金であった。1996年、長野地方裁判所で判決があった。「一定年月以上勤務した臨時社員には正社員となる道を用意するか、---正社員に準じた年功序列性の賃金体系を設ける必要があった」にもかかわらず「原告を臨時社員として採用したまま固定化した。これは公序良俗違反で違法」とした。しかし同一価値労働同一賃金については、正社員の80%以下の時は違法と言う限定的な内容で、現在高裁で控訴中である。 また派遣労働者についても政府レポートでは触れられていないが、その72.4%は女性であり、女性差別として対策が必要である。正社員として働ける会社がなかったので派遣を選んだと22%の人が答えている(1997年労働省・労働者派遣事業実態調査)。もともと派遣労働は「専門的な知識,技術または経験が必要とされる業務」などに限定されていたが、現実は広範な分野で派遣労働が広がっており、正規労働者を低賃金で無権利の派遣労働者に置きかえる動きが進んでいる。

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(5)農山漁村における女性の経済的地位の向上

 日本政府の工業偏重、農業軽視の経済政策によって、日本の農家戸数は1980年の466万戸から329万戸に激減、食料自給率は世界最低の41%までおちこんでいる。WTO協定によるコメ輸入自由化、農産物価格保障制度の廃止、農業経営の企業への参入などを進め、農業従事者の6割を占める女性の状態をさらに悪化させている。農村女性は、長時間労働で農業と家庭を支えているが、農村にいまなお残る家制度や古い慣習のもとで嫁の立場には相続の権利がなく、家族従業者としての働き分が税制上認められていないなどが、経済的地位向上を妨げている。  政府報告は「農山村におけるパートナーシップ」と銘打って、家族内での協定を推奨しているが、家族農業そのものが立ち行かなくする農業政策をすすめ、家族従業者の自家労賃を認めようとしていない。農業生産者としての女性たちは、WTO協定を改定し、日本農業を守ることを切実に求めている。

 政府報告には触れていないが、自営業の女性についても書いておきたい。

 バブル崩壊後の深刻な経済不況と規制緩和政策によって、中小企業は大きな打撃を受け倒産・廃業があいつぎ、自営業者の自殺が社会問題になっている。自営業に従事する女性たちは、家計を支えるために、家業の他にパートに出て働き、健康破壊や母性破壊が進んでいる。現在の税制では、夫とともに営業を支えて働いている家族専従者の女性の働き分が認められていない。女性を一人前の人間として認めていない古い家父長制の名残である。自営業の女性たちは、病気やお産のときくらいは安心して休めるように、健康保険制度に傷病手当・出産手当を設けることを切実に要求している。

 自営業・家族専従者の女性に対する政府の施策はきわめて立ち遅れており、その実態調査さえ行われていないのが現状である。

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(6)女性起業家に対する支援

 経済構造に女性がアクセスできるよう保証することや、女性企業に対する的確な政策が日本では行われていない。そもそも経済計画・経済政策決定に、女性の参加およびジェンダーへの関心が欠如している。計画・政策決定過程に、ジェンダー経済学・ジェンダー統計学の視点を盛り込むべきである。経済構造へのアクセスの機会に関して、日本では男女格差が大きい。経済団体連合会をはじめとする各種経済・産業団体の執行部、経済関連の審議会などには、女性がまったく入っていないか、入っていてもごく少数である。これらの団体・審議会は、経済に及ぼす影響力が大きいことから女性の参加比率を高めるため是正するべき社会的責任がある。

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(7)無償労働の測定・評価と政策への反映など

 女性の労働力化の進展にも関わらず有償労働と無償労働の配分をめぐる日本に著しいジェンダーアンバランスについては殆ど改善されてこなかった。 男女労働者の有償・無償労働について実態把握を早急に行う必要がある。労働省は有償労働の問題のみを扱うという現在の方針を改め、有償労働と無償労働の関連についても調査・研究を行い、男女労働者に無償労働(家事・育児・介護・ボランティア活動)のための時間を保証する政策を進める必要がある。また女性の有償・無償労働を、経済政策や経済計画において考慮し、雇用や所得政策へ反映させることが肝要だ。経済企画庁の行った「無償労働の貨幣的評価」は日本が北京行動綱領に対応した最初の取組みであった。その結果は、ジェンダーの視点にたった政策に活かされることが不可欠である。NGOでも生活時間調査・分析を行うところも出始めた。(神奈川ネットワーク運動)

 なお、社会保障としてある「内助の功評価」には「配偶者控除、家族手当、年金積み立て義務の免除さらに夫の遺族年金受領権」があり、このために雇用者の妻は年間130万円ほどに年収を押さえると言う傾向が助長されている。これが女性の労働意欲をそぎ、また企業側にも女性に妥当な昇格・昇給をさせないと言う慣習を温存させている。こうした「内助の功評価」は廃止し、個人の労働に課税、社会保障して行くシステムに変更していくべきである。

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(8)賃金格差についての取組

 均等法が出来て10年以上経過したにもかかわらず男女の賃金格差は51%(パートをのぞくと63%)である。なぜ格差が是正できないのか。政府のレポートでは、職務、勤続年数、学歴等の違いが原因と言うが、事実は違う。今日本で20件ほどの男女賃金格差是正裁判が行われており、いずれも勤続20年を超える女性からの訴えである。学歴も同じで、職務は同じ場合も違う場合もあるが、おおむね男性の60%の賃金しか受け取っていない。ここでは、国と企業を相手に裁判をしている住友電工の場合を紹介しよう。均等法施行以前の募集・採用において、同じ事務職であっても高卒の男子は将来の幹部候補生として全社採用、高卒女性は一般事務を行うものとして事業所採用であった。会社はいう。「当時は一般的に女性は勤続期間が短く、幹部候補として要求されるキャリアの蓄積が期待できない。また幹部社員は残業、休日勤務が多く、女性には労働時間の法的な制約もあり、多忙なポストへの配置は困難であった。住居の移動を伴う転勤を女性にさせられない」そして高卒男性は全員総合職に転換させ、管理職になった。しかし女性には意向聴取もないまま一般職に移行させられた。これは明らかな男女差別であるとして大阪婦人少年室に調停を申請したが不開始となった。現在国家賠償訴訟を起こしているが、日本政府は訴訟の中で次のように述べている。「原告らが比較の対象にあげた男性は、採用区分が違うので、均等法の関与するところではない」「均等法は将来にのみ効力を生じる。---採用区分の違いが、男女別の労務管理だったとしても、均等法が存在していなかった当時は珍しいものではなく、これを違法とする国民意識は定着していなかった。----均等法施行時点の資格、職種、経験、能力に応じ、同日以降において均等法が摘要される」。国が男女差別の是正に責任を持たないという均等法以前に採用され、20年30年と差別に苦しみながら働いてきた女性の救済がされないで、何が男女賃金格差の是正であろうか。 明らかな男女別の採用であるにもかかわらず「採用区分」が違う場合は比較の対象にならないという均等法の指針は、男女差別の隠れ蓑となっている。

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