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西陣プロジェクト その3 〜体験編
2001年 3月31日取材
ものづくり職人列伝

桜の花が咲き始めているのに、時折冷たい雨の降る3月最後の土曜日、西陣織の工房にお邪魔して、前半は手機体験、そして後半は、職人さんへのヒアリングを行いました。


1.手機体験編

説明してくださる職人さんと列伝メンバまず、職人さんから織物の簡単な原理の説明を受けます。今回織る柄は十二支の動物柄です。
次に緯(よこ)糸(地ヌキという)と柄糸(ドウヌキという)を選びます。何色かある糸を配色が良くなるようにめいめいが選んでいきます。
なお、柄のデータは紋紙によって綜絖(そうこう)に指示を与えます。もっとも、昨今はフロッピーディスクに紋紙情報を入れて、コンピュータで綜絖を動かす織機が主流になっています。つまり、コンピュータ制御の織機は実際の紋紙を使わないということです。

デジタル的な仕事!?の機織
さて、自分が織る織機を選んだら、機織の開始です。
足でペダルを踏んで綜絖を引き上げ、紐を引いて杼(ひ)を通し、緯糸が通ったら綜絖をおろして筬(おさ)を手前に引く(この一連の工程を「越し(こし)」という)、という作業の繰り返しなのですが、最初は手と足の動きのコンビネーションがうまくいかず、悪戦苦闘の連続です。
ようやく慣れてくると、リズミカルになってきてそのことが心地よくなってきます。でも、ちょっと気を抜くと、緯糸がたるんで織りきずになったり、引っ張りすぎて、生地の耳が汚くなったりします。そんなときは間違ったところまで織りを戻すと解決します。何か数学の問題を解いていくようです。
織機を上から見ました

塾長滋野が織る機織はリズムだ
無地の部分をある程度織り上げると、今度は柄の部分だけ綜絖が上がります。
フロッピーのデータから綜絖に指示が渡り、綜絖が経糸を引き上げたのです。そこで、あらかじめ選んでおいたドウヌキを別の杼にセットして、それを手で持って綜絖の上がった部分に通します。ですから今度は紐を引いて地ヌキの杼を通していたところに、ドウヌキの杼を通すという工程が加わります。そこでまた悪戦苦闘が始まるのですが、これもリズムです。慣れてくると、一連の流れとなって織り進められます。 
そんなこんなでおよそ1時間半、楽々と織りあげた人もいれば、準備していただいた紋の1/3を織るのが精一杯という人もいて、人それぞれ。でも、高機に登らせていただいたり、数々の道具を教えていただいたりして、実に巧妙に工夫された高機の仕組みを僅かながらも知ることができたのは大きな成果でした。




2.ヒアリング編

後半の職人さんへの取材では、西陣業界の今後の展望から、ご本人への質問まで話は多岐に及びました。30年の経験に基づいた数々のお話はどれも興味深いものでしたが、限られた字数でその全てをあらわすことはとても出来ないので、その中からいくつか印象に残った言葉を選び出してみました。

「技術さえ覚えたらいくつになってもできる」
「『修行期間』なんて兄弟子が楽したいから言っているだけやないか」
職人仕事は、早い時期から、年数を積むほど良いと思っていた私たちにとっては意外な言葉でしたが、それ以上にやる気と努力の方がもっと重要ということです。そして、新しいことをするにはベテランも新人も「全て1からのスタート」。なるほど。

インタビューする列伝メンバ

「『しんどいことしんとこ』という織屋のサラリーマン化やないかな」
西陣織の帯はなぜ、バラエティに富んだものがないのか、という質問に対して。
もともと、帯はひもみたいに細かったものが、生地巾を固定することによって、帯巾を作る側が勝手に決めてしまい、それを作り手が変えようとしないことにある、と一刀両断。

工場の様子「危機は『対岸の火事』と思っている人が多い」
「ぎょうさんいらん。織りにくいものを織る方が強い」
話は西陣織業界の話に及びます。かつて西陣織が栄え、戦後のピークとなった30年程前から、生産量をふやすため、多くの企業が地方や海外で「西陣織の帯」を織らせました。その結果卸値が下がり、生産量そのものが落ち込んできた昨今、自らの首を締める結果になったという苦い経験があります。
西陣は、原点に返り、新しい素材や企画力といったソフト分野で強みを発揮しなければ生き残れないのかもしれません。そして「その答は昔ながらの手機かもしれない」というお話は示唆に富んでいました。

「新しいものができるっていうことはドキドキすること」
「難物も次のチャレンジのため思えば無駄やない」
いろいろなことがやれる時代になってきたからこそ、「よそに出来ないもの」を生み出すことによって、独自性を打ち出せるのでしょう。その過程では難物(織り損じなどにより商品とならないもの)を出すこともあるでしょうが、それをプラスに捉えるチャレンジ精神と前向きな姿勢を感じました。
 
「女性への着付け方を習いたい。その帯の魅力をひきだす着方を提案できてこそ、プロの織手である」
 実際帯を締める「使い手」が締めやすいか、締めてきれいに見えるかを想定できるというのは、作り手にとって知ってしかるべき素養、と語るところに「本当に使い手が求めるもの」を追求し、いくつになっても研究を怠らないひたむきさを垣間見る思いです。


「『働く』の"らく"は『楽』でありたいね。」
要は楽しみのない仕事なら、しない方がいいとのこと。私たちも、どうせするならやりがいのある仕事を楽しくしたいですね。

言葉の端々に聞き取れるプロ意識は、全ての人の生き方に共通するものであり、私たちの心にも深く染み入りました。




3. 感想編

今回の参加者の感想です。
織りかたをおしえていただく手機体験では、簡単な動作の組み合わせのはずなのに、いざやってみると悪戦苦闘。この体験を通じて、職人の仕事とは「超人技」ではなく、普通の動作を工夫や経験を統合させた「技の集大成」なのだと感じました。

今回は手織りの体験、見学だけではなくて私にとっては、いろんな人に出会えたことや、職人さんの生き方みたいなものが感じられたことはとても楽しかったです。
手織りについては、出来上がったものよりもどちらかといえばその過程に興味を持っていた私にとっては 大変面白く夢中になりました。職人さんの姿はリズミカルで楽しそうで そうなるのもよくわかる気がしました。


デジタルな仕事だという言葉は意外でした。日頃、まさしくデジタルな仕事をしているのでなにかクロスするところがあることに単純にうれしくもなりました。今後も興味深く見ていたいし、何らかのかたちで関われるものなら関わりたいと思いました。

職人さんとインタビューをしていて、この人は本当に「ものづくりが好きやなー!」と、思いました。今の自分の置かれている状況は大変な様ですが、持ち前の明るさで、私達に話してくれている内容はユーモアがあり、また鋭いものを感じました。

列伝リーダ かつらが織る
工場の様子職人というのは、学者のように理屈を語るのではなく体で技を覚え、経験を重ねる事で、技に磨きを掛けるのだと思いました。

自分で織ってみて思ったのは、まさしく全身の神経を使いリズムでする仕事ということです。職人さんが織る時の音は、心地よいリズム。案外、その人の感性も織り方に表現されるのかもしれません。  



語句解説
紋紙 ジャガード機で紋(柄)を織る際の開口を指示する紙製のカード。1枚を緯糸一越しに充当するよう穿孔し、これをつなぎ合わせてジャガード機に掛ける。
綜絖 製織用機材の一つ。経糸を引き上げて開口し、杼の走る道を作るためにジャガード織機より吊る。糸製のものと金属製ものとがある。
 機織用具の一つで、緯糸を管に巻いてこれを装着し、経糸開口部に緯糸を通す際に用いる。
 経糸を平均に配列し、緯糸を打ち込むために織物用具。
高機 木製手織機の一つ。今日手織機と呼ばれるものはほとんどこれである。
(参考 中西信弥編著『西陣織屋ことば辞典』ウィンかもがわ 1999年)

文:塾長、かつら、ゆき、あゆみ、たっくん / 編集:塾長

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