TKOPEACENEWS
 3面 NO.50/04.11.9発行


特集 反原発の闘い 4



原子力資料情報室
西 尾  漠

 ■ 原発は地球を救わない ■

地球はいま温暖化に向っていて、その傾向が進めば、さまざまな悪影響がある、と心配されています。そこで、温暖化を防ぐための「気候変動枠組み条約」が1992年に締結されました。条約発効の翌95年から毎年、対応の具体化を協議する締約国会議(COP)が開かれています。
 COPの会議の席上などで、日本の政府代表者たちは、「地球温暖化を緩和するのに原発は役に立つ」と主張し、国際社会の中で孤立しました。コストを考えても、効果の大きさを考えても、原発を増やすよりエネルギー消費の削減をすすめるほうが、ずっと簡単で安上がりに温暖化対策ができます。それに、原発を増やせば、事故の危険性におびえ、核兵器の製造につながらないかと恐れ、不安とともに放射能のごみを抱きつづけていかなくてはなりません。
 地球の温暖化を緩和するために原発が良いとされる理由は、温暖化の主な原因物質の一つである二酸化炭素を少ししか出さないと考えられるからです。確かに、原発と火発(火力発電所)を一基ずつ並べて、さてどちらがたくさん二酸化炭素をだしますかと問われれば、誰もが火発のほうが多いと答えるでしょう。燃料に何を使うか、燃やし方はどんな方式かによって、数値は大きく変わるにせよ、化石燃料の燃焼が大量の二酸化炭素を出すことは間違いありません。
 他方、原発では、ウラン燃料の核分裂からは二酸化炭素は出てきません。しかし、原発は鉄とコンクリートのかたまりです。電力中央研究所の報告『ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価』によれば、100万KW級の原発一基あたりの鉄鋼の使用量は約8トン、コンクリートは約80万トンとか。鉄やコンクリートをつくったり運んだりするのに、かなりの量の二酸化炭素をだします。燃料を作り、燃やしたあと始末をするのにもエネルギーが消費され、二酸化炭素をだします。
 結局、あと始末をどれくらいきちんとするかで、原発の出す二酸化炭素の量は決まってくるでしょう。何十万年もの間、放射能のごみを安全に管理しつづけようとすれば、火発より多くの二酸化炭素を出すことにだってなるかもしれません。

■ 原発をやめてこそ道が開ける ■

いずれにせよ、原発と火発を一基づつ比べることは、現実にはほとんど意味がありません。意味を持つとしたら、原発のほうが明からに二酸化炭素を出す量が少なくて、しかも原発を増やした分だけ火発が減るという場合だけでしょう。
 原発を増やせば火発が減るということは、残念ながら、ありえません。原発を増やしていく社会は、火発も増やす社会なのです。一方、原発をやめていく社会は、火発も減らす社会です。とするなら、どちらが二酸化炭素を余計に出のすかの比較は、原発を増やしていく社会と原発をやめていく社会の間で比べなくてはならないと思います。
 なぜ、原発を増やしていく社会は、火発も増やすことになるのでしょうか。そこに、原発というエネルギー源の特異さがあります。原発は小回りがきかず、100か0か、すなわちフル出力で動かすか運転を止めるかのどちらかしかできません。刻一刻と変化する電気の需要に合わせた供給量の調整は、火力や水力の発電所に頼るしかありません。原発が自立できない不便な発電所であるために、原発を増やす時には、他の発電所も増やすことが必要になるのです。
 おまけに、原発はエネルギー供給源としてはきわめて不安定で、ひんぱんにトラブルを起こして停止します。そのたびに大きな出力が失われ、遊んでいる発電所がすぐに出力を上げて助けてくれなければ、大停電となります。この点でも、原発を増やすときには他の発電所も増やすことが必要になるわけです。
 それでも、ともかく原発が発電できる最大量を供給し、火発は儒給の調整やバツクアップに限定すれば、二酸化炭素の量は減らせそうです(あくまで原発のほうが放出量が少ないという仮定の上でですが…)。
 ところが、それも「ノー」です。原発を増やすには、電力の需要を増やすことが必要です。そもそも原子力は、他のエネルギー源と違って、電気の形にしてからではなくては利用できません。原子力自動車も原子力ストーブも存在しないことは、周知のとおりです。そこで、原発の増加は、エネルギーの利用形態を電気中心に変えていくこと(電力化)で初めて成り立ちます。原発というエネルギー源の特異さの一つです。
 その上、原発を増やせば他の発電所も増えるのですから、ますます電力化をうながすことになります。電力化とは、すなわち非効率化です。電気をつくるとき、原発では発熱量の65%以上、火発でも60%が排熱として捨てられています。熱をむだに捨てながら一部を電気に変え、その電気を熱として利用するような不合理なことをしていれば、エネルギー利用の効率化が悪化します。省エネルギーのためには、何でも電気でという考えを改め、用途に応じて適切なエルネギー源を選ぶことが大事です。
 つまり原発は、電力化をすすめることで質的に省エネルギーに逆行し、電力消費の拡大をすることで量的に省エネルギーに逆行するといえるでしょう。エネルギーの多消費こそが地球の温暖化やさまざまな環境破壊の元凶であると考えるなら、原発は、問題をより深刻にすることはあっても、解決に導くことはありません。
 むしろ原発をやめてこそ、電力化にブレーキをかけて各種のエネルギーを効率よく利用する道が開けます。原発に注ぎ込まれている巨額の資金を有効に使う事もできるでしょう。

■ 望ましい社会に向けて ■

原発をやめて、エネルギーの供給はどうするのか? 地球温暖化などの環境問題に対応できるのか? 日本経済への影響をどう避けられるのか? 原発のある地域や原子力産業の労働者の暮らしをどう保証するのか? 日本だけやめればよいのか?
 原発を廃止しようとすれば、それらのことを総合
的に考えていく必要があります。否、原発を廃止するかどうかにかかわらず、考えておくべき問題だというべきでしょう。それは、言い換えれば、私たちがどんな社会をめざすのかということなのですから。
 もちろん、各人によって、望ましい社会の中身は違っています。その上で、できる限り多くの人にとってめざされるべき社会を考えようとするなら、国と国との間でも、また、現世代と後の世代の間でも、格差、差別の小さな社会が望ましいでしょう。
 現実はどうでしょうか、人類がエネルギーを使ってきた歴史を、グラフに描いてみます。描き方は簡単で、横にまっすぐ線を引いてきて、最後に直角に上げる。そこが現在であり、最後に上がった分は、いわゆる「先進国」が使っています。
 このグラフを先に進め、さらに上のほうまで線を伸ばしたとて、格差・差別は小さくならず、拡大するばかりです。そして遠くない将来において、すべてが成り立たなくなるのは目に見えています。破局を回避して社会を持続させようとすれば、エネルギーの使いすぎを是正し、環境への負荷を下げ、経済成長の追求から真の豊かさの享受へと舵をとる必要があります。
 原子力は電気しかつくれません。そのために低温の熱利用にまで電気をつかう、いびつで非効率なオール電化社会化が進んでいます。その流れを止めて、電気と熱を上手に使い分けるようにすれば、エネルギー消費は小さくなり、単一のエネルギー源に多く頼った脆弱性からも脱することが可能になります。
 まずはピーク需要を削減することが、転換への意識づくりの上で有効です。家庭での節電効果は小さいといわれますが、一人ひとりが本気でエネルギー消費の小さい社会を望むなら、社会全体も動かざるをえなくなることは確かです。
 良い例として、待機電力があげられます。家庭での電気使用量に占める待機電力の割合が大きいとマスコミで報じられ、多くの人が不使用機器のプラグを抜くようになりました。すると、待機電力50%とかゼロとかの機器、簡単に電源をきれる機器が続々と発売されるようになっています。
 オフィスビルでもデパートでも電車でも、夏に暖房具がよく売れるような過剰冷房をしているのをやめさせるチャンスです。効率のよい機器や証明設備に変えれば、機器・設備からの熱の放出が小さくなって、冷房需要も削減できます。
 世界的にみれば日本は省エネルギーの優等生であり、するべき省エネルギーはしつくしたとする主張があります。それはまったく当たっていません。そのことは、最近になって、「もう限界」といわれていたエアコンの50%省電力化など、個別にはいくつもの省エネルギーの成功例が現れていることからも分かります。
 そうした技術的対応と、経済的なしくみ、消費者の意識変革、そして、用途に見合ったエネルギー源の選択が最適に行われれば、また、都市のあり方や経済のあり方の見直しがすすめられれば、エネルギー消費を下げる余地は、たっぷりとあります。
 エネルギー消費を小さくできれば、自然エネルギーや分散型エネルギーの活躍の場が大きくなります。他方、それらのエネルギーは、省エネルギーをすすめるエネルギー技術でもあります。分散型は、需要のあるその場でエネルギーを作り出し、送電などのエネルギー輸送を減らすとともに、小回りがきくことから需給の不均衡を小さくできます。大型発電所などでは利用できなかった「未利用エネルギー」も生かせます。
 技術としては、蒸気タービンにガスタービンを組み合わせ、発電時に捨てられる排熱を50%に減らした「コンバインドサイクル発電」や、排熱を有効利用する「コージェネレーション」などがあります。燃料電池やマイクロガスタービン、マイクロガスエンジンといった分散型エネルギー源は、電気と熱を同時に生産することでエネルギー利用の効率を高め、排熱を小さく環境負荷を小さくします。
 当面は、天然ガスを活用しながら、自然エネルギーによる燃料電池用の水素製造、自然エネルギーを燃料とするタービン、エンジンなどへと橋渡しをしていくことが可能です。
 自然エネルギーこそ、消費を減らすエネルギー技術の代表です。日本は資源が乏しいといわれますが、自然エネルギーには恵まれている面もあります。太陽や熱や光、風や水などの力を利用する自然エネルギーは、使ってもなくならない更新性エネルギーです。大型の水力ダムは環境を破壊しますが、小さな水力を生かした発電や動力利用なら、環境に悪い影響を与えません。「バイオマス」と総称される植物や動物の糞尿などのエネルギー利用もあります。その利用技術は成熟し、コストも下がってきました。
 自然エネルギーの利用は、省エネルギーの意識を高め、また、分散型の特長を生かした省エネルギーをすすめます。
 家庭用から工場用まで、各種の分散型電源をうまく組み合わせて利用すれば、エネルギーを利用しつつ低エネルギー消費の方向に進んでいくことができるでしょう。
 いま、すでに、エネルギーの使い過ぎが、さまざまな環境破壊を引き起こしています。それを食い止めようとするなら、一日も早く考え方を変えて、望ましい未来の社会をしっかり準備していくことが必要ではないでしょうか。

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