ピース・ニュース学習会資料

在日米軍再編「沖縄の負担軽減」は全くのゴマカシ!
 
狙いは日本の財政負担で米軍再編推進、日米軍事一体化 (その1)

この記事はピース・ニュース学習会の資料用にまとめたものです


在日米軍再編は「沖縄の負担軽減」のためではない - 日米軍事一体化を進めるとんでもない計画

  2006.5.1に行われた日米安保協議会(通称2プラス2)で合意された在日米軍再編に関する「最終報告※」の内容は、米軍を全世界でより機動的・効率的に運用するための米軍再編を日本の財政負担で行い、「対テロ戦争」の名の下に世界中で侵略戦争をしかけ覇権を強めようとする米の軍事戦略に日本の自衛隊を米軍と一体化させて参加させるとんでもない計画です。

※「最終報告」とは政府・マスメディアが言っていることであり、実際は「ロード・マップ」と呼ばれる計画です。この言葉そのものも既に決定されたものとして地元に受け入れさせる意図的な表現です。


2プラス2の共同発表は「再編案の実施により、同盟関係における協力は新たな段階に入る」と宣言しています。額賀防衛庁長官は「従来のガイドライン(日米防衛協力の指針)に代わる日米安保の目的、理念を考える時期にきている」と発言、ラムズフェルド国防長官は「これで満足するわけにはいかない。言葉を行動で裏付ける必要がある。望ましい日米同盟にいたるまでまだ作業がある」と述べています。これらの発言は今回の「最終報告」が憲法や安保体制を踏越えて拡大・拡張してきた周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法の枠組みをも越えて新たな日米同盟へと突き進む危険なものであることを明瞭に示しています。


共同発表後握手する
ラムズフェルド米国防長官と額賀防衛庁長官

 更に重要なことは、これらの米軍再編・日米軍事一体化のための費用を日本の財政負担で行おうとしていることです。共同発表の文章には「これらの案の実施における施設整備に要する建設費その他の費用は、明示されない限り日本国政府が負担する」とはっきり書かれているのです。沖縄海兵隊のグアム移転のための日本の負担7000億円で合意と発表された直後に、ローレス米副国防次官が、再編にかかる日本の負担総額は約3兆円と発表したのは、日米の「最終報告」の内容の重大な意味について日本政府に対してクギを刺したものといえます。

 日本政府が「沖縄の負担軽減」を強調するのは、米と一体化して世界中で「対テロ戦争」を進めるとんでもない計画を国民に受け入れさせるためのゴマカシ、カモフラージュです。こうした宣伝に惑わされず、日米政府の本当の狙いを明らかにすることが何よりも重要です。
「対テロ戦争」戦略のもと、米軍のより機動的・効率的な態勢を作る米軍再編

 米ブッシュ政権は米ソ冷戦の終結、2001年の9.11同時多発テロとアフガニスタンへの報復戦争、イラク戦争を契機として、軍事戦略を変更してきています。その主な柱は以下のようなものです。
@ 「対テロ戦争」、先制攻撃戦略;従来の米ソ冷戦時代の抑止力を主体としたものから、米が一方的に決め付けた、いわやる「ごろつき国家」や「テロ組織」など不特定の「脅威」に対して先制攻撃を含めた攻撃、戦争を柔軟に行う戦略。特に東南アジアからインド洋を経て中東地域にまでまたがる広大な「不安定の弧」と呼ぶ地域を「対テロ戦争」、先制攻撃の対象地域としています。

A 米軍の機動的運用、機動力、展開拠点の増強;米ソ冷戦時代のような大部隊を欧州やアジアなど特定の地域に貼り付けておく戦略から中欧、極東の戦力展開拠点、その先に展開される主要作戦拠点などを設定し、そこから兵力を戦闘地域、紛争地域に迅速かつ柔軟に機動的に派遣する戦略をとっています。この戦略のなかで米軍は拠点を以下のように4分類しています。戦略展開拠点(PPH);大規模な兵力・装備を展開する最も重要度の高い拠点、主要戦略拠点(MOB);中核的な役割を担う拠点、前進作戦拠点(FOB);小規模な部隊が駐留する拠点、協力的安全保障拠点(CSL);恒常的には使用せず連絡要員を常駐。日本およびグアムは最も重要度の高いPPHに位置付けられています。

不安定の弧
「米軍再編」江端謙介著 より

B 太平洋重視;「対テロ戦争」の対象地域とされている「不安定の弧」は米本土からは地球の反対側に当たるため、太平洋地域はその戦力展開拠点としての重要性が高くなっています。日本、沖縄、グアム、ハワイのなどがその見直しの重要な対象となっています。

C 情報戦力、IT化;米は世界最大の経済力とそれを背景とする世界最高レベルの科学技術、特にIT、通信などのハイテクを軍事力に応用して戦争のやり方を革命的に変化させる「軍事における革命(RMA)」を進めています。

D ミサイル防衛(MD);敵から発射されたミサイルをレーダーで感知・補足し、コンピュータシステムと組合わせたミサイルで、向かってくるミサイルを着弾前に空中で打ち落とすミサイル防衛システムを開発しています。米の先制攻撃戦略との関係で、米側の被害を受けずに先制攻撃を可能とするためにもMDは重要な位置づけをもっています。

E 同盟国の協力;米軍の作戦の支援などに同盟国や友好国の軍隊を活用すること、外国の基地や施設の建設費、維持費を可能な限りその国に負担させる戦略。これはイラク戦争で膨大に膨れ上がった軍事費の財政負担が大きな問題になっていること、イラク占領の長期化のもとで「オーバーストレッチ」と称される軍の兵力不足の問題が背景にあります。

 現在世界中で進められている「米軍再編」はこのような戦略を実現するために米ブッシュ政権が強力に推し進めているものなのです。日本政府やマス・メディアは在日米軍再編が「沖縄の負担軽減」のために進められたかのような発言・報道を繰り返していますが、本当は米戦略の変化に基づく「米軍再編」を推し進めるためのものです。「沖縄の負担軽減」は国民を誤魔化して日米の軍事一体化を推し進めるためのカモフラージュです。


海兵隊グアム移転は米戦略の一環 「沖縄の負担軽減」に誤魔化されるな


  今回の「最終報告」の大きな目玉として沖縄駐留海兵隊員の約半分の8,000人、家族を含め17,000人がグアムへ移転するとされています。これが「沖縄の負担軽減」として大きく報道されています。本当でしょうか。一坪反戦地主会代表で沖縄において一貫して反戦・反基地運動を担ってこられた荒崎盛輝沖縄大教授は、「米軍が過去一度たりとも沖縄住民の負担軽減などを考えて何かをしたことは無い」と強調しています。

 海兵隊グアム移転も「米軍再編」の大きな枠組みの中で捉える必要があります。
今回の「米軍再編」の流れの中で、グアムは「不安定の弧」をにらんだ太平洋上の最重要拠点として新たな位置づけを与えられています。グアムは中国からは十分離れておりミサイル攻撃の脅威が少ない一方、「不安定の弧」の対象であるアジア諸地域には近く飛行場や港湾など基地インフラも十分そろっています。更にその地理的特性からは米本土やハワイからの中継地点の役割を果たします。このような状況のもとでグアムでは全面的な基地機能の強化が行われようとしています。それらは下記のようなものです。
@ 攻撃型原子力潜水艦の配備(3隻)開始

A 都市型訓練施設の新設(海兵隊)−−アンダーセン空軍基地の旧住宅をそのまま広大な都市型訓練施設に転用。海兵隊の訓練基地に。

B 戦略爆撃機ローテーション配備(通常攻撃任務)

C 無人偵察機グローバルホーク部隊配備

D サイパン島近くの巨大な射爆場の活用

E これらの下で、グアムでの日米両軍の共同軍事訓練が急増。海兵隊と陸上自衛隊による都市型訓練施設での共同演習。空軍と航空自衛隊による戦闘訓練。

「米軍再編」江端謙介著より

 沖縄駐留の海兵隊部隊の移転はこうした米軍再編の狙いのもとに行われるもので、決して沖縄住民の負担軽減のために行われるのではありません。

 事実、移転するのは司令部要員のみであり、実戦部隊は相変わらず沖縄に居続けます。また在沖海兵隊員は18,000人とされおり、これを前提に8,000人削減で残るのは10,000人となりますが、実際沖縄にいるのは12,000人程度、頻繁な移動により現在は更にそれより少ないという報道もあり、実数2,000人程度の移転でもつじつまが合うという報道もあります。実際に何人が沖縄に駐留し何人がグアム移転したのか知るすべはありません。核兵器持込問題でも米はこれまでその事実を一切明らかにしたことがありません。

 海兵隊のグアム移転は、沖縄の反基地運動の矛先をかわし米軍再編を日本の財政負担で進めるための方便にすぎません。 


狙いは辺野古への新基地建設 普天間基地返還は全ての条件を満たしてから
 = 米にとって失うものは何もない、得るものは全て

 「沖縄の負担軽減」として宣伝されるもう一つの目玉が普天間基地の返還です。しかしこれも「最終報告」をきちんと読めばいかにゴマカシの内容であるかがすぐ分かる代物です。官僚的な回りくどい表現で分かりにくいですが、結局、普天間基地の返還は以下の条件が全て完了したあとに行われることになります。

@ 辺野古の新基地建設、能力の具備。

A 新田原(宮崎県)、築城(福岡県)の航空自衛隊基地を米軍が緊急時使用できるよう施設整備。

B 飛行場、港湾など一般の民間施設を米軍が緊急時使用できるようにするための措置。

辺野古基地 防衛庁HPより
  そして最終報告に盛り込まれた新基地は1800mの滑走路を2本つだけでなく、大浦湾には軍港施設まで整えた一大軍事基地の形になっています。

 まさに米にとって得るものは全てであり、失うものは何もありません。そして基地周辺に住宅密集地を抱え、事故時には被害甚大となり反基地感情も強く老朽化した普天間基地に代えて、日本の財政負担で最新鋭の航空基地とそれに付帯する基地設備が手に入るのです。
その2に続く