化学物質の安全性ホームページ

このページは制作中です。さらに内容に検討を加えた上で公開する予定です。ご意見など は 編集担当者 にお寄せ 下さい。


もくじ

  1. このページを開設したきっかけ:"Our Stolen Future" の衝撃
  2. 科学界の「製造物責任」としての環境毒物学
  3. 日本の状況
  4. "Our Stolen Future"を扱った関連ページへのリンク集

  1. "Our Stolen Future" の衝撃

     "Our Stolen Future" (奪われた未来)は、WWF(世界野生生物基金)の専任研究員で動物学者の Theo Colborn さんが主著者となって書かれた本です。
     この本は、アメリカで1996年3月に発刊されるや、大変な反響を引き起こしました。それは、この本で扱っている内容の重さによるといえるでしょう。なぜなら、化学工業製品として大量に自然界に放出されている多くの化学物質が、種々の生物の内分泌系の働きに悪影響を及ぼし、とくに幼生期の生殖器不全などを引き起こしている疑いがある、というものだからです。
     ある地方でとつぜんある種の鳥類や魚介類の個体数が減少した例や、そういうケースについて調査すると、生殖器の発育不全が観察された例などが最近少しずつ報告されています(カナダの工業地帯の河川に住むシロイルカの例など)。著者らは、こうした生殖器の発達を促すホルモンと「似た形をした分子」であるいくつかの合成化学物質が、生物の本来持っている調節機構にあやまった信号を送り、それがこうした結果を招いているのではないかと推論しているのです。これが本当なら、鳥類や魚介類だけでなく、人類にとっても、その生存を脅かす深刻な問題であると言えます。
     共著者である J.P.Myers によれば、ここで扱われている問題の多くは、さらに調査研究をしてその検証をすべきであることを断っています。しかし、調査研究を進める間、手をこまねいていてはいけない問題であることは明らかです。

     古くは1960年代にレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を出版し、DDT の生物毒性について訴えました。これは産業界の集中砲火を浴びひどい中傷が行われました。しかし、結局カーソンの主張は受け入れられ、DDT の製造と使用が禁止されて、カーソンの憂慮は現実のものにならずに済みました。
     いま、この "Our Stolen Future" に書かれている内容についての幅広い科学の分野での検討と、政治的な対策がともに必要とされているのではないでしょうか。

     このホームページは、この問題について訴え、みなさんとともにその対策を考えるきっかけともなればと思って開設しました。

  2. 環境毒物学:科学者の製造物責任

     最近の経済学の考え方は、経済システムを考えに入れるときに、人間の経済活動の環境への影響を無視していると最終的に経済システムそのものが破綻するため、それを予防するために、経済活動の及ぼす環境への悪影響を、あらかじめ経済活動のコストとして計上し、その対策を講じることを要請するようになっています。
     これは、各国の政治の上にも反映され、製品を製造するときに、それが廃棄物になった場合の対策を製造者に義務づける「製造物責任」の考え方が主流になってきました。

     科学文明は、人間がより幸せな暮らしをすることに多大な貢献をしてきましたが、その副産物としての環境破壊をももたらしたことは、いまや万人の認めるところです。科学に携わる研究者、技術者は、すべからく、自らが生み出したいろいろな製造物が、環境にたいしてどの程度の破壊力を持つのかを正しく評価し、その対策のために努力することが求められているといえるでしょう。
     そうした意味では、化学合成物質が環境中でどのように化学変化し(あるいは化学変化を起こさず)、その結果それが生物に取り込まれた時にどのような作用を及ぼすのか、といった分野の研究「環境毒物学」は、科学界全体の「製造物責任」として、もっと広範にとりくまれなければならない課題です。しかもこれは、有機化学、無機化学、分析化学、動物生理学、植物生理学、病理学、解剖学、薬理学、農芸化学、土壌学、海洋学、生態学、統計学、数値解析学、さらには、環境経済学、政治学、社会学など、ありとあらゆる学問分野からのアプローチがなされなければ、真に解明できない問題であると言って過言ではありません。

  3. 日本の状況

     しかし、日本ではこのような学際的協力を必要とする研究を、協力して行うことがむずかい環境にあるようです。お役所も研究機関も、縦割りの構造の中にしばられ、そこに所属する人々の多くも、柔軟に現実に対応しながらヨコに繋がって協力し合う能力を弱められているように感じられます。
     このような現状を打開し、人類の生存と子孫の幸福のために私たちはもっと多くの力を傾注すべきだと考えます。そのための情報交換を、このページを通じて、またその他のネットワークの手法を用いて行っていきたいと考えています。
     現在のところ、日本のマスコミでこのことが紹介された例は、私たちの知る限りではニューズウィーク日本版96年4月3日号の記事を除くとまだほとんどありません。多くの人が正確な知識を持ってこの問題に対処していくためにも、まず関連文献の日本語訳などから始めなければならない状況です。
     ご関心のある方は、ぜひ下記のアドレスまでご連絡下さるようお願いいたします。

  4. "Our Stolen Future"関連ページへのリンク集

     関連あるホームページに、コメントをつけて紹介しています。背景の理解にもご参考になるかと思います。


Ver.0.3 (July 3, 1996) 編集: 橘 雅彦