憲法記念日の報道について

前原清隆(長崎総合科学大学、憲法専攻)

 5月3日、憲法記念日。日本国憲法は、施行56周年を迎えた。当日の関連報道のなかから、印象深かったものを断片的に取り上げてコメントする。
 米英のイラク攻撃とそれに対する日本政府の支持や北朝鮮問題、そうした国際情勢を背景として急展開が予想される有事法制問題、教育基本法改正問題、昨秋の中間報告を経て最終報告に向け歩を進める憲法調査会の動向など、緊迫の度を強めている憲法情勢のもと、当日は各紙とも憲法問題に紙面を大きく割くに違いない。そう予測して、連休前の講義で学生にも注目を呼びかけていた。
 ところが、ふたを開けてみると、新聞各紙の社説がイラク戦争とのかかわりで集団的自衛権など平和主義に焦点を当てていたことは当然としても、予想外に憲法の影が薄いというのが率直な印象だった。前日に行われたアメリカ大統領のイラク戦闘終結宣言がトップを占めたことにもよる。だが事態の読み方としては、嵐の前の静けさと見るべきだろう。
 長崎新聞は、「国民中心に論憲のうねりを」と、「論憲」をキーワードとする社説を掲げた。一方、毎日新聞の憲法特集は、「改憲論議のゆくえ」とのタイトルのもと、「論憲から改憲へ加速」との見出しが使われている。憲法をめぐる状況は、それだけ「進んだ」ことになる。
 「進んだ」状況を端的に示すのが、毎日新聞が報じた、自民党憲法調査会による憲法改正草案の素案要旨だろう。陸海空軍その他の戦力の保持、集団的自衛権を含む自衛の権利の明記、国際機構の活動への戦力使用を含む積極参画、首相の国家非常事態命令発動権、国民の国家防衛義務、環境権と環境保持義務、憲法裁判所設置も盛り込まれている。前述の嵐のひとつと言って良かろう。同紙は、「同党が本気で改正を視野に入れ始めたものとして注目される」としながら、「最終的な草案作りでは他の与党や野党の改憲派の理解を得るため、復古色を弱める努力が行われそうだ」と分析している。ここで私は、有事法案に関する民主党の対案に各紙が好意を示した事実を想起せずにはいられない。今後、同様の連係プレーをする憲法草案が登場することになるだろうという意味でだ。
 「進んだ」のは、状況だけではないようだ。毎日新聞の社説は、イラク戦争と北朝鮮問題が憲法に投げかけた衝撃を論じて、武力行使がからむ場面では日本は「傍観者」的だとして、憲法が「世界の問題解決にとっての有効性は必ずしも高くないのではないかという疑問」を提起し、「ずっとこのままがいいのだろうか」と述べている。コラム「余録」も含め、真意をはかりかねる。
 最後に、非常に興味深い記事もあった。西日本新聞のコラム「春秋」だ。イラクの反体制派のなかに、戦後復興論として日本国憲法第9条をイラクの新憲法にそっくり入れるよう提案している人々がいるという。当日のNHKテレビ憲法記念日特集でも、大脇雅子議員(社民)が同じ構想を紹介していた。大新聞や多数派が顧みないこうした動きを敏感にキャッチし伝える、地方紙や少数政党議員の役割はとても貴重だと思う。こうした動きについて、筆者は不勉強で情報をもっていないので、読者のなかにご存じの方があれば是非とも教えていただきたい。

長崎平和研究所通信25号(03年5月)より転載

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