自治省政党助成室の回答が私たちに教示したこと

 1997年末に新進党が解散し、自由党をはじめ6つの新党が結成され、1998年分の政党交付金を受け取るための手続きが6党によっても行われた。その際には97年12月30日に新進党の分割協議書が作成され、98年1月1日に6党が結成されたことになっていた。しかし事実はいずれも違っていた。にもかかわらず、6党は政党交付金を不正に受給した。この事件については、今年2月に私を含む憲法研究者17名で東京地検に刑事告発した(私の社会活動のページを参照)。ここでは政党助成法が定める罰則の適用が問題となる。
 問題はこれだけではない。政党交付金が不正交付されたとなると、自治大臣はその分の政党交付金を返還命令できるのである。この問題については、先月(10月)19日、刑事告発人と政治改革オンブズパーソンの共同で、自治大臣と自治省選挙部政党助成室とにそれぞれ質問状を郵送で提出した(政治改革オンブズパーソンのページを参照)。そして、政党助成室から今月(11月)10日に電話で回答があった(その内容については私が文書化してまとめたものをご覧いただきたい)

 その回答のなかで特に取り上げておきたいことは、新進党が正式に6党に分裂したことを報じた各社の新聞(1998年1月5日付)を提示して政党助成室が6党に対して一度も説明を求めていないことである。その理由としては、「政党の自由であるべき政治活動に対する行政権力の介入は最小限にとどめるべき」だから。また、政党助成室には調査権がないということを理由に、政党交付金返還命令が発令される場合としては、各政党の訂正申告のときと刑事確定記録に基づくときを挙げ、それ以外について明言していないことである。
 このような回答を聞いて、私は表面的には全く正反対の感想を同時に抱いた。
 その感想の第一は、「政党助成室の解釈では返還命令を規定した条項や説明聴取を規定した条項はほとんど死文化してしまいかねない」というものである。ここではあえて政党助成法の合憲性の問題FAQ6のQ8を取り上げることはしないが、政党助成の存在を前提にすれば、そもそも政党助成が国民の税金で賄われている以上、不正に交付されることないよう歯止めがかけられていなければならないだろう。実際、法律は歯止めを予定している。具体的には、罰則という刑事罰の適用と、不正に交付された政党交付金の返還命令の発令(交付前であれば交付の停止命令の発令)とである。前者は検察庁と裁判所の問題であるが、後者は自治大臣・自治省の問題である。政党助成室の法解釈は、政党交付金が国民の税金で賄われていることの重大性をわきまえないものであり、歯止めの存在意義を軽視する、あまりにも狭い解釈に基づくものではないか、と強い憤りを感じた。
 もう一つの感想は、それとは逆に、政党助成室の説明が妥当であることを前提とするものである。そもそも憲法は第21条で結社の自由を保障しており、その保障には政党も含まれる。となると、政党助成制度の存在を前提とした上で「政党の自由であるべき政治活動」を保障するとなると、政党交付金の不正交付や税金の無駄遣いも生じてしまうのだな、という感想である。

 このように全く正反対の感想を抱いたにもかかわらず、二つの感想から最終的に導かれる結論は「政党助成法は廃止するしかない」というものであった(参照、上脇博之『政党助成法の憲法問題』日本評論社・1999年)。狭い解釈をして不正交付に十分な歯止めがかけられないようならば制度そのものを廃止するしかないからである。また、不正交付や税金の無駄遣いを我慢しなければならない理由はどこにもないし、「政党の自由であるべき政治活動」と政党助成とはそもそも矛盾するということになるのだから、憲法の保障する「政党の自由」を守るためには同じく制度そのものを廃止するしかないからである。
 政党助成室は暗にこの結論を私たちに教示してくれたようである。


2000年11月21日
上脇 博之(北九州大学法学部)

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