佐々木毅・東大教授の「政治改革」論と「憲法改正」論の相互関係

 今月(11月)9日、衆議院の憲法調査会において東京大学の佐々木毅教授(政治学)は、「政治主導」の推進を唱え、政治と憲法の間に緊張関係をもたせるために憲法改正の条件を緩和したり、憲法に政党条項を設けて国政の担い手にふさわしい公開性を政党に求めるべき、などと意見を述べた。
 前者については近・現代憲法に対する無理解を指摘できるが、佐々木教授が政治学者であることに鑑みて、ここでは特に後者の問題を取り上げたい。

 政党助成法第4条第2項は、政党の「組織及び運営については民主的かつ公正なものとするとともに、国民の信頼にもとることのないように、政党交付金を適切に使用しなければならない」と規定している。にもかかわらず、政党交付金を受給している政党は不可解な使途報告を行ないFAQの6のQ4を参照)、国民の政治不信はますます高まっている。このことを考えれば、憲法に政党条項を設けても国民の政治不信が容易に解消しないことは、あまりにも明白である。それどころか、政党には結社の自由の保障が及ばなくなり、議会制民主主義を衰退させるなどの看過し得ない問題が生じることだろうFAQの6のQ9を参照)。それなのに、なぜ政治学者である佐々木教授はあえて衆議院憲法調査会でこのように能天気な発言をしたのであろうか。そのように考える国民もいるのではなかろうか。
 しかし、発言を新聞で読んだ私は、「政治改革」と「憲法改正」とが密接に関係すること、そして佐々木教授が国民の政治不信を利用して新保守主義的な国家改造・憲法改悪を目指している「確信犯」的人物であることを再確認した。それは次のような理由からである。

 リクルート事件発覚(1988年6月)前から「政治改革」の火付け役となっていた財界の「社会経済国民会議政治問題特別委員会」に当時、教授の名前は挙がっていなかった(その後の文献では社会経済国民会議の理事として紹介されているが、いつの時点からなのか未確認)。しかし、佐々木教授がリクルート事件発覚後に刊行し、「政治改革」の必要性を説いた著書のタイトルは、なんと『自民党は再生できるのか』(日本経済新聞社・1989年9月)であった。その後は中立を装ったタイトルで、1992年10月には著書『政治はどこへ向かうのか』(中公新書)を出版する。同年4月20日に発足した政治改革推進協議会(いわゆる民間政治臨調)においては3役の一人(主査)として活躍する。同臨調は提言を一冊の本にして翌年6月に出版している(民間政治臨調『日本改革のヴィジョン』講談社・1993年)。7月には佐々木毅監修・CP研究会編『日本政治の再生に賭ける』(東洋経済新報社)が出る。
 「政治改革」の実現が1994年であることから言えば、佐々木教授のそれへの貢献度は、社会経済国民会議の常任理事で民間政治臨調の会長を務めた亀井正夫氏(『改革への道』創元社・1984年、『「政治臨調」のすすめ』社会経済国民会議・1988年)に劣らず極めて高いと言えよう。

 ところで、朝日新聞が1998年に全面協力した政治研究者の1996年分政治資金全国調査において、佐々木教授は代表的立場にあって、政治家が資金管理団体・政党支部・後援会という「3つの財布」を通じてカネ集めに奔走していた実態を自ら解明していた(佐々木毅ほか編著『代議士とカネ』朝日選書・1999年)。また、朝日新聞は、1999年暮れに国民の政治意識調査を行ない、政治家の利益誘導は減ったかの質問に53%が「そうは思わない」と回答し、政治の腐敗は少なくなったかの質問に69%が「そうは思わない」と回答していたことを今年の1月5日付朝刊で発表していた(参照、『朝日総研リポート』142号・2000年2月号138頁以下)
 ところが、教授は、今年の総選挙を目前にして1994年「政治改革」の「評価については時期尚早である」と言い訳し(「総選挙前 3政治学者の決算書」朝日新聞2000年5月7日朝刊)、「政治改革」を総括する文献のなかでは、「政治改革の目標は『カネのかからない政治』の実現にあったという主張もないわけではないが、これは明らかに問題のすりかえである」とまで述べている(佐々木毅編著『政治改革1800日の真実』(講談社)2000年、30頁)
 また、民間政治臨調の幹事会は、1998年8月13日付の「現下の危機に対する緊急提言」を発表し、「目前に迫った21世紀の日本のあり方、国の理念、目標について検討を行い、戦後憲法体制の包括的な検証にまで踏み込んだ、国の政治制度・基本法制のあり方に関する今世紀最後の国民的議論を展開する」との「決意」を表明した。同臨調は、1999年7月12日に「新しい日本をつくる国民会議」、略称「21世紀臨調」へと衣更えしたが、この21世紀臨調は、そのとき同じ内容の「決意」を表明している。この臨調において佐々木教授は、総括幹事を務め、その中に設けられている「21世紀の政治をつくる国民会議」では座長となってもいる。

 つまり、佐々木教授は「政治改革」を手段にして「憲法改正」を行なう勢力の中で中核的役割を果たしている「確信犯」的人物なのである。だからこそ、冒頭で紹介した政党助成法の規定にもかかわらず不可解な使途が行われ政治不信がますます高まっているにもかかわらず、企業・団体献金の全面禁止も政党助成制度の廃止も主張することなく、逆に政党助成制度の導入で政党は「公的」な存在になったと強弁し、政治・政党不信に乗じて憲法に政党条項を設けるなどの「憲法改正」を平気で主張できるのである(佐々木毅「憲法を考える1・権力の乱立状態を克服」日経新聞2000年5月25日)
 「政治改革」については、不十分な政治資金規正法の下でいつでも脱法的に資金作りが可能なまま政党助成を導入することは「焼け太り」になるとの批判が当時なされていたが(河上和雄「政治資金規正法はどうすべきか」文藝春秋編『日本の争点94』(1994年)110頁[111頁])、今度は政治改悪による政治不信を背景に憲法改悪という「焼け太り」が目指されているのである。

2000年11月11日
上脇 博之

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