雑誌『憎まれ愚痴』1寸の虫の5分の毒針

tactical-mediaとは?

(1999.4.2)

 木村愛二です。

 昨晩[1999.3.26]の例会で、オランダのアムステルダムで開かれた集会の報告が行われ、そのテーマでもあるNext-5-Minutesの市民運動家たちが使っているtactical-mediaという新しい概念についての議論がありました。

 土屋さんの報告、彼らには「主権者意識あり」などの内容を合わせて考えると、これまでのalternative(私の強引な訳は「取って替わる」)よりもさらに前向きな意味を持たせていると思われます。

 英和辞典で、tacticalだけを見ると、戦術的な、戦術上の、用兵上の、かけひきのうまい、などとあります。しかし、日本語でもそうですが、言葉には歴史があり、意味も変わり、深みが出てくるものです。特に、話し言葉での意味、このtacticalの場合には、最後の「かけひきのうまい」というニュアンスが面白いとおもいます。周囲の単語の訳例も合わせて考える必要があります。

 昨日は出掛けに英語と、その語源として記されていたギリシャ語の辞書だけを見て、それを報告しました。それ以前のスタッフ会議では、調子の良い早口のシャンソン、「パリ野郎」の歌詞の二番目の、Paris bandit(悪党のパリ)の部分に、pour la tactiqueがあったのを思い出して、「手際良く(奪う)」というニュアンスがあるのではないか、と言いました。

 集会のテーマにはcounter-strategiesというのもありますが、こちらには、「戦術」よりも大きい「戦略」という意味もあり、軍事専門語の感じが強く、語源のギリシャ語は、general(軍の指揮者、将軍)です。tacticalには、別の意味を持たせているのではないでしょうか。

 日本人が漢語を表意文字とし理解するのと同じように、学校教育でギリシャ語を学んだ知識人なら語源が頭に入っているはずの欧米人が使い、しかも、現在の状況に合わせて、新しい定義をしているのではないでしょうか。以下、簡略に、というよりも、安物辞書しか手元にないので、あるだけの日本語訳例を記します。ギリシャ文字は、わがMacに入っているのかどうかさえ分からないので、ローマ字で代用します。辞書は、ギリシャ・英語の辞典(GREEK・ENGLISH LEXICON, OXFORD, 1966)です。

ギリシャ語:
taktikos: fit for ordering or arranging, of (or) for military tactics.
taktos: ordered, arranged, fixed, stated.

英語:
tact:(人をそらさない)気転、如才なさ、こつ。
tactical:(上記の文中の通り)。
tactician:戦術家、策士。
tactics:戦術(学)、兵法、用兵、方策、策略。

フランス語:
tact:触覚、敏感、如才のないこと、頓知、機転。
tactician:英語と同じ。
tactique:戦術、兵法、策略。戦術上の、策略的。

ドイツ語:
Takt:拍子、拍節、小節、歩調、繊細な感情、分別、気転、如才のないこと、熟慮、控え目、礼儀、作法、(ピストンの)行程。
Taktik:(英語のtacticsと同じ)。

 さて、ここで、実に面白いのは、今では日本語になっている「タクト」が、ドイツ語のTaktierstabまたはTaktierstock(指揮棒)の省略形だということです。

 日本語で「タクトを振るう」などと言えば、「指揮をする」ことなのです。この意味も含まれているとすれば、アステルダムならではのこと、さすがはオランダ人、痩せても枯れても、昔は日本の江戸時代に、長崎に拠点を確保していた世界帝国の末裔なのかな、と思いました。

 私は、mailの署名のように、alternative medium by kimura aiji(木村愛二の「取って替わるメディア」)を自称しているのですが、これはもう「古い」とか、「いじましい反体制気取り」とか、言われてしまうのでしょうか。呵々。以上。


『1寸の虫の5分の毒針』
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