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秘密日記 秘書の独り言


3月31日(土) オイオイ雪だよ

今日は楽しいお花見、 うふふんふん、とカーテンを開けたら、げっ、嘘でしょ。雪だ。
・・・(しばし絶句)

しょぼくれた気分でとぼとぼと歩くと会社は遠い。ようやく辿り着くと桜吹雪ならぬ本物の吹雪で玄関も悄然として見える。
取りあえずお湯を沸かしてお茶入れて・・・とそこへ、ニヤニヤニタニタニカニカ、チェシャ猫を数倍嫌らしくしたような笑いが通り過ぎて奥の部屋へ消えて行く。そして、ドアが閉まった途端、かっかっか、けっけっけ、と馬鹿笑いのような高笑い。

おのれ、計ったな、いや謀ったな。花粉のおかげで花見に行けないからって秘書のささやかな楽しみを奪うなんてなんてむごいことをするのだ。何をしたっ。秘伝の雨乞い極寒バージョンを唱えたか、それとも悪魔に何かがらくたを恩着せがましく売りつけたか。

許さんっ。

と、かっかしながら、席に戻ったら、机に何やらどかんと置いてある。へ? 
これ何、と営業部長に聞いてみた。(配置変えして席が隣になった。)
編集長が持って来たけど。

小包爆弾? んな筈はないと思いつつ、恐る恐る開けてみたら、中身は桜餅。
そうか差し入れか。しかし気持ちは有り難いが、量が半端じゃない。何人で花見をすると思ったのだ。40人分位はある。
ああ、まったくもう。たのむから一筋縄でいってくれ。


3月30日(金) 曇り、出戻り寒気団のおかげで寒い

気がついたら3月もお終いだ。引っ越し済んで1週間、やっとまともな暮らしに戻って・・・いない。3カ月間の仮住まいという事情もあるけれど(つまり3カ月後にまたお引っ越し騒動)、引っ越した翌日に出勤だったりして草臥れはてたまま一向に片付かないのだ。(憎まれ愚痴社の名誉のために言い添える。引っ越し翌日出勤は秘書稼業ではない方のお仕事でだ。秘書業は長いこと放り出している。)

山と積まれた段ボールの間を這い回って暮らしていると、わたしゃゴキブリか、という気分になってくる。

それはさておき、ひさし振りに秘書業に戻ったら、いない筈の編集長が会社にいるではないか。せっかくうるさいの抜きでのんびり花見でもしようかと思ったのに。ベイルートはどうした!

ベイルートはこけた、と営業部長がそっと教えてくれた。なんでもどっかの大国の横やりが入って開催国がびびってしまったらしい。やっと編集長の怒りが納まりかけたところだから刺激しないように、と釘をさされた。

ふーんそうかぁ。秘書がいない間みんな大変だったんだな。
で、どうです、明日の午後御苦労さん会の花見でも。いまが満開ってもんで、1週間後はすっかり葉桜ですぜぃ。そんな時花見だの桜まつりだの間が抜け過ぎってもんでがしょ。
花粉症の編集長どうするかって? 外気にあてなきゃいいんでしょ。巨大ビニール袋かぶせときゃいいってもんです。

と、ここまでお膳立てしたのに、編集長、そんなもん行かん、とだだ捏ねる。勝手にして下さい。秘書は楽しい週末を過ごします。


3月18日(日) 雨のち晴れ

昨日、ピアノが貰われていった。新しい御主人様は今度小学1年生になる女の子だそうだ。きっと入道雲みたいな希望がむくむく持ち上がっているんだろうな。流麗にモーツアルトなんかを弾きこなすおのれの姿を思い描いてうっとりして・・・秘書もいっとき夢を見たものだ。

今日は気が抜けて1日寝てしまった。夢うつつで昨日編集長がなんか言ってたっけ、と思い出したが、何言ってたかまるで思い出せない。たいしたことではあるまい。だいたい編集長、花粉のせいで出歩けないもので、社内をうろうろしては、ひとの仕事にちょっかい出してうるさがられていた。(早くベイルート行っちまえ、とは秘書のセリフではない。)そう言えば、昼飯おごる、としばらく前に言われた約束果たしてもらってない。ベイルート行く前に実行してもらわなくっちゃ。


3月14日(水) 晴れ

中だるみ。もうゴミ捨てと荷造りは飽きた。早くまともな暮らしに戻りたい・・・

ところで3分の2を捨てた、と言ってしまったが、訂正。3分の1だった。だけどいろいろ捨てた。捨てる技術、という本があるが、我が家の場合は、捨てる奇術、だ(魔術とか詐術とか・・・)。狭い部屋のあちこちから次々にモノが出てくる。前住んでいた今より広い家時代のデッキチェアや極貧時代のちゃぶ台、そう言えば前の家には揺り椅子まであったな。いつか読もうと思ったまま十数年が過ぎた本本本、若気の過ちみたいに書き散らした絵、取り溜めたビデオの山。全部思いっきり捨てられたらどんなに楽か・・・人生観変わるだろうな。

それでも同居人に小突かれて、何十万もした初期の5インチFDワープロと同じく何十万もしたでかい電子ピアノは処分することになった。考えると、秘書の人生でこれまで無駄にしたお金は合計すると何百万になる。だからいつまで経っても貧乏なままなんだろうな。

そう言えば、秘書のおばあちゃんはこの前の戦争の時空襲警報が出たもので、またかぁ、みたいな気分で河原に避難し警報解除で戻ったら家がきれいさっぱり丸焼けになってたそうだ。せいせいした、とか言ってた。そのせいか、おばあちゃんはモノを捨てるのが好きだ。(秘書の宝物だった可愛い絵のついたキャラメルの箱とか目を放すとすぐ捨てられて秘書はよく泣いた。)どこで滞ったのか秘書にその血は流れていない。

ところで、編集長はベイルート行きで浮き浮きしている。仕事だ、とか言ってるが、絶対ハメを外してくるにちがいない。だって、むっつり・・・の見本みたいだもの。(ぎょっ、振り向いた)。新しくしたパスポートの写真をこっそり見たら、見習い仙人みたいな顔してた。案外東洋の神秘扱いされてもてはやされるかもしれない。原稿さえ送ってくれればあちらに永住してくださって結構だわい。編集長が海の向こうで羽を伸ばしている頃、秘書は引っ越しの後始末で忙しさの最高峰だ。帰って来てもかまってやる暇はない。


3月13日(火) 晴れ

気がついたら3月も半ば。なんということだ。

決算期の駆け込み仕事と引っ越し準備とに追われて、秘書はすっかり目の下のクマさんと仲良しになってしまった。毎日捨てても捨ててもゴミが出る。(あーやだやだ後生大事にモノを抱え込む貧乏人は。)財産の3分の2は捨てたぞ。なのに同居人はもっと捨てろ、と迫る。

「だって、これはおばあちゃんが・・・」
「その先は言うな。捨てろ。」

おかげで田舎の匂いがする(雰囲気がある、と言うことだ。俗にいう田舎の香水の匂いではない。)昔懐かしいクラシックな柄の布団地のかいまきもコタツ布団もゴミになった。資源となるならまだ許せるが、ここら辺りでは「粗大ゴミ」だ。

3月に入ったのに寒い。1日の朝起きたら雪だった。昨日も雪が降った。春は遠そうだ。コタツは梱包してしまった。

秘書がひいひい言ってる間、暇を持て余したのか、編集長は工作に励んでいたようだ。ビニール仮面とかいう変てこなものこさえて、秘書の忠告も聞かず、アメリカ大使館まえに演説に出かけたりした。花粉よけの仮面だったらしいが、ちっとも役に立たず、更に症状を悪化させていた。自業自得だ。同情はしない。

なのに今度はベイルートに行くという。ベイルートにはレバノン杉があるぞ。レバノン型花粉症になっても知らんぞ。どうでもいいが、レバノン饅頭とかベイルート煎餅くらいは持って帰ってくるだろうな。


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