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秘書室展示会場

秘密日記 秘書の独り言


12月31日(月) 晴れ

はや大晦日である。(15日からいきなり31日に飛ぶ、この空白は一体なんであろう。)

今年は秘書の第8番目の厄年であった。2001年最後の締めくくりの今日とて、何が楽しくてか救急病院にお世話になった。数日前から首が回らなくなって一向に回復しない。経済的になら一年中回っていないのだが、物理的いや人体的に首から肩から腕に激痛が走り日常生活に支障を来すこと甚だしい。

思えばこの年の瀬、思いっきり忙しかった。師が走る時は、弟子はそれ以上にパシらされているのが世の常である。我が社も編集長が当たるを幸い蹴散らして回ったので、後始末係りの秘書は蹴躓いて回った。

カッター使いなさい、との忠告を聞かず、A3用紙をビリビリと破いてA4替わりに突っ込んだりするもので、プリンターが変調を来して年賀状が印刷できなくて、あせって新しいのを買いに行ったっけ。(カッターはなかったー、とか言ってる場合じゃないっ。)

プリンターのCDをインストールしないで使い始めちゃったもので(Windows MEでは使えてしまった)、インクカートリッジの交換方法が分らなくて秘書を呼びつけたり。

人様をお呼びして会議するという日、電気暖房を目一杯付けてるのに、また大出力のオーブントースターのスイッチをひねってブレーカーをたたき落としてくれたり。(この日はブレーカーを上げただけでは復旧できなくて電力会社のお世話になった。欠陥工事だ手抜工事だ、と編集長にがんがん文句を言われてた電力会社の皆さん、秘書が代わってお礼申し上げます。)

我が編集長御本人は、あちこちの忘年会に出没しくだをまき煙りにまきカラオケマイク握ってとぐろまき、と楽しい日々をお過ごしのようであった。お陰で運動不足から腰がぎっくぎっくだとか・・・

ともあれ、一年間おつき合い頂きまして、ありがとうございました。どちらさまも良いお年をお迎え下さい。


12月15日(土) 晴れ

今年もやって来た年賀状書きの季節。(勿論社用の賀状の話である。秘書個人はとうとう一枚も書かなくなった。)ついこの間までは、骨董品級のワープロで「読めればいい」式でやってたのに、愛松君についでメビを導入したあたりから、贅沢を抜かすようになってきた。(この文の主語は、編集長である。)きれいなのがいい、手で書いたみたいなの、とか言い出して・・・それはどういうことかと言えばつまり秘書が製作するのだ。

ワープロでアナログ式に画面に配置していた住所データ数百名分をMS-DOSテキストにしてワードに呼び込んで置換を繰り返して編集して整えて表にしてエクセルに貼り込んでまた整えてそれを賀状ソフトの住所録ファイルに呼び込んでまた整えて・・・やっと世間並みの宛名になった。ここまでの過程を編集長に説明しても無駄というものである。ブツクサ言いながら秘書が自分でやる方が世程製新衛星、違う、余程精神衛生に良い。

さて、本文は、というと、またまた懲りもせず文字がびっちりだ。賀状ソフトは諦めてワードできれいに体裁を整えてやった。有り難く思ってほしい。アホを抜かすとバチをあてるぞ。

なのに、編集長、秘書がしこしこ作業してるというのに、腹が減ったとか言い出して分厚いパンをオーブントースターに放り込んでジャッとスイッチ回して、見事にブレーカー落としてくれた。むわあああ。


12月14日(金) 晴れ

日に日に日の出が遅くなる。朝目覚めると薄暗い。つい、今日は天気が悪い、とぼやいてしまうが、カーテン開ければ、雲一つないピカピカ天気。寝過ごしたお天道様が地平線の向うで慌てふためいて身支度してるみたいな雰囲気だ。秘書の目覚めも少しずつ遅くなる。夏場は5時台に起きてたなんて信じられるだろうか。

夏、目が覚めると、まずトイレにいって、脳のエンジンがかかるまで暫くぼけーっとしていた。半分夢見心地で座っていると、少し開けた窓から、朝もはよから起きてるよそのお宅の話し声が聞こえる。年寄りの大きな声だ。なんか変だ、と思ったのは、しきりに話して聞かせているようなのに、相手の声が全く聞こえない。しかし眠いし忙しいしでそれ以上考えたことはなかった。寒くなってきて窓も締めきりになった。

今朝、出かけようとしてドアを開けて廊下へ出て、あの声が朗々と響いているのに気がついた。へっ、と声のする方を探してみて、たまげた。別棟の一室のベランダ側の窓がこの寒いのに全開だ。その窓際に、とあるおばあちゃんがすっくと立って、中庭に向って話しかけていた。でかい声だが、絶叫調ではない。噛んで含めて諭すように、しかし中身はとんちんかんな話を延々と続ける。一体誰と交信していたのだろう。


12月13日(木) 雨

女房と畳は新しい方がいい、とはセクハラの概念のなかった頃のたわ言である。(秘書は新しい畳の匂いは嫌いだ。)

電気製品と筍は新しい方がいい。掘り立ての筍の刺身は絶品だそうだ。食べたきゃ産地に行くしかない。電気製品は工場まで買い付けに・・・行っても売ってくれないだろうな。

昨今の技術の進歩は、不精な人間の家事などと比べ物にならないほど目覚ましい。納戸を片付けようとして一年過ぎたところでたいした変わりはないが、パソコンなんぞ3カ月経てば型落ちしてる。

この1年で秘書はその事実を思い知った。貧乏ゆえ物持ちが良い秘書は築40数年の団地に住み16年前に買ったお釜で御飯を炊き4年前に買った簡易携帯電話を愛用していた。改築するってんで追い出され戻って来たら、設備は最新仕様になっていた。ボタン一つでお風呂が沸く。水を入れ過ぎて溢れることもないし、ゴポゴポ煮えたぎらせて翌日まで待つこともないし、沸いたら知らせてくれる。「ピンポロリンポンポロパン、お風呂が沸きました。」愛想のない声だが用は済む。

お釜は壊れた訳ではないが、内釜の塗装が剥げ炊きあがった御飯に身体に良くなさそうな無気味な色がつくようになって供養してお役御免にした。新しいお釜はお米を研いですぐ炊いていいんだって。炊きあがり時間を指定して予約もできるんだって。炊きあがったらピッピッピとほぐすように知らせてくれんだって。知らなかった、と言ったら、常識だよ、と同居人に冷たく言われた。16年間のギャップは大きい。

その同居人、数年前は秘書と同じ簡易携帯電話(PHSのことである)を持ってたのに、あれよあれよと言う間に次々買い替えて、メールのやり取りが出来なくなっていた。メールで済む用事なのに、いちいち電話するなウザイ、ということで、秘書の分の携帯を勝手に買って来た(販売価格0円のやつ)。前のまだ使えるのに、と少々恨めしかったが、使いはじめると、実に便利である。前のが旧石器に思えてくる。新しい携帯も喋る。ハムスターが駆け回って、電話でチュ、メールを受信したでチュ、と知らせてくれる。ついでなんで、伝言メモも喋らせることにした。

「いま留守番中のハムスターでチュ。ピーッと鳴ったら名前と用件を入れてチュ。」

一度実際の音を聞いてみたいが、自分で自分の携帯にかけて伝言残すのも間抜けというものである。


12月12日(水) 寒い

団地は原則的に動物の飼育は禁止である。秘書の住む団地も禁止である。が、原則は変則の母でありなし崩しの姑である。

ここの団地には廊下猫という生き物が生息する。部屋の中には入れて貰えない。が、餌と飲み水は専用のお茶碗に入れてドアの横に置いてある。夏場はなんの不自由もない。冬とて探せばねぐらはどこかにある。かくして、廊下をちょろちょろ階段を上がったり下がったり天気がよければ駐輪場で日向ぼっこしたり時には御近所に出張ってばったり出くわしお互い顔を見合わせてこんなところで何しとるんかと頷きあったり。のびのびとして色艶もよろしい。

そんな猫の一匹と少し前から昵懇となった。中庭の掃除当番のとき、駐輪場でくつろいでいる隙を不意打ちして捏ねくりまわして以来、秘書の顔を見るたびなででくれろ、と擦りよってくる。頭から喉からぐりぐり捏ねてるとしまいには仰向けになって四肢全開お腹丸出し警戒心ゼロで悶絶する。楽しいひとときであるが、何やってるんだ秘書はこの御時世に、との念もチカチカと点滅する。


12月11日(火) 晴れ

日本初の狂牛病の牛が見つかってから3カ月。ニューヨーク「テロ」事件の陰に隠れてはいるが、不況の日本に追い討ちをかける大事件である。我が社にも影響は現われた。

あれ以来編集長が牛肉どころか乳製品までぷっつり摂取しなくなった。以前は毎週毎週山のような牛乳パックとヨーグルト容器のゴミを出していた。ゴミ減量が叫ばれる昨今、喜ばしいことではあるが、ひとつ心配がある。

カルシュウムは足りているのだろうか。

このところ頻繁に編集長が噴火する。怒りの相手は、ところかまわずタバコの煙りをまき散らす無礼者や、どこでもトイレと心得る酔っぱらい、庶民の味方正義の味方と称する政党議員、などだ。(能無しとか役立たずとか口にされると、自分のことかとついつい秘書は反応してしまう。もっと自分に自信を持たねば。)

人間カルシュウムが不足すると切れやすくなるのだという。編集長のお茶にはカルシュウム錠剤を入れてやろうか。いや、いかん、確か材料は牛骨だった。なら卵殻カルシュウムを・・まてまて確か卵アレルギーだったな。七面倒臭いお方だ。こぶ茶に粉末煮干しでも入れてやろうか。


12月10日(月) 晴れ

本日我が社の編集長は市議会において陳述をいたす。過日またしても提出しておいた陳情が本日賢明なる市民の代表たる議員の方々により討議されるゆえ公正な判断のよすがとすべく如何に正当な主張であるかを滔々と述べようというのである。うむ、と丹田に力を入れ歌舞伎役者よろしくつんのめりながら出かけていった。

本日はお笑い大会はやらなかったようだ。議長に、3時間くれ、と言って、10分、と言われたのは前と同じだが、今度の陳情案件はなにしろ、特別職体系・役職手当て・議員報酬の廃止、である。にこりともせずまくしたてたのであろう。いや、ニタニタはしたかもしれない。聴衆たる議員は火の粉が降り掛かっているゆえ笑えない。シーンと静まりかえった中で制限時間は勿論オーバーであった。結果は全員一致で否決(賛成したら袋叩きだろうな。それともハブンチョか)。因習的な古いものとは違います新しいんです、が売りのはずの某党議員が応援してくれるどころか見当違いのいちゃもんつけたとかで、編集長帰ってきてから火を吹いていた。


12月9日(日) 晴れ

眠れる森の美女。寝蒸れる森の秘書。久し振り寝汗でびしょびしょになった。悪い夢を見ていた。

旅をするのに暗い森を通らねばならない。入り口の宿でガイドを雇わねば森に入れないという。ガイドとは名ばかりシッポの先の尖った悪魔が手に手に笞や棍棒をもってたむろしている。どいつもこいつも悪相だ。ガイド料を払うと、もっと寄越せと有り金全部ふんだくられる。その上悪魔の山のような荷物を背負わされ、連れてたロバには悪魔が跨がり、さっさと歩けと笞が飛ぶ。少しでもましな奴はいないか、と見回しても所詮は全員が悪魔。選択のしようがない。ふと気づけば、へらへらと笑ってる向うの悪魔、ヒゲなんぞはやして背丈といい丸まり具合といい、某社の編集長に良く似ている。どれ選んだって同じならあれにしとこ。この軽はずみを後で悔いても他に道はない。悪魔はどこまでいっても悪魔であった。


12月8日(土) 晴れ

本日はアメリカ人と会談をする、と編集長が言った。へえへえ、先だってはオーストラリア人で今度はアメリカさんですか、それはそれは国際色豊かにお成りでよござんした。

して、どちらで、と問えば、ここで、とのたまいおる。

ぎえっ、と秘書、踏み潰された蛙の恐怖を瞬時体験した。

ここって、この小汚い、いや大汚い我が社の秘境、魔物の巣くう、かのアフガニスタンの地下洞窟もかくやの亜偏窟編集長室へ、無謀にも人様を招じ入れようというのか。人道に背くとはこのことだ。そんなこと、この秘書が許しません、と言っても、他に使える部屋はない。社長室とて在庫倉庫と化している。

かくしてブツクサ盛大に文句をぶちまけながら早めの大掃除が始まった。出てくる出てくる、遠目にはふわふわと気持ちの良さそうな埃の塊が。思わず溜め息をつく。退職しない限りずーっと同じことやるんだろうな。掃除は嫌いじゃないけど、賽の河原総合開発にもシジフォスアスレチックパークにも就職した積もりはない。

それでも秘書と営業部長(いつも二人が犠牲になる)が額に汗して磨き上げていると、ちょっとビラ撒きに行って参ります、と言葉だけは殊勝に編集長逃亡。おのれ、人非人めが、と言う訳で、部長と二人して編集長宛届いていたお菓子の箱を開けて食べてしまった。賞味期限過ぎてましたから、と言っておけば、ばれっこない。

アメリカ人との会談は無事終わった。大男なのに編集長と同程度せかせかちょこまかして、それ故意気投合したらしい。編集長の変な英語と客人の妙な日本語とで何を話したのだろう。また今度会うそうだ。宴会の準備してたのに、引越すので忙しいとかで、早めに帰ってしまって、ちょっとお間抜けな状況。お陰で我が社は夕方から流れ宴会に突入。くたびれた。


12月7日(金) 晴れ

JR駅の改札降りた階段のところで、揃いのジャンパー来たお姉さん方が西瓜を売っていた。西瓜いかがですか西瓜あ〜、唯今販売中ですう〜・・・ と言われてもこの寒いのに食べたくない。案の定立ち止まって買おうとする人はいない。何と不憫なお姉さん達であろう。最近よく聞く社内いじめだろうか。リストラしたい人間集めては見せしめ仕事をさせるという。基準署へ訴えなさい。次第によっては、うちの編集長を応援に行かせるから。

と、言わなくて良かった。揃いのジャンパーが黄緑だったので西瓜を連想してしまったが、スイカを売っていたのだ。改札をスイスイ通れるカード、即ちスイカ。

客を馬鹿にするでない。乗車率200%ギュウギュウの通勤車両はギュウカーとでも言うのか。JRには前科がある。以前もオレンジカードという代物を商品にした。それを持って店に行ってもオレンジは売って貰えなかった。お米券もビール券もちゃんと実物と引き換えてくれる。商品券の信頼性を著しく損なう行為だ。


12月6日(木) 雨

寒い。前の安普請の社屋よりはましだが、暖房設備が完備していないので、寒いものは寒い。ついストーブのそばへ椅子をよせては手をかざして、この熱で何とかして餅が焼けないものか、と思案してしまう。昔の原始ストーブは餅はもちろんスルメだって焼けた。やかんをかけといてカップ麺やインスタント汁粉も食せた。文明の進歩は単純な愉しみを奪うものだ。このストーブ、てっぺんにものは乗せられないし、じゃあと倒せば転倒スイッチが働いてぷっつんする。申し遅れたが、昔のストーブとは薪や石油のストーブ、今秘書が手を焼いているのは電気ストーブである。餅を焼きたいものである。

編集長、今日も予定通り夜の巷へせかせかとお出かけである。焦って滑って転ばないように、と雨ゆえ秘書が親切心で言ってあげたのに、軟弱者と一緒にするでない失礼な、師たるもの年末は走り回らねばならぬのだ、と屁理屈をお捏ねになる。何のお師匠さんか知らないが、勝手に秘書を弟子その1扱いしないでもらいたいものである。


12月5日(水) 雨

今年の冬は暖かい、と思っていたが、天気が悪いとそれなりに寒い。縮こまってストーブにかじりついている秘書のそばを、ドンドンドンと軽やかに地響きたてて編集長が出かけてゆく。寒いのは苦手なはずなのに元気だ。今日もお出かけらしい。毎晩毎晩飲んだくれて、いつか糖尿病になっても自業自得というものだ。確か、さき一昨日が銀座一昨日が新宿昨日が吉祥寺今日は中野明日は新宿明後日はカルカッタ明々後日はリオデジャネイロ・・・どこへでも行っとくれ。


12月4日(火) 雨

あなたはアルホナさんを知っているだろうか。アホナ、さんではない。リカルド・アルホナ、南米はグアテマラの国民的歌手である(らしい)。洋風三波晴夫さんといったところであろうか。

さて、アルホナ氏は、今やちょっとした「時の人」である。なにせ全世界をテレビに釘付けした9・11事変(と編集長が呼称してた)を、この春に予言していた、というのである。メシアス即ち救世主という曲の歌詞がピッタシカンカンというのだ。日本語に訳したものをラジオで喋っていたが、秘書の耳は節穴で脳味噌はロックフォールチーズである。以下極めて不正確に再現。

救世主がニューヨークに生まれた。装甲車に乗っている。攻撃を計画している。武装したイスラエル兵士がマグナムを持っている。彼は再び帰ってくる。天からの使いがマンハッタンにいる。今度の被害は前よりすごい。日本とアフガニスタンに仲間がいる。インターネットで連絡をとっている。CNNを買収して言い分をいう。地球はパニックだ。ペンタゴンはテロリストがとった。ビッグアップルで喧嘩だ。ニューヨークウォー。雲が太陽を隠す。
(自分で書いたメモの字が汚くて判読できず思い出すのに何の役にも立たなかった。反省、字は丁寧に書きましょう。)

ふーん。なんと言えばよいのであろうか。聞くところによると、FBIが事情聴取だか取り調べだかに来たそうだ。ラジオ局がインタビューを申し込んだが、とにかくマスコミが殺到しているとのことで、応じてもらえなかったという。CIAは来なかったんかいな。

秘書、あの日以来不思議に思っている事がある。誰も言い出さないことが不思議なのだ。2年ほど前はこの世の終わりだとテレビも加わって大騒ぎしてたのに。空から恐怖の大王が降ってくる、って言ってたぞ、ノストラダムスさんは。代理人の皆さんは、テレビで口角泡を飛ばして御託宣をまくしたてていたではないか。しまいには、宇宙から電波がきましたっ、みたいな訳のわからない宇宙言語を神憑かりでしゃべりだしたおばはんもいたぞ。

今回まさにノストラダムスが言った、恐怖の固まりが空から突っ込んできたではないか。世のノストラダムス学の先生方、はよコメントしておくれ。


12月3日(月) 晴れ

線路もないところを蒸気機関車が突進してくる、と思ったら、頭から湯気出した編集長だった。なんか叫んでるが、音声接続忘れたビデオみたいにへんちくりんだ。聞こえないよお、と言いかけて、慌てて両方の耳に突っ込んだ鉛筆を引っこ抜く。途端大音響が頭上から落ちて来た。

「まったく、ちょっと目を放せば碌なことをせん!」

秘書が何をしたっ、言い掛かりは許せんっ、と反撃しようとして、編集長が手にしている缶カラが目に止まり心臓がぎくっとする。

あれは一週間ほど前、お茶パーティをした時のことだ。秘書は銀杏を煎ってお茶受けにした。あっと言う間に食べてしまって、美味しいけど3、4粒じゃ物足りないね、とか言ってたら、これも食べよう、と営業部長が、ぎっしり詰まった缶を持って来た。おっ、すごい、と口々に言ったが、誰も出所に言及しなかった。きっと営業部長が外回りのときせっせと拾い集めたんだろうと・・・。銀杏はアルカロイド系の成分を含むので一度にたくさん食べちゃいけないそうだが、おいしいものを前にすれば理屈は引っ込む。貪り食ってしまった。守衛のおじさん、鼻血が出たそうだ。

缶カラの中身は編集長がせっせと拾い集めたのだったそうだ。秋の夜長に仕事に疲れたときチビチビ食べようと溜め込んでおいたんだと。それをこの碌でなしどもめが、って言われたって、秘書は知らなかった。だって営業部長が・・・と、振り向けば、部長とっくにトンズラしてる。

部長、わざとやったのではないだろうか。日頃の遺恨を込めて。


12月2日(日) 晴れ

とても良いお天気なのに、朝起きたら秘書の目がまわってる。今日も寝たきり女だ。働き過ぎだ。人生とはつらいものである。


12月1日(土) 晴れ

ここ数年、はっきりしない秋が続いた。紅葉もぐずぐずと曖昧で、夏が腐ると冬が来る、そんな、身も蓋もない言い方がぴったりであった。

今年の秋は美しい。木々がいっせいに色づいた。銀杏は黄金細工のように輝き紅葉は炎を吹き出して燃える。街路樹はとりどりの暖色をまとい、やがて風に誘われて軽やかに舞いながら落ちてゆく・・・枯れ葉よ・・・枯れ葉のワルツよ、まわるまわる軽やかにくるくると・・・

まわるまわるくるくると、枯れ葉舞う中に、白鳥のティアラつけてバレリーナがくるくると、チュチュまといトーシューズ履いて、まわるまわるくるくると毛脛むき出し顎ヒゲしごきながらまわるそれは編集長、ゲッ、ああっ、モンテカルロバレエ団・・・

悪夢であった。目が覚めたあと暫く呆然としてしまった。よりによってなんでこんな夢を。起きようとすると目が回る吐き気がする。昨夜寒気がしたので寝酒に梅酒のお湯割カップに半分飲んだ。二日酔いになる量ではないが、すこぶる調子が悪い。

(よって本日はお仕事お休みにして寝る。)

(半日熟睡して秘書かなり元気回復)

あったかベッドの中で新聞眺めてたら、ありんこ(アンツ)のCGアニメをテレビでやるそうだ。しめしめと秘書お茶とお菓子を枕元並べてスタンバイ。3時だそれっ、とスイッチ入れれば、う?、壊れたあ。どのチャンネル回してもおんなじ画面だ。知らないおじさんがもったいつけてしゃベってる。そんな、殺生な。新しいテレビ買うお金なんかないっ。

未練がましくチャンネルがちゃがちゃやったが直らない。ぐすんぐすんとべそかいて諦めかけて気がついた。各局横並びの特番になっていたのだ。やんごとなきお方の赤ちゃんがお生まれ遊ばしたのだという。伝えるアナウンサーの皆さん、嬉しそうにニヤニヤと顔が弛んでる。

こんなに注目されちゃって、この赤ちゃん、大きくなったら少しぐれてみよう、なんて選択肢絶対ないだろうな。道を踏み外せない人生を踏み出したって訳だ。あー、その点庶民はお気楽だ。


御来訪ありがとうございました。またのおいでをお待ちしております。
お帰りはこちらです。

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