秘密日記 秘書の独り言
9月30日(土) 雨が降ったような気がする
気がつけば9月もお終い。秋は駆け足どころか、ジョイナーかフリーマンか、という勢いでやって来てしまった。
今週は秘書は何をしていただろう。記憶が曖昧だ。きっと夢見ていたのだ。ともあれ明日から希望の10月が始まる。今度こそは雑音に惑わされず食い物に操られず真面目に生きるぞ。
9月29日(金) 曇りだったかな
仕事の帰りに近所のスーパーに寄って晩御飯のおかずを物色した。
おやつにショートケーキ2個とレアチーズケーキを食べたもので、全くお腹がすかない。社長のお友達が遊びに来られて(会社って遊ぶところだろうか)、皆さんに、と下さったのだが、生憎と編集長と営業部長はお出かけだった。とっておけるものではないので、秘書が気をきかして始末したのだ。ぼーっと店内を周遊していると、本日のお買得品のアナウンスが流れる。
昔風コロッケとか、パリパリチキンとか、あなごたっぷり巻きとか、いろいろだ。
もっとさっぱりしたものが良いのだが。
ん? カレーだって。カレーでもよいか。何カレーだって?
ナマコモチカレーってどんなカレー? 海鼠餅カレー? ぐっ、趣味悪い。餅とカレーは合うが、何で海鼠(なまこ)を乗せるのだ。丸ごと1個乗ってるとしたら相当エグい。げっ、げっ。肉の売り場に隣のおばちゃんがいた。特売のカルビ焼肉用をためつすがめつしてる。今晩のおかずに迷った時の良き相談相手だ。おばちゃんにさっそく聞いてみる。
海鼠餅カレー・・・と、全部言わないうちに返事が帰って来る。あそこにあるわよ!
指差す鮮魚売り場をみて、口があんぐり開いた。
鰈の子持ちの切り身のピラミッドがそこにあった。
9月28日(木) ピカピカ晴れ
快晴なので、また朝布団を干した。今日は忘れないで出勤前にとりこんで来た。2時間ほどでもお日様の匂いのする布団は気持ちよい。
こんな日はお弁当持って広々した公園でゆっくりお昼寝したい。
などと夢想するもので、仕事に身が入らない。午前中かけて作った書類をうっかりマウスを滑らせて跡形もなく消してしまった。澄まして午後また始めからやりなおす。秘書の行状に誰も気が付かない。
9月27日(水) ピカピカ晴れ
編集長は今日はゴルフだ。いい身分だな。
と、思ったら仕事がらみだという。今あれこれ調べている件の当事者が経営するゴルフ場で体験スクールみたいなのをやってると聞き付けて早速申し込んだそうで、浮き浮きしてる。
で、水をさしてやった。ゴルフのクラブって凶器になりますよ。過失を装って後頭部をぼかっとやれば、イチコロですってねェ。
(我ながら根性が悪い。)ムッとしながら出かけて行った。無事帰って来たのは言うまでもない。
午後は午後で、どこぞの組合の集会とデモが近くである、といそいそとビデオカメラを担いで出かけて行った。
デモの後は勿論飲み会だ。(最近編集長の行動パターンが読めてきた。)鬼のいない間、秘書は命の洗濯に精をだす。
9月26日(火) 晴れ
これ、と編集長が菓子折りみたいな包みをくれた。
本日女の人が編集長を訪ねてきた。結構長いこと二人きりで話し込んでいたので、「あれは誰だ?」と皆で壁に耳を押し当てたりしたのだが、安普請の薄壁にもかかわらずぼそぼそとしか聞こえず、その女人は謎に包まれたままお帰りになってしまった。
その人の手みやげだという。いわくありげなので、開けちゃっていいんですか、と一応聞いてみたら、怪訝そうに答えた。プール事件の関係者がお見舞いに来てくれたのだ。なかなかいい人だ。
ともあれ早速開けてみた。うわぁー、クッキーの詰め合わせだ。チョコレートも入ってる。みんなに適当に配っても半分は残る。しばらくおやつには困らない。
本当にいい人だ。
9月25日(月) 晴れ
んぎゃあ、とドアを開けて出ようとした営業部長が腰を抜かしてへたり込んでいる。どうした、と総務部長が席を立って廊下を覗きにいって、ぎゃあ。何だ何だと経理部長がすっ飛んでいって、ぎゃあ。
うるさい。
カエルの三部合唱ではあるまいに。と言いつつ、秘書もわくわくして覗きにいった。
ぎぃやああー。
お岩さんが立っている。いや、お岩君だ。編集長が左目を腫らしてぶ然としている。昨日、日課の水泳に行って、プールで泳いでいる最中、向こうからコースを外れて泳いで来た人に顔面頭突きを食らったらしい。当然猛烈な勢いで抗議したようだ。(相手が気の毒な気もする。プールの中でこともあろうに編集長に正面衝突するなんて、よほどのドジだ)。
目が充血したので医者に行って来た、と情況説明をしているうちに怒りが再燃してきたようで、編集長の口調が激しくなる。そしてとうとう「陰謀だ! 首謀者は誰だ!」
あぶり出してやる、と息巻いてどこぞへお出かけになった後の静かなこと。
9月24日(日) 雷。のち晴れ
今日は日曜日だ、と怒鳴りたくなる。朝早くから、ピカッ、ゴロッ、ガラガラガッシャーンとやかましいこと。秘書が何をした、なんの恨みがあるのだ・・・と、1週間前と全く同じ展開だ。怒り心頭に発し、国民よ気象庁に抗議の電話を、と叫びそうになった。(冷静に考えれば気象庁には何の責任もない)。
そうこうする内に静かになったので、また眠ってしまった。次に目が覚めたら10時だった。半日損した気分だが、お陰で日頃の睡眠不足が解消できた。貧乏性の秘書はいつもは日曜日でも8時以降の朝寝ができない。
さて、今日から本格的な秋だ、の筈だったが、まだ夏を引きずって暑い。衣替えをしようと試みたが、厚手の長そでシャツなど見るも鬱陶しくて箱のまま押し入れの奥へ戻してしまった。駆け足でやってこないよう、秋に頼んでおかねば。
9月23日(土・秋分の日) 薄晴れ。一時土砂降り
昨日の1ポンドステーキの余波で全くお腹がすかない。同居人はお友達のところへお泊まりで帰ってこない。犬用ステーキは冷蔵庫の中に横たわったままだが、しばらく見たくない。せめてミルクティーでも、と冷蔵庫を開けようとしたら、足元が冷たい。
ん?
ぎゃあー、冷凍庫の扉が少し開いてる。庫内温度は、H(ハイ)だ。
昨夜口直しにアイスを食べて、その時から開きっぱなしだ。アイスが全滅してる。不幸だっ。
9月22日(金) 晴れ
どうも編集長は守衛のおじさんに弱いらしい。
先日編集長に化かされた(ステーキが牛丼に化けた)話を綿々とおじさんに訴えたら、なんと、本日はステーキハウスに連れていってやるから心して仕事するように、と編集長からお達しがあった。心してするほどの重要な仕事はそもそもしてないのだが。引き換えに何をやらせようというのだろう、と不安がちらとよぎったが、先に悩んでも仕方ない。仕事は適当に片付けておやつはほどほどに控えておいた。連れていかれたのはそこそこのお店だった。予約しておいたからと(気がきくではないか)のことで、席につくなり、いろいろと運ばれてくる。右手にナイフ左手にフォークを握りしめ舌舐めずりしていると、やった、ステーキだ、ジュージューいってる。
しかし、む、でかいな。わらじのような、とはよくいうが、これではジャイアント馬場のわらじだ。
お店の人、注文を間違えてる。これ何人前ですかと聞いてみた。「ご注文の当店自慢の特製お一人様1ポンドステーキでございます。」
1ポンド! すなわち450グラム!
何を考えてるのだ編集長は。
馬ではあるまい、いや馬は肉食ではなかった、熊ではあるまい450グラムも食えない。このチビのどこに450グラムも入る胃袋があるのだ。日頃さんざんチビの大食いとか言ってくれるが、ものには限度がある。しばらく黙々と格闘したが、途中で歯がたたなくなった。
編集長は、と見ると、なんと全部平らげてる。驚異の胃袋だ。
半分以上も残すのは勿体ないので、家の犬に、と言って包んでもらった。家の犬とは同居人のことだ。明日は朝からステーキ食わせてやろう。これだけ食べるとさすがの編集長も血が胃袋に集中するようだ。何かやらせようと思っていたらしかったが、面倒くさくなったようで、明日にしようと言った。
明日でいいったって、明日は祝日です。秘書はお休みです。
9月21日(木) 晴れ
ひさし振りにピカピカに晴れて気持ちが良い。こういう日は心も軽くキーを叩いて軽口たたいて合間に歌っちゃったりする。もちろん、他の人の邪魔しないように小声でだ。放歌高吟する誰かさんとは人間の出来が違う。
ここのところのお気に入りは、超バター犬のファンキー烏龍茶だ。の〜どがかわいたらあ、と小気味よく調子を取りながら・・・歌えない。どうしてもテンポがずれる。
仕方ないので古き良き歌になる。ゆったりした曲は適当にごまかしがきく。今日は“サクランボの実る頃”にする。その気になって思い入れたっぷりに口ずさむと、気分は戦前のパリだ。あの頃は良かったなあ・・・目の前を編集長が通り過ぎて行く。いえいえあれは通りすがりのただの通行人、ここはパリのカフェ、私は愛しい人と恋の語らいを・・・
編集長が逆方向に通り過ぎていく。目つきが変だ。いけないいけない、ここはパリ・・・
また編集長が通りかかる。そんな目つきでじろじろ見られたら気がそがれるではないか。「妙なうめき声がすると思ったらここか」
「・・・・・」(なんと言えばよいのだ)
せっかくの気分をぶち壊しにされた。今日は時間外勤務は拒否して、とっとと帰ることにした。
表に出ると、秋の気配が心地良い。そうだ、秋仕度をしなくては、と寄り道もせず家路を急いだ。我が家が見えるとホッとする。
ん? ベランダに何か。
ぐえっ、布団が干しっぱなしだ。
忘れてた。朝あんまり天気がいいので、出かけるまで間と思って出してきたのだ。夕立ちの季節でなくてよかった。布団難民になりかねなかった。
9月20日(水) 晴れ
日本はブラジルに負けた。サッカーの予選リーグの話だ。決勝トーナメント進出がかかっていた。
でも、スロバキアが南アフリカに勝ったので、日本は決勝トーナメントに進む。
と、聞いて、しばし??? なにせ非国民と言われるオリンピック無関心層だ。あちこちでいろいろ喋るのを聞いてようやく合点がいった。(話が分からない人は新聞読んで下さい。)これを伝えるテレビのアナウンサーの嬉しそうなこと。ニコニコして、日本負けましたが南アフリカも負けましたので日本は決勝トーナメント進出です、を入れ変わり立ち代わりで口にする。南アの人は気分悪いだろうな。
今日は1日編集長がいなかった。直行直帰の出張だ。地元の市議会だけでは飽き足らなくて、お隣さんへも傍聴にいったらしい。よそに行ってまで痛烈なヤジ飛ばしてないだろうな。地元では昔、議会事務局の人に羽交い締めにされて制止されたこともあるとか(噂です。真偽の程は責任持ちません。)
こちら○○市議会の者です。おたくの編集長預かっていますので、即刻引き取りに来て下さい、という電話がいつかかって来るか、秘書は少し心配だった。そうなったら社長以下全員で口を揃えて、お前行け、となるのは分かりきっている。
秘書の心配をよそに、社内では編集長のいない間の恒例行事のお茶会がくり広げられた。今回はスペシャルバージョンの愛国者の集いだ。つまり応接室のテレビをつけっぱなしにしてお茶をすすりながら1日中オリンピック観戦をする。例によって、目はオリンピック、話の内容は全く無関係の昔話。一度このお方たちの頭の中身を見てみたいような見たくないような。
9月19日(火) 晴れ
森さんが“IT”と口にし始めて3カ月。今度はIT商品券なるものを思いついたらしい。
ITとは紙に印刷して使えるものであったのか。秘書は今まで知らなかった。
しかし、どうやって使うのだろう。商品券をパソコンに差し込むと、その分だけ有料ソフトがダウンロードできるとか。(そんなパソコン持ち合わせていない。)この前の地域振興券みたいな代物ではないだろうな。あれは秘書のところには1枚も回ってこなかった。おかげで我が家はいまだに未振興だ。世間の評判でも湿気った花火みたいだった。
9月18日(月) 晴れ
気がついたらオリンピックが始まっていた。そう言えば開会のセレモニーやってたみたいだな、と思い当たる。
色付き道中合羽の扇子が云々、は日本チームの入場行進での話であったか。合羽と扇子の組み合わせというのがいまいち良く理解できないが。
ともあれ、やわらちゃんは初恋の人に会えたみたいだし、よかったよかった。
ところで、秘書みたいなオリンピック音痴のことを最近は非国民とも呼ぶらしい。愛国心はそれなりに持っているつもりの身には有り難くない命名だ。
秘書の周囲で非国民は密かに増殖している。
9月17日(日) 朝から雷雨。晴れ
今日は日曜日だ、と怒鳴りたくなる。朝早くから、ピカッ、ゴロッ、ガラガラガッシャーンとやかましいこと。秘書が何をした、なんの恨みがあるのだ。(秘書の不始末のせいで雷が鳴るわけはない。台風のせいだ。)とうとう布団からはい出したが、頭がボーッとしている。明日からまた仕事に追われる日々だ。今日くらい楽しく過ごしたい。
9月16日(土) 晴れたり降ったり雷だったり。
カレンダー通りに出勤して溜め込んだ書類整理をした。世間では3連休の使い方を競い合っている。微細企業勤めは悲しい。皆さん、雨に打たれ雷におののきながらレジャーに精出しているんだろうな。
連休の谷間は会社も静かだ。
総務部長は社内中の鉛筆をカッターナイフで削って先をとがらせている。経理部長は書き損じの書類を引き裂いてはよじって紐のようなものを作ってる。営業部長はさっきまで耳掻きしていたが今は居眠りしてる。他の方々もそれなりに何かしている。
編集長も何を企んでいるのか気味が悪いほど静かだ。少し開いたドアの向こうの後ろ姿がぴくりともしない。余りに静かすぎるのでそっと覗き込んだら、机に積み上げた本におでこを乗せて熟睡していた。
忙しいのは秘書だけだ。どいつもこいつも本当にもう。社長が秘書の回りをうろうろする。なにか御用で、と訊ねると、コホン、と咳払いをした。
「今日は出ないのかね。」んっ、もう社長までっ。
出していいんですか。
出していいのなら、出しっ放しにしちゃいますっ。
そこいら中キョンシーみたいに跳ね回っても秘書は知りませんっ。
ティラノザウルスに会社踏みつぶされたって秘書のせいにしないで下さいっ。
9月15日(金・敬老の日) 晴れたり降ったり雷だったり。
天気が良いので、布団を干してシーツやらカバーや山のように洗濯をしカーテンを取り替えて秋仕度、と張り切ってやってたら、なんだなんだ、この天気は。布団は無事だったが、洗濯物はずぶ濡れにされた。たちまち部屋中に洗濯物がぶら下がる生活感あふれる光景が出現する。かき分けて行き来するのは鬱陶しい。ピカッと太陽が戻ってきたので大急ぎで外にだしホッとしているとたちまち雨がふりだす。3度目には人のよい秘書でもブチッときれる。かくして、お外は晴れ、お家の中は湿度90%、の事態と相成った。お陰で、湿気に弱い空気清浄器が止まったままだ。
9月14日(木)雨が降ったり晴れたり。
松子さんが相変わらず不機嫌なので、マック救急車のお世話になった(First Aid)。やっぱり具合が悪かったらしい。修復が済んだら動きが軽くなったように思うが、気のせいだろうか。
ついでだから中を開けて色々見ていたら、うふふ、楽しい住人がいるのを発見してしまった。松子さんたら、こんなペットを隠してたのだ。つい引っ張り出して一緒に遊んでしまった。
ナノ(NANOSAUR)ちゃんは可愛い。使命を帯びて未来社会から恐竜時代に送り込まれるのだが、未来装備をいっぱい持っているのに、あっと言う間にティラノザウルスに踏みつぶされてしまう。秘書はたちまち3匹を昇天させて、はいお終い。ついついもう一度、と始めてしまう。
難点は仕事場で仲良くするには音が派手だ。無音でやってもつまらない。バシバシ発射キーを叩いていたら、ゴホンと咳払いがする。後ろに社長が立っていた。
何をしてるのかね、と言うので、出て来ちゃったんです、止め方が分からないんです、とごまかしたが、終了しようと思ったら本当に終わらない。あせって社長にもあっちこち押させたが、画面は恐竜が入り乱れて飛び跳ね続ける。社長もあせりだして、あっ、おっ、と変な言葉を口走る。仕方ないので強制終了してしまった。
松子さんに怒られそうだ。
9月13日(水)雨が降ったり晴れたり。
雨が降るのでカエルが元気だ。この都会のどこにお住まいか、そもそもどこにお出かけの用があるか不思議なのだが、特大サイズのヒキガエルがもそもそと通りを横断していく。結構車も通るので、ついお見かけすると、はよ渡れ、と靴の先で後押ししてしまう。渡し終わると、1日1善、私は良い人、と満足感がこみ上げる。
と、同居人に話したら、そのカエル、本当にそっちへ行こうとしてたか、と聞き返された。いわく、また余計なおせっかいをしたのであろう。途中まできてふと気になって後ろを振り向いていただけだったかもしれないのに。
9月12日(火)雨。後、晴れ
今日も大雨が降ってしまった。お月見もお流れか、と思ったら夜は良い天気になった。月世界では餅搗きをしているらしい。もうかれこれ30分も駅前で夜空を見上げている。通りかかる人がつられて上を見上げては不審そうに立ち去る。
編集長が来ない。打ち合わせた時間はとうに過ぎている。いつもの秘書なら、仕事がなんだッ、時間通りに来ないやつが悪い、と怒ってとっとと帰ってしまうのだが、今日は帰るに帰れない。カバンをあけたら財布が入っていなかった。昨日夜中にアイスが食べたくなってコンビニに走ってその時お買い物袋に突っ込んだままだ。ここまでの電車賃はポケットの小銭で間に合ったが、帰りの切符代がない。カードも全部財布の中だ。
お腹がすいてしまった。グスッとまた空を見上げると、まだ餅搗きをしている。一つくらい落ちて来ないかな。
編集長絶対来るんだろうな。なけなしの10円玉で電話したら、とっくに出たと言っていた。どこで引っ掛かってるんだろ。グスッ。身の不幸を嘆いているとようやく編集長が現れた。
開口一番「音痴なのは歌だけかと思ったら方向も駄目か」
(むっ。これだけ待たしておいて、なじり倒そうというのか)
「む、ではない。ここは北口だ。南口は向こう!」
(北だの南など知るか、ラーメン屋のあるところかと聞いたらそうだと言ったではないか!)
「話を勝手に翻訳するな。ラーメン屋なら南口にもある」晩御飯をおごってやるから、というのが本日の時間外業務の条件だった。
出かける前、珍しく希望を聞かれたので、牛がいい、と答えておいた。
久し振りに血のしたたる美味なステーキが食べられる、とにんまりしていたのに、松坂の看板も神戸の看板も横目に編集長はずんずんと先へ行く。まさか、と思った嫌な予感通りにガラッと戸が開いたのは・・・牛丼屋だった。これで遅くまで手伝いさせようってのか。あんまりだっ。(牛丼は美味しかった)
いつか埋め合わせさせてやる。
9月11日(月) 雨
大雨が降ってしまった。秘書の心も土砂降りだ。気圧が下がると血圧が下がる、かどうか知らないが、秘書は今日は低血圧に磨きがかかっている。目は開いているが、脳は布団からはい出していない。こんな時は頼むから重要な話はしないで欲しい。
9月10日(日) 晴れ
秋祭りだ。お囃子やらお神輿のかけ声やら聞こえてくる。のはよいが、お神酒所が秘書の部屋のある建物のすぐ脇にいつも設けられる。おかげで賑やかなこと、今日も太鼓の音がガンガン響いて頭蓋骨に共鳴し昼寝どころでない。そのうちどこぞでのろし花火みたいなのがポンポン打ち上がる。世は挙げてお祭りだ。秘書は裁縫箱の中蓋持ち上げて耳栓探しだ。
9月9日(土) 晴れ。暑い
編集長がよく出かける。取材だ、傍聴だ、演説だ、とよくタネが尽きないものだ。お陰で原稿が進まないらしい。連載が何本もとぎれたままで、時々あちこちからお電話を頂く。
そういう電話は受け取った途端、編集長に回してしまう。秘書が言い訳して通ずる生易しいお方たちではない。
一体いつも何と言ってごまかしているのだろう。
今日は頂いた電話で、言い訳からそのまま新企画の構想説明に突入し、長電話していた。かけて来た人、電話代が気になってしょうがなかったろうな。はよ、ゲンコ書け。
9月8日(金) 晴れ。暑い
ここの所、秘書秘書とうるさかった。秘書の給料ごまかして流用したの、それを企んだのは第一秘書だの、いや政治家本人だの。
とにかく分ったのは、政策秘書は高級取りだ、ということ。今真剣に転職を考えている。山本さんとこみたいに、時々事務所の掃除に行けばいいのなら、この秘書にも十分つとまる。
9月7日(木) 晴れ(だったかな)
モルモットを知らない人にどういう生き物か説明しようとしてはたと困った。ハムスターのでかいの、と言ってたこともあるが、かなり違う気がする。ハムスターをトロくさく引き延ばしてずんぐりむっくりさせたやつ、と言ってうなずいた人はいない。だいたい顔がでかくて、ハムの愛嬌はない。毛がむくむくしてる種だと正面から見るとライオンを間抜けにしたようだ。そもそもがネズミなのに体内でビタミンCを生産できない3大生物の一つ、と言うのからして抜けてる(残りの二つはヒトとサル)。
同居人としげしげ眺めまわして、意見が一致した。
黄色く塗ればピカチューだ。小さい子なら騙くらかせる。
お姉ちゃん家にピカチューいるよ、見にくる? えーっ、見たい見たい・・・・ 近所の子一網打尽だ。
で、どうする、で話が止まった。身代金要求できる訳でなし、毎日、御近所のガキ、いえお子さま方に押し寄せられるのはたまらない。こういう話を知ってか知らずか、当のモルモットは手足を投げ出して死体のごとく寝ている。
9月6日(水) 晴れ。蒸し蒸し
松子さんがご機嫌ななめだ。空き具合も確かめずいろいろ詰め込んでしまったので、こんなに出来ません、とふくれているらしい。何を指示しても、知らん、と言って返す。松子さんにそっぽを向かれると秘書の仕事はトド子売る、違う、滞る。松子さんは秘書の秘書だ。いまや骨董品らしい盆代ブルー、違うって、ボンダイブルーのiMacだ。いかん、余計なものを捨てさせなくては。
何をぶつぶつ言っておるのだ、と編集長が覗き込む。いえ、ちょっと、でごまかす。松子さんが〜、とでも言おうものなら、パソコンおタク扱いされる。けど、編集長の方がおタクだと秘書は思う。
愛松君相手にいつも御託並べては説教たれてるではないか。愛松君(という名前は秘書が勝手に付けた。編集長は御存知でない)は青みかん色したiMacで、少し前は新世代ともてはやされていた。秘書思うに、きっとシャツの前ボタンがはじけそうにぷっくりしてるんだろう。だって、自分でDVって名乗ってる。
9月5日(火) 雨
昨日は前日より10℃以上気温が下がった。寒いとしか言い様がなく、一気に秋、と喜んだのに、地球はそう優しくない。じわじわと暑さが戻ってくる。
アメリカも××暑いんだろうか。
暑さにやられて頭の中がチーズフォンデュ状態だったのか、大統領候補の薮氏がなんかの席でマイクを切り忘れてしまったそうだ。で、そのまま、隣の人と品のよろしくない内緒話を始めたのだが、なにせマイクのスイッチが入ったままなので、全員の知るところとなってしまった。これを伝えるラジオのアナウンサーは、薮氏が言った言葉そのものは申し上げられない、と行っていた。英語圏では口にするのを憚られる表現らしい。
新聞では「あそこにメジャー級の××野郎がいる」と見出しにして事の次第を報じていた。××には2文字を当て、さらにアスなんとかと括弧書きしていた。(秘書も全部伝えるのは憚られる。)
アメリカの新聞も、そのまま掲載したのとぼかしたのとあったそうだ。××野郎と言われた記者の社ではぼかしたそうだ。森さんもボケっとしてたらしい。プーチン大統領の奥さんが京都に行く筈だったのに、警備上極秘の予定をポロッと喋ってしまってオジャンになったとか。女の恨みを買うとロクなことないぞ。
9月4日(月) 曇り(?)。寒い
土曜日ガラガラと引きずって帰ったカートをまたガラガラと引きずってゆく。着払いの宅急便で送っておけば良かった、と後悔しても遅い。荷崩れしそうになって積み直しているところを近所の人に見られてしまった。とうとう家を出ることになったみたいよ、とか噂が流れてなきゃいいけど。
「やあ、ごくろうさん」と階段のところで守衛のおじさんが持ち上げるのを手伝ってくれた。いい人だ。
「大変だったねぇ」というので、大変だったよぉ、と万感の思いを込めて答えた。
「恐かったろう」 ん? それほど恐くなかった。変な人たちばっかだったけど。
「お巡りさん、来てくれてよかったね」 へ??
「110番してもなかなか来ないんだよね」 は???なんか話が変だ。酔っぱらいがどうのヤクザに胸ぐら掴まれたの、秘書はそんな話知らない。よくよく聞くと、案の定酔っぱらって夜中に新宿を徘徊した編集長御一行のどなたかが、ヤ印前で自転車を倒して車に傷を付けたのなんのとその筋のお方ともめて、編集長が右総代みたいにやりあったらしい。
秘書はそんな物騒な所へは断じて行かない。昔から言うではないか、君子さんは危ない物には近付かない、と。「そうだったのかい。そのおでこ、巻き添えになったのかと思ったよ。」
これは、と言いかけて、ふっと気づいた。やっぱり編集長の巻き添えだ。土曜の夜、荷物を家に運び込んでホッとした瞬間、荷がカートから外れそうになった。慌てて押さえようとして、玄関ドアの内側にでっぱった郵便受けにボカッと殴られた、ように感じるほどおでこを打ち付けた。しばらく頭蓋骨の中で脳味噌が転げ回っていた。
前髪で目立たないように隠しておいたのに。おじさんの視力はいくつだ。
9月3日(日) 晴れ
日曜というのに朝6時に起きて知人の住む団地に向う。
実は昨日、じゃぁコピーとって土曜日中におたくの郵便受けに入れとくね、とその前日に言っておいたのを忘れてしまった。いや忘れたのではない。昨日毒気に当てられて重荷を引きずって気分はすっかり厭世モードになって、世の中どうでもよくなってしまった。コピーがなんだってんだ、そんなもんなくたって地球はまわるぞ・・・
夜中に目が覚めて真人間にもどった。朝早くに入れとけば夜中に入れたと思うだろう。これが野暮用というものだ、と呟きながら階段を踏みしめて上がる。知人の団地にはエレベーターという文明の産物がない。切れた息を整えて知人の部屋に向おうとして、目を疑った。
廊下をのそりのそりと亀が歩いている。
縁日で買ったペットとかいう代物ではない。背に乗って竜宮城に直行できそうな大亀だ。向こうも気づいて足が止まる。近付いてみると甲羅が差渡し30センチはある。目はつぶらで可愛いが、手足はごつくて、昔お前は恐竜であったか、といいたくなる。こんこんと甲羅を叩くと、首を引っ込める。その様はまさに亀の頭だ。(当たり前ではないか・・・)お前この団地の住人か、この狭苦しい団地にお前の部屋なんかあるのか、よそから来たんならどうやって来た、えっちらおっちら階段登ってきたのか、と話しかけても答える訳がない。朝から白昼夢、のシュールな光景だった。
9月2日(土) 晴れ
暑い。××暑いッ。今年一番の暑さだそうだ。(東京は37.8度もあったそうだ。人体の方が冷たい。ところで、××をなんと読み替えたかで、あなたの品性がわかります。)
この××暑いのに事態はさらに暑苦しい。突然出張することになったのだ。編集長が新宿で何かするらしいとは聞いていた。資料と機材で山のような荷物を作ってしまったとも聞いた。助手がいる、と言っているのも聞いた。営業部長気の毒にまた運搬係りだぞ、と密かに同情もしてた。
なのに何故だ。秘書が何をしたというのだ。何故秘書が助手なのだ。全員で口を揃えて「おまえ行け」はないだろうに。晩飯おごってやるから、と言われて少し気は晴れたが、釈然としない。
行ってみると、類は友・・の人々が溢れかえっている。いろいろ名前を聞いたがまるで覚えていない。前来た時と同じで、時空が歪んだような空間だ。真っ当をモットーとする身には目眩がする。記録用ビデオカメラの番も言いつかったので、飲んだくれてるわけにもいかない。一応真面目に撮影したが、ビデオカメラに触れるのは今回が初めてだ。何が写っていても(写っていなくても)責任はとらない。しかしまあ、少し危ないのからかなり危ないのまで、入れ替わり立ち替わりで言いたいこといってたな。ストレスのたまらない人達みたいだ。秘書なんかこう見えてもストレスの塊だ。少しちぎってぶつけてやろうか。
終了時間になって、大急ぎで荷物をまとめた。編集長はすましているが、秘書は気が気でない。この荷物をどうするのだ。僕が持って帰るから、とか言うが、“お友達”の方々と徹夜で飲みまくるのはわかりきってる。確実にどっかで無くして来る筈だ。良い子の秘書は夜はとっとと家に帰って寝る。編集長につきあって一晩中荷物番する気は毛頭ない。
無くしたのは自業自得というもんでしょ、とこちらも澄ましていられれば良いがそうはいかない。正気にもどった編集長がすったもんだの大騒ぎをするのは目に見えてる。店に電話しろ、あそこにもかけろ、紛失届けを出せ、駅にも聞いてみろetc. 見つかったら見つかったで、取りに行ってこい、とのたまうであろう。見つからなかったら・・・復元作業にあちこち走りまわらされる。
今の苦労と後の苦労、さあ、どうする。変態でもない限り、今自分で持って帰ろうと思うだろう。カートに資料のつまった紙袋をくくりつけ、頭陀袋にカメラや三脚を押し込み、さっさと帰路についた。新宿の街をガラガラとカートを引きずっていると、にわかホームレスだ・・・・重かった。店の飲みしろは編集長のツケにしといたぞ。
9月1日(金) 晴れ
三宅島に避難指示がでた。指示を出しといて何もなかったら困る、という思惑も一部あったようだが、何もなかったら最上ではないか。それにすでに日常生活に重大な支障を来している。これが非常事態でなくてなんなのだ。ペットや牛も避難できると聞いてとりあえずほっとした。