『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(6-9)

終章 ―「競争」 9

―インベーダーの狙いをくじき、撃退する手段はどこに―

電網木村書店 Web無料公開 2008.6.2

暗黒の彼方の怪獣たち

 さらに、現在の底流には、暗い過去をもつ地下の帝国がよこたわっている。

 本来、秘密裡にすすめられてきたことが、容易に歴史として描かれるわけはない。そして、現在を美化するために、消されていく過去さえある。たとえば、そのひとつに、日本テレビの最大の出資者だった保全経済会がある。元読売新聞社会部記者、遠藤美佐雄は、この資金一億円を正力に取り持ったばかりに、保全経済会の破滅後、正力にうとまれ、ついに退社のやむなきにいたった。そして、日本テレビの『25年』は、保全経済会のホの字も記さないのである。

 だが、もっと深い、そして暗い人脈、金脈の歴史がある。それは正力と“番町会”の関係である。

 正力自身、郷誠之助の秘書、後藤圀彦との関係について、「番町会のメンバーでもあるから、始終、顔を合わせておった」(『苦戦苦闘』二一〇頁)と語り、大宅壮一は、「番町会などに正力をいれたのも河合である」(同前二五頁)と記しているが、郷誠之助の主宰する「番町会」こそは、日本近代史上空前絶後の利権団体なのである。このメンバーは、すでにふれたように、正力のラジオとのかかわりでも、大挙して動いているので、別にくわしく追求したいのだが、とりあえず、簡略な文章を紹介しておきたい。

 「悪名高き番町会日本貿易会会長中島久万吉氏も吉田の遠戚に当っており、……(略)……かつて郷誠之助男爵をとりまいで、財界を荒しまわった悪名天下に高い『番町会』のメンバーである。彼は第一次吉田内閣以来、吉田の経済顧問として、同じく番町会の、産業復興営団会長長崎英造を推せんし、すでにこの頃から吉田の周辺に、永野護、河合良成、さらに大政翼賛会の前田米蔵、大麻唯男ら番町会のお歴々が戦後勢力として大きな発言権をもつようになったのである。……(略)……永野護の弟重雄が経済安定本部次長から富士製鉄の社長におさまり、今や財界にゆるぎない地位をきずいたのも、このグループの力を示すものである」(『この自由党!』上、一四八頁)

 このうち、永野護(故人)は、岸内閣の運輸相当時、岸とともに、インドネシア賠償汚職を疑われたが、ついにシッポを出さなかった。弁護士であり、戦前からの豊富な経験を誇っている。最近の航空機汚職をめぐっても、田中角栄より岸信介の方が、はるかにうわ手といわれるが、永野らは、その岸の指南役であったという。正力との関係では、永野護が、関東レース倶楽部の取締役となっていた。

 そして、実弟の重雄は、日本テレビ創立以来の取締役(社外)である。

 さらに、読売グループ「資本」の成長の秘密には、もうひとつ、務台らがみずから呼号するところの「国有地」払い下げやら、公権力との関係が多々ある。

 まず、巨人軍との関係で、は、後楽園球場がある。この広大な土地は、もと小石川砲兵工廠跡地であり、正力と小林一三らが、野球というスポーツの「公共性」を主張じて、国から払い下げを受けたものである。だから、後楽園の野球中継放送独占権によるボロモウケは、現在の商法上どうあれ、歴史的には国民の審判で罰せられるべきところである。

 ついで、有楽町の読売会館(そごうデパートのビル)は、もと報知新聞社の本社屋の敷地であった。静読売新聞は一九四一(昭和一六)年、経営困難となった報知新聞の経営権を格安で買収、翌年には、新聞統合の情報局内示の下で、完全に合併した。

 最後の大手町新社屋の土地は、なんと関東財務局と国有財産局の庁舎あとであり、国有財産中の国有財産ともいうべき一等地である。この土地の確保には、さきにふれたような「激戦」があった。この時の務台の主張も、新聞の「公共性」であった。

 ところが、読売新聞社は、「公共性」の看板にもかかわらず、地方自治体などをはるかに上まわる資金力を持ち、新聞社としては使用しない土地・建物を保持したまま、賃貸とし、利ザヤをかせいでいるわけである。

 これにくらべると、毎日新聞などは、大変なハンディつきである。借入金がかさんだ時に、有楽町の社屋と土地を売却、それを返済の一部に当てて、現在のパレスサイドビルに賃借ではいったのであるから、読売商法とはまったく逆をいったわけである。この状態で、巨人戦カードの特別招待券というマル秘兵器つきの相手と、部数拡大競争をさせられたのでは、身ぐるみはがれるのが落ちである。

 いま、トップの座にある読売グループは、読売国際経済懇話会とか東京会議とかに、外国人まで集めたりし、しきりと、「二一世紀」、「世界」を語っている。日本テレビの小林与三次も、フランス美術などを云々している。

 彼らの“競争”の目標は、どこまでのびるのだろうか。

 まず、資本の衝動というものが、彼らを駆り立てているだろう。


(終章10)黄金の魔槌をはねかえすもの