チェチェン総合情報

7 Dec 2014
チェチェンニュース(転送・転載・引用歓迎)


 12月4日に、チェチェンの首都グローズヌイで、ゲリラと治安部隊の戦闘が
ありました。日本語の報道でも流れていたので、知っている方も多いかと思いま
す。10月にも大規模な爆破事件があり、不穏な情勢は続いています。

 これらの件についてはそれ以上の情報はありませんが、最近チェチェン人から
直接聞きとったインタビューをお伝えします。事件の背景や、今のグローズ
ヌイの雰囲気が少しでも伝わるといいのですが。ご一読ください。(大富亮)

 毎日新聞:<チェチェン>イスラム系集団と銃撃戦、警官10人が死亡
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141205-00000003-mai-eurp



■最近のグローズヌイ


 チェチェンとヨーロッパを行き来している、ビジネスマンのチェチェン人、D
さんに話を聞きました。ちょっと尻切れトンボになってしまいましたが、情報と
して紹介します。


【CN:10月5日にも、グローズヌイで爆破事件があって警察官5人が死亡しま
したが?】


 その時、たまたまグローズヌイにいました。大きな爆発音が聞こえたけど、
「男が外に出たら危ない、すぐ拉致される」と言われて、家の中にずっといまし
た。

 カディロフ首長の誕生日で、いろいろな有名人を呼んでイベントをやっていま
した。クリミアから政治家も来ていましたね。その最中の自爆攻撃だから、カデ
ィロフはかなり恥をかかされたわけですが、「祭りは祭りだ」とか言って、続け
ました。その後花火の打ち上げもあったみたいだけど、さすがに警官も殺されて
いるのに、それはないだろうと、警察関係の人たちは怒ってましたね。


【CN:チェチェンでのビジネスの可能性はありますか?】

 チェチェンと今の国の間でビジネスができないかと、いつも考えながら行くん
ですが、人は消されたりするし、とても生活できないから難民化して出ていく
し、政府の腐敗はひどい、とてもこれじゃ仕事になりそうにありません。今は、
ただ家族や親戚の顔を見に行っているだけです。

 外からチェチェンに出入りしている僕みたいな人間は、いつもマークされてま
す。比較的カネも持っているし、カディロフにとって危険人物ではないかどうか
が気になるんです。反抗しそうだったら、カネを取り上げたり、殺したりしま
す。


【CN:「イスラム国」にチェチェン人がいることが時々話題になりますが……】

 ヒゲを生やしたり、ヒジャーブを被っているだけで、イスラム過激派とみなさ
れて逮捕されます。こんなひどい状態だから、人がどんどんトルコとかヨーロッ
パに逃げています。シリアでイスラム国(IS)に入っているチェチェン人は
1,500人くらいいるとか。この人たちはほとんどヨーロッパ経由ですね。イスラ
ム国の上の方の人たちが言っていることは正しいような気がするけど、実際に下
の方の人がやっていることを見ると、ちょっとどう言っていいのか……。

 どちらにしても、シリアのチェチェン人たちからのビデオも結構ネット経由で
チェチェンでも流通しているし、カディロフとしては、そういうところで訓練し
たチェチェン人がチェチェンに帰ってきて、反抗することを真剣に恐れているよ
うです。


【CN:最近、気になったことは?】

 今回、すごく面白いと思った話なんですが、リズワンなんとかさんという歴史
家が、『チェチェン史』という本を書いて、出版したそうです。その本には、今
のチェチェンのことも書いてあって、「今、巨額のお金をかけてスキー場などの
リゾート施設や、グラウンド、音楽ホールが作られているが、この投資の本当の
目的は、チェチェンのためではなく、全部揃った頃にチェチェン人を追い出し
て、ユダヤ人に入植させるためだ」という意味のことが書いてあったみたいなん
です。

 グローズヌイやモスクワの書店に送られた後でわかって、すごく話題になっ
て、傀儡政権もびっくりして、テレビのニュースでも流しました。「こんなデタ
ラメな本が出ている」というような論調ですが。書いた人はもうだいぶ年寄りだ
から、そんなに怖くないのかもしれないですね。

 どちらにしても、この話は「いかにもありそう!」という感じでチェチェン人
に受け止められてますよ。

 ユダヤ人? 昔はいましたよ。ドゥダーエフが政権を取る前は、グローズヌイ
の街にユダヤ人の町もあって、それが今のグローズヌイ・シティのすぐ近くで
す。このやり方、巧妙だと思いませんか? カディロフみたいな、バカなチェチ
ェン人にたっぷりカネをやって、内戦で社会をめちゃくちゃにして、チェチェン
人を追い出しながらも、その国自体は住みよいように改良する。時期をみて乗っ
取る……。


【CN:そういう公共事業もカディロフがらみですか】

 もちろん。カディロフは相変わらずひどいですよ。ものすごいカネを持って
る。モスクワからくる復興資金の40%は、そのままモスクワに戻っていくんだけ
ど、そこからリベートを取っていて、自分では何のビジネスも出来ないけど、金
はたまる一方です。

 チェチェン中で働く人の給料からピンはねをしていて、自分の基金に入れさせ
ます。カネをね、ルーブルとかドルじゃなくて、「トン」単位で計算して取引し
てる。それをドバイに空輸して、預金する。これもロシア政府が黙認していま
す。何にも使い道がないので、カディロフの取り巻きたちはフランスのニースに
行って超高級外車だとか、クルーザーを乗り回して遊んでます。

 チェチェンでは、カディロフツィ(カディロフ一派)が道を走るときには、何
時間も前から道が塞がれています。本当に人の命が軽いから、カディロフツィの
車に道を譲らなかったり、万が一かすったりしたら、すぐ銃で撃たれます。

 知り合いに、食品の量販店で管理職をしている女性がいるんです。その話もひ
どかった。

 新しい従業員の採用係をまかされたんだけど、小さい店なのに、募集をしたら
千人くらい応募が来て。一人しか採れないのに。みんな200ドルとか、300
ドルを持ってきて、「私を雇ってください」って。女性ばかり。みんな必死で。
もうめちゃくちゃで、怖くなって管理職の人は逃げちゃったくらい。


【CN:虐待の情報はありますか?】

 その管理職には男性の部下が2人いて、一人が2日間無断欠勤して、その後出
てきたけど全然元気がないから、「どうしたの」と聞いたら、こっそり「拉致さ
れた」と答えた。服の下は傷だらけ。

 拉致されると、ひどい虐待に遭います。家族を目の前でレイプすると脅される
ことも多いし、卑猥な言葉を浴びせられて屈服させられることを、チェチェン人
は何より嫌うんです。ある知り合いは「もう何もかも嫌だ」と言って、ジャケッ
トの下に銃を隠して歩いていました。自殺用? 違います。チェチェン人は自殺
だけは絶対にしません。街でカディロフツィとトラブルになったら、それを乱射
して、できるだけ相手を殺してから、自分も撃たれるつもりなんですよ。

 グローズヌイで、知り合いの2人兄弟が、家の前でちょっとカディロフツィと
トラブルを起こしただけで車のトランクに押し込められて、行方不明になってし
まったんです。3,4日してから、また家の前で放り出されているのが見つかっ
たんですが、その時には大ケガをしていました。

 3か月くらい前に、こんな事件がありました。スポーツジムで、アルハノフの
甥と、いまの大統領警護隊の実力者の甥がケンカになって、警護隊がかけつけ
て、いきなりアルハノフの甥を銃で撃ったんです。

 アルハノフは2000年代のはじめにロシアの傀儡政権で大統領をしていた実力者
で、チェチェンでは力のある有名な一家で、カディロフも一目置いています。と
ころが、そのアルハノフ家の人間を、確かめもせずに殺したものだから、カディ
ロフは急いでアルハノフ家に行って、謝罪しました。

 こういう「謝罪」は意外によくあるんです。その場をテレビカメラで撮って、
「私は謝るから、復讐はしないと約束してくれ」「はい、復讐はしません」とい
う和解を演出するんですが、アルハノフ家の人たちは、「復讐しない」という言
葉だけは意地で言わなかった。だから、カディロフがいつか力を失ったら、復讐
されるでしょう。

 それで、私が思うのは、どうもカディロフツィには、「血の復讐*」について
の知識が足りないのかなと。「チェチェン人同士の内戦」とも言われますけど、
悪いことをしているのはダゲスタン系のチェチェン人で、実は本当のチェチェン
人ではないっていう意見も根強いです。だって、本当のチェチェン人なら血讐が
怖くて人殺しなんかできないですから。

*:「血の復讐」:チェチェン人の間で紛争があったとき、それを仲裁し、処罰
を課す法律外のルール。犯罪と同じだけの処罰が行われ、紛争の世代の
何代後でも適用されるのが原則だが、反省を示すことによって、しばしば処罰は
軽減される。また、処罰される側の親族も含めた社会的なコンセンサスを伴う。
このためチェチェン人の間で血の復讐は、紛争を拡大するのではなく、抑止する
ためのルールという意味合いが強いとされている。

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