チェチェン総合情報

21 Feb 2014
チェチェンニュース(転送・転載・引用歓迎)

  この記事は、次のURLで写真入りで読むことができます。
  http://d.hatena.ne.jp/chechen/20140220


■北コーカサスの記憶を抹殺せよ——親ロシア派、強制移住記念碑を解体

 (大富亮)


 北コーカサスで開かれているソチオリンピック。閉会式は次の日曜日、2月2
3日に行われる。この日はチェチェン・イングーシ民族が1944年に強制移住
させられてから、ちょうど70年目の記念日でもある。

 これは、1944年に旧ソ連のスターリン政権が、チェチェン人とイングーシ
人の全人口50万人を「ドイツのスパイ」とみなしてカザフスタンやシベリアに
強制的に移住させ、その途中で半数が死亡したという、大惨事だった。

 閉会式のように、記憶もまた、「閉じる」ことができるのだろうか。ここでは
やりきれないような〈実験〉が行われている。

 チェチェンの首都グローズヌイからの情報によれば、親ロシア派の傀儡政権
が、民族強制移住の記念碑を解体しようとしている。この記念碑は、1992年
にグローズヌイの中心部に建立された。イニシアチブを取ったのは、当時のジョ
ハール・ドゥダーエフ大統領だった。

 記念碑を作ったのはチェチェン人の芸術家ダルチ・ハサハーノフ氏。写真を見
るとよくわかるが、記念碑はチェチェンの短刀「キンジャール」を握った拳の形
をしており、そのまわりに、墓石が並んでいる。最近、この墓石が別の記念碑の
周りに移動させられているのが市民の目に止まり、問題になっているのである。

 チェチェン各地でソビエト時代に造られた建物の基礎部分には、墓地から没収
したチェチェン人たちの墓石が勝手に使われていた。ハサハーノフ氏は、それを
掘り起こし、これを記念碑の一部として構成したのだった。記念碑はグローズヌ
イのシンボルの一つだった。

 2008年にも、親ロシア派のカディロフはこの記念碑を移動しようとしたが、反
対する市民が多くて取りやめになった。しかしバリケードが造られて、記念碑に
は近づけなくなった。

 そして、今年2月14日に、墓石が外国人労働者によって移動されているのに
グローズヌイの市民が気づいた。移動していた先は、親ロシア派が作った警察官
の像の周囲だった。この警察官は、チェチェン戦争の際にロシア側について戦
い、市民に対する虐待や殺害にも手を染めたと言われる人物である。

 「記念碑は、今の場所にあるべきなんだ。みんなの歴史的な記憶を馬鹿にする
のはやめてほしい。3世代前の事件を、人々の記憶から消し去りたいんだろう
か」と、ある地元住民は話す。

 「墓石を親ロシア派の像に移動するのは、あいつらがやったことを正当化する
ためだ。あの警官と墓石は何の関係もないよ。ただ、歴史を消したいだけだ。こ
れが、強制移住70周年のための、奴らからの〈贈り物〉ってわけだ」と、住民
のアスランベクは語った。

 墓石を建物の基礎に使ったりするのは、もちろんそこに眠る人々への冒涜だ。
それは日本でも変わりない。

 強制移住を描いた映画「金色の雲は宿った」の中にも、この墓石にまつわる場
面が出てくる。ほとんど無人になったチェチェンに進駐してきたソ連軍が、墓石
を道路の舗装のために敷き詰めていた。それに気づいたチェチェン人の幼い少年
が、涙をぽたぽたと落としながら、石に刻まれた名前を一人ひとり読んでいく。
土砂降りの雨に打たれながらーーというシーンだ。

 オリンピックの会場になっているソチの「赤い谷」という場所も、かつてチェ
ルケス人の虐殺が起こった場所だった。今はそこに、ロシアの旗がひるがえり、
世界中の人々が訪れて競技を眺めている。どれだけの人が、このことを知ってい
るだろうか。

 チェチェンの若者たちの組織「ノフチーチョ」は、「世界中の人々が、記念碑
と、記憶を抹殺しようとするロシアの蛮行に抗議の声を上げてほしい」と訴えて
いる。( http://tinyurl.com/ppuvqs7 )

 チェチェンでは、2月23日の強制移住に関する記念の式典を開くことは禁止
されつつあり、5月10日の対独戦勝記念日の祝いがそれに取って代わろうとし
ているという。

 この記念碑を、ロシアや親ロシア派のチェチェン人たちがしきりに排除しよう
としている理由は難しくない。まず、過去の犯罪を隠蔽するためだ。

 しかしこのいきさつは、かつての強制移住と今のチェチェンへの弾圧が、ずっ
と続いてきたひとつの流れの中にある、ということも教えてくれる。事実、さき
の訴えを出した若者たちのグループからして、チェチェンから国外に逃れた難民
たちで、その実態は強制移住のようなものだ。

 こういう状況だからこそ、記憶を抹殺しなければ、自分たちのやってきたこと
も、立場も危なくなると、ロシア政府もカディロフも感じているはずだ。それが
この事件の背景にある。

 【お願いがあります。今、ソチオリンピックを観戦している善意の人々に、こ
のニュースを転送したり、ツイッターで知らせていただけたら、ありがたいで
す。スポーツの価値を下げるのではなく、オリンピックという機会を通じて、何
かを目撃する機会になると思うからです。URLはこちらです:
  http://d.hatena.ne.jp/chechen/20140220 】


 なお、パリやウィーンでは、2月23日の記念日前後に、チェチェン人による
イベントが開かれるようです。情報はこちらをご覧ください。近くの土地に在住
の方は、参加してみてはいかがでしょうか。
http://www.waynakh.com/eng/2014/02/events-related-to-february-23/ 

参考記事:  waynakh.com http://tinyurl.com/ppuvqs7


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