チェチェン総合情報

21 Apr 2013
チェチェンニュース#400


■ボストン爆破事件とチェチェン人

                              (大富亮)

 ひどく奇妙な事件が起きた。4月15日にボストンマラソンのゴール付近で起
こった爆破事件の容疑者がチェチェン人の兄弟であり、一人は追跡中に射殺さ
れ、弟の方が逮捕されたという。チェチェンに関心を持ってきた人であれば、こ
れは911なみに衝撃的な事件だろう。

 ジョハル・ツァルナエフ容疑者(19)は19日夜(日本時間20日午前)に逮捕さ
れたが、重体で病院に収容された。

 情報がたくさんが流れているが、日本では伝えられていない情報があった。

 ひとつは、ダゲスタンに住んでいる容疑者の親の話だ。

 「息子はFBIにずっと監視されていた。こんな事件が起こせるはずはない。は
められた。無実を確信している」と言う。(末尾にインタビューの日本語訳)

 チェチェン独立派スポークスマンのザカーエフは、ロンドンで次のように声明
した。「事件の犠牲者にお悔やみを申し上げるとともに、一日も早い負傷者の回
復を祈ります。チェチェン人がアメリカ市民を憎む理由はなく、このような事件
を起こして得をするのは、ロシア政府に裏切った者しかいない。我々は政治的目
的を達成するためのテロを非難する。また、この事件をもって、チェチェンおよ
びコーカサスの一般の人々を抑圧することに反対する」

 chechencenter: http://t.co/j4lSe9PfzI


 一方で、カディロフ・チェチェン首長(親ロシア派の独裁者)は「彼らはアメ
リカで長く暮らしたんだから、価値観もアメリカで出来たんだし、責任はアメリ
カにある。事件をチェチェンと結びつけないでほしい」と言い、明らかに迷惑そ
うだ。(21日、東京新聞)


 いまのところ、疑問は一点に集約される。「こんな事件を起こして、誰が得を
するのか?」だ。

 アメリカ政府が、爆破事件を自作自演して、市民をわざわざ巻き込むの
は・・・あまり意味がないような気がする。

 チェチェンや、コーカサス独立の大義から言っても、ボストンで事件を起こす
必然性はない。むしろボストンはアメリカのチェチェンシンパたちがたくさん住
んでいる地域だ。その代表がビクトリア・ププコだし、チェチェン人医師のハッ
サン・バイエフが住んでいたこともある。今も住んでいるかも知れない。

 近く、彼ら、アメリカのチェチェン支援者たちの意見が出されると思う。

 各メディア報道に目を通していても、動機に関しては、せいぜい「大学で成績
が伸びなかった」とか「英語が苦手だった」とか。動機といえる動機ではない。

 アルカイダとの関係も然り。なぜかCNNにまで、念を押すようにこんな記事が
あった。「ボストン爆弾テロ犯、FBIが過去に聴取 過激派との接触なし」。
こんな具合だから、世界中の誰もが「?」という感じだろう。


 最後にロシア政府について。基本的に彼らは、どんな謀略でもしかけてくる。
たとえば、1999年のモスクワアパート爆破事件。いまだに真犯人は逮捕されてい
ないが、全部チェチェンのせいにされ、翌日から戦争が始まった。しかも、状況
証拠は明らかにロシア連邦保安局の自作自演。「リャザン事件」で検索すると日
本語でも出てくる。

 911でそうだったように、ボストンの事件で、ロシア政府は得をする。これで
アメリカの世論は、チェチェンに対してかなりネガティブなイメージを持ったは
ずだ。クリントン時代以来、民主党政権はチェチェンを人権問題として対ロシア
のカードにしていたのが、これで使えなくなる。

 ロシアとしては、内心よくぞ事件を起こしてくれた、という感じだろう。

 あとはアルカイダが関係していたとして、その思惑やいかに。しかしどう考え
ても、マラソンを観戦しているボストン市民を殺害したって、彼らの「大義」に
は何のプラスにもならないだろう。

 そういえば、アルカイダとロシア政府が裏で結託していたら、今回の事件は腑
に落ちるような気もする。そのあたりは、リトビネンコと常岡浩介さんが詳しい
ところだ。ロシア政府に殺されたリトビネンコの「ロシア闇の戦争」(光文社
刊)は、いつ読んでもショッキングな事実ばかりだ。


 推測をいくつか書いたが、何よりジョハール・ツァルナーエフには、生きても
らわなければならない。まず、彼らが事件の真犯人であるかどうか、その場合動
機が何だったのかを解明するためだ。アメリカの司法は、ロシアのそれよりは
信頼できると信じたい。




 この事件には直接関係がないが、今日、4月21日は、1996年にチェチェンの初
代大統領のジョハール・ドゥダーエフが、第一次チェチェン戦争の末期にロシア
軍に殺害された日。


■ボストン爆破事件容疑者の母「息子たちは無実、これはでっちあげ」と主張

 ボストン爆破事件で殺害・逮捕された容疑者のチェチェン人、タメルラン兄弟
の母親は、この事件がでっちあげであり、兄弟は無実だと主張している。ロシア
のメディア、ロシア・トゥディの電話インタビューに答えた。

 母親のズベイダート・ツァルナーエワ(ダゲスタン在住):「100%、これは
でっちあげです。私はそう信じています。彼らがテロのことなんか口にしたこと
はありません。息子たちはここ5年間(かつてロシア政府の要求でFBIが彼らの事
情聴取をして以来)、FBIに管理されていたんです。FBIは、息子たちの行動をす
べて把握していたはずです。息子達はそう話していました。なのに自分たちの意
志でこんな事件が起こせますか? 息子たちは無実に違いありません」

WND Bomb mom: FBI monitoring my boys for years Claims images of sons at
blast site a 'set up' > Drew Zahn

http://mobile.wnd.com/2013/04/bombing-suspects-mother-this-is-a-set-up/?cat_orig=us

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