チェチェン総合情報

14 Dec 2011
チェチェンニュース#383


■ロシア報道に見る日本のマスメディアの堕落ぶり


 ●「ちょっといい人」としてのプーチン

 http://d.hatena.ne.jp/chechen/20111122/1321950769

 チェチェンニュースの#377号(上記)で、プーチン大統領が孔子平和賞を授与
されるという見通しを書いていたら、日本のマスメディアでも報道された。

 ところがその中身がひどい。典型的なものを一つ紹介すると、


 『中国の民主活動家、劉暁波氏が受賞したノーベル平和賞に対抗し昨年末
に創設された「孔子平和賞」の授賞式が9日、北京で開かれた。 今年の受賞者
のプーチン露首相は欠席し、ロシア人女子留学生4人が孔子の像などを代理で受
け取った。授賞理由について、選考委員の一人は「北大西洋条約機構軍によるリ
ビア空爆に反対し、世界平和に貢献した」と説明している。(12月11日 読売新
聞)』 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111210-OYT1T00788.htm


 内容は、NHK、朝日、読売、毎日、東京、産経、時事、共同、どれもほぼ、同
じことを書いている。

 孔子平和賞委員会がプーチンに賞を与えると発表した時点から、受賞理由が
「チェチェン戦争を開始したこと」なのははっきりしていた。にもかかわらず、
日本のマスメディアはそろって「チェチェン」を省略し、プーチンが「リビア空
爆に反対したこと」だけを報道したのである。

 しかも文脈は、ノーベル賞よりも権威の劣る賞を中国が創作し、受賞者が姿を
見せない異例の式であることを強調している。


 ●ばっさりと無視されるチェチェン

 一連の報道は、中国の「孔子平和賞」を冷笑し、チェチェン問題をばっさりと
無視する。さらにリビア空爆への反対論を持ち出すことで、最終的にプーチンを
少し褒めるという構造になっている。

 なぜチェチェン問題を避けて通るのだろう。プーチンがこの「平和賞」を受賞
した理由が「チェチェン戦争を開始したこと」だということを知っていれば、こ
のニュースは「平和賞」の存在意義そのものを疑わせるだけでなく、ロシア政府
の強権体質を突くものになる。

 あまりにもナンセンスすぎて、ニュースにしない手もある。どっちにしても、
読売のようなニュースになど、なりようがない。

 それなのに、すべての大手メディアが、チェチェン問題を無視し、きれいに横
並びして同じことを書いたのである。あのような記事を書いた人々は、恥ずかし
くはないのだろうか。


 ●毎日新聞、カディロフの嘘を丸飲み

 毎日新聞は、下院選の選挙結果で、チェチェンでの投票率が99.51%。うち、
統一ロシアへの投票は 99.48%にのぼったという公式発表を──これは誰が見ても
端的な嘘だが──そのまま信じたのか、次のように書いている。

 『ロシア:抗議デモ プーチン氏苦境 小手先対応では収束困難

統一ロシアは地方行政機関と一体となってプーチン体制を支えてきたが、
北カフカスのチェチェン共和国など一部を除き「総崩れ」となったのだ。 毎日
新聞 12月13日
http://mainichi.jp/select/world/news/20111213ddm007030162000c.html 』

 チェチェンでの投票結果が明らかな捏造なのに、気がつかなかったのだろう
か。


 ●『プーチンが延命すれば北方領土が返ってくる』??

 さらに、12月13日の朝、NHKの「ワールドWAVE」という番組で、ロシアで続く
反体制デモに関するニュースの中で、アナウンサーの高橋祐介氏が、次のような
発言をした。

  『長ければ2024年まで続くプーチン政権。日本の悲願だが凍りついてし
まった四島返還問題が、再び動き出すかもしれない
 プーチンの強権政治に対する批判も強いが、こと領土問題に対しては、
強力なリーダーシップが、交渉の大胆な進展につながるかもしれないという見方
もある』

 ・・・読者の方々は、どう思われただろう。

 まず、誤りを指摘しよう。プーチン政権はすでに11年目だが、領土交渉は1ミ
リも進んでいない。そのプーチン政権が続けば『大胆な進展』があるという根拠
など、何もない。

 今、モスクワでは腐敗に耐えられなくなった市民が街に出て、選挙のやりなお
しを求めるデモをしただけで逮捕、投獄されている。そして言うまでもなく、
チェチェンでは『強力なリーダーシップ』のもとに、10万、20万人の市民が殺さ
れてきた。

 そんな状況の中で放送された高橋氏の言葉は、次のような意味を持つだろう。

 『北方領土が返って来るなら、罪のないロシア人やチェチェン人が投獄され、
殺されても、知ったことではない。プーチン政権の延命こそが、日本の国益にか
なう』と。

 これは本当に人の道に反する考え方だ。

 
*

 今日のチェチェンニュースは、本来ならロシアの民主化の動きを伝えたかった
のだが、長くなったのでそれは次の課題に。

 ただ、私たちが日本のテレビや新聞の報道でモスクワのデモについて知ると
き、これだけのバイアスがかかった、相当に劣化した情報源から読んでいるのだ
ということを、読者の皆さまにお伝えしておきたいと思う。

 なお明日15日の同じ番組で、「ロシア 揺れる「プーチン体制」」という特集
が放送される。テレビをお持ちの方は、ぜひチェックしてください。くわしく
は、こちら: http://www.nhk.or.jp/worldwave/

(大富亮)

 NHKの視聴者窓口: http://www.nhk.or.jp/css/

イベント情報

 このところ回数が多くてすみません。ある程度テーマや情報量をしぼった方
が、読み手の負担にならないと思うのですが、モスクワでのデモ、大量逮捕が続
く中、タイミングのいい集会の案内がHRWから届きましたので、転送します。ど
うぞご参加ください。※予約が必要です


─────────────────────────────────────
皆様

平素よりお世話になっております。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のロシア代表 アンナ・セボーティアン
(Anna Sevortian)の来日に伴い、以下のとおりラウンドテーブルを行います。
年末のお忙しい中恐れ入りますが、是非ともお越しいただけましたら幸いです。

●ソ連崩壊20年:ロシアの人権、政治、そして国際アクターの役割●

日時:2011年12月20日(火)午後4時—5時半
会場:明治大学リバティータワー15階 1157教室 (駿河台キャンパス)
   http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html
   (御茶ノ水駅、新御茶ノ水駅、神保町駅 よりそれぞれ 3−5分)
スピーカー:アンナ・セボーティアン(Anna Sevortian)
      ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)ロシア代表 (経歴)

参加方法:tokyo@hrw.org あてで12月18日までに、タイトル「ロシアラウンド
テーブル参加」として、ご氏名・ご所属をお知らせ下さい。
使用言語:英語、日本語
主催:アジア人権人道学会・ヒューマン・ライツ・ウォッチ

内容:
ソ連崩壊から20年、ロシアの人権状況は改善も見られる一方で問題も多い。9月
にはプーチン首相が12年の大統領選への出馬意思を表明。まったなしの政治改革
への展望に暗い影を落としている。

人権活動家への迫害は続き、NGOを取り巻く環境は厳しい。北コーカサス関連の
活動家の殺害事件をはじめ過去多数の犯罪が起きたが、犯人処罰はほとんど進ん
でいない。ロシア政府の欧州人権裁判所などの人権関連機関への対応もおざなり
だ。ロシアでは、表現の自由の分野では前進が見られたものの、それを打ち消す
かのように、その他の法律で後退が見られた。

91年のソ連崩壊時、多くの人びとが期待した。共産主義「後」の旧ソ連諸国に
は、民主主義・法の支配・人権保護に基づく新しい時代がやってくる、と。この
予想は誤りだったのか?

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国際団体として、最も早くモスクワに事務所
を開設した団体の一つ。同事務所を拠点に、ロシアの人権状況について長年調
査・報告を続けて参りました。

本ラウンドテーブルでは
・     1991年以降のロシアにおける人権状況の進展
・     ロシアにおける最近の人権問題
・     不安定な状況が続く北コーカサス
・     人権促進に向けて、日本を含む国際アクターの役割
 
を中心に、ロシアの状況について皆様にブリーフィングさせていただくととも
に、意見交換できますことを楽しみにしております。

アンナ・セボーティアン(Anna Sevortian)経歴:
ヒューマン・ライツ・ウォッチのロシア代表。旧ソビエト連邦においても15年以
上にわたる人権活動の経験がある。ロシア代表として、モスクワオフィスを統括
し、ロシア・ウクライナ・ベラルーシに於ける人権問題について調査・アドボカ
シー活動をしている。現職に就く以前は、モスクワの民主主義・人権開発セン
ター(Center for the Development of Democracy and Human Rights)の副代表
だった。

モスクワ大学で修士号(ジャーナリズム)を取得し、間もなく同大学で博士号も
取得予定。ロシア政府と非政府団体の関係を調査分析したセボーティアンの研究
は、07年度のチェヴェニング賞を受賞。ケンブリッジ大学国際研究センター
(Centre of International Studies)の客員研究員、ウッドロー・ウィルソン国
際センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)の研究員
(Galina Starovoitova Fellow)。

2011年3月には、ヒューマン・ライツ・ウォッチ報告書「打ち砕かれた希望:ベ
ラルーシ選挙後の弾圧」
(http://www.hrw.org/reports/2011/03/14/shattering-hopes-0 )を発表し
た。ロシア国籍。

お問い合わせ: 吉岡、津田、土井 03-5282-5160 / riyo.yoshioka@hrw.org
http://www.hrw.org/ja
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