チェチェン総合情報

 チェチェンニュース #368

■難民支援に外部の目を


 「RHQ」という変わった名前の団体がある。外務省の外郭団体で、正式には
「アジア福祉教育財団難民事業本部」という。日本にたどり着いた難民、たとえ
ばビルマやクルド、チェチェンの人々は、まったく収入のあてがないので、RHQ
が「保護費」という、一種の生活保護を支給する。

 保護費は大人が一日1,500円。家賃のためにひとつき最大6万円。医療費はそ
のつど申請する。

 日本での難民認定には、年単位の長い時間がかかる。それを待つ間、難民申請
者が受け取ることができる公的支援は、この保護費しかない。申請中は就労を許
可されない場合も多いので、保護費が受け取れないことは、即、無収入になるこ
とを意味する。

 日本は難民条約に加盟しているので、世界で発生した難民のある部分は引き受
ける義務がある。それを支えるのが、こうした難民の生活、就業支援なのは言う
までもない。

 だが、実際にRHQの審査を通って、保護費を受け取れる難民は少ない。

 受け取った場合も、保護費は4か月を一つの単位にして、そのつど審査を受け
る。その間に難民認定が出る場合はほとんどないから、4か月という単位には意
味がないが、審査で多くの難民が、容赦なく保護費を打ちきられる。この審査
は RHQ、外務省人道人権課によって行われ、外部には判断基準も示されない。

 そして、こんなことが起こってしまう。

 中近東から来たAさん一家は6人家族。断続的に保護費を受け取っていたが、家
賃分が受け取れなかった。アパートの契約書に、末の子どもの名前がないことが
だけが理由だった。名前がないのは、入居のときに、まだ生まれていなかったた
めだ。こんな、不備ともいえない不備から、保護費が受け取れなくなってしま
う。

 Bさんはパキスタンから来た難民申請者。家族は5人。奥さんが妊娠の可能性が
あったために産婦人科で診察を受けて、その領収書をRHQに提出したところ、
「妊娠検査の費用はRHQでは支払えないことになっている」と言われた。さらに
「これは不正請求だ。今まで支給した保護費を、全額返金しなさい」と通告され
たのだった。

 全額返金???

 産婦人科の費用が出せないなら、その領収書を難民に戻せばいいだけなのに、
「全額返金せよ」とは、穏やかではない。まさか、そんなやりとりがあったなど
とは信じられず、支援者が弁護士を通して問い合わせたところ、事実だという回
答があった。

 こういう話は氷山の一角で、私自身が体験したことも含めて、枚挙にいとまが
ない。たくさん聞くにつれ、どうもRHQや外務省には、何かの誤解があるのでは
ないかと思うようになった。

 難民はモノではない。子どもが増えることも当然ある。RHQや外務省の職員と
同じように。それなのに、唯一の保護費が妊娠という行為を排除するのは、一種
のジェノサイドではなかろうか。

 アパートの家賃もそうで、出産という、人生に当然起こりうる変化を、契約書
にないからといって不支給の理由にするのは、嫌がらせのように思われても仕方
がない。こんな理由で保護費を打ちきられてはたまらない。

 どうしてこんなことが起こるのか。

 もともと、難民支援は政府が直接、責任をもってすることだ。

 だが、日本では政府が全額出資してRHQという民間団体を作り、民間団体であ
ることを理由に、基準を明らかにせずに保護費を采配する(もちろん、保護費は
全額、政府が出している)。この体制がそもそも間違いの元で、責任があいまい
になる。

 難民からすると、何だかんだ言ってもRHQ以外には保護費をもらえないので、
表立って抗議しにくい。また、マスメディアがあまり追及しない分野なので、不
透明な構造が温存されている。これではだめだ。

 これからは、保護費に関して、さまざまな立場の民間人が参画して、クリア
で、人道的なものにしていかなければならない時代だと思う。政府は難民と対立
するのではなく、彼らの日本社会での自立と定住を支援していくもののはずだ
し、難民支援者と政府も、ともに難民を助けることができるはずだ。

 予算に上限はつきものかも知れない。しかし国際社会に約束した、難民条約の
誠実な履行という義務がある。

 現状では、RHQと外務省は社会の無関心に甘えて多くの難民への保護費支給を
拒否し、結果として彼らを迫害していると言わざるをえない。


RHQ、外務省人権人道課についての情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。

 大富亮/チェチェンニュース ootomi@mist.ocn.ne.jp


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