チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.06 No.19 2006.10.01

http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0619.htm (HTML版) 発行部数:1531部

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「ヨーロッパ最悪の場所」という写真展が10月からニューヨークで開催されます。ヨーロッパ最悪の場所というのはもちろんチェチェンのことで、期間中のイベントにはチェチェン人医師、ハッサン・バイエフもパネリストとして参加します。一部の写真はネット上に公開されているので、よろしければご覧ください。

日本国内では、新憲法の制定と教育基本法の改定を政権公約として、「戦後体制の脱却」を目指す安倍新政権が誕生しました。日本のロシア化を加速させる動きにも注意が必要です。

INDEX

お詫びと訂正

最初にお詫びと訂正です。共謀罪法案を廃案にするためのアピールを呼びかけた前号のチェチェンニュースの中で、議員に対して支持政党を偽っても構わないとした部分がありました。不適切な表現だったことをお詫びします。申し訳ありませんでした。(邦枝律)

01.Oct 2006 BS世界のドキュメンタリー
BS World Documentary

10月1日、9日、22日の夜に、NHK-BS世界のドキュメンタリで、ロシアについてのドキュメンタリが放送されます。可能な方は、ぜひご覧ください。

● 10月1日 22:10〜23:00
「プーチン大統領とクレムリン メディア対策の舞台裏」
 http://www.nhk.or.jp/bs/wdoc/wdoc.html#yote

● 10月9日 22:10〜24:00
「ロシアの新興財閥 繁栄と没落の軌跡)」
 http://www.nhk.or.jp/bs/wdoc/wdoc.html#yote

● 10月22日 22:15〜23:00
「問われる警察と司法(仮題)」
 http://www.nhk.or.jp/bs/wdoc/wdoc.html#yote

01.Oct 2006 ひとりひとりのストーリー
Each Personal Story

「レバート・ヴァカエヴァさんの25歳の息子、カズベク・ヴァカエヴァさんは、2000年8月1日にロシア兵によって拘束され、それ以後消息は分かっていません。カズベクさんは『Internat』と呼ばれる拘禁施設に連れて行かれました」

「レバートさんは8月13日まで毎日、息子のための食べ物や衣類を『Internat』に届けていました。8月13日に『Internat』に行くと、『お前の息子はもうここにはいない。11日に釈放した』と告げられました」

「8月21日、ある村近くの墓地で、遺体が何体か発見され、その中にレバートさんが差し入れた服を着た遺体がありました。しかし遺体はカズベクさんではなく、同じく『Internat』に拘禁されていた男性でした。カズベクさんの行方について調査が行なわれましたが・・・誰が彼を連行して誘拐したのかについて・・・調査は行なわれませんでした」

「ひとりひとりのストーリー」というサイトがある。
http://www.amnesty.or.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=251
これは、アムネスティがこれまで支援してきた22人をめぐる短い物語を紹介したサイトで、チェチェン人、レバートさんのストーリーもその中に収録されている。

レバートさんのストーリーは、彼女の物語であって、他の誰の物語でもない。にもかかわらず、彼女の身に起こったことは、1万8000人以上の行方不明者がいるチェチェンでは悲しいほど典型的な出来事だ。アムネスティは、レバートさんのストーリーを次のように結んでいる。

「紛争が続くチェチェンでは、ロシア軍による町や村に対する襲撃のあと、住民が『失踪』するケースが絶えません。アムネスティは、ロシア軍の留置所で最後に目撃され、その後行方が分からなくなった人たちの報告を受け取り続けています。そして、『失踪』した人びとはロシア軍によって拷問され、中には人知れず処刑されてしまったケースが多いと考えられています」

国連は、スーダン、ダルフール地域の紛争を「世界最悪の人道危機」と呼び、ダルフールにPKO(国連平和維持活動)部隊を展開させる決議案を9月に採択した。最低でも22万5000人と推定されているダルフールの死者数は、チェチェンのそれとほぼ等しい。けれども、国連では、2001年4月20日を最後に、チェチェンでの人道危機をめぐってロシアに対する非難決議が提出されたことさえなかったように思う。

チェチェン人を見捨てる代価として各国政府が受け取ることができるかもしれないロシアとの政治的・経済的「友好関係」のために、世界は彼らの死の傍観者であることを強いられている。チェチェン人も自分たちと同じ人間であるという単純な事実は、沈黙させられたまま。

けれども、20万人とも25万人ともいわれるチェチェン戦争の死者数の背後には、数えられることもない多くの人々がいだく、悲しみや苦しみ、怒り、そしておそらく憎しみが、ある。「ひとりひとりのストーリー」は、そのことを世界に思い出させてくれる。私たちが、彼らの死の傍観者ではなく、生の目撃者にもなれるということを。

チェチェンの人々に「ひとりひとりのストーリー」があるように、私たちも「ひとりひとりのストーリー」を持っている。私たちの物語の中にチェチェンを置き、チェチェンの物語の中に私たちを位置づけるためにはどうすればよいのだろう。そういった問題意識を読者の方々と共有していければと思います。(邦枝律)

20.Sep 2006 安倍晋三とプーチン露大統領
Shinzo Abe and Vladimir Putin

顔はぜんぜん違うのに、安倍晋三官房長官とロシアのプーチン大統領は似たところがある。そのキーワードは、(1) 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)とチェチェン (2) 報道弾圧 (3) 戦争好き、である。

●二人とも何の実績もなかった

まず、二人とも政治家として実績のないままに重要な位置を占めるようになった。いろいろな政策を提言し、実行し、実力を蓄えてきたというわけではないだろう。敵を前面に押し立てることによって、人気をはくし、頭角をあらわしたのである。

●チェチェンと北朝鮮

プーチン大統領は、首相時代にチェチェン軍事侵攻(第二次チェチェン戦争)を始め、国民の圧倒的な支持を得た。チェチェン=悪という政府のプロパガンダとマスコミの報道が、プーチン人気を支えたのである。一方、安倍晋三も、”血筋”はいいものの、別に辣腕政治などではない。しかし北朝鮮の拉致問題でマスコミにクローズアップされた。加えて、北朝鮮に関しては「=悪」という報道以外はまったくしないマスコミにも支えられている。

●戦争/紛争好き

これは説明するまでもないだろう。プーチンは、チェチェン独立派からの和平交渉に、これまで一切応じてこなかった。安倍晋三も中国に対して強硬姿勢をとり、挑発し、民主国家における成熟した政治家の役割など放棄している。ついでながら、権力者を批判しないマスコミが、権力者をのさばらせているのである。それに乗せられる半数の国民。

●報道弾圧

プーチンの報道弾圧は、就任当初からはっきり表れている。ひとつだけエピソードを紹介する。第二次チェチェン戦争がはじまってまもない1999年10月末、「我々の敵はテロリストではない。ジャーナリストこそ敵だ」と発言した。 これは、数少ないジャーナリストがチェチェンで起きている事実を報道し、海外に明るみ出てしまったことに腹を立てての発言であった。

 安倍晋三は、日本軍慰安婦(従軍慰安婦)を扱ったNHKの番組に圧力をかけて改変させた。さらに、あまりなじみはないかもしれないが『選択』という雑誌に大して執拗な訴訟攻勢をかけ、メディアへの圧力は大好きだ。

●日本国民の将来が危ぶまれる

おなじ強硬派でも、この点が小泉純一郎と違うところだ。小泉はメディアを利用することはあっても、圧力をかけたり弾圧したりする気はおそらくないだろう。今後、安倍が首相になれば、メディアへの締め付けは厳しくなる可能性が高い。いまの状況を放置すれば、3年後は日本はロシアのような国になってしまう。日本国民の将来が危ぶまれる。国内の外国人はもっと危険にさらされるであろう。

[8/31 林克明 チェチェン 未来日記]
http://www.actiblog.com/hayashi/14347

24.Sep 2006 ヨーロッパ最悪の場所−ニューヨークでチェチェンについての写真展 NY: "Europe's Darkest Corner: Photographs from Chechnya 1994-2005"

ニューヨークでの写真展の情報が入ってきました。近くにお住まいの方は、ぜひオープニングに参加してください。それと、この写真展に出品しているスタンリー・グリーンのチェチェン写真はBBCのサイトで見られます。

イベント情報: http://www.seedsoftolerance.org/events.html

BBCサイト: http://news.bbc.co.uk/1/shared/spl/hi/picture_gallery/05/in_pictures_chechnya0_open_wound/html/1.stm

21.Sep 2006 Newsweek:「新生チェチェンの若き暴君」
Newsweek:Ramzan's World

「内戦」が終わった? ところどころヘンな気もしますが、ラムザン・カディロフの異常さがよくわかる記事がニューズウィーク日本語版(2006-9・27号)に載りました。英語版の記事はこちらで読めます。以下はニューズウィークのサイトより:

「内戦が終わり、ラムザン・カディロフの恐怖政治が静かに始まった。

ロシアからの独立闘争を繰り広げたチェチェンに、ようやく「平和」が訪れた。だが、その実態は血塗られた平和。ロシアのプーチン大統領の後ろ盾を得て共和国を統治する、29歳のカディロフ首相の危険な素顔に迫る」

雑誌のサイト: http://www.newsweekjapan.hankyu-com.co.jp/cover/contents/20060927.html

英文の記事(全文): http://www.msnbc.msn.com/id/14871219/site/newsweek/

25.Sep 2006 沖縄:日本の中のチェチェン
Okinawa: Another Chechnya in Japan

日本でチェチェン問題を広めることが難しい理由の一つは、チェチェンと私たち自身のつながりが見えにくいことだと思います。ごく最近まで自衛隊を派遣し、現在も武装米兵や米軍需物資の輸送を続けているイラクとは異なり、日本はロシア軍によるチェチェン侵略および占領に直接加担しているわけではありません。

ですから、日本にいる私たちがチェチェンのためにできることというのは、実際にはそれほど多くない。けれども、その認識を無関心や無力感に変える代わりにしなくてはならないこと、それは、チェチェン戦争の沈黙の共犯者であるのを止めること、そして、日本の中に存在するチェチェン問題を知り、自分たち自身の手でその問題を解決することではないでしょうか。

一見遠回りなようですが、そしてまた現に遠回りなのかもしれませんが、チェチェン問題を解決するためには、私たちが日本の中のチェチェンを解放することが必要です。チェチェンは、ロシアという国によって作り出された巨大な密室です。その鍵を開けようとするのであれば、この際、日本という国が作り出した別の密室も公平に解体しておきましょう。沖縄という名の密室を。

国土の1%にも満たない地域で住民の三分の一以上が死亡し、その多くが自国の軍隊に殺された(あるいは見殺しにされた)歴史を持っているという意味で、そして、現地の状況に関する意図的な情報の隠蔽と、一般市民の無知および無関心が現在急速に進行しているという意味で、沖縄を日本のチェチェンと呼ぶことは、それほど的外れな比喩ではないと思います。

米兵による後を絶たない犯罪や事故に対する恐怖。自分たちの土地や海が略奪され、汚染され、侵略戦争を支える基地となっていることへの怒りと罪悪感。在日米軍基地の75%が集中する沖縄では、軍事力で平和や人命が守られるという「理想」論は、残念ながらあまり説得力を持ちません。

沖縄の辺野古では、2004年4月19日から、普天間基地の代替施設建設に反対する住民や市民団体によって、完全非暴力の座り込み阻止運動が続けられています。けれど、このことを含め、沖縄で起こっていることが本土のマスコミに取り上げられることは、ほとんどありません。ちょうどロシアの一般市民がチェチェン戦争に対して思考停止に陥っているように、私たちも沖縄に基地を押しつけている自分の姿を鏡に映すこともなく、国防や改憲を叫ぼうとしてはいないでしょうか。

世界の軍事予算の40%(兵器輸出の47%)を一国で占める、世界最強の軍事国家・米国の安全神話を崩壊させたのは、9.11のときにハイジャック犯が持ち込んだカッターナイフでした。攻められたらどうする?という「現実」的な問いを発する人の多くが、米軍によるイラク侵略を支持しているのはとても奇妙なことです。他人の家を荒らしに出かけている人間が、自分にだけは他人から家を荒らされない権利があると思い込めるのだとすれば、それは現実主義ではなく、一般には単なる勘違いと呼ばれます。

沖縄に関しては、知ろうとさえすれば、ネットでも多くの情報が(日本語で)拾えます。以下にいくつか紹介を。(邦枝律)

● ジュゴンの家
(辺野古関連リンクの充実した総合サイト)
 http://www47.tok2.com/home/dugong/

● NO BASE HENOKO TOKYO
(東京から辺野古に連帯する若者のサイト)
 http://blog15.fc2.com/henokotokyo/

● グリーンピースジャパン
(米軍基地建設に反対するオンライン署名サイト)
 http://www.greenpeace.or.jp/cyberaction/okinawa/

25.Sep 2006 お知らせ:チェチェンニュースの新しいスタッフ
Chechen News's new editor

チェチェンニュースの発行が滞りがちになってきたので、仲間に加わってもらって、打開することにしました。17号から記事を書いている邦枝律さんは、もう4年くらい前からの仲間です。あらためてよろしくおねがいします。

邦枝さんは主に、日本とチェチェンをどう結びつけるか、という点から、二ュースを書いてみたいとのことです。しばらくは手さぐりが続くと思いますし、ふらふらするかもしれません。そうこうしながら、読者の方々と一緒にチェチェンニュースも変わっていくのだと思います。いつでもご意見や感想を送ってください。(大富亮)
 ootomi@mist.ocn.ne.jp (*を半角@に置き換えてください)

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