チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.04 No.32 2004.09.21

発行部数:1570部

■緊急報告会と共同声明について

 こんにちは、チェチェンニュースの大富亮です。おととい、東京・文京区 で緊急報告会「チェチェンで何が起こっているのか」を開きました。初めて チェチェンの集会に参加される方々を中心に80人以上の方が参加され、ベ スランでの事件が、かえってチェチェン問題への注目を一度に高めたことが よくわかりました。

 チェチェン情勢の概略説明(大富)と、人権侵害とジャーナリズムに対す る抑圧についての報告(林克明)を受けて、会場からは、「私たちにできる ことは何か」、「国際テロ組織との関連は」など、さまざまな質問が寄せら れました。詳しい内容については、今後に。立ち見・座り見の人もおおぜい いて、かつマイクの使えない会場だったため、遠い席の方にはかなり条件の 悪い集会になってしまいました。準備不足の点について、お詫びいたします。

 さて、今回のニュースでは、報告会場で公表した、<ベスラン学校占拠事件に関する共同声明>をお送りします。この内容は、これまでチェチェン問 題に関心を持ち、平和的支援活動を続けてきた私たちの、現在の考え方と情 勢分析をしめすとともに、紛争当事者と、国際社会に対して、必要な行動を とることを求めるものです。少し長いものですが、どうぞご一読ください。 質問も ootomi@mist.ocn.ne.jp でお受けします。また、ご賛同くださる方 は、末尾の用紙にご記入の上、返送をお願いします。

 集約し終えた段階で、在日ロシア連邦大使館、諸国際機関、日本政府(外 務省)にファクシミリで送付します。署名はその際、肩書と氏名のみ公開さ れます。ネット上での公開は「する/しない」を選ぶことができます。9月 23日(木)を、第一次集約日とします。

 今後もチェチェン問題について、関心を持ってくださるよう、お願いしま す。チェチェンが世界から再び忘れられた一角になることが、もっとも危険 なことだと思います。

■ベスラン学校占拠事件に関する共同声明

 ロシア連邦・北オセチア共和国で起きた学校占拠事件は、500名以上の 死者を出す、惨事となりました。犯行グループの目的はどうあれ、罪のない 子どもたちを人質にとり、死傷させる行為は、残虐きわまりない犯罪です。 ここに署名する、私たち日本の市民は、今回の学校占拠事件の犠牲者とご家 族の皆さんに、心からの哀悼の意をお伝えしたいと思います。

 犯行グループの許しがたい行為とともに、多くの犠牲者を出すことになっ たロシア連邦政府の対応にも、私たちは大きな問題があったと考えていま す。プーチン大統領とロシア政府は、「人命を尊重する」という方針を掲げ る一方で、犯行グループとの交渉にあたろうとした北オセチア共和国のザ ソーホフ大統領の現場入りを禁止しました。そして交渉はロシア政府側に よって打ち切られ、9月3日の惨事が発生しました。

・犯行グループについて

 この事件の犯行グループは何者だったのでしょうか。ロシア政府は「アラ ブ系のイスラム過激派やアルカイダとの関連を持つグループ」であると宣伝 し、また、事件後には犯行グループの中で唯一逮捕されたゲリラの自白がロ シアのテレビで放送されました。しかし、この自白は、路線上対立している チェチェンのアスラン・マスハードフ大統領とシャミル・バサーエフ司令官の 両方から計画を指示されたといい、信憑性に欠けています。特に、マスハド フ氏は事件発生直後から関与を否定し、先のザソーホフ大統領とも連絡をと り、犯行グループとの交渉を提案していました。

 私たちがもっとも重視しているのは、交渉によって人質のうち26人の乳 幼児を解放させたイングーシ共和国の元大統領、ルスラン・アウシェフ氏 が、「犯人たちの中には、チェチェン人もイングーシ人もいなかった」と証 言*していることです。それでは何者が、何のために事件を起こしたのでしょ う。私たちは納得のいく説明を得られずにいます。(*独立派スポークスマン、ザカーエフ氏を通して。BBCによる。2004.10.02追記)

 9月16日になって、チェチェン人の野戦司令官シャミル・バサーエフ が、Webサイトにおいて、ベスラン学校人質事件をはじめとする、いくつか のテロ事件への関与を認める声明を出しました。私たちはこの知らせに接 し、言いようのない怒りを感じています。人々の人権を守るために戦う者 が、他者の人権を奪うことを恥じないのはどういうことなのか。あるいは、 強者に対する抵抗の戦いが、なぜ、子どもたちを死に追いやる資格を持つの か。事件がこの声明通りであるかは検証されていませんが、もしそうであれ ば、帝政ロシア以来、数百年におよぶ侵略の歴史のなかで、常に高いモラル をもって抵抗を続けてきた、チェチェンの精神性の崩壊といえるでしょう。

・報道への圧力について

 ベスラン学校占拠事件では、その当初から、犠牲者数や犯人像について の、大幅な情報操作が行われ、いまだに全容が明らかになっていません。 プーチン大統領は、ロシア議会での調査委員会の設置の可能性を「非生産的 だ」として、排除しました。今回の事件は突発的、一過性のものではありま せん。したがって、真相の解明と、適確な対処がなくては、再び類似の事件 が発生することでしょう。私たちは、ロシア政府に対し、今回の事件の真相 究明と情報公開を強く求めます。

 一方、事件を取材しようとしたノーヴァヤ・ガゼータ紙のアンナ・ポリト コフスカヤ記者は、現場に向う飛行機の中で、毒物を飲まされて重態となり ました。彼女によれば、この飛行機には大勢のロシア連邦保安局(FSB)の 要員が乗り込んでいました。また、ラジオ・リバティーのアンドレイ・バビ ツキー記者は当局によって理由なく拘束されました。この2名のジャーナリ ストは、ロシアにおいてチェチェン戦争の真実を報道することに努めてきた ことで知られています。その二人が現場の取材ができないようにされていた のです。なぜロシア政府は、この事件についての情報を隠そうとするので しょうか。

・事件の背景について

 今回の事件の背景には、チェチェン戦争の悲劇があります。1991年の チェチェン独立宣言をうけて、94年にはじまった、ロシア軍によるチェ チェン共和国への侵攻以来、3年間の停戦期間を除き、戦争は続いてきまし た。この間、人口百万人前後のチェチェンでは、20万人の市民が犠牲に なったと言われます。これは、ロシア連邦による、国家テロと呼ぶべき犯罪 行為です。そしていまだに戦争は続き、チェチェンを占領するロシア軍によ り、人権を無視した暴力が続いています。特に、2001年9月11日以 降、人権侵害は欧米諸国でも黙認され、チェチェンの人々はますます孤立感 と絶望感を深めています。

 プーチン大統領は事件後、「もはやチェチェン側とのいかなる和平交渉も あり得ない」と宣言し、戦争の平和的解決の道を封じました。その一方で チェチェン独立派中の穏健派であるマスハードフ大統領は、繰り返しロシア政 府に対し、和平交渉を申し入れています。力によって問題を解決しようとす るロシア側の態度が、チェチェンの人々の間で、一層の失望と怒りを呼んで います。

 恐ろしいことですが、私たちは、チェチェン戦争に関する要求の伴う大規 模な事件は、今後も発生する可能性が高いと考えます。それは、構造的な問 題としてのチェチェン戦争を、ロシア政府が政策として進め、国際社会が放 置してきた帰結であり、その意味で、日本に住む私たちにも、今回の事件の 責任の一端があるという思いを、持たざるをえません。

・中央集権制の強化について

 いまひとつ、気にかかる問題があります。9月13日の閣議で、プーチン 大統領は「ロシア連邦の統一が国家の強化には何より必要である」とした上 で、連邦の八十九の地方自治体の首長を、ロシア大統領による事実上の任命 制に転換する案を打ち出しました。同時に議会については、小選挙区比例代 表並立制から、政党からのみ選出される完全な比例代表制への移行を進める と発表しました。すでに与党「統一ロシア」を始めとする翼賛体制下にある 議会で選挙制度を変更することで、現在の状況を固定することが可能になり ます。

 このいきさつを総合すると、ロシア連邦指導部は、最近の事件によって醸 成された社会不安をてこに、その権限の拡大を構想しているものと考えられ ます。私たちは、この構想が準備されていた時期にベスラン学校占拠事件が 発生した「偶然」を、疑わずにはいられません。そして、ジャーナリズムに 対する抑圧と、民主主義の停止は、国家による犯罪へと直接結びついている ことを、私たちは過去の歴史から学んでいます。

・紛争当事者と国際社会に向けて

 私たちは、悲惨な事件を二度と起こさせないためにも、原因となっている チェチェン戦争の早期終結を求めます。今こそ、平和解決に向けてチェチェ ン・ロシア両者が歩み始める時です。それこそが、今回の事件で犠牲となっ た人々の無念の思いに応える道ではないでしょうか。

 以下私たちは、紛争当事者および国際社会に、次の事柄を要求します。

        2004年9月18日
        東京都文京区にて

署名者
  青山正(市民平和基金代表)
  大富亮(チェチェンニュース編集発行人)
  岡田一男(映像作家)
  鍋元トミヨ(チェチェンの子どもを支援する会代表)
  林克明(ジャーナリスト)
  (50音順)

  ほか、会場参加者中35名

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ベスラン学校占拠事件に関する共同声明(2004.09.18)に賛同します。
(*必須項目)

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 ●氏名をネット上で公開しない*
 (いずれか一方を消してください)
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賛同あて先:ootomi@mist.ocn.ne.jp
ファクシミリ: 044-599-8398 まで。