チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.04 No.08 2004.03.12

発行部数:1071部

■新しい過激派の出現? 最近のチェチェン関連事件に思う
 (岡田一男/映像作家)

●謎の犯行声明

 昨年暮れに私は久々にモスクワを訪れた。驚いたのはモスクワの人口爆発で、
今や2000万人を突破しようとしていた。そして激しい道路渋滞で、地上交通は
麻痺状態に陥り、時間に正確を要する移動は、好むと好まざるを問わず地下鉄
を頼らねばままならない事態だった。おかげでこれまでタクシーで4-5000円か
けていたシェレメ−チェボ空港から都心部への移動がマルシュルートカ(経路
の決まった乗合タクシー)と地下鉄の利用で、100円足らずで済むようになって
しまったのは皮肉と言えようか。その、なくてはならない人びとの足が、直撃
されたのが、今回の地下鉄爆破事件なのだ。

 さて、チェチェン独立派のサイト、「カフカス・センター」は、「Gazotan
Murdash」なる組織から事件の犯行声明を受け取り、3月に入ってから、当惑を
あらわにしつつ紹介した。それは、この声明が、バサーエフ派、あるいはロシ
ア側の言うところの「ワハビスト」の言葉を使わない、異質の組織からのもの
だったからだ。「Gazotan Murdash」 はいわば、「聖戦の戦士」なのだが、
「ジハード」でも「ムジャヘディーン」でもなく、古いカフカスにおける対ロ
シア抵抗戦争時代に使われた言葉を使って、この組織はアラブ直輸入型の行動
様式とは一線を画して見せている。

 ロシアの組織と称して第2の犯行声明を出した「急進政治運動・白い影」は、
これを「チェチェン人に罪をなすりつけようとする連邦保安局(FSB)のでっ
ちあげ」と切って棄てているが、果たしてそうだろうか。クレムリン側にとっ
て好都合な「アル・カイダと連携する国際テロリズム」と一線を画すようなネー
ミングを、わざわざロシア特務機関が、でっち上げのために好んで持って来る
だろうか?

●絶望の分子たち

 思いたくもないことなのだが、この声明が示すのは、長く出口の見えないチェ
チェン戦争の中で、既存のチェチェン抵抗運動の諸勢力‐マスハードフ派、バ
サーエフ派、あるいはヌハーエフ派すべてに失望し、絶望の中で突出してきた
過激分子の登場なのではなかろうか。既に2002年の初夏にバサーエフは、
「いずれ自分にもマスハードフにも服さない世代が、必ず登場すると」予言し
ていた。国外に出たチェチェン・ディアスポラは、生活こそ厳しいが、携帯電
話、衛星電話、インターネットの時代を迎えて、情報のふんだんに飛び交う中
にいる。しかし、チェチェンの国内ではそういった情報を享受できるインフラ
はない。

 ロシア内部の野党勢力すら潰されていくプーチン体制の重圧の中では、民主
的な手続きと、非暴力の戦いを堅持するには、とてつもない勇気と強靭な精神
力が要求される。ましてプーチン体制とカディロフ体制の2重の重圧に苦しむ
チェチェン国内の民衆の中から、止むことなくつづく虐殺と暴力に復讐心に駆
られ、「自分たちチェチェンの民衆が受けたと同じ苦しみ、恐怖を、他人の痛
みに鈍感なロシアの民衆に味あわせてやろう」と暴発する部分が出てきても不
思議はない。

 一方で、独立派武装抵抗運動の指導層は、大きな出血を強いられている。2
月だけでも最高司令官マスハードフ大統領の側近であり、チェチェン軍司令部の
スポークスマン格であったユスーポフ大佐が、東部山岳地帯のベデノ地区で戦
死、また過去に国防相、第一副首相を務めたこともあるチェチェン抵抗運動中
もっともカリスマ性の高い戦士であったゲラーエフ司令官がダゲスタンで死亡
した。イングーシでは、有力中級司令官のタザバーエフとウルスマルタン戦区
司令官のバサヌカーエフが、あいついで戦死している。昨年暮れには、マスハ
ドフ大統領自身も大統領警護部隊と共に包囲を受け、戦闘の中で数名の敵を自
ら狙撃銃で倒したとされる。

●チェチェン問題とロシアの民主主義のゆくえ

 チェチェン国内の戦闘が、独立派指導部に大きな出血を強いても、チェチェ
ン情勢の沈静化は意味しない。相変わらずロシア軍の損失は、この冬ずっと1
週100名前後のピッチで推移している。もはや戦闘が冬に静まることすらなくなっ
た。今後、チェチェン抵抗運動の中枢にいるマスハードフや、他方の極にいる
バサーエフが抹殺される可能性も排除できないが、それはチェチェン「紛争」
の終息には繋がらないだろう。

 モスクワにいたとき、もう一つ驚いたことがある。ちょうど下院選の最中だっ
たのだが、プーチン与党の「統一ロシア」のシンボルマークがサブリミナル効
果を狙って、テレビ放送の中で流されていた。日本の放送界ではこのような効
果を狙った手法ははっきりと禁じられているが、ロシアの大統領与党の世論操
作のためには許されているようだ。

 本当に残念なことだが、ロシアの問題点を自覚する人びとは少数派だ。多く
の人びとは、政府権力機構がほんの少し投げ与えた餌である「繁栄」に目をく
らまされている。その影で、どんどん旧ソ連型の権威主義への退行が進んでい
る。その行き着く先は明らかだ。地政学的な打算からロシアの破滅を好都合と
考えることも可能だろうが、いずれ煮え湯を飲まねばならないのはロシアの民
衆である。ロシアの破局は日本にも様々なマイナスをもたらすだろう。健全な
ロシアに立ち返らせる努力を、われわれは惜しんではならないと思うのだ。

岡田さんへのメールは: kazuokada1@hotmail.com


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