チェチェン総合情報

チェチェンニュース
Vol.02 No.36 2002.10.16

【チェチェンイベント情報】

■映像と講演/チェチェン紛争の今を知る−「テロとの戦い」の裏側で

アムネスティ・インターナショナル日本による、初のチェチェン問題についての講演会はいよいよ今週金曜日です。

講演者:常岡浩介氏(ジャーナリスト)
徳永晴美氏(上智大学教授)
日時:2002年10月18日(金) 午後7時30分〜9時30分(7時開場)
会場:東京芸術劇場 5階大会議室 (定員100名)
交通:JR池袋駅西口より徒歩3分。最寄出口は2a、B1、2b。
主催:アムネスティ・インターナショナル日本 連絡先:TEL:03-3518-6777

くわしくはこちら:
http://www9.ocn.ne.jp/~kafkas/event/20021018.htm

■書籍販売のお知らせ

チェチェンニュースは、上記の会場にて、チェチェン関係書籍の販売を行います。書店ではすぐに入手できない本もありますので、この機会にお求めください。なお、当日来場できない方からの注文も承ります。 ootomi@mist.ocn.ne.jpまで、希望の書籍と部数、送付先と電話番号をお知らせください。

 ●販売予定タイトル:

『カフカスの小さな国』 林 克明著 小学館 1500円
1995年、チェチェンで戦争が始まった。 夫婦で、チェチェンに15回取材した気鋭のジャーナリスト がつづる戦場見聞録。小学館ノンフィクション大賞優秀賞。

『コーカサスの金色の雲』 現代のロシア文学〈第2期第10巻〉 アナトーリイ・プリスターフキン著 三浦みどり訳 2800円
第二次大戦末期、チェチェンに追放されたロシアの孤児、 サーシカとコーリカ。彼らがコーカサスの山麓で見たものは?歴史に隠された民族の過去を照らす感動作。

『チェチェン<知られざる戦争>』 市民平和基金編 500円
 1995年よりチェチェン支援を続ける日本のNGOによる チェチェン解説書。

『スターリン謀殺 スターリンの死の謎 ベリヤの陰謀』 アブドゥラフマン・アフトルハノフ著 田辺稔訳 中央アート出版社 2200円
 スターリンは、暗殺された?! 西側に追放されたチェチェン人学者が、 綿密な史料の検討により描き出す、 ソビエト・ロシアの歴史の闇。

【ロシア国内】

■「チェチェン情勢は何も変わっていない」ロシア世論調査結果

10月8日の Polit.ru によると、VTsIOM(全ロシア世論研究所)の最近の調査結果では、「プーチン大統領の就任後、チェチェン情勢は変わったか」との問いに対し、30%が「好転した」、43%が「変わらない」、21%が「悪化した」と答えた。この数値は他のプーチン大統領関連の質問の中でも最も消極的なもの。ジェームズタウン財団が伝えた。

http://chechnya.jamestown.org/pubs/view/che_003_030_001.htm

■ロシア国勢調査、チェチェンでも開始される

10月9日、ロシア連邦全土で開始された国勢調査が、チェチェンでも開始された。この調査は1991年に行われて以来、12年ぶりのものとなる。調査が行われる一方、9日から10日にかけ、首都グロズヌイの調査事務所付近にグレネード弾が打ち込まれたが、ロシア側の発表によれば犠牲者は出ていない。また、別の発表によればシャリ、ウルスマルタン、アルグンなどの地区で戦闘があり、チェチェン側ゲリラ15人が死亡したという。以上はAFPが伝えた。

http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/UNID/EE1E36DC12F8E9A2C1256C4E0055D3EC

■ロシア国勢調査とチェチェンの人口

ロシアの国勢調査はチェチェンでも行われた。親ロシア派の報道は、これをもってチェチェン住民が連邦権力を承認したと自画自賛している。ソ連時代から、この国の国勢調査ほど政治的思惑に支配され、不正確な数字がまかり通った調査は類を見ない。今回の数字も、その悪しき伝統を引きずったものだが、とりあえず現地の記事を紹介。(渡辺千明)

◆チェチェン国勢調査の結果 (チェチェン共和国情報チャンネル)

国勢調査の結果、チェチェンの人口は1,088,816人と判明した。10月14日、全ロシア国勢調査が成功裏に終了したことを報告する式典が、スタニスラフ・イリヤソフ/チェチェン共和国首相によってグローズヌイで挙行された。首相の言葉によれば、国勢調査は12−13両日に行われたが、慎重な準備により、大きな事故もなく全地区で無事終了した。

「私が前から予想していた通りの数字が出ました。私はかつてゴスプランの職員でしたから。チェチェンの就学中の学校生徒の数と年金生活者の数を併せて、現在40万です。普通この数字は、総人口のだいたい半分です。ところがこれまでチェチェン財務省は、総人口を60万強だとして計画を立ててきたんです。正確な数字が出た以上、計画の練り直しは免れません」

この後首相は、調査の実施に当たって担当した部局をはじめ、内務省など治安関係者の努力を称えた。この結果は、クーリエ便でモスクワに伝達されると言う。

http://kavkaz.strana.ru/news/161019.html

【人権】

■チェチェン人1600人が行方不明/ロシア側当局者語る

10月9日、チェチェンにおける親ロシア政権のルドニック・ドゥダーエフ安全保障会議書記は、インターファックスなどの取材に対して、「確実な数字として、1999年の第二次戦争開始以来、行方不明になったチェチェン住民は1600人にのぼる。また、第一次戦争以来の行方不明者数は1537人である」と語った。この数字の根拠は示されなかった。大いに疑問の残る数字ではあるが、1600人の命も決して軽いものではない。(大富亮)

http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/UNID/2FC220FA99D0D5B3C1256C4D00457A79

■モスクワで続くチェチェン人断食反戦運動

10月15日付けのチェチェンプレスは、モスクワの中心部、マヤコフスキー劇場近くのロシア人権擁護団体「人間の権利のために/全ロシア運動」の事務所で続けられているチェチェン人の断食反戦運動を詳報した。これによると、運動の代表者は、イングーシで活動するチェチェン難民の人権擁護組織「シンタル」代表のスルンベク・タシタミロフ氏、44歳。このほか数名の男女がともに断食を行い、チェチェン民族への虐殺行為を停止させることなどを要求している。

断食を開始して3週間目となるタシタミロフ氏は、記者たちの質問に対し、「自分の周辺にいる難民たちと、自分の組織に加わっている1200名の活動家の圧倒的多数は、マスハードフこそ合法的な自分たちの大統領であり 、1997年の選挙で選ばれた国会議員たちこそ、今もチェチェンの民衆を代表する存在であると認識している」とした上で、親ロシア政権のカディロフ行政長官らは、「民族の裏切り者」以外の何者でもないと発言した。

また、自らの覚悟として、「チェチェンでは毎日毎日、数十人の住民がロシア軍に殺されている。もしアッラーの思し召しであるなら、自分はモスクワで、虐殺と戦争を続ける責任者の傍らで死ぬ事を厭わない。ロシア人には、自分たちが目をそむけ、耳を塞いでいる中で、多くのチェチェン人が殺されているということを直視してほしい」とも語った。「今のところ、ロシアの人権活動家を中心とする支援者に囲まれ、われわれは静かに飢えている」

断食の参加者らにはロシアの人権団体が支援を寄せ、国際赤十字などの医療関係者も健康状態を監視している。今のところは警察などの介入はない。チェチェンプレスの記者によると、タシタミロフ氏は明らかに他の参加者と比べると衰弱している。医療関係者は、「あと二日もすると、意識が断続的に途切れ始めるだろう」とコメントしている。

http://www.chechenpress.com/news/10_2002/7_15_10.shtml

【戦闘状況】

■ロシア軍攻撃ヘリ撃墜される

10月12日の Chechen.org によると、アレロイ村に飛来したロシア軍ヘリコプター2機に対し、チェチェン軍は携行型対空ロケットシステム(PZRK)「イグラ」を発射して撃墜した。ミサイルは命中し、ヘリコプターは、墜落炎上し、乗員は全員即死した。バサーエフ司令官に近いサイトカフカス・センターも、 Chechen.org からの転載としてほぼ同様の内容を伝えている。

http://www.chechen.org/modules.php?name=News&file=article&sid=1960
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=5986

■グロズヌイ、民警本部で爆発事件25人死亡か

10月10日夕刻、チェチェンの首都グロズヌイのザボツコイ地区民警本部の建物で爆発が起き、多数の死者が出た。故意の爆破か、ガス配管の不備などによる事故か、結論はまだ出ていない。チェチェンプレス(チェチェン国営通信社)はいち早く、アフメド・ザカーエフ副首相の談話を発表し、チェチェン側の軍事作戦ではないと関与を否定。チェチェン人同士の内紛をあおるロシア側による挑発の一環であるとした。

翌日以降も倒壊現場からは新たな犠牲者が発見され、死者は25名に上っている。現場が外部からの侵入の考えられない位置のため、ロシア政府および親ロシア行政府は、チェチェン民警特別部隊(OMON)への、反対派の浸透を指摘している。また、爆発は幹部の会議と同時に起こったため、地区民警幹部は全滅した。

12日午後のロシアのインターネット新聞、gazeta.ruは、北コーカサス検察総局がすでに今回の爆発事件の容疑者を拘束していることを伝えた。検察官のウラジミル・クラフチェンコ氏によれば、容疑者は民警関係者で、メインターゲットは、最近強硬に民警内部の綱紀粛正を進めていた地区民警署長、マゴメド・シダーエフだったという。(渡辺千明)

チェチェン側関連記事:

http://www.chechen.org/modules.php?name=News&file=article&sid=1954
http://www.chechenpress.com/news/10_2002/7_11_10.shtml

ロシア側関連記事:
http://kavkaz.strana.ru/news/160781.html
http://kavkaz.strana.ru/news/160788.html
http://kavkaz.strana.ru/news/160790.html
http://kavkaz.strana.ru/news/160853.html
http://www.gazeta.ru/lastnews.shtml

【チェチェン独立派内部ウォッチ】

■独立派内部に不協和音か?

10月8日のチェチェンプレス(チェチェン国営通信社、マスハードフ大統領寄り)は、モスクワ在住の有力チェチェン人政治学者ハズブラートフ氏(元ロシア連邦下院議長)からファックスが届いたと報じた。

これは、最近カフカスセンター(バサーエフ司令官寄り)が掲載した、「ロシア連邦政府が臨時行政府長官アフマド・カディロフを解任し、駐サウジアラビア、ロシア大使に転出させ、その後任にハスブラートフ氏を据えようとしている」という記事を強く否定するもの。ハスブラートフ氏はこのファックスの中で、「このような事実にそぐわない報道は、和平への努力に水を差そうとするものだ」と批判しているという。

一方、カフカスセンターはこの日、8月下旬に決定されたとする、「チェチェン政府の国家総動員令」なるものを伝えた。このイスラム教典の語句をちりばめた宗教色の強い「国家総動員令」は、先月来カフカスセンターのみが伝えている「イチケリア・チェチェン共和国改訂憲法」同様、独立派内部の一部の党派が、国家や政府を勝手に名乗っている観があり、せっかく達成した戦線統一を危うくするものであることは言を待たない。(渡辺千明)

チェチェンプレス:
http://www.chechenpress.com/news/10_2002/9_08_10.shtml

カフカスセンター:
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=5862

【国際政治】

■英/ブレア首相訪ロ

10月10日、イギリスのブレア首相はモスクワを2日間の日程で訪問し、主にイラク問題についてプーチン首相と協議を行った。同首相は出発前のインタビューにおいて、ロシアは昨年の9月11日の前からテロリズムと戦っており、それは「チェチェン国外から来て戦っている過激派」だと語った。

http://www.rferl.org/newsline/2002/10/101002.asp

■アルカイダとチェチェン ワシントンポスト紙への投稿より

10月2日付けのワシントンポスト紙は、チェチェン共和国アメリカ駐在代表、リョマ・ウスマノフ氏の投稿「アルカイダとチェチェン」を掲載した。以下は訳。

◆編集者への手紙/アルカイダとチェチェン

貴紙は9月19日付けで、「アルカイダは非アラブ系の構成員をもってハイジャック作戦を立てている」と報じているが、チェチェン政府はオサマ・ビン・ラディンと関係はなく、共感も寄せていない。われわれの把握している限り、アメリカにいるチェチェン人でアルカイダの構成員または航空機ハイジャックといったテロ行為に関係しようという者はいない。それは全くチェチェン人の信念とも法律とも相容れない行為であるからだ。

チェチェン共和国大統領アスラン・マスハードフは、2001年9月11日の事件に深い哀しみの意を表明し、アメリカのテロへの戦いを支持すると言明している。またチェチェン外相、イリアス・アフマドフは、米国議会の指導者や政府高官との会見で繰り返し、あらゆる種類のテロリズムに反対であることを明らかにしてきた。

チェチェン政府はFBI長官、ロバート・S・ミュラーに対し、反テロリズム捜査に協力する伝えてもいる。われわれはアメリカ政府がロシアのプロパガンダに乗せられてチェチェン民衆の苦しみから目をそらさぬ事を切に希望する。

リョマ・ウスマノフ(チェチェン共和国アメリカ駐在代表)

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A30213-2002Oct1.html

【グルジア情勢】

■FSB、国境警備軍関係者がグルジア入り

10月10日、ロシア連邦保安局(FSB)のウラジミール・プロニチエフ次官を長とする代表団が、グルジア側治安機関との協議のため、トビリシ入りした。また、ロシア国境警備軍(FPS)の代表団も同日到着し、チェチェン−グルジア間の国境管理の強化を目的とした協議に入る見込み。FPSのコンスタンチン・トツスキー大将は、「現在もチェチェン人のグループがロシアへの侵入を企てている。国境地帯の情勢は引き続き緊迫している」と報道陣に語った。

http://www.rferl.org/newsline/2002/10/111002.asp

■グルジア、ロシアにチェチェン人越境ゲリラ5名を引き渡す

10月に入り、グルジア政府はチェチェン独立派政府などの働きかけにもかかわらず、チェチェンより越境してきた武装ゲリラ13名のうち、5名をロシア検察当局に引き渡した。10月5日のロシアニュースサイト、「チェチェン共和国情報チャンネル」は、ロシア側が彼等をスタブロポリに移送し、個別拘留の上取り調べを5日より開始したと伝えている。

検察当局は、これら武装ゲリラは、去る7月28日にチェチェン、グルジア国境イトゥムカリ地区でロシア国境警備隊と武力衝突し、4名がロシア側に拘束され、13名は越境してグルジア側に拘束されたものと発表した。

これによってロシア連邦刑法の208条、非合法武装組織への参加、同222条非合法武器の入手と保持の容疑に問われるとしている。グルジア側は、身柄と共に押収していた彼等の保持していた自動小銃、手榴弾などをロシア側に引き渡した。ノーボスチ通信によれば、取り調べにはロシア検察本部とともに連邦保安局(FSB)の北コーカサス支部が合同で取り組むという。

http://kavkaz.strana.ru/news/160322.html

■グルジア難民担当相、チェチェン難民に警告

10月9日、グルジアのヴァレリ・ヴァシャキッゼ難民担当相は、グルジアにいるチェチェン難民たちがグルジア政府に対して「圧力」をくわえようとしていると発言した。これは、グルジアが拘束したチェチェン人ゲリラの身柄をロシアに引き渡そうとしていることについて、チェチェン人が数日前からハンガーストライキなどで抗議していることに応じたもの。

チェチェン難民側の要求としては、13人のゲリラのうちすでに5人が引き渡されたことを非難すると共に、残り8人の引渡しは許さないというもの。10日のコーカサス・プレスと11日のチェチェンプレスが報じたところによれば、ロシアに引き渡されたゲリラの一人フセイン・アジエフが拷問により死亡したという。ラジオ・リバティーが報じた。

http://www.rferl.org/newsline/2002/10/101002.asp

【イングーシ情勢】

■イングーシ大統領、チェチェンとの合併を否定

10月9日、チェチェンの隣国イングーシ共和国のムラート・ジアジコフ大統領は、チェチェン共和国との再合併の計画について、「両国はそれぞれ独立した共和国の地位にいる。合併は得策とは言えない」とモスクワでの記者会見で語った。1934年から1946年、および1957年から1992年の期間、両国はチェチェン−イングーシソビエト社会主義自治共和国としてともにあった。2001年初めごろから、「連邦中央はジアジコフを使ってチェチェンとイングーシを合併するつもりだ」との噂があり、今回のジアジコフ大統領の発言はこれを否定するもの。

http://www.rferl.org/newsline/2002/10/101002.asp

■イングーシ議員、ナズラン郊外で殺害される

10月8日、イングーシ共和国議会のマゴメッド・バシール・アウシェフ議員とその運転手が、ナズラン郊外のシューハヒ村で銃殺遺体となって発見された。アウシェフ議員は同村のモスクのイマーム(指導者)でもあった。殺害犯および動機は依然として不明。ラジオ・リバティーが伝えた。アウシェフ議員は氏名から、昨年12月に辞任したルスラン・アウシェフ前大統領の親族と見られる。4月末のジアジコフ大統領(ロシア連邦保安局(FSB)出身)の就任以来、イングーシでは流入しているチェチェン難民への排斥の動きが活発化するなど、不穏な情勢が続いている。(大富亮)

http://www.rferl.org/newsline/2002/10/101002.asp