チェチェン総合情報

アムネスティ発表国際ニュース (2005年3月31日)

アムネスティ日本

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ロシア連邦:チェチェン共和国の民間人に対する罪で、
ロシア連邦の警察官が有罪となる
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AI Index: EUR 46/011/2005

チェチェン共和国のグロズヌイのオクチャーブリスキ地区裁判所が、ロシア連邦のカンティ・
マンシースク地域の特殊警察(OMON)の警官セルゲイ・ラピンに対して、有罪判決を下した
ことを、アムネスティ・インターナショナルは歓迎する。ロシア連邦軍の治安要員が、チェ
チェンの民間人に対する人権侵害の罪で裁かれるのは、今回が始めてである。セルゲイ・
ラピンは、26歳のゼリムカン・ムルダロフがグロズヌイで2001年1月2日に拘禁され、「失踪」
し、拷問された事件に関与していた。2005年3月29日の判決で、セルゲイ・ラピンは、劣悪な
状況下で意図的に健康を深刻に悪化させた罪(ロシア連邦刑法第3部第111条)、劣悪な状
況下で公的な権力を超えた行為の罪(ロシア連邦刑法第3部第286条)、公務員文書偽造
の罪(第292条)で有罪となった。ラピンは、厳戒刑務所での11年の禁固刑となった。釈放後
3年間、ラピンは内務省の下で働くことを禁止される。さらに裁判所は、カンティ・マンシース
ク地域の特殊警察官長官に対して特別な裁定を下し、より一般的な表現で、チェチェンに
配属されている特殊警察官の行為を批判したと言われている。ゼリムカン・ムルダロフの
「失踪」と拷問に関与したと思われるその他の治安要員はまだ特定されておらず、裁判に
かけられていない。

アムネスティは、今回の事件について調査を続け、ゼリムカン・ムルダロフの「失踪」と拷問
に関与したと思われる人びとを裁判にかけるように、キャンペーンを行ってきた。アムネス
ティ・ノルウェーは、この重要な事件のために、法的支援に必要な財政的な援助を行った。

セルゲイ・ラピンは、まず2002年1月に逮捕され勾留された。裁判が開始されなかったた
め、同年5月にラピンは釈放された。正義を実現したいと願うゼリムカン・ムルダロフの家族
の必死の努力により、2003年10月に裁判が開始された。調査によると、2001年1月3日、ゼ
リムカン・ムルダロフはオクチャーブリスキ地区の独房に、セルゲイ・ラピンとその他の警官
—まだ特定されていない−によって、連行された。その独房で、セルゲイ・ラピンはゼリムカ
ン・ムルダロフを警棒で殴打した。また、拘禁中、ゼリムカン・ムルダロフは電気ショックに
かけられた。公判で証言した目撃者によると、独房に拘禁されている間、ゼリムカン・ムル
ダロフはほとんど立つことができず、何度も意識を失った。彼の腕は骨折し、耳は引きちぎ
られ、脳震盪を起こしていた。翌日、セルゲイ・ラピンとまだ特定されていない彼の同僚は、
ゼリムカン・ムルダロフを独房の外へ連れ出し、それ以来、ゼリムカン・ムルダロフの消息
は不明のままである。

ゼリムカン・ムルダロフの家族は、正義を求めたために嫌がらせや脅迫を受けた。彼の母
親と姉妹は、身の安全を確保するために国外に逃げ出さなくてはならなかった。ゼリムカ
ン・ムルダロフの父、アスチェミル・ムルダロフは、息子の消息についての情報を今も求め
続けているとアムネスティに語った。

アムネスティ・インターナショナルは、チェチェン共和国における武力紛争下で、人権侵害の
加害者が処罰されない風潮が広がっていることを懸念し、ロシア連邦当局に対して加害者
を裁判にかけるよう訴えている。しかし、効果的な方策はほとんど採られていない。「失
踪」、拷問、虐待、超法規的処刑の事件で裁判に持ち込まれたケースは、ほんのわずかで
ある。多くのチェチェンの市民は、ロシア連邦の司法制度がチェチェンにおける人権侵害の
加害者処罰に真剣に取り組む姿勢を示していないため、ヨーロッパ人権裁判所に訴えるよ
うになった。今回の判決は、ゼリムカン・ムルダロフの家族のみならず、人権侵害と戦争犯
罪の犠牲になってきたチェチェン共和国の多くの人びとにとっても、重要な意味を持つもの
である。しかし一方で、いまだ十分とは言えない状況である。ロシア連邦とチェチェン共和国
の当局は、1999年末以来「失踪」している人びとの数は2000人であると公表しているが、非
公式の統計によると、「失踪」者の数は5000人に上るといわれている。アムネスティと同地
域で活動しているその他の人権団体は、ロシア連邦およびチェチェン各勢力が、そのような
「失踪」の多くのケースに関与しているという証拠を得ている。


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