チェチェン総合情報

ロシア連邦議会に対するプーチン大統領の教書(要約版)/RIAノーボスチ通信/2003.05.16

(CN注:長文なので、チェチェンに関する部分だけ太字にしました)

今日、憲法に準拠して、国内情勢について報告する。そして、まずはいくつかの点について結論付けをしたいと思う。

この3年間、われわれはただ山積した問題を整理しただけではなく、一定の肯定的な成果も得ることができた。そして今、われわれは次なる一歩を踏み出さなければならない。その際、われわれの下す決定や行動は全て、ごく近い将来ロシアが、本当に強力で影響力の大きい経済先進諸国の間で確固たる位置を占めることに繋がっていかなければならないのだ。

ここ数年われわれが得た一定の成果により、安定について語ることができるようになった。中には、われわれの問題が全て解決したかのように感じている者もいる。

しかし、そうではない。われわれは重大な脅威に直面している。わが国の経済基盤は以前よりは際立って強くなったとはいえ、まだまだ不安定で脆弱だ。政治システムもまだ発展しきっていない。国家機構は、その働きが効率的ではない。経済においては大部分の部門が競争力を持っていない。そして、人口は減り続けている。貧困の克服は極めて遅い速度で進んでいる。国際情勢は未だ複雑を極め、世界経済における競争は厳しいままだ。

わが国は高度に発達した経済を持つ国々に囲まれている。それらの国々は、ロシアを将来性がある世界市場から排除しようとあらゆる手段を講じている。そしてそれらの国々の目に見える経済的優位は、地政学的な野望を育むゆりかごとなっている。

核兵器は地球上に拡散し続けている。テロリズムはわが国の市民の平和な生活と安全を脅かしている。強力で武装をしっかりした国軍が、時にはテロの脅威との闘いにではなく、一部の国家の戦略的影響圏を広げるために使われるようになった。

このような脅威に対してロシアはまともに立ち向かえるだろうか?私としては少なくとも、基本的な国全体としての価値観、そして課題を中心にして団結しなければ、これらの脅威に対峙することはできないと考えている。

わが国のこれまでの歴史の中で、ロシアとその国民は真に歴史的な意義を持つ功績をあげてきた。領土を保全するための功績、国内に平和で安定した暮らしをもたらす功績である。広大な空間で国家を一定の位置に保持すること、また、世界における国の堅固な地位を保ちつつ、独自性豊かな多民族共同体を維持していくことは、莫大な努力を必要とするだけではなく、わが国の国民に対し大きな犠牲と損失を強いることでもある。

われわれはこのことを決して忘れてはならない。このことについては、今我々が直面しているさまざまな危険や我々の主要課題を評価しながも、常に念頭に置いておかなければならない。われわれがそれら課題を遂行・解決する能力があることは、この3年間でわれわれが達成したさまざまな成果が物語っている。

われわれはついに国の統一を回復した。国家権力を強化したのだ。連邦権力を、各地域にとってより近いものにしたのだ。統一した法治圏を回復できたおかげで、われわれは中央と地方との間で権限を分割する作業に集中してあたることができた。ロシア民法典第三部を採択したことで、われわれは法の体系化作業を完了することができた。また、新しい労働法も採択された。新しくなった法の下で、また、労働組合と経営者との間でシステマティックな対話が可能となって、文明的な労働市場が形成し始めた。

真に独立を保った司法制度の設置においても、重大な前進を見た。新しい刑事訴訟法や民事訴訟法、仲裁訴訟法が採択され、それにより人権がさらに保証されるようになった。

選挙制度についても、改善が図られた。国内では、真に力を持つ諸政党の設立を始め、必要なものを全て備えもつ市民社会が発展するための条件が整えられたのだ。

税制改革においても進展があったし、軍改革にも着手した。少なからず労を要した作業の結果、土地関係の改革を「デッド・ポイント」から押し出すことができた。思い起こせば、この問題は丸10年間というもの民主化と市場経済化への道に立ちはだかる深刻な経済的バリアだったのだ。

年金制度、インフラ寡占、住宅・公益事業の各分野での改革においても最初の一歩が踏み出された。われわれは一丸となって、ロシアの個々の地方・地域が事実上連邦法のカバーエリア外となっていた、絶対に受け入れがたい状況を克服したのだ。ロシア憲法と各種連邦法の支配は今や、全連邦国庫への納税義務と同様に、ロシア連邦のどの地域でも生活の規準となった。

ここで私は、われわれ全員にとってデリケートなある問題について、重要な終結(撤退)宣言をしようと思う。この前の教書では、チェチェン共和国はロシアの政治・法治圏に回帰すべきと述べた。自由選挙制度や適正に機能する共和国権力制度を設置する必要性にも触れた。正直言って、当時、これらの事項が実現すると信じた者は、そう多くは無かっただろう。

ところが、1年が経過して、われわれが力をあわせれば、実に多くのことが成し得るのだということを現実が証明してくれたのだ。

今日私は、特にチェチェン国民に感謝の意を表したい。

確かに、ロシアの領土保全の回復のために、われわれ各人は高い対価を払わなければならなかった。戦死した軍人やチェチェン共和国の平和な住民、そして、命をかけて国の分裂を阻止し、自己に課された義務を最後まで遂行した全ての人々には、頭を垂れて黙祷を捧げようではないか。

同共和国で行なわれた憲法採択国民投票により、困難な時代に終止符が打たれたのだ。犯罪者が権力を握って、住民は中世以下の生活を強いられ、基本的な人権さえも無かった時代、チェチェンの町や村では定期的に見せしめとしての公開処刑が行われた時代、数千もの人々が奴隷として商人により売買されていた時代、学校も大学も、病院でさえも閉鎖されていた時代。そんな時代に終止符が打たれたのだ。

しかし、チェチェンでの生活が最終的に正常化するには、まだまだ多くの事をしなければならない。国民投票で採択された憲法に基づいて、民主的な方法で大統領と議会を選任しなければならないし、地方自治機関を形成し、連邦中央と同共和国との間で権限分割を行なうための協定書を作成し、その調印も行なわなければならない。そして、チェチェンの経済復興も、もちろんやらなければならない。

また、チェチェンの警察機関に、法秩序保護業務を委譲しなければならない。さらに、政治正常化プログラムの一環として、恩赦を実施する準備も進められているところだ。恩赦により、これまでさまざまな理由で普通の生活が送れなかった多くの人々を更正させることができるだろう。

これら全てを、われわれは困難な状況下で行なわなければならないのだ。犯罪手段の残党が脅迫や殺人、テロ行為により共和国住民を恐怖に陥らせ、ダイナミックに動き始めた政治正常化へのプロセスを妨害することは明らかだ。その際、今まで見てきたように、そのような犯罪者たちによるテロ行為の標的となるのは、いつも庶民であり、民間人なのだ。

3年前われわれは、国にとって最も深刻な脅威は人口の急減、ロシア経済の脆弱性、国家機能の非効率性であると規定したが、これらの問題について、何か進展は見られたのだろうか。答えはYesとNoの両方だ。成功もあれば、失敗もまたあった。

最も急を要する問題の一つとして、ロシアの人口減少がある。これは主に出生率の低下と死亡率の上昇によって引き起こされた現象だ。

ここ近年、国民の死亡率は上昇を続けて、3年間で10%までになった。平均寿命も低下し続けた。悲しい数字だが、1999年には67才だったのが、2002年には64才になってしまった。

その一方で、同じ3年間で出生率が18%上昇し、子どもの死亡率も21%低くなった。子どもの死亡率は今、わが国の歴史上最も低い水準にある。

思い起こしてみれば、国家評議会(GOSSOVET)の枠内で最近保険医療への移行を促進することに関連する諸問題を検討した。このような制度は保健行政の財政基盤を著しく強化することに役立つだろう。そして今年の後半からロシアの16の地域の組織上の問題を検討した後、年金生活者の医療保険制度が全国規模で行なわれることになっている。

全ロシア国勢調査が行なわれたが、その結果、わが国の定住人口は、予備調査データでは1億4500万人以上であった。わが国の人口は減り続けている。例えその減り方のテンポが現行の統計数値よりも遅かったとしても、減り続けていることには違いは無いのだ。

出生率がいくらか上昇したと述べたが、わが国の人口は少し増えた。しかしながらその理由は出生率の上昇にあるのではなく、合法的移住にあるのだ。この10年間で主にCIS諸国から700万人の住民が流入している。

これは、国内ではいろいろな問題があったとしても、数百万もの人々にとってロシアは依然として、生活面および職業面で魅力のある国であることを物語っている。

3年前の最も深刻な問題の一つとして、経済と社会生活の急速なグローバル化が挙げられていた。

この3年間で、国際統合の流れの中でわれわれは重要な施策を行なってきた。

まずは去年の6月、ロシアはG8の正式メンバーとして迎え入れられた。G8の枠内でパートナー国と共に、われわれはわが国の利益を守るために活動を続けている。それとともに、現代文明の前に立ちふさがるさまざまな共通した問題にも力を注いでいる。最も重要な案件の例としては、大量破壊兵器の不拡散を目指したグローバルなパートナーシップがある。廃棄されたこのような兵器を再利用することで、われわれはロシアのいくつかの地域で環境を回復させることができる。

また、新生ロシアの歴史上最も高いクレジット・レーティングが実現したことをここで述べておきたい。

多くのロシア企業が、ヨーロッパおよび世界の最大手の仲間入りを果たしている。

そして最後に、3年前、わが国が直面する戦略上および基本的な試練として、ロシア経済の脆弱さが挙げられた。

あれから何が変化したのだろうか。

この3年間で、ロシアの国内総生産(GDP)は20%もの伸びを見せた。また、設備投資は30%以上、商品輸出高は25%もの伸びを記録した。そのうち設備、機械、輸送手段の輸出高は70%以上も増大した。全体としてはわるくない数字である。

この半世紀で初めてロシアは穀物の輸入国から輸出国に転じた。1999年から、海外市場におけるわが国の食料品売上高は3倍にも増大した。

石油、石油製品、ならびに天然ガスの輸出量は18%増え、その結果、今日ロシアは世界で最大の燃料・エネルギー資源輸出国となった。

IT分野も急速な発展を見せている。いわゆる「ニュー・エコノミー」がわが国でも進展しているのだ。同産業の製品の伸び率は、年間20〜30%にもなった。また、わが国の電話普及率においても著しい伸びが記録された。携帯電話のユーザー数は毎年倍化し、今や1800万人にものぼる。調査によれば、今日ロシアでは約1000万人がインターネットを利用している。わが国の成長した経済ポテンシャルは、数千万人の国民の生活を向上させるのに役立った。まさに経済成長によって、約4000万人が失業を脱却した。また、働き、賃金を得る可能性が増えたことにより、ストライキなどの規模も1997年の90万人から2002年の5000人以下まで減じた。

国民の実質所得は32%増大した。平均年金額について言えば、3年前の数字は最低限生活に必要な金額の70%にしか過ぎなかったが、去年度のそれは既に同等率になった。

国民一人当たりの最終消費はこの3年間で約30%の伸びを見せた。去年度のこの数字は3年前どころか、金融危機が起こった1998年、そしてその前の年である1997年をも超え、2002年にはわが国始まって以来の大きさを記録した。

これらの数字の裏には、数百万人もの国民にとって、巨額の資金が使えるようになったことがバック・グラウンドとしてあるのだろう。この資金により、人々の福祉が向上し、健康を維持し、また国のさまざまな難しい社会問題を解決することができたのだ。

それでもなお、わが国が達成した経済上の成果はまだまだ非常に小さいものである。

第一に、ロシア国民の4分の1が依然として最低生活費以下の収入しか得ていない。国民の4分の1がそういう状態にあると言うことは、驚くべきことだ。

第二に、国の経済成長はまだ非常に不安定である。例えば、2000年には工業生産は年間を通して成長したが、2002年には総合して6ヶ月しか成長期間が無かった。そしてその結果として、ここ数ヶ月の間、もう既に失業率は上昇し始めているのだ。

われわれはロシアの経済成長率が、まずはここ数年の世界規模の景気によって支えられてきたということを認識しなければならない。対外貿易の条件が、例が無いほど良好だったことによりロシアは経済的な優位を得ることができ、また収入も大きく伸ばすことができたのだ。

この収入の一部はわが国の国民の生活水準向上に向けられた。また、一部はロシア経済に投下された。さらに、一部は国家債務の返済に充てられた。その際、国家債務は4分の1に減らすことができた。そして最後に、その収入によりわが国の準備金の額を増やすことができたのだ。今日準備金の額は610億米ドルにも及ぶ。3年前この数字はたったの110億米ドルであった。この資金が無ければ、つまりは対外経済活動の好景気が無ければ、わが国の社会的・経済的発展における成功はもっと小さなものであっただろう。だからこそ、このような良好な状態が永続しないこと、必ず終わることを忘れてはならないのである。これに関連して、もう一つの問題に注意を向けてもらいたい。国家の社会的債務の年間総額は6.5兆ルーブルであり、この額はロシアの連結予算額の事実上2倍に相当する。そして国の行政および立法権力は国民に対し、長年にわたりロシア経済が生み出し得ないほどの債権を約束してきたのである。

こうして期待が裏切られたこと、空約束の数値が非常に大きくなってきたことなどが、現在、経済政策の質の低下につながっている。この状況は予算関係におけるゆがみと衝突を呼び起こしている。国家支出の伸びが経済成長率よりも速いテンポで増大している状況下では、期待できるものも少ないし、期待することさえも難しいのだ。

政府が自国民を欺くことはできないし、その権利も有してはいない。

そして最後に、インフラ寡占企業の製品ならびにサービスの料金は国家により調整されているが、その数字はロシア経済の自由セクターにおける価格の伸びを超えるテンポで上昇している。その結果として、経済資源を寡占セクターのために再分配することが多くなっているが、この寡占セクターのロシア経済における比重が大きくなってきているのである。その際指摘すべき点は、この寡占セクターが高い生産性を見せていないということである。このように、わが国の経済において、寡占企業は自由競争セクターに圧迫しているのである。政府はこのような動きに対し、もっと厳しく監視しなければならない。同じようなことがこの先続くとすれば、それはスタグネーションを招くであろう。

以上のことから言えるのは、対外経済関係の景気が良好な場合、また政治状況が安定しているときには、わが国の戦略目標を達成するためにその状況を利用することができる、ということだ。わが国としては、この先に目指すべき原則的な結果は、ロシアが豊かで強くそして尊敬される先進国の仲間に戻ることだろう。しかしながら、ロシアがこのような先進諸国の仲間入りをするのは、この国が真に経済的に強い国になってからのことになるだろう。つまりロシアは、国際的な金融機関や予見できない貿易の市場動向に振り回されなくなったときに、初めて先進国になるのだ。

このようなことは、国の成長が安定してしかもそのテンポが早いときにのみ可能である。また、安定してしかも速いテンポの成長は、競争力ある製品が生産されているときにのみ可能なのだ。わが国の商品、サービス、テクノロジー、アイディア、ビジネス、そして国家そのもの、私企業および国家機関、経営者、国家公務員、学生、教授陣、学術界、および文化、これら全てが競争力を持っていなければならないのだ。

経済成長の原動力となり得るものは、ロシア領土内で活動している、ロシアと外国の企業から構成される民間部門であることは明らかだ。また、ロシアのビジネス界自体が近代的で感受性が鋭く、柔軟性に富み、機動性の高いものでなければならないことも明らかである。現代のビジネス界は、ロシア企業精神の偉大な伝統を受け継ぐ資格を持つものでなければならない。そこに愛国心が加わっても、決して邪魔にはならないだろう。もう一度繰り返すが、わが国の成功はロシアの企業家の成功に大きく依拠しているのだ。

さらに、経済成長政策は社会政策と対峙した形で捉えられてはならない。ここで強調しておきたいのは、経済成長は何よりも先ず、国民の福祉向上のために必要であるということだ。

以前からわれわれは、現代世界の規範は厳しい競争であると考えていた。だからこそ、わが国の競争に対する能力、資源を勝ち取るための闘いへの準備、そしてわが国の影響力こそが、国内状況と国際関係におけるロシアの比重をダイレクトに決定付けるのである。このような将来的な発展に対するアプローチは、ロシア社会では広く言及されてきたし、受け入れられている。国家の高い競争力が最も重要な目標とならなければならないということについては、事実上、全ての影響力ある政治勢力ならびに国民が賛同しているのだ。そして今われわれは、このような目標が実際の国家権力機関と地方自治体の機関の活動にも設定されるべく、努力すべきなのだ。

ところが、ロシアの官僚は、国がその時々の状況の中で必要としている決定を下したり、実施したりする心構えが弱いようだ。それどころか、官僚は、自分が置かれた状況から、いわゆる「行政上の不労所得」を引き出すという慣習を身につけてしまったのだ。このことについては、私は去年も言及した。

わが国の官僚層は、今もなお大きな権限を有している。しかも、その権限範囲の大きさと権力の質とは、以前同様に合致していない。このような権力は多くの場合、国家機関の余剰機能がその源泉となっていることを、ここで強調しておきたい。一方、役人の数が非常に大きいにもかかわらず、国内では時代の要求にこたえられる管理要員(役人)や効率よく働いてくれる要員については、深刻な人員不足の状態が続いているのだ。このような状況は、行政改革の実施が、この区にとって絶対に必要だということを物語っている。

周知の通り、政府は各省庁の機能について数量調査を行なった。その結果、省庁が5000余りもの機能を有していることが明らかになった。しかしながら、各省庁は、このような機能を減らすのではなく、逆に増やすべきだと考えていることが調査過程で判明した。

この問題は非常に難しくはあるが、それにしても、行政改革の実施は余りにも遅れすぎている。どうやら、それを促進するために、政府を支援する必要があるようだ。政治的な渇をさらに入れる必要があるようだ。もちろん、そうするつもりだ。

考えるに、官僚に対しては、その食欲を抑えるように説得するのではなく、上からの力で制限することが必要なのではないだろうか。国家機関の機能を一気に削減する必要があるのだ。

社会的・経済的優先課題についても、いくらか述べておきたい。ロシア経済には質の向上や「急進」は必要がない、と言われているのをよく耳にする。

しかし、このような仕事への態度、このような事なかれ主義では、責任ある選択をし、すばやくそして首尾良く前進することは不可能だろうということを、ここで特に強く言っておきたい。その一方で、成長へのきっかけを実際に選択するという課題が現実味を帯びてくるのは、具体的な問題を解決する必要性に迫られた時のみであるということも理解している。そのような差し迫った問題はただし、非常に複雑で難しいのだが、既に存在するし十分に現実的なのだ。

この先の10年間でわれわれは最低でも、国内総生産(GDP)を倍にしなければならない。

GDPの倍増。それはシステム上の問題であり、またもちろんのこと規模の大きい課題である。その課題を遂行するには、経済政策に対する現行のアプローチを深く分析し、確認していく必要がある。しかしながら、重要なのはわれわれが今何をすべきか、そして何がわれわれに必要なのかを理解することだ。それは、繰り返しになるが、やはり政治勢力と社会の結束である。全ての権力の結束。最高の知力の統合。社会的・政治的機構の支援。議会と政府との協力体制。これら全てが必要なのだ。

皆一丸となって遂行していかなければならないもう一つの課題、それは、ルーブル通貨に完全交換性を持たせることである。その際、交換性は国内のみならず海外においても通用するものでなければならない。また、当座取引においてだけでなく、投資などにおいても交換性を持たせる必要がある。ロシアは過去において、世界で最も信頼でき、尊ばれた通貨を持っていたことを、ここで想起しておく。「ゴールド・ルーブル」の優位性は、ロシアという国自体の優位性でもあったのだ。

分かりやすく言うと、国は国際市場で自由に流通するルーブルを必要としているのだ。そして世界の経済体制との強固で信頼できるつながりが必要なのだ。

これが達成できるかどうかは、ロシアが世界経済に実際に統合され得るかどうかを図るフィルターでもある。一方、わが国の庶民にとって通貨の完全交換性は、海外に旅行に行く場合などにパスポートとロシアのルーブルがあればすぐに出発できるという意味である。

税務政策の原則は、税率評価と法規適用が簡素であること、課税が公平であること、そして税率が適度であることである。

わが国における税制改革は、残念ながら、恒常的かつ連続的に行なわれるようになってしまっている。もちろん、政府が提案した税負担の軽減は正しい方向への動きである。しかしながら、税法の改正頻度は許容範囲を超えている。率直に言うと、それは自分の仕事の質を問われている問題なのだ。つまり、仕事の質が低いということだ。それにより、国民の人生設計、国家の計画、経営者の計画、一般市民の計画を難しいものにしているのだ。今、税務政策において政府は初めて、年次計画から中期計画へと移行した。つい最近、この先3年間の税法改正が承認されたばかりだ。それはもちろんのこと、正しく、また重要で、必要なステップでもある。

今われわれはもっと先に進んで、わが国で長年にわたり適用される税務制度を開発しなければならないのだ。

もう一つ、国籍の問題という、多くの人々に関係する非常に重要な事項について述べたいと思う。

現在、ソ連邦崩壊後から新しい国籍法が採択されるまでの期間にロシアに入ってきた人々の数は100万人以上にもなり、それらの人々は非常に苦しい生活を余儀なくされている。ロシアに住み、働き、そしてその政治にも関わってきたし、またロシア軍で兵役を勤め上げた人々が、今になって自分の国で国籍を失うという状況が発生している。去年採択された法律は、移住民の流れに秩序をもたらし、透明性を持たせるという目的で施行された。しかしながら、その法律が施行されて、結果として出てきたものは問題の解決にはならず、逆に多くの人々に対して問題を引き起こしているのである。この状況を是正することは、われわれ皆の義務だと考える。

われわれは効果の高い移民政策を必要としている。国にとって有益であり、そして人々にとっては便利な政策でなければならない。特にCIS諸国の住民、お互いを理解し合える住民、同じ言語を使用する住民、ロシアの物価を共有する住民にとっては、有利に働く政策でなければならない。

ロシアは今後も、世界各国と友好善隣関係を維持していくだろう。そしてそれらの国々とともに、共通した問題を解決し、共通の利益を守っていくだろう。

ロシア対外政策の基本課題は、わが国が自国の利益を実演することである。その際に、国際法を遵守することは基本原則である。

この1年間で起こった出来事は、自国の利益を守るためにはやはり有効な外交政策と信頼できる国防能力が不可欠であることを再認識させた。

現代の世界では、国家間関係は、深刻で世界的規模を持つ現実的または潜在的な脅威があるかどうかに大きく依拠する。ここで言う脅威とは、国際テロや、大量破壊兵器の拡散、地域あるいは領土問題による衝突、麻薬の蔓延によるものを意味する。その際何らかの脅威が先鋭化した場合に、それが世界共同体であろうと、全体に対する脅威であろうと、個々の国に対する脅威であろうと、分かりやすく透明性に富み、そして広く受け入れられている決定採択のメカニズムの存在が非常に重要だと思われる。言うまでもなく、そのようなメカニズムの中で最も重要なのは国連とその安全保障理事会である。国連でも、決定がいつも容易に採択できるわけではない。状況によっては、全く採択できない場合もある。また、ある決議の発議国にその正当性を、他の国の前で裏付ける十分な理由付けがない場合もありうる。国連の決議は、いつも、そして全ての加盟国が納得できるものとは限らないのも確かだ。しかしながら、国連の他に、同様なユニバーサルな機構は、今のところ世界共同体にはない。だからこそ、国連を大事にしなければならないのだ。

各種国際機関を近代化し、その機能効率の向上を図ることは、もちろん必要なことだ。そしてロシアとしては、この方向の問題を審理することは大歓迎である。

国際問題に対するこのようなアプローチこそが、文明的で正しいのだと考える。このアプローチは、誰かを敵視するものでもないし、また逆に誰かに利するものでもない。これがわが国のスタンスであり、わが国の原則なのだ。そしてこれからも、このアプローチを遵守していくだろう。

ロシアは大規模な国際テロリズムの脅威と直面した最初の国の一つである。周知の通り、テロがロシア連邦の領土の保全性を脅かしていたのは、そう昔のことではない。テロ行為による、あの広く知られている大きな悲劇を経験した後になってやっと、世界では反テロ連合が形成されたのだ。しかもその形成過程はロシアとアメリカ合衆国、その他の国々との協力で成し得たものであり、アフガニスタン情勢においてはテロの脅威に対するその連合の大きな効果が示されたのだ。

ロシアとしては、形成した反テロ共同体を大事にしたいと考えているし、その共同体をテロとの闘いにおける国家間協力の調整ツールとしても大切にしたいと考えている。また、国際法に基づいた、反テロ同盟の枠内における良好な協力体制は、各文明国家にとって共通した脅威との戦いにおいては、団結の良い例となるだろう。もう一度強調しておくが、ロシアは安定して予見可能な世界秩序に関心があるのだ。このような秩序こそが地球全体ならびに各地域における安定をもたらすことができ、また、全体として政治ならびに経済の発展を保証することができるのである。またこのような図式は、世界の最重要課題のひとつである貧困との闘いにも役立つのだ。

われわれにとって対外政策の最優先課題は、もちろんのことCIS諸国との関係強化である。CIS諸国はわが国の最も近い隣人であり、幾世紀にも渡る歴史的、文化的、経済的関係がわれわれを一つに結束させているのである。また、われわれの発展がお互いに依拠し合っていることは明白な事実である。さらに、CIS諸国には数千万人のロシア人が暮らしているのである。率直に言えば、われわれはCIS圏を、わが国の戦略的利益圏として見ている。われわれはまた、ロシアもまたCIS諸国にとってそれぞれの利益圏であると認識している。一方わが国としては、CIS圏における安定と経済発展に関心を向けている。

CIS圏で進んでいる、統合に向けたさまざまな経済的プロセスは、CIS諸国の世界経済への統合と深く関連したものであり、その統合がさらに力強く、そして全てのパートナー国にとってより良い条件で成されることにも役立っている。

さらに、世界で発生した一連の事件は、われわれが集団的安全保障条約機構(CSTO=Collective Security Treaty Organization)の支援を選択した適正さと適時性を裏付けるものである。われわれのすぐ近くには、現実的なテロの脅威が発生する源泉が少なからず存在するのだから、それも当然だ。CSTOのパートナー国と共に、われわれは旧ソビエト連邦の広大な空間で、安定と安全を保障する義務を負っている。

わが国の対外政策における重要要素は、ヨーロッパに対し広範に近づくことと、現実的な統合を図ることだ。もちろんこれは、困難で長い時間を要するプロセスだ。しかしながら、これこそがわれわれが取った歴史的な選択肢なのだ。そして、それはある程度成し遂げられているし、継続して実現されつつある。現段階においては、二国間関係の活性化を図ること、EUとの戦略的パートナーシップを進展させることにより、またECへの積極的な参加を通じてそのプロセスを実現している。ロシア国民の利益を含めて、われわれはヨーロッパ諸国とともにカリーニングラード州とその他のロシア連邦領土との間の通過問題について、政治的妥協点を見出すことができた。

「大ヨーロッパ」の利益とわれわれの利益を実現するためには、お互いに向き合った新しい有意義なステップを踏み出すことが必要である。このことは、ヨーロッパ諸国とロシア連邦の一般市民、ビジネスマン、文化や学術協会のメンバーなども関連している。全欧プロセス進展の目的は分かりやすいものだ。それは市民の自由な往来、統一した経済圏の形成を可能にすることだ。しかしこれは、目標としては最も近いものではない。先にあげた目的を達成するには、難しく、またまだまだ長い道のりを克服する必要がある。しかしながら、全欧プロセスの推移はこのような計画の実現が現実的であることを物語っている。そしてECの多くの加盟国がわれわれのこのアプローチを支持している。

次に、わが国の軍改革について述べたいと思う。

軍改革においてキーポイントとなる問題は、本質的な装備更新、人員補充原則の改善、ならびに軍隊の構造そのものの改善である。強く、そしてプロ意識を持ち、また装備が整った軍隊は、わが国の順調で平和裏な発展にとって不可欠である。軍隊はロシアとその同盟国を守る能力を持ち、また共通した脅威に対しては、他の国々の軍隊と効率良く協力し合えるものでなければならない。承認された計画に従って、われわれは歩兵隊、空挺隊、海兵隊の中に、職業意識を持った、いつでも出動できる準備を整えた部隊を今後も形成していくつもりだ。この作業は2007年に完了することになっている。また、国内軍および国境警備隊の中にも、職業軍人を中心とした部隊が結成されるだろう。

分かりやすく言えばこれは、万が一ロシアが危険地帯や局地衝突に巻き込まれるようなことがあれば、そのような挑戦に対してはよく訓練されて職業意識を持った部隊のみが対処できるだろう。

さらに、わが軍の下士官級の人員構成を職業軍人化する作業は、これまでよりもさらに早いテンポで行なわれることに言及しておきたい。2008年からは召集による兵役期間は1年に短縮される。召集された者は最初の半年は、教育部隊で軍事知識を習得することになる。その後各人は、一般部隊で残りの半年を過ごすか、あるいは契約による職業的任務につくか、選択できるようになる。契約により3年間兵役についた者は、国庫負担による高等教育を受ける権利を保障されるなど、さまざまな特典を与えられることになる。

また、CIS諸国の市民をロシア軍の職業的任務に受け入れることについても、基本的な決定が採択されている。3年間の契約による任務を終えた者には、ロシアの市民権を、簡素化された手続きにより得る権利が与えられる。

これまで述べてきた多くの事項は、法的手続きを経る必要がある。この関連において、皆さんの支持をお願いしたい。今後わが軍の装備を充実させ、近代的なものに転換していくことが予定されている。周知の通り、このような装備更新プログラムは既に作成され、承認され、そしてもちろんのこと、実施されるだろう。

軍改革の重要な要素となるのは、抑止核戦力の強化と近代化である。

また、新しいタイプの兵器、新世代の兵器の開発も既に着手されていることをここで発表しておきたい。そのような新規開発兵器には、本来は戦略兵器に分類されるものも含まれる。またこのような兵器により、ロシアならびにその同盟国の防衛能力を長期にわたり、高いレベルに維持できるだろう。

もう一度繰り返すが、わが国には戦闘能力の高い軍隊が必要なのだ。また、そのような軍は、知的な士官構成と高い職業意識を持った下士官構成を有していなければならない。そして最後に、兵士は母国に尽くす覚悟を持っていなければならない。

ロシアの発展の展望と、われわれがさまざまな問題を解決し得るかどうかは、ロシア議会下院(ドゥーマ)の選挙結果に大いに左右されるだろう。

近年立法府と行政府との関係は、質的に改善されてきている。対立関係が建設的な協力関係になり、相互作用も始まっている。

わが国の社会における精神的な高揚の重要な兆候として、国際テロとの闘いや、領土保全、ならびにわが国の対外政策における努力に対し支持を表明する、責任感の強い政治家たちが見せる団結心が挙げられる。いかなる誇大も排して述べるが、わが国のこのような政治家に対し、心から感謝の意を表したい。

その一方で、わが国の政界の中で憂慮を呼び起こすいくつかの兆候も見られる。まずは、政党の資金調達メカニズムが未だに公開されていないことが憂慮される。選挙前やその他の政治工作は、今日ブラック・エコノミーを構成するセクタの一つとなっていることは確かだ。

われわれはしばしば、ロシアの偉大さについて語る。しかしながら、偉大なるロシアはただの大国であってはならない。ロシアは近代化され、発展した社会であり、それは自然に発生するものではない。

完璧で発展した市民社会は、国家機構の機能を思い切って削減した状況下で、また、異なった社会グループ間の不信感を克服した状況下でのみ発生し得るものだ。

しかしながら、このようなことが実現するのは、国が直面する戦略課題について、全国的に統一の取れた評価が得られたときのみである。このような状況を、各政党の活発な参加を得ずして成し遂げることは不可能である。今年の下院選挙は、わが国の複数政党制、意思表明の自由、活動の効率性向上、そしてロシア国民に対する責任感を発展させる、次なる段階となるだろう。

社会の結束に基づいた、強く、そして責任感のある権力は、国を維持するためには不可欠である。強力な権力がなければ、未来への飛躍も不可能である。

もう一度強調しておくが、われわれは今、深刻な問題と脅威にさらされている。そして、世界における激しい競争の中で生き残るためには、賢く強くなければならない。

一方、われわれはただ生き残るだけではだめなのだ。わが国は経済においても、知性においても、精神においても、また軍事面においても、優位に立たなければならない。このような方向でのみ、われわれは多くの超大国の中における自分たちの地位を守ることができるのだ。

それだからこそ、もう一回繰り返すが、われわれの最重要課題は次の事項であると考える。

− 国内総生産を2倍にする。
− 貧困を克服する。
− 軍改革を敢行する。

わが国の社会は、上記の目標を2010年までには達成できる状態にあると思う。そして、それら目標を達成するための基盤となるのは、社会勢力の結束、ロシア連邦憲法の絶対性および市民の権利と自由の保証であると考える。

既に述べたように、私は社会生活における政党の役割を強化する方針には支持を表明する。そして、これから行なわれる議会下院選挙の結果を考慮に入れて、議会の大多数に支持される、職業意識に溢れた、効率的な政府が形成できると考えている。

ロシアは必ずや、それに見合った高みまで上昇することができると信じている。われわれの知性、権力、および精神的なリソースを結集することにより、ロシアは最も大きな目標を達成することができるだろう。

以上

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