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原発と航空機テロ 

 

六ヶ所村核燃サイクルと航空機テロ

 2001年9月11日に起きた世界貿易センタービル、アメリカ国防総省への自爆テロを目にしたとき、誰もが、もし、あの標的が原子力発電所であったら…と背筋の寒くなる思いを抱いたことと思います。さらにその標的が原子力発電所ではなく、核燃料がその数百倍も集まる核燃料サイクル施設であったらどうでしょうか。「下北半島六ヶ所村核燃サイクル施設批判」(1991年、七つ森書館)のなかで、著者の故高木仁三郎はこの施設が航空機事故に巻き込まれる危険性をすでに指摘しています。

 青森県下北半島のほぼ中央に位置する六ヶ所村に現在建設されつつある核燃料サイクル施設(核燃施設)は、完成後の放射能・核物質の集中度に於いて世界最大級の施設となります。再処理工場には使用済み核燃料が3,000トン、廃棄物管理施設には海外から返還される高レベル廃棄物のガラス固化体が、1,400本、低レベル放射性廃棄物貯蔵センターには低レベル放射性廃棄物20万本が貯蔵される予定になっています。再処理工場に集められる使用済み燃料だけとってみても、その放射能の量は一兆人分以上の人の致死量に相当し、これ一つでも世界有数の再処理工場になります。

 この施設がどんなところにあるかといえば、周りは軍事基地に囲まれていて、北には海上自衛隊大濱基地、防衛庁下北艦砲射撃所、陸上自衛隊六ヶ所対空射所があり、すぐ南には、米軍三沢地射撃所、米軍三沢基地、航空自衛隊三沢基地が、ひしめいています。これが、テロの目標として、攻撃されたら、どんなことが起こるのでしょうか。

 高木さんと共同でライトライブリフット賞を受賞した、マイケル・シュナイダー(Mycle Schneider)さんが主催するワイズ・パリス(WISE-Paris)では、フランスにあるラ・アーグ核燃料再処理施設が、もし、このようなテロの目標になった場合に何が起こるかを分析していますので、紹介します。






ラ・アーグ再処理施設には、全フランスの原子力発電所にある核燃料の総計を遙かに越えた放射性物質が貯蔵されている。2001年6月30日現在、7,484トンの使用済核燃料、55トンの分離されたプルトニウム、1,400立方メートルの高レベル放射能ガラス固化体、11,650立方メートルの放射性ヘドロ、数千立方メートルの低レベル放射性廃棄物、その他、燃えやすい有機溶媒等の化学物質等等が貯蔵されている。使用済み核燃料は5つの冷却プールに貯蔵されており、全貯蔵容量は、13,990トンで現在その半分程が使用されている(COGEMA社発表)。このような核施設の安全対策はどのようになっているのか。

●事故の確率予測について

これまでは、原子施設に航空機が衝突する確率は非常に低いので、ほとんど考慮しなくても良いと考えられていた。せいぜい、小型のセスナ機の衝突位しか想定されていなかった。9月11日以前は誰もが、大型旅客機が、核施設に激突してくるなどという事態は全く想像もしていなかった。

●原子炉を含む核施設の建物はどのくらい丈夫に造られているか

原子炉は、小型セスナ機の衝突を想定している。セスナ機はボーイング767旅客機の重量の120分の1,燃料は260分の1である。建物はセスナ機の衝突に耐えられる程度にしか出来ていない。この状況は、フランスのみではなく、世界各国の原子炉に共通である。燃料を大量に積んだ大型旅客機が激突してきた場合には、その衝突のエネルギーだけでなく、爆発や、大量の燃料による火災の影響も考えなければならない。大型旅客機が積載した燃料が燃え出すと、その温度は2000度に達するため、コンクリート製、鋼鉄製を問わず、この温度に耐えられる建造物を造ることは不可能だ。

●事故による被害の大きさ

5つある使用済み核燃料冷却プールのうちの、最小のプール(容量、3,490トン)に半分だけ、使用済み核燃料が貯蔵されていると仮定して、そこに爆発あるいは火災が起きた場合を想定する。チェルノブイリ事故による長期放射能汚染の影響の3/4は、セシウム137によると考えられている。そのため、事故想定はセシウム137に限定する。もし、100%のセシウムが放出されたとすると、チェルノブイリ事故時に放出されたセシウムの67倍に相当する量が放出される。言い換えれば、そこに貯蔵されている燃料の1.5%が、放出されただけで、チェルノブイリ事故に相当するセシウム汚染が起こることになる。

COGEMA社は、「ワイズ・パリスの行ったセシウム放出の想定は、非現実的であり、何の根拠もない」と新聞発表した。しかし、アメリカの安全規制委員会(NRC)の調査では、「貯蔵プールのある建物にボーイング767が激突すれば、その施設内をコントロールしている安全装置、すなわちエネルギー供給装置、熱交換装置、補助水源なども破壊される。そのため、航空機が激突したプールが破壊されるだけでなく、その周辺にあるプールや、大量の放射性物質が入った建物にも深刻な被害が及ぶ。その結果、放出される放射能は一つのプールから放出される量を遙かに上回り、その被害は計算することも出来ないほどになる。」とされている。

●COGEMA社の見解について

COGEMA社は「ラ・アーグ核施設の防衛は、国防省にその責任がある。空軍は、緊急の場合には2分以内に発進して、この方面に飛行しようとする航空機を撃ち落とす」といっている。しかし、ラ・アーグ核施設から30km離れた空港から、定期航空便が核施設の上空まで達するのは、2分30秒である。

COGEMA社は、「核施設上空の飛行は禁じられているから、そのようなテロはない」と言いたげである。



再び六ヶ所村・核燃料サイクル施設について

 ラ・アーグ核施設で予想されるテロによる被害は、六ヶ所村・核燃料サイクル施設(右・写真)でも同様に起こる可能性があります。また、これに加えて軍事基地に取り囲まれた六ヶ所村・核燃料サイクル施設は、軍事基地攻撃の巻き添えになる可能性も高いのです。

このように、原子炉建屋や核燃料貯蔵施設本体への航空機の激突や誤爆といったハードな面のみではなく、コンピューターで制御されている安全装置や周辺施設・機器等が攻撃の対象になっただけで、大事故に発展することも充分に考えられます。このような施設の存在が、許されるのでしょうか?

現在我々に出来る最善の選択は、核燃料サイクル施設の建設を中止することです。

六ヶ所村がラ・アーグのように、人類のみならず全生命を脅かす存在にならないためにも。




関連リンク


WISE-Paris

COGEMA社(La-Hague)

日本原燃(株)

原子力安全委員会・意見質問箱(テロ対策への見解が載っています)