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総合的学習にむけた原子力教材の問題点

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原子力安全委員会傍聴記録

 

学校教育が電力会社、日本原子力文化振興財団の宣伝の場にされて良いのでしょうか? 

         高木学校・原子力問題研究グループ 崎山 比早子

総合的な学習の時間とは

 本年度から本格的に「総合的な学習の時間」が始まりました。文部科学省によりますと「総合的な学習の時間は、「横断的・総合的な学習や児童・生徒の興味・関心などに基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる事や、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考える事ができるようにすることなどをねらいとする」とあります。 

「総合的な学習の時間」における学習活動に関して、「新学習指導要領では国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動、生徒が興味・関心、進路に応じて設定した課題について、知識や技能の深化、総合化を図る学習活動、自己のあり方、生き方や進路について考察する学習活動が例示され、大枠が示されているだけである」。(エネルギーと環境、学事出版より)

 この状況を利用して、各学校の創意工夫を生かした教育活動が可能であると称し、電力会社、日本原子力文化振興財団が原子力教育に関する教材を無料で配付し、講師を派遣して原子力安全教育を推進しています。

教材の何が問題なのでしょうか

 文部科学省が総合的学習の時間で養成しようとしている「主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる」ためには、生徒一人一人が公正な判断材料を持つ事が求められます。その一方、判断を仰ぐ側としてはプラスの情報とマイナスの情報を提供する義務があります。しかし、原子力教育のために配付されている教材、教員の研修会、派遣されて来る講師は、一方的に推進側の主張に偏ったものであり、著しく公正さを欠いています。このような教材の内容は子供達の理解力、判断力をつけるという教育の本来の目的に相応しいものなのでしょうか?

  この教材の内容が科学的見地から見て、昨今マスコミ等でも取り上げられている一部の歴史教科書と同様に恥ずかしいものではないといえるでしょうか?判断に供する「情報」として著しくバランスを欠いていることが何よりの問題だと考えます。

原子力推進政策を学校で宣伝・教育することが許されるのでしょうか

 文部科学省が一方的な原子力推進教育をすることは「子供が自由かつ独立の人格として成長する事を妨げるような国家的介入であり、過った知識や一方的な観念、価値観を植え付けるような教育を施す」事になり、これは教育基本法の精神にも反します。      

原子力推進教育が進められている背景    

 原子力発電に対する住民投票はこれまで3回(巻町、刈羽村、海山町)行われ3回ともに反対が賛成を上回りました。このうち刈羽村の投票は、プルトニウムをウランと混ぜて作られたMOX燃料を、ウランを使用燃料として設計された原子炉で燃やすといういわゆる「プルサーマル計画」の是非を問う住民投票でした。この計画が頓挫したことにより、再処理によって出て来るプルトニウムを使うための唯一の方法が挫折しました。この事により日本は余剰のプルトニウムを持たないという国際公約に違反する事になります。経済産業省、文部科学省は危機感を強め原子力推進キャンペーンを展開しています。そのために獲得した原子力宣伝関係予算は経済産業省では前年度の7倍(7億円)、文部科学省では新たに「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」の約5億円です。

「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」の財源は電源開発促進対策特別会計(電源特会)の中の原発立地対策すなわち発電用施設の設置の円滑化に資するための財政上の措置のための予算。平たくいえばこれまで買収などに使われていた財源です。

支出目的は「副教材の作成・購入、教員の研修、見学会、講師派遣など」となっています。

学校が何故原子力推進教育のターゲットに?

 日本原子力文化振興財団から出されている「原子力PA(Public Acceptance)方策の考え方」の中にも原子力広報の対象として「不安感の薄い子供にはマンガを使うなどして必要性に重点をおいた広報がよい」、「医師、教師など公共的な信頼性のある人々に向けて行うと良い」と記されており、学校が広報のターゲットにされている様子が窺えます。目的のためには教育をゆがめてまでも・・という手段を選ばない推進側のやり方は未来をになう子供達にどのように影響するでしょうか?

 総合的な学習の時間の内容は、建前では各学校の裁量に任されているので、文部科学省は責任を学校に転化しやすくなっています。現に2002年2月14日に衆議院議員会館で行われた文部科学省との折衝において文部科学省側から「おのおのの学校でその中身などを決めることになっている」との発言がありました。

不公正な教材及び資料

 総合的な学習の時間向けに、日本原子力文化振興財団から「エネルギーと環境」(中学、高校生用)、が無料で 配付されています。この教材の参考資料には原子力推進政策を進めて行く上で不利になるような書籍は一切あげられていません。

 東京電力からは無料で小学、中学生向けに「やってみよう!考えよう!資源・エネルギー」「サイエンスキッズ」新未来へのパスポート「What’s Energy」等が配布されていますが、これらの教材や資料の中では原子力発電のもつ負の部分には一切触れられていません。

ここで取り上げた教材:

環境学習ブック「やってみよう!考えよう!」資源・エネルギー (小学生、中学生)

                発行:東京電力株式会社営業部サービスグループ

「サイエンスキッズ」科学マガジン NO18,2001年、特別号Energy & Science,2001年

What’s Energy          発行:東京電力株式会社原子力計画広報グループ 

「エネルギーと環境」高等学校教材開発委員会:編著 学事出版

具体的な問題点

 教材の問題点をあげればきりがない程ありますが非常に重要で、子供達に誤った考え方を植えつける恐れのあるものについてあげます。

1) 核燃料は97%リサイクルできる(サイエンスキッズ、特別号Energy & Science,2001年、What’s Energy)。

 ・これがリサイクルといえるかどうかはまず置いておくとして。

 ・リサイクルするために使用済み核燃料を再処理しますが、その過程で出る環境汚染、再処理行工程での事故の可能性、もし重大事故が起きれば広範な大地が汚染され、半永久的に居住不能になる可能性、被曝労働者、プルトニウムの管理の難しさ、等々には一切ふれていません。

  使用済み核燃料の中に含まれる1%のプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜてMOX燃料にする計画ですが、そのMOX燃料を燃やすプルサ?マル計画自体が、相次ぐトラブルや事故隠しといった不祥事もあり、立地自治体の受け入れすら困難な状況で、全く見通しがありません。

・ 残りの96%を占めるウランは放射能レベルが高く再利用計画はありません。これは東京電力自身の回答です。

 ・「化石燃料が無くなってもリサイクルした核燃料があればエネルギーは大丈夫」という主張は「化石燃料がなければ原子力発電所は動かない」という事を故意に隠しています。

2) 地球温暖化に原子力?

原子力発電所からは二酸化炭素の排出が少ないので温暖化防止に役立つという主張。

この議論は二酸化炭素排出量を産業部門別に見れば、まやかしであることがわかります。発電による二酸化炭素排出量は全排出量の30%程度に過ぎません。70%は産業部門や運輸部門などから発生しています。従って原子力発電の割合を政府の目標である50%に上げたとしても、地球温暖化防止京都会議(COP3)の温室効果ガス削減目標を達成するには程遠いのです。原子力発電を選択した場合、事故等のリスクを考えればこの無理な数字あわせすら意味を持ちません。二酸化炭素は運輸部門や民生部門で削減するのが効果的です。

3)高レベル放射性廃棄物の処理方法について。

  これは非常に重大な問題ですが、小中学生用教材では廃棄物の処理については一切触れられていません。

  高校生用教材では「最終処分の具体的な方法はまだ決まっていません(エネルギーと環境)。」と開き直って記載。それでもなお現実に廃棄物は毎日たまっている。後の世代にどうする事も出来ない負の遺産として末永く残します。

  これについては高木学校から出されたパンフレット「どうする高レベル放射性廃棄物」 を参照してください。

4)原子力施設の事故について小、中学校用の教材では一切触れていない。

  高校用の「エネルギーと環境」にJCO事故について、「どのような事故だったか調べてみましょう」とあるのみ。世界的にも大事故であったと認識されている、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故すら記載がありません。

  事故については5重の守り(多重防護)があるから心配ないと記載されていますが、それでもなお現実に事故が頻発している事、安全装置自身の故障も起きている事に関しては全く無視しています。

5)地震によって原子力施設に事故が起きたら?

  現に東海地震は何時起きるか分らない。そこに老朽化した原子力発電所がある事について全く忘れているかのようです。

  地震による災害に加えて原子力事故が起こったら、どのような惨状になるのか。少なくとも原子力震災という言葉を提唱した神戸大学の石橋克彦さんの著書を引用するくらいの良識を期待したいものです。

6)使用済み核燃料は10年以上、常に冷却しておかなければならない事には触れていない。

  冷却に失敗すれば大事故になります。

7)防災についての記載が抜け落ちている。

  事故についての記載がない以上、防災対策について記載するなど期待すべくもありませんが、最低限、身を守る方法やヨウ素剤についての知識は教えておくべきではないでしょうか。

8)廃炉の経費

  朝日新聞(2002年3月31日付)に廃炉になった原子力発電所を解体する費用が30兆円と算定されたと報道されました。これには高レベル放射性廃棄物の処分費用は含まれていません。30兆円費やして出て来るものは放射性廃棄物のみです。そしてその料金は電気代に上乗せされるか、税金で支払われるかのどちらかです。

  廃棄物を長い年月にわたって私たちの生活環境から完全に隔離しておく方法はないのです。

みなさん!!

東京電力に請求すれば教材は無料で送られます。

記載された内容がどのようなものであるのか、学校で教えられて良いのか、考えましょう。

そして文部科学省、日本原子力文化振興財団、電力会社に抗議しこのような教材を回収するように働きかけましょう。