反占領・平和レポート NO.37 (2003/10/5)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.37

空軍将兵27名の軍務拒否<続報>
「裏切り者攻撃」の嵐
−−イスラエル社会の根幹が激しく揺さぶられている−−
27 Israeli Air Force Pilots who Declared to Refuse < Followed Information >
A Storm of Assaults, " Traitor " -- The Core of Israel Society being Shaken Strongly --

[翻訳]
(1)「すばらしい27名」by ウリ・アヴネリ(「グッシュ・シャロム」ウエブサイ トより)
(2)「元イスラエル空軍司令官アモス・ラピドット将軍(退役)の声明」(「グッシュ・シャロム」配信メールより)
[TRANSLATION]
(1) " The Magnificent 27 " by Uri Avnery
(2) " Statement of former IAF commander General (ret.) Amos Lapidot "


■イスラエル軍・政府・マスメディアが一体となって「裏切り者」攻撃
 9月24日に27名の空軍将兵が占領地のパレスチナ人居住地域への空爆命令を拒否する宣言を行ない、同時に公然と占領を批判したことが、イスラエル社会の根幹をなす軍を激しく揺さぶっています。
 前の「反占領・平和レポート No.36」では、「女性連合」のギラ・スヴィルスキーさんから届いた速報を翻訳紹介しました。今回は、その続報として、いっそう詳細な内容紹介と現地情報をレポートします。「グッシュ・シャロム」のウリ・アヴネリ氏による9月27日付け論説と、元空軍司令官アモス・ラピドット退役将軍の支持声明(「グッシュ・シャロム」から9月30日に届いた配信メールに載ったもの)です。

 現在イスラエルでは、軍・政府・マスメディアが一体となった「裏切り者」攻撃の嵐が
吹き荒れています。アヴネリ氏はこう述べています。「体制としての軍、イスラエルの真の政府である軍は、危険を感知して、かつてなかったような反応を見せた。軍は、荒々しい中傷と扇動と人格攻撃のキャンペーンを開始した。」「反動攻撃はメディアによって先導された。メディアは、今回の場合ほどその真の姿をさらしたことは、かつてなかった。すべてのテレビ局、すべてのラジオ局、すべての新聞が−−例外なしに!−−、軍司令部の下僕、代弁者としての自らの姿をあらわにした。」と。

■昨夏のガザ1トン爆弾が転機
 2000年9月末にはじまる今回のインティファーダに対する弾圧の中で、イスラエル軍による国際法違反と戦争犯罪がどんどんエスカレートし、イスラエル軍将兵の中に良心の呵責に苦しむ者が増えていきました。そしてついに、昨年2月末、53名の予備役将兵による占領地での軍務拒否宣言と呼びかけが行なわれたのでした。(「占領地での軍務拒否を宣言した兵士たちを支持し応援するオンライン署名を!」「軍務拒否宣言」参照)
 「グッシュ・シャロム」は、それに先立ち1月9日に公開討論会を開き、イスラエル軍による戦争犯罪と国際法違反について、調査し追跡し告発することを決めました。そして現在にいたるまで、他の人権団体とともに粘り強くとりくみ続けています。

 昨夏、ひとつの大きな転換点がおとずれました。7月22日深夜、ハマスの1人の指導者を殺すために、ガザの住宅密集地に F-16戦闘機で1トン爆弾が投下され、9人の子どもを含む17人が殺され160人以上が負傷しました。この空爆の隠された真の狙いは、当時成立寸前であったパレスチナ諸勢力の一方的停戦合意を吹き飛ばすことでした。「ガザの虐殺」参照)
 「このことで多くのパイロットが深く悩んだ」とアヴネリ氏は述べています。

 このときには、国際社会からも大きな非難の声が上がり(私たちもそれに合流しました)、シャロン政権は一時苦境に陥りかけました。当時、労働党は連立内閣に加わってシャロン政権を支えていましたが、労働党の動揺という形でシャロン政権は崩壊の危機に立ちました。その直後です、「グッシュ・シャロム」が魔女狩り的迫害を受けはじめたのは。苦境に陥ったシャロン政権が、内部の敵=裏切り者を捏造して政権の危機を乗り切ろうとしたのです。そのとき持ち出されたのが、まさに「グッシュ・シャロム」によるイスラエル軍の戦争犯罪と国際法違反の調査・追跡・告発でした。(「グッシュ・シャロムが魔女狩り的迫害を受けている」「続報1」「続報2」参照)

■エリート中のエリート、一族一門のような空軍、そこに走った亀裂
 アヴネリ氏の論説を読めば、空軍が軍事国家イスラエルの最も堅固な支柱であることがよくわかります。その空軍に亀裂が走ったことは、イスラエル国家の一大事です。しかし、あるいはそれだからこそ、事態は簡単に進むわけではありません。アヴネリ氏は、そのことを冷静に評価して、「おそらく今回は、中傷、脅し、懲罰によって、パイロットたちを封じ込めることに成功し、他の潜在的反逆者たちに思いとどまらせることに成功するかもしれない。」と述べています。実際、10月4日の共同通信の報道によれば、2人が署名を取り消したと報じられています。

 しかし、イスラエル社会の大きな変化、地殻変動とも言えるような変化が起こりはじめたのはまちがいありません。「27人のメッセージは、既に書かれたのであり、何ものもそれを消し去ることはできない。」「いつの日かイスラエルは、この勇敢な27人に巨大な負債を負うていることを認識することになるであろう。」とアヴネリ氏は結んでいます。

 なお、元イスラエル空軍司令官アモス・ラピドット退役将軍の声明は、事を穏便に済まそうとする傾向や「テロとの闘い」を正当化する側面をもちながらも、27名の空軍将兵たちの行動を是認し支持する意見が有力者の中からもあがっていることを示しています。
今イスラエルでは、連日このことに関する記事でもちきりだと伝えられています。
※TUP速報181号(03年10月1日)で、萩谷良氏訳「イスラエル軍の反戦の動き」が2本紹介されている。「イスラエル空軍予備役飛行士27名、パレスチナ民間人爆撃を拒否」9/24 グレッグ・マイア (ニューヨークタイムズ)。「イスラエル空軍飛行士たち暗殺フライトを拒否」9/25 コヌル・アーカート(ザ・ガーディアン)。
 http://www.egroups.co.jp/message/TUP-Bulletin/186

2003年10月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[翻訳(1):「グッシュ・シャロム」ウエブサイトより]
すばらしい27名
ウリ・アヴネリ/03.9.27

 1年半前、イスラエル人の小グループが、深く堅固な塹壕で守られたタブーを破ることを決意し、戦争犯罪の問題を提起した。そのときまでは、IDF(イスラエル国防軍)は「世界で最も道徳的で慈悲深い軍である」という公式の決まり文句が、自明の事とされていた。したがって、そのようなこと(戦争犯罪)は全くありえないこととされてきた。

 「グッシュ・シャロム」の運動は(私もその一人だが)、テルアビブでの公開討論集会を呼びかけ、我が軍がそのような犯罪を犯しているかどうかを議論するために、一群の教授たちや名の通った人々を招待した。その夜のスターは、ヨーム・キプール戦争(訳注: '73年の第4次中東戦争)でエジプトを打ち負かした英雄であるイーガル・ショハット将軍であった。彼の負傷した脚は、エジプト人外科医によって切断されねばならなかった。彼は、帰還するやいなや医学を学び、自分自身が医者になった。

 感情が高ぶって震える声で、彼は、仲間たち空軍パイロットへの個人的アピールを読みあげた。それは、仲間のパイロットたちに、「不法の黒旗がなびいている」命令を拒否するように呼びかけるものであった。(この表現は1957年のカフル・カセム虐殺事件裁判で軍事法廷判事によって用いられた言葉である。)たとえば、「目標を定めた殺害(targeted liquidations)」のためにパレスチナ人住民居住地域に爆弾を投下する命令など がそれにあたる。

 そのスピーチは強い反響を呼び起こしたが、軍司令部は「ダメージ・コントロール」に成功した。空軍司令官ダン・ハルツ将軍は、おそらく参謀長モシェ・ヤアロンをのぞけば最も強硬なイスラエル軍士官であるが、パレスチナ人居住地域に爆弾を投下するときに何を感じるかと尋ねられて、こう答えた。「ちょっとした衝撃を感じる。」と。彼は、そのような攻撃の後でも「よく眠れる。」と付け加えた。

(訳注:ここで述べられている「公開討論会」は、前書きで紹介した昨年1月9日の公開討論会のことだと思われる。)

 ショハットの呼びかけは、希薄な空気の中に蒸発したかのようだった。しかし、そうではなかった。その種は、ゆっくりと成熟した。この過程は、ひとりのハマス指導者を殺すためにガザの住民居住地域に1トン爆弾が投下され、17人の男女と子どもの生命が突如として奪われた後に、一挙に加速した。このことで多くのパイロットが深く悩んだ。今、彼らの中の27人の良心がはっきりと表明された。

 イスラエルの神話の中で、戦闘パイロットはエリート中のエリートである。彼らの多くはキブツ出身者である。キブツ(訳注:イスラエルの理想を追求した共同体)は、かつてイスラエルのエリート層とみなされていた。元空軍司令官エゼル・ワイツマンは、かつて「飛行のための最良の男たち[The Best Boys for Flying]」というフレーズを考案した。(そしてすぐ後に、軍の典型的なマッチョ[男らしさを強調する]スタイルで「そして、飛行士のための最良の女たち[and the Best Girls for the Flyers]」と付け加えた のだが。)

 パイロットたちは、幼年期から次のような信念をもつように育てられる。我々は常に正しい、我々の敵は下劣な殺人者だ、軍司令官は決して間違いを犯さない、命令は命令であり何故ということを理屈っぽく考えないことが本分である、プロ意識に徹することが最高の徳である、問題は軍内部で解決されねばならない、政治的指導部の権威に疑問をさしはさまない、と。我々のすべての戦争でイスラエルが勝利したことにおいて、軍が果たした役割についての、ひとつのまとまった神話が存在している。1948年のちっぽけなパイパー航空機からはじまり、1973年のヨーム・キプール戦争でのエジプト空軍の破壊、等々。

 空軍は、もちろん、非協力者を受け入れない。飛行訓練候補生たちは、注意深く綿密に吟味される。軍は、性格と思想の両方において信頼できる堅固でしつけのいきとどいた若者たち、シオニストとシオニストの息子たちを選ぶ。

 さらに、空軍は、ひとつのクラン(一族)であり、軍に対してまたお互いに対して荒々しいほどに忠誠を誓うセクト(一門)である。空軍では、公然たる喧嘩や反逆の徴候は、これまで一度もなかった。

 まさにこのような事情から、パイロットたちは、このアピールを公にするというような、モラルの上でとてつもない勇気のいる行為を行なうのに必要な、内的な強さを自らのなかに確立するまでに、これほど長いあいだ自らと格闘してきたのである。

 27人の空軍パイロットたちは、民間人の死をもたらす「不道徳で不法な命令」を遂行することを、今から後ずっと拒否するということを司令官に告げた。彼らは、その声明の終わりで、イスラエルを堕落させつつありイスラエル社会を掘り崩しつつある占領を批判した。

 署名者の中で最も上級の士官はイフタフ・スペクター少将で、彼はまた、生きた伝説ともいわれる人物である。彼は、「船中の23人(" 23 men in the boat ")」の中の一人の息子である。これは、第2次大戦時のレバノン(当時フランスのナチ傀儡ヴィシー政権のもとにあった)で石油施設を破壊するために送られ、二度と再びその消息を聞くことのなかったグループである。イフタフ・スペクターは、空軍の現役の指揮官たちの多くを教えた教官だった。この声明に署名した27人は、将官1人、大佐2人、中佐9人、少佐8人、大尉7人である。

 このようなことは、イスラエルでは前代未聞である。空軍の特別な位置からして、この拒否は、陸軍将兵の拒否運動よりもずっと大きな反響を引き起こした。後者は約500人の拒否者(refuseniks)で目下のところ横ばいになっているように見える。

 体制としての軍、イスラエルの真の政府である軍は、危険を感知して、かつてなかったような反応を見せた。軍は、荒々しい中傷と扇動と人格攻撃のキャンペーンを開始した。昨日のヒーローは、一夜にして人民の敵に変えられた。政府のあらゆる部分が、−−前大統領エゼル・ワイツマンから司法長官(彼の目は既に最高裁の椅子に向けられている)まで、外務省から労働党やメレツ党の政治家までが−−、パイロットたちの反逆をたたきつぶすために動員された。

(訳注:「メレツ党」は「労働党」よりも左とされるリベラル政党。第1次シャロン内閣のときには労働党が連立に加わっていることを批判していた。)

 反動攻撃はメディアによって先導された。メディアは、今回の場合ほどその真の姿をさらしたことは、かつてなかった。すべてのテレビ局、すべてのラジオ局、すべての新聞が−−例外なしに!−−、軍司令部の下僕、代弁者としての自らの姿をあらわにした。リベラルな「ハ・アレツ」紙もまた、その第一面をパイロットたちへの獰猛な攻撃に捧げ、他の観点にスペースを割くことはなかった。

 テレビのどのスイッチをひねっても軍司令官に出くわさないわけにはいかなかった。そして、軍司令官の後には現体制のお歴々の長い列があって、入れ替わり立ち替わりこのパイロットたちを非難した。軍キャンプは報道陣に開かれ、忠実な士官たちが自らの仲間たちを「背後からナイフを突き刺し」た「裏切り者」とののしった。チャンネル2のひとつのインタヴューをのぞいて、「拒否者たち」は、自らの観点を説明したり中傷者に答えたりする機会を全く与えられなかった。

 疑いもなく、体制支配層は苦慮している。おそらく今回は、中傷、脅し、懲罰によって、パイロットたちを封じ込めることに成功し、他の潜在的反逆者たちに思いとどまらせることに成功するかもしれない。しかし、27人のメッセージは、既に書かれたのであり、何ものもそれを消し去ることはできない。

 今回の「出撃」で、飛行士たちは、これまでの何百回もの軍務のどれにもましてずっと多くイスラエル国家に奉仕した。いつの日かイスラエルは、この勇敢な27人に巨大な負債を負うていることを認識することになるであろう。




[翻訳(2):[グッシュ・シャロム」配信メールより]
元イスラエル空軍司令官アモス・ラピドット将軍(退役)の声明

  '82年から '87年までイスラエル空軍の司令官であったアモス・ラピドット将軍(退役)は、今日の「イディオト・アハロノト」紙のインタヴューで、拒否パイロットたちへの穏やかな批判と多大な共感を表明した。

 「私は、拒否者たちの抗議を理解する。彼らの抗議は、空軍に対してではなく、何の役にも立たない命令を出す人々や何の役にも立たない政策を策定する人々に対して向けられている。私は、占領がますます我が国の人々を堕落させつつあるという拒否者たちの観点に同感である。このことは、イェシャヤフ・レイボウィッツ教授が既に36年前に述べたことであり、今では顔に目がついている人なら誰でも見えるものである。イスラエルの路上でのドライバーの粗暴なふるまいを見るだけで十分である。ただ私の考えでは、拒否者たちは賢明ではない手段をとったと思う。というのは、空軍のパイロットは、ともかく自発的なものであって、誰も彼に飛ぶことを強制することはできないからである。なすべきだったことは、集団的に空軍をやめることである。

 要人殺害について : 私が思うには、差し迫った時限爆弾があるとき、自爆しようとする者がいるとき、自爆に参加しようとする者がいるとき、その者を殺すことは正当化されるが、政策決定者はもっと先を見るべきである。我々は、自分たちが向こう側の人々に対して行なっていることに十分敏感ではなく、十分気付いているわけではない。我々は、オスロ合意が失敗したのは彼らのせいだけではなく我々のせいでもあるということを認識しなければならない。我々は、希望の地平をつくりだし、ただちに入植地の解体を開始すべきである。」

(「イディオト・アハロノト」9月30日、ページ7。「私は拒否者を理解する/我々は占領をやめるべきだ」by Yigal Mosko & Yossi Yehoshua −−拒否者に反対している数人の他の元イスラエル空軍指揮官の声明とともに。)