立川反戦ビラ入れ事件逆転有罪判決を糾弾する!
−−東京高裁・司法権力は自衛隊イラク派兵反対の言論弾圧をやめよ−−


(1)イラク自衛隊派兵再延長決定と一体となった不当判決
 12月9日、東京高裁は、イラク自衛隊派兵に反対するビラを防衛庁官舎にまいただけで住居侵入罪に問われた「立川自衛隊監視テント村」の3人対して、一審の無罪判決を覆し、有罪判決を言い渡した。立川反戦ビラ弾圧救援会・立川反戦ビラ弾圧弁護団・立川自衛隊監視テント村は、即刻抗議声明を出し、最高裁に上告した。私たちはこのような不当判決を断じて許すことはできない。
※「控訴審不当判決に対する声明文」立川反戦ビラ弾圧救援会・立川反戦ビラ弾圧弁護団・立川自衛隊監視テント村 http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/seimei3.html
※立川反戦ビラ弾圧救援会HP http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/index.htm

 この裁判については、反戦平和運動を闘う人々だけでなく、様々な市民活動を行うグループなどが危機感を持って注目・監視し、検察の控訴を批判し無罪判決を要求してきた。証人として出廷するなどこの裁判に直接に関わった法学者たちによる「立川反戦ビラ入れ事件控訴審判決に関する法学者声明」は、今回の控訴審判決が「今後の日本社会における政治的表現の自由の保障の行方を左右する大きな意味を持つ」と位置づけ、また「表現の自由の重みと、それに対する国家刑事罰の恣意的な発動が許されない」ことの典型例として、広範な市民団体に注視を訴えていた。判決は、このような声を踏みにじるものである。
※「立川反戦ビラ入れ事件控訴審判決に関する法学者声明」http://list.jca.apc.org/public/aml/2005-December/004577.html

 この判決の政治的意図はあまりにも明らかである。判決の前日の12月8日、日本政府は臨時閣議で、イラクへの自衛隊派遣を1年間再延長する基本計画を決定した。米政府・米軍に追随して、何が何でもイラクに自衛隊を居座らせる「国策」に反対するものは、どのような些細なものでも徹底弾圧するという政府・支配層の意を受けた、司法権力のどす黒さ、反動性を見せつける政治的判決である。


(2)一審判決では、政治表現の自由を擁護し不当逮捕を批判していた
 事件からすでに2年が経とうとしている。事件は、陸上自衛隊の先遣隊がイラクへ出発した日の翌日2004年1月17日の昼間に起こった。その日、反戦・反基地市民活動グループ「立川自衛隊監視テント村」の市民3人が、防衛庁官舎の郵便受けにビラを入れて回った。ビラには「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」と書かれていた。ところが、それから1ヶ月余り後の2月27日、3人は「住居侵入」で警視庁に逮捕され、5月まで実に75日間にもわたって勾留されたあげく、長期に渡る裁判闘争を余儀なくされてきたのである。

 昨年12月16日に東京地裁八王子支部で無罪判決が出されたのは当然のことであった。一審判決は「ビラの投函という形態は憲法21条1項の保障する政治的表現の一態様であり、民主主義社会の根幹をなすものである。」という憲法の理念を基本に据え、「政治的表現としてのビラ投函は、営業活動である商業的宣伝ビラの投函に比べて優越する。」として市民が自らの思想信条を表現する権利を堅く擁護し、「ビラまき自体は社会的によく行われていることであり、検察が“ビラの内容”で選別して公訴提起をしたことは否定できない。」として、警察による選別的摘発、自衛隊派兵に反対する市民団体への狙い打ちに対する危機感を表明していたのである。
ビラ配布に対する相次ぐ不当逮捕・不当弾圧を糾弾する!(署名事務局)
検察は誤りを認め控訴を断念せよ!(署名事務局)


(3)高裁判決は、市民活動への不当弾圧を容易にするもの
 ところが、今回の高裁判決は、このような一審判決の精神をことごとく踏みにじった。高裁判決が有罪の根拠としたのは「住居侵入」の一点のみである。宿舎の出入り口などに「関係者以外立ち入り禁止」との表示がされていたのに立ち入ったことをことさら重視し、表示があったことや、住民が1度抗議していることを、「3人の行為は管理権者の意志に反する」と述べ、「住居侵入罪」に当たると断定したのである。その上で3人に罰金20万円または同10万円を科した。
 この点についても、一審の東京地裁判決は、表示について「目立たないものだった」とし、住民の抗議についても「居住者1人からの個人的なもので、居住者の総意とはいえない」と見なし、「ビラを郵便受けに配布するという行為は、『訪問販売』や『電話勧誘』に比較して穏当であり、居住者の日常生活にほとんど実害を与えない。」と結論づけていた。
 いずれにしても、今回の高裁判決は、「立ち入り禁止」のカンバンや住民の抗議を異常なまでに重視し、その一点のみで強引に「住居侵入罪」に結びつけるという、極めて恣意的で悪質・政治的な判決なのである。

 今回の判決は、市民の自主的な活動にとってきわめて危険な内容が含まれている。すなわち、「ビラによる政治的意見の表明が保障されるとしても、宿舎管理者の意思に反して立ち入ってよいことにはならない」とし、政治的表現の自由が、いとも簡単に侵害できることを認めたのである。今回の事件は、すでに述べたように、反戦ビラに対する狙い打ち、選別的逮捕が合法かどうかが問われた。それが立て看板一枚、一人の住民の抗議によってまかり通ってしまうとすれば、「道路でチラシを撒いていた人が通行人から抗議を受けた」、「駅前でカンパを集めていたら駅員から注意された」−−このような日常的におこっている様々な場面で、政治的表現の自由に対して「通行人の抗議」「駅員の注意」が優位に立つことになってしまい、逮捕・弾圧の口実になることになる。本当に恐ろしいことだ。

 東京高裁は、政府の打ち出す「国策」に反対するものに対して、今後さまざまな刑事罰を駆使して、そうした言論・表現の自由を抑圧・弾圧することを公然と世間に示したのである。それにしてもビラ配布という言論・表現の自由を保証する最低限の手段をも違法視し、住民の「知る権利」まで奪うとは、どのような内容のものであれ、自由に議論し討論するという民主主義社会の最低のルールさえ、司法権力は認めないということを示したのである。司法自らが憲法に保証された言論・表現の自由、また「知る権利」を踏みにじる挙に出るとは異常事態、きわめて危険な事態である。最高裁で再び今回の司法権力自体の判断の異常さが吟味されるべきである。


(4)今後ますます重要になる反基地闘争 それへの予防弾圧
 この不当判決は、もう一つの危険性を持っている。それは反基地闘争への弾圧であるという側面である。「立川自衛隊監視テント村」弾圧は、自衛隊の監視行動を行っている反戦市民団体への弾圧である。沖縄の辺野古基地建設強行決定と、米軍再編にともなう日本の基地機能の強化のもとで、日本の反戦平和闘争の中で、反基地闘争がこれまでにまして強固な闘いが必要となろうとしている。沖縄だけでなく、原子力空母の母港化が予定される横須賀、空母艦載機の離発着訓練が分散される岩国、千歳など、空軍司令部が移転される横田、陸軍司令部が移転する座間等々で米軍基地・自衛隊基地に対する新しい闘いが始まっている。今年の10月には、米軍厚木基地近くにある大和市のマンションで「基地ウオッチング」をしていた地方公務員の男性3人が、住居侵入の疑いで県警に現行犯逮捕されるという事件も起きている。一連の弾圧は、反基地闘争への予防弾圧の側面を持っているのである。
※厚木基地監視の3人 住居侵入容疑(asahi.com)
http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000168888881666

 反戦平和の落書き有罪、米大使館での抗議行動・家宅捜索、共産党員によるビラ配布に対する逮捕、日の丸・君が代強制反対・家宅捜査起訴、葛飾区でのマンションのビラ配布住居侵入逮捕など、かつて無い反戦運動への弾圧が強まっている。
 米政府と小泉政権はそれを国内の治安弾圧強化と共に力ずくで推し進めようとしている。彼らにとって民主的・平和的な世論形成は何より恐ろしいことなのだ。日本国憲法に保証された言論・表現の自由の下で、日本の軍国主義化・反動化と闘おうとする動きはどんな些細なものでもぶちこわしていきたい。立川ビラ入れ事件は、市民団体・反戦団体に対する彼らの「見せしめ」であり、それへの「恫喝」なのである。従って無理に無理を重ねた立論を重ねている。日本国憲法を素直に読めば、またそれを正しく適用すれば、3人の無罪は明白である。理は3人の側、人民の側にある。


(5)今回の不当判決が示す憲法改悪の恐ろしさ。上告を支持し小泉反動化・軍国主義化の流れをくい止めよう!
しかし、私たちが肝に銘じておかねばならないのは、こうした「表現の自由」という当然の基本的人権が弾圧され抑圧されるのが、憲法改悪後の日本の姿だ、ということである。仮に自民党新憲法草案のような憲法が作られてしまえば「公の利益」または「公の秩序」の名目の下に、「自衛軍」の行動(例えば米軍と共に侵略戦争を起こすこと)に対する批判、国の軍事・外交政策に対する批判は、より露骨に、いや合法的に封じられるということである。これが民主主義社会といえるのだろうか。一部のグローバル企業の利益を代表する政府の軍事政策を推し進めるために、民衆の声、市民の声は圧殺されていくのである。空恐ろしいことではないか。
 このような息苦しく暗い社会としないためにも、現在現れている反動化の芽は小さいうちに摘み取っておかねばならない。民衆の側が立川テント村事件や一連のビラ配り弾圧事件に注目し、かつこれと闘わねばならないのは、反動の流れを奔流としないためでもある。
 救援会・弁護団・テント村は、即刻最高裁に上告するとともに、完全無罪判決を勝ち取るまで、闘い抜くことを宣言した。私たちもこれを全面的に支持し、支援・連帯の取り組みを強化していきたい。

2005年12月10日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局