検察は誤りを認め控訴を断念せよ!
反戦ビラ配布逮捕は憲法21条違反。東京地裁が反戦ビラ裁判で無罪判決


(1)判決は原告と反戦運動の側の全面勝利 
 防衛庁官舎に反戦ビラを配布し、「住居侵入」の罪に問われた「立川自衛隊監視テント村」の3人に対して、12月16日東京地裁八王子支部で無罪の判決が言い渡された。判決は「ビラ入れが憲法で保証された政治的表現活動の一つとして民主主義社会の根幹をなす事を考えれば、刑事罰に値するほどの違法性はない」「被告らの行為は政治的表現活動であり、商業宣伝ビラより優越的地位が認められる」と検察側の主張を退けた。でっち上げ逮捕と起訴の不当性を訴えた原告と反戦運動側の勝利であり、逮捕した警察、起訴した検察の全面的な敗北である。
 本来なら「事件」ですらない問題である。自衛隊派兵に反対あるいは疑問を投げかける市民の活動を封殺し見せしめにする政府と警察・検察による明白な政治弾圧であった。その意味で3人に対する逮捕・起訴は反戦運動全体への弾圧であった。私たちは原告3人と「立川自衛隊監視テント村」の闘いに敬意を表するとともに、この勝利を一緒に喜びたい。
 しかし検察側はまだあきらめてはいない。焦点は検察の控訴に移った。検察は誤りを認め、控訴を断念すべきである。


(2)不当逮捕と不当起訴。社会的抹殺を企てる不当拘留と公判
 事件は以下のようなものであった。陸上自衛隊の先遣隊がイラクへ出発した日の翌日2004年1月17日の昼間、反戦・反基地市民活動グループ「立川テント村」の市民3人が、東京都立川市の防衛庁官舎の郵便受けにビラを入れて回った。ビラには「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」と書かれていた。それから1ヶ月余り後の2月27日、3人は警視庁に逮捕され、団体の事務所とメンバーの自宅等6箇所が家宅捜索を受け、団体に関する書類やパソコンなどが押収されたのである。逮捕容疑は住居侵入であった。

 ビラをまいてから判決まで約11ヶ月、逮捕されてから10ヶ月、3人は不当な裁判闘争を余儀なくされた。しかも2月末に逮捕され、5月まで実に75日間にもわたって勾留され、8カ月もの公判を強いられた。3人はテント村の反戦活動を行っているが、社会人であり、きちんとした職を持っている。2ヶ月半にも渡る拘留と8ヶ月の公判は、きわめて過酷な仕打ちである。反戦活動をしている者を狙い撃ちにし、職を奪い取り、社会的に抹殺する、そのような不当弾圧事件である。これこそが警察と公安、検察の狙いであったといえる。全国の反戦行動を行っている人々、反戦の意志を持っている人々に対する恫喝である。まさに、逮捕のための逮捕、拘留のための逮捕、弾圧のための逮捕、事実ねつ造とでっち上げであった。絶対に許すことはできない。 


(3)真に争われたのは反戦運動への弾圧、それを通じた言論・表現・思想信条の自由の圧殺、社会一般への威圧
 この裁判で、検察が主張したのは「住居不法侵入」であり、「ビラ配布」一般の違法性であった。しかし「自衛隊派兵支持」ビラなら逮捕・起訴など問題にならなかったはずだ。
 実際に争われたのは、反戦ビラを配布する表現の自由、思想信条の自由が保障されるかどうかであり、反戦ビラを郵便受けに配布するという行為が違法かどうか、「いっしょに考え、反対の声をあげよう」という主張の具体的中身とそれをビラ配布という形態で呼びかけることが違法かどうかが直接争われたのである。
 そして今回の裁判を通じて問題になったのは、政府・警察権力が憲法の基本原則の重要な部分である言論・表現の自由、思想・信条の自由を圧迫したこと、そして更にそれを通じて、政府に楯突く者、反戦・非戦を訴える者全体、社会一般を威嚇・威圧したことであった。

@判決は、官舎は住居にあたるがゆえに厳密に解釈すれば「住居侵入」にあたると評価している。裁判長が検察の主張を認めたのはこの一点だけである。
Aビラを郵便受けに配布するという行為は、「訪問販売」や「電話勧誘」に比較して穏当であり、居住者の日常生活にほとんど実害を与えない。
B配布されたビラは、「立川テント村」の見解を伝えるという、政治的意見の表明の点で正当なものである。
C「いっしょに考え、反対の声をあげよう」というビラにかかれた見解自体が、イラク派兵という国論を二分した問題での反対意見を表明するもので、メディアでも主張されるよう反対意見に比べ、特に過激とはいえない。
Dビラの投函という形態は憲法21条1項の保障する政治的表現の一態様であり、民主主義社会の根幹をなすものである。
Eビラまき自体は社会的によく行われていることであり、検察が“ビラの内容”で選別して公訴提起をしたことは否定できない。
F政治的表現としてのビラ投函は、営業活動である商業的宣伝ビラの投函に比べて優越する。
Gビラには連絡先がかかれており、もし住民が不快に感じたら連絡してくるだろうと言う3人の判断が妥当であった。
H商業ビラは放置されている。防衛庁や警察からの正式な抗議や警告など無しに、被告らをいきなり検挙し刑事責任を問うことは憲法21条1項に疑問である。


(4)公安警察主導の用意周到なでっち上げと反戦運動への執拗な弾圧
 判決は、憲法21条1項〔表現の自由〕「1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」を特に重視している。そして不当に制約し、逮捕・拘留にまで至った警察・検察の姿勢を厳しく警告している。警視庁公安部が主導して被害届の提出を要請したこと、市民グループに過ぎない立川テント村を暴力や破壊を主張する過激派集団だ、危険思想だと意図的にねじ曲げようとしたことなどは、その一例である。
 しかも、判決は、戦場であるイラクへの自衛隊派兵という、戦後の日本の軍事・外交政策の根本的な転換を迫る小泉政権の政策で国論が2分されていることを確認し、その中で「派兵反対」のビラを自衛隊員の官舎に配布することを正当な権利として認めたのである。
 そして、商業ビラが放置されているにもかかわらず、穏当な反戦ビラ投函だけを狙い撃ちにして、事前通告もなしにいきなり逮捕・起訴した警察・検察の行為を憲法違反と結論づけたのである。

 公判の中では、検察側の証人が、ビラ配布禁止の張り紙をしたのが2003年末すなわち自衛隊派兵が問題になった時期であったこと(初公判)、3度にわたる被害届は警察側が作成した被害届に最終的に判を押しただけであったこと、立川署に促されて2月22日のビラ入れに対する被害届を一ヶ月もたった3月22日に提出したこと(第三回公判)等々と証言し、終始一貫して警察・公安によるでっち上げであることが明らかにされてきた。また、ビラまきに直接抗議したという自衛官は「商業チラシはいいがイラク派兵反対のビラはだめだ」などと言い、「石や白い粉を入れられる恐れがあると感じた」と反戦運動への敵意をむき出しにし(第4回公判)、選別的に派兵反対ビラを不当に弾圧したことを明らかにしている。
 警察は、取り調べ段階から「立川から出て行け」「会をつぶしてやる」などと脅迫し、親元に「娘はヤクザの使い走りをさせられている」と連絡するなど、常軌を逸した尋問をしてきた。
 3人は記者会見で「『運動をやめて立川からでていけ』などと侮辱的なことを言われた。」「僕にとつては職場のクビがかかった戦いでもあった」などと語り、「社会的抹殺」の恐怖をてこにした弾圧をはねのけた勝利をそれぞれ表明した。


(5)勝利判決を武器に反戦運動への不当弾圧を跳ね返そう
 立川反戦ビラ弾圧事件は、一つだけの孤立した事件ではない。昨年から今年に入って立て続けに起こっている反戦運動に対する一連の不当弾圧行為の一環である。歴史を振り返っても、戦争の準備は、まず最初に戦争に反対する言論や活動を弾圧することから始まった。立川事件と同じ時期に、昨年の選挙期間中に日本共産党の機関誌を配布した公務員が公務員法違反で逮捕され、家宅捜索されている。今年7月4日には東京の反戦パレードを主催したワールドピースナウの中心メンバーが狙い打ちにされ逮捕されるという事件が起こった。米大使館前でマイクで抗議行動を続けてきた市民が、「傷害罪」で執拗に捜査・家宅捜索を受けるという事件も起こっている。私たちの周りでも、「テロ対策」を口実に、駅など街頭でビラまきや署名活動を規制される事態が生じている。

 しかし今回の判決は、このような権力側の対応が、ウソをウソで塗り固めて自衛隊員を次々にイラクに送り込み、イラク人殺害、武装戦力による攻撃、負傷、戦死、劣化ウラン被害などに不安を覚える自衛隊員や家族の動揺を抑え込もうとした弱さの現れであることを明らかにしている。米のイラク占領支配は破綻し、ファルージャの大虐殺の結果と1月議会選挙の強行はイラク民衆の中に激しい反米感情を生みだし、新たな反米・反占領闘争へとかき立てている。サマワでは、判決が出た同じ日の12月16日、2000人もの反米デモが行われた。サマワの自衛隊はますます危険な状況に追い込まれている。

 今回の判決は、軍国主義化・反動化の嵐が吹き荒れる中でも、大勢の反戦・非戦の市民運動と一緒に機敏で即座の反撃をすれば、まだ相手の攻撃を押し戻すことができるということを示した。集会・結社の自由、思想・信条の自由をはじめとする一切の表現の自由が抑圧され奪われたら、即座に反撃することが重要だという教訓を指し示してくれた。この判決を武器に弾圧を跳ね返していこう。控訴を断念させよう。派兵延長の閣議決定を撤回させ、自衛隊撤退を求める運動をさらに強化しよう。

2004年12月17日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




関連サイト・ページ

◆立川・反戦ビラ弾圧救援会声明 http://www1.jca.apc.org/aml/200412/42204.html

◆立川・反戦ビラ弾圧救援会ホームページ(公判報告など) http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/
 ◆判決のポイント http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/hanketsu.html

◆ワールドピースナウ声明 http://give-peace-a-chance.jp/118/041216.html


署名事務局関連記事

イラク派兵と軌を一にした言論弾圧、反対運動への不当弾圧に抗議する」(2004年3月10日)