ビラ配布に対する相次ぐ不当逮捕・不当弾圧を糾弾する!
◎警察、検察は憲法が保障する「表現の自由」「言論の自由」を守れ。
◎「微罪」逮捕による市民運動、政党運動への弾圧をやめよ。
◎立川事件の検察側控訴に抗議する。直ちに控訴を取り下げよ。


(1) 東京・葛飾区のマンションで共産党のビラを配布していた男性が昨年12月23日に逮捕され、拘束されたあげく起訴された。もたもやビラ配りの逮捕・起訴である。事は共産党だけの問題ではない。明らかに現政権とその軍事外交政策を批判する市民運動や政党を狙い撃ちにするものであり、表現の自由、言論の自由、国民の知る権利を踏みにじる、私たち反戦市民運動に取り組む者にとって断じて許すことの出来ない重大問題である。

 しかも今回の「事件」は、東京都立川市の反戦市民団体「立川自衛隊監視テント村」による防衛庁官舎への反戦ビラ入れ事件に無罪判決が出た同月16日のちょうど1週間後の出来事である。立川反戦ビラ弾圧事件がいかに不法・不当なものであるのかが明らかになったにも関わらず、警察・検察はなおもこの判決をあざ笑うかのように、ビラ配りに対する不当逮捕・拘留・起訴を強行したのである。
※「検察は誤りを認め控訴を断念せよ!反戦ビラ配布逮捕は憲法21条違反。東京地裁が反戦ビラ裁判で無罪判決」(署名事務局)

 相次ぐ逮捕は一市民運動、一政党の問題に止まらない。小泉政治と石原都政の下で進む軍国主義化と反動化、表現の自由と民主主義活動を封じ込める大きな流れの一環である。並行してNHKに対する安倍、中川両議員による報道検閲、安倍氏が当時の官房副長官であったことからすればまさに政治権力そのものによる報道への政治介入も明らかになった。これもまた表現の自由、言論の自由、国民の知る権利の蹂躙である。今闘わねば、いずれ基本的人権の根幹を揺るがし、ひいては社会全体を戦前のようなファッショ的な体制へと導く重大な結果をもたらすだろう。日本を「警察管理国家」「抑圧国家」へ突き進ませることになるだろう。憲法第9条を巡る闘いは、同時に憲法第21条を巡る闘いと結び付けて推し進めなければならない。
※「中川昭一経産相、安倍自民党幹事長代理に抗議を! 国会とNHKに真相の徹底究明を要求しよう!」(署名事務局)

(2) 事件が起こったのは、12月23日午後2時過ぎ。東京都葛飾区亀有2丁目の7階建てマンションの各戸の新聞受けに日本共産党のビラを配布している男性に対して「住民」がいきなり携帯電話で警察に通報し、現行犯逮捕したというものである。翌24日には男性の家宅捜索が捜査官10数人を動員して行われた。さらに25日には、男性が事実関係そのものを認め証拠隠滅などの可能性がないにも関わらず、東京地裁が拘留を決定、1月2日にも拘留を延長し、実に20日以上にも及ぶ不当な拘留が行われたのである。そして1月11日、東京地検は男性を住居侵入容疑で起訴した。立川ビラ配布逮捕無罪判決が出されたのが12月16日、控訴が24日であることを考えれば、この逮捕、拘留、起訴は明らかに立川無罪判決に対するあからさまな挑戦であり、まさに「政治活動弾圧宣言」である。
    
 今回の逮捕劇は異常・異例だらけである。まず第一に、逮捕された男性が配布していたのは、共産党の「都議会報告」「区議団だより」「区民アンケート」と返信用封筒であったと伝えられている。配布していたマンションの管理組合が、掲示で配布を禁じていたという「チラシ・パンフレット等の広告」に当たるものでもない。政党の議会報告などであれば、その政党の支持・不支持に関わらず、住民の知る権利に応えるものでもある。
 第二に、配布の仕方も、日中静かに共用部分の廊下を歩いて郵便受けに投函しただけであるという。投函をやめるよう求めた「住人」に対しては、「入れてほしくないなら、入れません」と、その「住人」の意思に応える対応をしている。逮捕理由の「住居侵入」の構成要件を満たすものは何もない。
 ところが第三に、「やめろ」と言った「住人」がいきなり携帯電話で警察に連絡し、やってきた警官に「引き渡した」というのである。男性は「事情を聞かせてほしい」と言われて亀有署に連れて行かれ、同署で「私人による現行犯逮捕ですでに逮捕されている」と告げられ初めて「逮捕」を知ったという。全く異常なことである。確かに、不法侵入者に対しては、刑事訴訟法第二百十二条により「私人による逮捕」が認められている。しかし住居侵入の場合には、「犯人の素性が不明」または「逃亡のおそれがある場合」にのみ逮捕可能となるわけであり、明らかに今回の事態に当てはまらない。さらに仮にトラブルがあり、通報があったからといって、一方の側の「住民」の言い分のみを鵜呑みにし、警察が即「現行犯逮捕」として身柄を拘束し拘留・送検するのは極めて異常なことであり、どこから見ても違法逮捕、不当逮捕である。


(3) 日本ではすでに公の場所での表現活動が「道路交通法」、都道府県「条例」等を口実にすでに厳しく規制されており、他の先進諸国に比べても表現活動がしづらい国になっている。そんな中でビラの各戸配布等は民主主義活動、市民活動、政治活動に残された、きわめて重要な表現手段の一つである。この限られたささやかな権利をも力づくで奪おうというのである。
 立川事件の東京地裁八王子支部判決は、どういうビラ配布なら住居侵入に当たるのか、ある意味でルールを示した。ビラ配布の仕方に関しても無理に入ったのか、住民の応対を求めたか、以前に抗議を受けたか等々、過去の最高裁判決も踏まえ判断基準を示し、その上で無罪判決を言い渡した。その判決には「ビラの投函自体は表現の自由が保障する政治的活動で、民主主義社会の根幹をなすものとして・・・」とあり、「商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められている」と言い切っている。この判断からしても、今回の男性の行為はいかなる意味でも刑事罰に値するものではない。警察・検察は立川事件判決をも踏みにじる挑戦的なものである。

 報道によれば、今回の「逮捕」で特徴的であることの一つは、警察に通報した男性が「PC(パトカーのこと)で来い」とやら、「ガラ(身柄のこと)はおさえた」とやら、「警備課につなげ」などと警察関係者にしかわからない言葉を連発している点である。実際警察に関連ある人物だったのか、あるいは警察の事情に通じている人物、あるいは警察協力者であった可能性もある。いずれにしても警察は「通報者」の「主張」のみ一方的に聞き入れ、それを利用し、一方ではビラを配布した側の「表現の自由」を奪い去り不当逮捕につなげている。全くの「言いがかり」による逮捕である。いや、ファッショ的な石原都政の下で警察が、町内会も巻き込んで、「不審者」狩りともいうべき通報奨励体制を取ってきたことの結果である。日本政府と東京都は、9・11以降の米国での「パトリオット法」による「対テロリスト」対策にも似た社会的雰囲気を作り上げようとしているのであろうか。私たちは一切の暗黒社会、警察国家、抑圧国家に反対である。


(4) もっと恐ろしい事態が浮かび上がってきている。一昨年の10月〜12月にマンションの集合ポストなどに「しんぶん赤旗」の号外を入れたなどとして、国家公務員法違反で社会保険庁の職員が昨年3月に逮捕・起訴された「事件」の驚くべき真相である。これについて警察権力の長期に渡る異常な「捜査」が暴露されたのだ。報道によれば、逮捕の一年前から警視庁が職員を尾行し、数十人規模の捜査員が、「証拠」のための隠しビデオをとるなど、この職員を逮捕するために執拗な「捜査」をしていたことが明らかになった。現行犯逮捕ではなく、1年以上も前から巧妙に仕組まれていたのである。とすれば、今回の事件も、たまたま出くわした住民が警察に通報したというのではなく、警察関係者が狙い打ちにした可能性も十分ある。
 ある政党、あるグループ、ある個人に狙いを定め、長期に渡る違法な「捜査」、違法な「尾行」を行い、市民が簡単に参加できる形態としてのビラまきや署名活動、ピースウォークなどを違法行為として逮捕・起訴し、政府に批判的な市民の発言や行動を封じ込めていく。こんなことが許されていいはずがない。

 警察・検察は、このように警察自らが、あるいは自己に「協力的」な人々を利用し、囲い込みながら、立川事件、社会保険庁職員逮捕事件のような不当逮捕を続けるつもりなのか。今回の「事件」も含めて、いずれも現在の小泉政権とその政策に批判的な市民運動、政党がビラ配布活動を行うことに対する弾圧である。さらに、一般市民に対して運動に対する「不信感」「恐怖感」を植え付け、運動と市民の分断を狙おうとする策動である。このままエスカレートすれば、反戦を語っただけで運動する側を「テロリスト」呼ばわりすることもあり得るだろう。


(5) 小泉政権はイラク派兵を突破口に日本の軍国主義を一層エスカレートさせている。イラク派兵期間を延長したのみならず、「防衛大綱」「中期防」によって、海外派兵を「本務」とする自衛隊の侵略軍化を目指し始めた。米と一体となって対北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、対中国敵視政策を加速させようとしている。行き着く先、狙い所は憲法第9条の破棄、憲法改悪である。
 一連の不当弾圧、不当逮捕は小泉政治の下でのイラク派兵と密接不可分に結び付いている。自衛隊イラク派兵を批判する市民活動や政党のビラ配布が狙い打ちにされ弾圧されているのである。海外派兵と国内弾圧が不可分一体に進められようとしている。この間の一連の不当逮捕は、その最初の現れである。

 様々な市民運動や反戦運動から批判と抗議の声が上がっている。こうした動きはまだ奔流になっているわけではない。警察・検察の不法・不当がエスカレートせぬうちに、あるいはさせぬために、芽のうちにつみ取り跳ね返さねばならない。
 私たちは、ビラ配布に対する相次ぐ不当逮捕・不当弾圧に断固抗議する。立川事件の検察側控訴に抗議するとともに直ちに控訴を取り下げるよう要求する。

2005年1月18日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局