2006年度「防衛」予算を批判する――
膨大な基地再編費用を別枠にしてごまかし。急膨張する軍事予算
−−大衆収奪反対と軍事費大幅削減を結びつけて要求しよう−−
――在日米軍再編費用で今後軍事費は急膨張
――武器輸出三原則を踏みにじるMDの日米共同開発
――海外派兵用常設部隊「中央派遣集団」の新設
――対中国、対北朝鮮をにらんだ「ゲリラ・コマンド対策」
――「テロ対策」口実に、米の下請け部隊としての即戦力、機動力に重点


はじめに−−「中国の軍事費増」云々を言う前に、まず自国の軍事費の真の実態、驚くべき急膨張の実態を明らかにすべき。

(1) 小泉政府は昨年12月24日の臨時閣議で、06年度一般会計予算の政府案を決定しました。総額は05年度当初予算比3.0%減の79兆6860億円、うち一般歳出は1.9%減の46兆3660億円です。そのうち、「防衛費」にあたるのは、4兆8139億円です。
 「抑制」「圧縮」型予算と評される中で、いやでも気付かされるのは、一般歳出中、社会保障費を除く項目の中での軍事費のマイナス率の際だった低さです。それは予算総額の前年度比3.0%減、一般歳出比の1.9%減をも下回るわずか0.9%減に過ぎません。文教・科学振興費の前年度比8.8%減に比べるとダントツの低さです。

 しかもこれはあくまで防衛庁管轄の「防衛費」として計上された分だけの問題であり、昨年も指摘したように「防衛費」を少なく見せるために別枠扱いにされた数々の「隠された軍事費」があるのです。これを加えれば、前年度比を上回ることは明らかです。
−−まず、内閣官房予算に含まれている、本来軍事予算に含まれるべき情報収集衛星(軍事偵察衛星)関連経費612億円。
−−「国民保護」のためのシステム整備等を名目とした「危機管理体制充実強化経費」の16億円。
−−さらに昨年、別枠計上された米軍再編調整関連費1000億円の1年平均分200億円。等々。

 これらを加えるだけでも来年度軍事費は4兆8967億円にもなります。05年度の「防衛」予算と称される軍事予算の総額は4兆8564億円でしたから、着実に軍事費は増大していることになります。
2005年度軍事予算案:「1%減」はごまかし、実際は1.7%増。
−−消費税率大幅引き上げを含む大増税で軍拡予算構造温存を狙う−−
(署名事務局)


 さらにこれに旧軍人恩給費9072億円を加えた数字、5兆8039億円が国際的な意味で使われる軍事費になります。政府予算案4兆8139億円と比べると何と1兆円も膨らむのです。これが、実際の「防衛費」です。マイナス云々なんてとんでもありません。この総額5兆8千億円という軍事費は、言うまでもなく米国に次いで世界第2位の軍事費なのです。


(2) 昨年12月頃から麻生外務大臣は、「軍事費が17年連続で二けた伸びている。その内容は極めて不透明だ。かなり脅威になりつつある」「(中国の軍事費の)内容が外になかなか分かりにくく、不信感をあおることになる」と、繰り返し中国に対して軍事費増の情報を公開し透明性を高めるよう強調しています。安倍官房長官も、麻生氏と「基本的な考え方に大きな違いはない」と記者会見で同調しました。
 更には自民党の防衛族と一緒に活動するタカ派、民主党の前原代表も「経済成長を背景に、軍事費の伸びが続くのは極めて憂慮すべき状態で、(私は)『現実的脅威』と言った。その認識は一切変わってない」と、対中国脅威論で自民党と同一歩調をとっています。小泉首相から「大連立しよう」「自民党に来ないか」などバカにされるのも当然です。
 しかし、今の小泉政府に、中国の軍事費増大、不透明性を云々する資格はありません。マスコミもマスコミです。自国の軍事費の実態をまともに報道したことは一度もないと言っても過言ではありません。


(3) 問題はこれだけではありません。もっとはるかに重要な問題点、もっと大きな金額がこの予算の中には出ていないのです。この問題点を表に出していないことこそが問題なのです。それは、3月に米軍再編への協力の「日米最終合意」ができれば、後で述べるようにそれに投入される費用は桁外れとなり、来年度補正予算からでも軍事費を急上昇させるということです。なぜかマスコミはこの「新しい軍事費」について全く触れようとしていません。小泉政権が日米同盟最優先政策を継続すれば、今後数年間どころかそれ以降も軍事費だけは何があろうとも急膨張させなければならなくなるのです。昨年末公表された2006年度「防衛費」は、「抑制」どころか軍事予算の急膨張を前提とし、しかも人々の目をそのことからそらそうとする欺瞞的な予算なのです。

 このように軍事予算が手練手管の方法で隠され「聖域化」され急膨張する一方で、皆さんもご存じのように、今年1月からは大衆収奪の予定が目白押しです。まさに、一般大衆から搾り取った税金を日本の軍事機構、軍隊、軍産複合体、更には在日米軍基地や米軍そのものへ貢ぐことになるのです。しかし、このことに対する根本的な批判がマスコミはおろかどこからも出てきません。日本の軍事費は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国の軍事力の「増大」「近代化」の前に増大して当たり前、批判する方がおかしいとでも言うかのようです。

 さらに今回軍事費は、「新防衛大綱」「中期防」の二年目として、北朝鮮・中国のミサイル攻撃を口実としたミサイル防衛MDや、「テロ対策」を口実とした米の目下の同盟者としての海外派兵型装備・兵力・訓練に一層重点配分されています。ことにMDについては、武器輸出三原則を踏みにじり、米との共同開発が決定され、来年度予算に開発費30億円が盛り込まれました。

 この1月から早速、所得税の定率減税半減から始めて、小泉政権は財政危機爆発寸前のところで、大衆収奪によりこうした軍拡予算構造の維持拡大を図ろうとする姿勢をますます強めています。私たちは大衆収奪・増税反対と軍事費大幅削減を同時に要求していかねばならないと考えます。

2006年1月19日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




【1】年間3000〜4000億円もの税金が米軍基地再編にくれてやり。米軍基地再編への全面協力で大膨張する軍事費。

(1) すでに述べたように、来年度軍事予算の新しい最大のキーポイントは、在日米軍再編で今後日本側に巨額な経費負担が予想されるのに、当初予算ではまだ含まれてこないことをいいことにそれを隠していることです。特にその中でも「在日米軍駐留経費負担」を「全体として抑制した」と宣伝することなど悪質極まります。この費用は全体で2151億円(05年度予算は2322億円)で171億円、7.4%の減です。うち提供施設整備費は463億円(05年、633億円)。170億円、26.8%の減です。これが過去最大の削減率と喧伝されているのです。

 政府はなぜ減額に踏み切ったのか。それこそ在日米軍再編で今後日本側に巨額負担が予想されるからです。「国民の理解を得る」との苦肉の政治判断の結果なのです。8月の概算要求で政府は提供施設費に関して、前年度比12億円減の621億円を要求していました。その後、日米両政府は在日米軍再編の中間報告で合意。沖縄県の第3海兵遠征軍司令部のグアム移転で日本側の費用負担が盛り込まれるなど、新たな日本側の整備費の負担が不可避となったため、従来の枠組みである提供施設整備費の大幅削減に踏み切ることにした、と報じられています。
※「<思いやり予算>06年度、170億円減額 政府が最終調整」
http://www.excite.co.jp/News/politics/20051217030000/20051217M10.173.html

 言うまでもありませんが、「在日米軍駐留費の日本側負担」(いわゆる「思いやり予算」)は、これまで5年ごとの特別協定で基地従業員の給与や光熱水費などを支出してきました。日米安保条約にはこの費用を日本側が負担する根拠はありません。本来負担しなくても良い巨額の費用を歴代自民党政府が支払い続けてきたのです。米軍が日本に部隊を置き、基地を使用したがるのは、日本が負担する世界でも例がない巨額の負担をしているからに他なりません。小泉政権は、本来真っ先に打ち切るべきこの予算措置を、期限切れしても打ち切らず、2年間延長することを日米間で12月9日に決めました。そして、その上に更に現在進行中の米軍再編・基地再編関係の莫大な費用を上乗せするつもりです。

 いずれにしても在日米軍再編に関する予算は、05年度補正予算に3億3000万円の調査費が盛り込まれただけで、日米間協議に具体的な進展がないことから06年度予算への計上は見送られました。そしてこの3月に予定される最終報告の後に追加的な財政措置が取られることになります。予算審議が終わった後に、いよいよ本格的な日本の負担増が始まるわけです。
−−その総額は2兆円以上と言われる巨額のものです。「日米中間合意」で確認された沖縄海兵隊司令部のグアム移転は司令部の移転だけで3500億円、演習場や基地建設など周辺の建設も加えれば1兆円におよび、米はそのうち5000億円程度の負担を日本に要求していると言われています。
−−これと並行して進められるキャンプシュワブへの「新海兵隊基地建設」は従来の埋め立て予算計画だけで3500億円でした。今の計画のように滑走路、格納庫に加えて港湾の整備や拠点基地建設まで含めると予算は倍増すると思われます。それだけではありません。
−−座間への米第1軍団司令部設置、岩国への艦載機移動(岩国の新滑走路埋め立て・建設ですでに2400億円、設備、建物建設に1000億と言われる)、米軍空中給油機の鹿屋移転、各地の基地へのF15訓練の分散などなどでそれぞれ巨額の費用が必要となります。その総額は1兆円をはるかに超えると言われています。
−−さらに、今回の米軍再編では国内の各地の自衛隊基地を米軍に解放し訓練や演習での使用を認めることになっています。政府は地元自治体等に対する「基地対策費」や交付金の大幅増で地元を黙らせようとしています。その費用は6年間で1兆円とも言われます。
−−以上の金額は合計2兆円を越えるでしょう。その額は27年間にわたって支払い続けた「思いやり予算」の総額に匹敵するのです。この金額を5年からせいぜい7、8年の間に支出し現在の軍事費に追加しようというのです。年間3000億から4000億円が米軍再編に投入されるのは明らかです。それは従来の「思いやり予算」の2倍もの規模であり、「防衛費」を一挙に1割近くアップさせるほどの額になるのです。


 政府は「米軍再編関連法」を2007年4月をメドに国会に提出する方針です。それは@SACOや思いやりではカバーできない莫大なグアム移転費用を「防衛費」とは別枠で出す。A基地受け入れ自治体への交付金、つまり買収資金の手当て。B沖縄県・地元が辺野古沿岸案に反対する場合、海面の埋め立て権限を県から取り上げる。−−アメとムチ、地元買収と強権的基地建設のための法律なのです。絶対許してはなりません。

 私たちは、通常国会開始早々から、来年度予算審議の過程で、この米軍基地再編くれてやり予算の全貌を明らかにするように強く要求します。小泉と与党は、世論の批判をかわすために、来年度予算審議が終わった後にこそこそと、この基地再編問題を取り上げるつもりです。騙されてはなりません。定率減税廃止と所得税負担増、社会保険料負担増、各種公共料金負担増、挙げ句の果ては消費税増税等々、次々と労働者・勤労者負担が増す中で、軍事費や米軍基地再編に対しては湯水のように税金を投入する。これが小泉政府のやり方なのです。予算面からも、広範な大衆に真実を暴露し、米軍再編に協力するな、辺野古基地新設やめろ、沖縄米軍は無条件に出ていけの声をあげていかなければなりません。



【2】数千億の将来負担増を来年度「防衛費」に組み込む。武器輸出三原則を踏みにじりMD迎撃ミサイル共同開発に着手。

(1) 来年度予算案の中には、もう一つ将来の急増が見込まれるものが含まれます。それはMD関係予算です。MD予算は「重点化」の「優先順位付け」を与えられ、05年度1,198億円から06年度1,399億円の破格の扱いを受けています。これは防衛庁概算要求の1,500億円からみれば減額になっていますが、要求の実に93%の額が認められているのです。後で述べるMDでの海上発射迎撃ミサイルの共同開発だけでなく、自衛隊が独自開発した巨大なミサイル探知用レーダーの配備、MDの準備段階としてすでに配備が始まっている陸上発射迎撃ミサイルPAC−3、海上発射SM−3ミサイルの追加などに予算が大盤振る舞いされたということです。これは防衛庁の言う「弾道ミサイル攻撃に対応し得る能力の確保に係る事業を引き続き推進」することと、「将来的な能力向上のための開発技術に着手」することに政府あげて邁進しているからに他なりません。テポドン等直接には北朝鮮のミサイルを口実に、実は中国の大陸間弾道弾等を念頭に置いた北朝鮮・中国包囲網を米と一体となって作り上げることを政府あげて推進しているからに他なりません。

 今回ことに問題となるのは、米国と共同で技術研究を続けてきたMDシステムの中の海上発射迎撃ミサイルについて、これまでの「研究」から大きく一歩進めて来年度から兵器の生産に直結する「共同開発」に着手することを決定したことであり、来年度予算に開発費予算30億円(同概算要求額38億円)が計上されたことです。
 政府は12月24日、安全保障会議と臨時閣議を開き、この決定をなしました。防衛庁によると、共同で開発するのはイージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(専門的には、海上配備型上層システムの能力向上型迎撃ミサイル)で、日本側は「目標探知信頼性の向上」を図る「ノーズコーン」や、「推進能力の拡大」のための「ロケットモーター」などを主に担当するとしています。2014年度までに開発完了、15年からの生産開始予定とされ、このミサイルの開発費用は、日本側が10億〜12億ドル、米側が11億〜15億ドル負担するとしています。つまり将来の負担と兵器配備への進行が折り込み済みの代物なのです。しかもMD開発関係の予算はいまスタートしたばかりで、対象もまだミサイル開発の一部に限られています。MD開発が進めば進むほど、対象となるシステムは巨大となり全体の開発は今後天文学的の費用を必要とするのは間違い有りません。その費用負担を日本政府は請け負ってしまったと言えます。


(2) そればかりではありません。日本の開発費用はさらに膨らむ可能性が大きいのです。なぜなら、日本が研究中の「ノーズコーン」の発射試験でも来年の3月。他の分野でも技術的な課題がすべてクリアされているわけではないからです。それでもこんな段階で開発に着手するのは、ブッシュ政権が研究途中でも開発に、開発途中でも配備に入り、技術改良を重ねる「スパイラル(らせん状)方式」を取っているからです。日本も今回初めてこの方式にのったのです。何のことはない、ブッシュのやり方は「見切り発車」そのものです。そしてこの方式だと、互いの最新の成果を素早く採り入れられる反面、例えば開発途中で米国より日本の技術が優れているとわかれば、米国の分担が日本に回ってくるというのです。そこで日本の負担が増大する可能性があるというのです。こんな馬鹿な話はありません。米国の無茶な中国封じ込め戦略に付き合わされたあげくが、人民の血税を絞る負担増だというのです。小泉政権はどこまでブッシュの軍事戦略に追随するというのでしょう。


(3) さらにもう一つの問題は武器輸出3原則が踏みにじられたことです。先述した閣議後、政府は、開発する武器の対米輸出について「厳格な管理の下に供与する」などとした安倍官房長官談話を発表しました。さらに、来年4月にも米国との間で交換公文を交わし、輸出される部品が@第三国に渡る場合A当初目的以外に使用される場合――には日本側の同意が条件となることを米側に確約させる方針だとしました。これが武器輸出三原則の輸出管理について「平和国家としての基本理念」にかんがみる「慎重」な「対処」であり、三原則を担保するものだというのです。これまたこれほど人をこけにした話はありません。
 もとより政府は、MD関連は武器輸出3原則の例外だと、昨年12月の防衛大綱策提時の官房長官談話で原則の空文化に踏み込んでいます。その上さらにこの発言です。第三国からさらに輸出された場合、追跡できるかなど完全な管理はほぼ不可能です。さらに目的外の使用も安易に認めてしまえば、武器輸出が拡大するきっかけになります。共同研究で日本が担当したロケットモーターなどはそもそも他のミサイルへ容易に転用できるものです。結局すべてが米国まかせなのです。こうして武器輸出三原則は結局MD開発を通じて踏みにじられ、なし崩しにされ、日本の武器輸出が際限なく拡大していくのです。もっともこれは日本経団連の提言を引くまでもなく、グローバル資本がかねてから望んだことでもあるでしょうが、「軍事国家」「戦争国家」にならないという憲法の平和主義原則に則った大原則がかくして掘り崩されていくのです。
ミサイル防衛(MD)を突破口に、武器輸出三原則のなし崩し的緩和・撤廃へ
−−自民党・財界は武器輸出の全面解禁、対米下請け化で軍需産業の復活・生き残りを追求−−
(署名事務局)




【3】「テロ対策」「対テロ戦争」口実に海外派兵型装備・兵力・訓練に重点配分。

(1) 来年度軍事予算でさらに一つの問題は、「テロ対策」「対テロ戦争」対策(自衛隊の要求項目では「ゲリラ・特殊部隊への対処等」)と称されているものに「重点化」がなされたことです。例えば「核・生物・化学兵器(NBC)対応」に、103億円。NBC偵察車の開発等に充てるとされています。05年度で76億円、概算要求でも115億円ですからこれも破格の伸びと言わねばなりません。さらに「周辺海域における潜水艦及び武装工作船への対応」に82億円。05年度に76億円、概算要求では86億円ですから、ほぼ要求を充たしています。新規事業であるP−3C用改善型ダイファーブイの整備等に充てるとしていますが、これは中国潜水艦の動向を強く意識したものに他なりません。米国の現在と将来の戦略に追随して海でも中国「封じ込め」を画策しているのです。これらすべてが北朝鮮の「武装工作船」や中国の「潜水艦」なるものに対し、米と一体となって挑発を繰り返し、マスコミに「脅威」を煽らせた挙げ句のものであることは言うまでもありません。

 いずれにしても、「テロ対策」「対テロ戦争」対策と称されるものは、上の潜水艦対策を含めて中国をにらんだ軍事体制の強化であるか、自衛隊の一層の海外派兵を狙ったものであり、その両者ともアメリカの軍事戦略との一体化をはかるもの以外の何物でもありません。例えば、復活折衝では、「陸自部隊が、ゲリラ・特殊部隊への対処等の実運用環境をイメージした訓練を効果的に実施するため、至近距離戦闘評価機能等を有する交戦訓練用装置の整備に要する経費」としての「交戦訓練用装置」が、契約ベース12億5200万円、後年度負担12億5200万円で認められました。
 日本国内で「至近距離」での戦闘が今あるとも、必要であるとも思えませんが、政府と防衛庁の念頭にあるシナリオは日本へのゲリラコマンド潜入、特に重点が置かれているのは南西諸島に対するゲリラ攻撃とそれへの対抗です。これらは明白に北朝鮮や中国との紛争、特に中国との国境付近での小規模軍事紛争を念頭に置いたものです。潜水艦領海通過、資源争奪戦と相まって領土紛争があり得ると判断し、そういう局面でも日米安保を背景に中国と軍事的に対抗する体制を築こうとしているのです。


(2) さらに、この至近距離戦闘評価装置が必要なもう一つのシナリオは言うまでもなく、自衛隊を海外派兵し、途上国に侵略、紛争に介入させる場合です。いま米軍がイラクで行っているような市民を敵とする市街戦の訓練に欠かせない道具なのです。これは米と共に海外への侵略・介入戦争に参加する時の備え以外の何物でもないのです。また、「国際緊急援助活動等に対応する大型艦の運用性向上」に契約ベースで8億1400万円が充てられました。内訳は歳出予算額で800万円、残りの8億600万円は後年度負担に回りました。これの名目は、「従来と異なる環境下で長期間運用する機会が増大している大型艦について、国際緊急援助活動の教訓等も踏まえ、運用性向上を図るための改造に要する経費」となっています。それ自身が米との共同行動そのものであり、共同軍事行動のための布石ともなった「スマトラ沖地震」が念頭に置かれているのですが、「大型艦の運用性向上」が、将来の米との共同行動の際の「後方支援」にフルに参加するためのものであることも間違いありません。


(3) 今回の予算政府案の中では、最も注目すべきものの一つは「機構の新設」の中で陸自でなされた「中央即応集団(仮称)の新編」です。これは海外派兵の中核部隊であり、恒常的な指揮・訓練センターです。これはかねてから計画されていたものですが、「ゲリラや特殊部隊による攻撃などに実効的に対応するため、機動運用部隊や各種専門部隊を管理し、全国各地に迅速に部隊を提供できる中央即応集団を新編」するというものです。「全国各地」とありますが、中央即応集団の司令部は在日米軍座間基地に置かれる米第1軍団司令部に併設して座間基地内に置かれることが決まっており、将来的には米軍指揮下で自衛隊部隊を教育するものとして、またそれ自身走り回るものとして企画されています。なぜなら「国際平和協力活動の指揮・教育訓練等を中央即応集団司令部が一元的に行うこととし、教育を担当する国際活動教育隊(仮称)を新編」するとされているからです。

 こと「テロ対策」という問題に関しては、防衛庁管轄の「防衛費」のみを問題にしているわけにはいきません。内閣・司法警察関係予算も問題になります。「治安回復に向けた施策の施策の推進」として、「テロの未然防止・水際対策」として245億円が認められています。ちなみに05年度予算は、237億円。3.7%の増額となっています。これは「爆発物・NBCテロ対策用機材の整備」「特殊部隊(SAT)の充実強化」「バイオメトリクスを活用した出入国審査体制の構築等」に充てるとされていますが、これらも軍拡と一体の国内治安弾圧体制の強化として「隠された軍事費」といえるべきものです。



【4】軍事費の着実な増大を大衆収奪・増税で乗り切る小泉政権に根本的批判を。大衆収奪反対と軍事費削減を結びつけて要求しよう。

(1) 爆発寸前の財政危機の下、小泉政権はそのツケの一切を労働者・勤労者人民に負わせようとしています。狙われているのは公務員の大幅削減。これは消費税増税など勤労人民大衆に負担を強いる口実づくりのためにも不可欠の「改革」です。しかし「小さな政府」とは名ばかり。新自由主義的改革は、必ず軍事・警察の肥大化、この分野に関しては「大きな政府」を作り上げるのが常です。レーガニズム然り、サッチャリズム然り、そして何よりも小泉の「ご主人」ブッシュ政治が然り。小泉もその線をひた走っています。要するに軍備拡大は徹底した大衆収奪・増税の下で行われるのです。

 実際今年1月から、大衆収奪・増税のカレンダーは目白押しです。ざっとあげるだけでも、以下のものがあります。
−−1月「所得税の定率減税の半減」。この1月から給与の税額表はアップしています。
−−4月「障害者の福祉サービス利用の自己負担増」「国民年金保険料の引き上げ」。
−−6月「住民税の定率減税の半減」。
−−7月「たばこ税引き上げ」。
−−9月「厚生年金保険料率の引き上げ」。
−−10月「70歳以上の現役並み所得者の医療費増」、「70歳以上の長期入院者の食住費負担増」、「高額医療費の自己負担引き上げ」。
−−そして2007年1月には「所得税の定率減税を全廃」。
−−6月には「住民税の定率減税を全廃」。
−−さらに2008年度には「70〜74歳の患者負担増」が目論まれるといった調子です。2008年の通常国会には消費税12〜15%への大幅増の法案上程も狙われるでしょう。


 このように徹底的な大衆収奪・増税路線を前提とした軍拡路線に異を唱える大マスコミは一つとしてありません。それどころか、「まだ序幕にすぎない構造改革」と小泉構造改革の不徹底さを批判し、逆に増税やむなしのキャンペーンに加担したりしています。「特別会計改革」のこれまた不徹底さを批判して「すき焼きの宴はお開き」と揶揄にもならない揶揄を繰り返すマスコミばかりです。もはやマスコミは小泉改革に翼賛し、それを煽り立てるだけの存在に堕しています。そのような中で米国と一体となったMDによる中国・北朝鮮包囲網、中国など周辺国との軍事的緊張激化を前提とする軍事政策、かつてない海外派兵・侵略体制が着々と準備されつつあるのです。これほど由々しい事態はありません。


(2) 来年度軍事予算は二年目を迎える「防衛大綱」「中期防」、さらには新たな日米協議を受けて、その侵略的・攻撃的な新戦略を予算面で着実に保証・実現しようというものになっています。私たちも再三指摘してきたようにその戦略とは、米軍と一体となり「対テロ戦争」の名の下に自衛隊を世界中に派兵する、北朝鮮だけでなく中国をも封じ込めようというものです。もちろん米国を盟主としてその言うがままの子分・手下として振る舞おうというものです。

 イラク戦争をめぐるイラク大量破壊兵器のウソと偽情報スキャンダルで、もはや「対テロ戦争」そのものがいかに胡散臭いものであるかは白日の下にさらされています。確たる証拠があろうとなかろうと、大義があろうとなかろうと、結局は石油をはじめとする資源確保並びに軍事覇権のためならアフガン・イラクから、イラン・シリア、中東・イスラム世界全体へと侵略・軍事的脅迫を続けるというのがアメリカの戦略なのです。これが反米武装抵抗を拡大し続けていることも事実です。
 何より確認しておかねばならないのは、「対テロ戦争」を米に追随して戦略に据えた結果、日本と自衛隊は、終わりもなく、達成目標もない未来永劫の戦争に引きずり込まれたということです。従って限度もない膨大な費用を軍事のために未来永劫確実に負担し続けなければならないのです。では誰が負担するというのか。「対テロ戦争」に諸手をあげて賛成するグローバル資本ではありません。彼らはグローバル競争のために更なる法人税減税を要求しているほどです。負担するのは、大衆増税、消費税増税、人民収奪で搾り上げられる人民大衆に他なりません。これは小泉や防衛庁、自衛隊、あるいはそれにつながる右翼論壇・諸勢力、財界や軍需産業にとっては、利益をもたらすものであり歓迎すべきものかもしれませんが、人民大衆にとっては良いことなど一つとしてありません。

 極限まできた財政危機の下では、大衆収奪と増税・人民負担なしには軍拡は困難です。人民のささやかな生活を守ることと軍拡は根本的に相反する要求なのです。労働者の賃金や年金の水準が下がり続け、税金や負担の急増を押しつけられている下で、他方では、ブッシュの「対テロ戦争」、グローバル戦略を全面的に支持し、日本の軍事政策をそれに同調して軍事費を増大させることこそ小泉政権の「小さな政府」の正体であり、基本性格なのです。軍国主義化と軍備増強の階級的性格がいよいよ露骨に赤裸々な段階に入りつつあります。今こそ軍事費を大幅に削減させねばなりません。
 膨張し続ける国と地方の借金。一握りの「勝ち組」と大企業サラリーマンのわずかばかりの収入増の一方で、圧倒的大多数の「負け組」と労働者・勤労者の一般大衆の負担ばかりがのしかかる大衆収奪構造。来年に小泉が引退したとしても「ポスト小泉」後もこのままの軍事外交政策、軍拡構造が続けば、人民大衆の生活は苦しくなるばかりです。対米追随の戦争政策と軍国主義化をどこかで押し返し転換しないと、とんでもないことになるのは明白です。

 たとえ自民党が多数を占めている国会であっても、通常国会でこうした軍拡構造と大衆収奪の予算案を徹底的に暴露・批判しなければなりません。そのためには、「防衛大綱」「中期防」、さらには先の「中間報告」を撤回させなければなりません。また今なお軍事的プレゼンスのためのみ、海外派兵の既成事実としてのみ居座るイラクの自衛隊の即時撤退を要求しなければなりません。イギリス、オーストラリア軍の撤退がささやかれる今、いつまでも米に忠誠を誓っていれば、自衛隊がイラク人民を殺し、また自らが殺されるという事態が来ないとは誰にも保証できません。もはやイラク自衛隊に対して即座の撤退を求めるべき段階なのです。
 私たちは、自衛隊撤退、大衆収奪反対、軍事費大幅削減を一体のものとして要求します。それのみが、日本人民が新たな日本軍国主義、「戦争国家」への道を再び歩まないための唯一の保証なのです。