苦境に立つ米英の軍事占領(その2)
米英「イラク大量破壊兵器脅威論」のウソと「でっち上げの戦争」


T.はじめに−−「大量破壊兵器」理由に支持した小泉首相も同罪。日本政府の責任を追及しよう!

(1)結局なかった大量破壊兵器。「イラク脅威論」の真っ赤なウソ。
 バグダッド陥落後もうすぐ2ヶ月になろうとしている。しかし米英が大騒ぎして戦争の根拠にした生物・化学兵器によるイラクの反撃は、あれほど切迫していたはずなのに全くなかった。あの物々しい防護服は一体何だったのか。それだけで妄想に基づく侵略戦争であったことが実証されたことになる。

 それどころか、肝心カナメの大量破壊兵器が見つからないのである。というか必死の大捜索をしても結局見つからなかったのだ。開戦前、米英政府は国連査察に難癖を付け、1ヶ月〜2ヶ月の査察で何も見つけられないUNMOVICやIAEAを無能呼ばわりした。口を極めて役立たずと罵倒した。それほど“有能”で、偵察衛星とスパイ情報で何もかも知っているはずの米英査察陣が丸々2ヶ月も捜しまくっても、痕跡一つなかったのである。大量破壊兵器のウソ、虚構はもう十分証明されたと言えるだろう。

 「大量破壊兵器はどうなったのか」「自国民をだましたのではないか」「情報操作をしたのではないか」等々−−米英の議会とメディアは、このイラクの大量破壊兵器問題で、ブッシュとブレアの追及を開始した。その追及の手は日増しに厳しくなっている。なぜ、どのようにして、根拠薄弱なイラクの大量破壊兵器問題を、まるで確証されたものであるかのように誇張して、ウソを付いてまで戦争を強行したのか。事実の徹底解明、全容解明を求める世論が沸騰している。
 開戦前、侵略に向けた世論動員の最大のテコとなった大量破壊兵器問題は、今や逆に米英政権を揺るがす最大の爆発源の一つになろうとしている。
※開戦前から今回の米英のイラク侵略は“ウソの戦争”と呼ばれてきた。開戦後、そのウソとデタラメはエスカレートした。「“ウソの戦争”」(署名事務局)参照。

(2)ブッシュとブレアだけの問題じゃない。小泉首相、あなたの問題だ!
 しかし私たち日本の市民、日本の運動は、自分たちの仕事をしなければならない。小泉首相もまた、大量破壊兵器の脅威をもって、米英の侵略への支持を表明したからである。国民の7割は反戦・非戦であった。だが首相は「世論は間違いだ」と世論の反対を押し切って加担したのだ。

 小泉首相は、一体如何なる根拠でイラクの大量破壊兵器の存在を確信したのか。確か国民には納得ある説明は全くなかった。開戦後、見つからない大量破壊兵器について記者団から質問されて、その重大性をわきまえもせず、「見つかるでしょ」と軽薄な口調で答えたはずである。私たちは、首相が正しいと判断した根拠、事実関係、大量破壊兵器存在に関する政府内審議の全容を、今直ちに開示するよう要求する。

 まさか、「ブッシュがそう言ったから」「ブレアがそう言ったから」というのではないだろう。国家の軍事外交政策の根本の、真偽に関わる部分を「鵜呑み」にしたとなれば、それは別の大問題に発展する。国民にウソを付いてまで侵略戦争への加担を強行する、平気で同盟国をだますような国に奴隷のように隷従する、そんな国アメリカに日本の国民の命を任せる。小泉政権の軍事外交政策はそんな危険な道を突っ走っているのである。首相の責任は重大だ。


U.大量破壊兵器問題が米英政権の最大の弱点に急浮上。

(1)米英政権は情報操作・でっち上げを認め、軍事占領を今すぐ中止し全兵力を撤退させよ!
 あくまでも米英の国際法上の「大義名分」は、大量破壊兵器である。開戦間際になって、米英は「自由」「解放」を持ち出したが、それは国内向けの“戦争プロパガンダ”であって、それが国連で正式に討議されたわけではないのだ。その唯一の「大義名分」なるものがウソであったことが明らかになってきたのである。イラク民衆の反米・反占領気運の高まりから、「イラク国民の解放」など、もはや通用しなくなっている。しかしあれだけ国連で大見得を切った大量破壊兵器問題でウソがばれたことは致命的である。

 1月末にブッシュが自信を持って「一般教書」でその存在を主張した2万5千gの炭疽菌、3万8千gのボツリヌス菌はどこへいったのか。500dのサリン、VX、マスタードガスはどこへいったのか。大量破壊兵器のウソと虚構が一気に崩れ始めた。大量破壊兵器がないとなれば、脅威がないことになる。脅威がないとなれば、戦争の正当性は根底から揺らぐ。

 3月18日いわゆる「最後通告」でブッシュは「イラク政権がもっとも恐ろしい兵器を保持し、隠しているのは疑いがない。」「危険は明らかだ。テロリストたちは、イラクから入手した生物・化学兵器あるいは核兵器を使い、これまで表明してきた意図を達成し、米国やほかの友好国の何百万、何十万人もの罪もない国民の命を奪うかもしれない。恐怖の日が来る前に、行動が遅すぎる事態となる前に、危険は取り除かなければならない。」とまで言い切った。もっと恐ろしい兵器とは一体何だったのか。「恐怖の日」を煽るまで切迫した事態はどうなったのか。「米国および同盟国は大量破壊兵器の武装解除のために、武力を行使する権利がある。攻撃の正当性が問題なのではない。われわれの意思が問題だ。」と豪語した。一体この「正当性」はどうなったのか。
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/iraq/attack/web/speech/index_j.html (毎日新聞)

 もちろん仮にイラクが大量破壊兵器を保有していたからといって、対イラク侵略が正当化されたわけではない。イラクは、かつての湾岸戦争の時とは違い、今回は周辺国へ侵略したわけではないし、米英にこれっぽっちも脅威を与えたわけでもないからである。
 しかし元々大量破壊兵器などなかった、それは米英のねつ造でありでっち上げだったとなれば、二重三重の国際法違反である。戦争という重大な行為が虚偽に基づいて強行されたという世紀の大事件である。ウォーターゲート事件どころではない。

 私たちは要求する。米英政権は彼らが開戦に当たって国際法上唯一の根拠とした「大量破壊兵器」が事実上ウソだったと判明した以上、イラク侵略を国際法・国連憲章への公然たる蹂躙、戦争犯罪だと認めよ。今すぐ軍事占領を中止し、全兵力を即時撤退させよ。そして全ての犠牲者に謝罪と補償を行い、破壊したイラク国民の財産の全損害を賠償せよ。

(2)「何のための戦争だったのか」−−大量破壊兵器がウソだったとなれば、今回のイラク戦争そのものの根本が問われなければならない。
 大量破壊兵器の問題は、単なる真偽の問題ではない。あの戦争は「何のための戦争だったのか」、戦争の根本的な目的と性格が問われるからである。
 米英は何の罪もないイラクの民間人と兵士を合わせて数万人もの人々を殺したのである。その責任をどう取るのか。独立主権国家を壊滅させ、多数のインフラを破壊した責任、未だに復興の見通しが立たないどころか人道的危機が爆発寸前にまで立ち至っている責任をどう取るのか。無法な侵略戦争の一切の責任がかかっているからである。
※英海兵隊員である息子を失った遺族である母親が動き始めた。「もしブレアが言ったことがウソだったのなら彼は辞職しなければならない。彼は戦争犯罪者として国際法の下で裁かれるべきだ。」
「War crime threat to Blair」Jun 1 2003 Exclusive By Phil Doherty, Sunday Sun
http://icnewcastle.icnetwork.co.uk/0100news/sundaysun/page.cfm?objectid=13021051&method=full&siteid=50081

 イラク戦争は、“先制攻撃戦争”という前代未聞の侵略戦争、その最初の実験場であった。その“先制”の根拠が、大量破壊兵器だったのだから、“先制攻撃戦争”というブッシュ・ドクトリンそのものが重大な疑惑の対象にされねばならない。
※「Bush's war doctrine questioned」6/5/2003 News analysis by John Diamond and Bill Nichols, USA TODAY http://www.usatoday.com/news/world/iraq/2003-06-05-bush-doctrine-usat_x.htm

 戦争疑惑はイラクだけではない。実は9・11事件の発生とそれに至る過程、アフガニスタン戦争に至る過程も、数え切れないくらいの疑惑がヤマほど存在する。ニューヨーク貿易センタービルで亡くなった遺族が、ブッシュ政権に対して全容解明を要求する訴訟まで起こしているのだ。

 更にある。「イラクには数え切れない大量破壊兵器がある。」「今にもイギリスにその兵器を撃ち込んでくる。」「イラクの生物・化学兵器はアルカイダに渡り今にもアメリカに襲撃しに来る」等々−−開戦前、あれだけ国連多数派と国際世論が、大量破壊兵器の「存在」に疑問符を投げかけ、査察の継続を要求していたのを強引に叩き潰した責任も問われねばならない。
 開戦前、米英首脳は自信を持ってイラクの大量破壊兵器の保有と使用を国内外に喧伝し、脅威だ脅威だと騒ぎ立てた。昨年9月には国連でブッシュ大統領が演説し、国連査察の再開を求める安保理決議1441を強要した。今年に入って査察継続を求める圧倒的多数の国際世論をののしり、先制攻撃戦争は国際法違反だという仏独露などを罵倒し、武力行使容認の新決議に抵抗する国連多数派を脅しつけ、最後は米英だけで一方的に「イラク脅威論」をぶち上げて、侵略に踏み切った。−−ウソとでっち上げで強国が勝手に弱小国に攻め入り、殺戮と破壊を欲しいままにする。イラク侵略は国連憲章でも国際法でも全く正当化できない、正真正銘の侵略戦争であった。

(3)5月5日に徹底捜索の結果、一旦ラムズフェルド国防長官自身が「疑惑施設に何もなかった」と白状した。
 「今捜している。もうちょっと待ってくれ。」米英政権はそう言うのがやっとである。だが見苦しい時間稼ぎをもうこれ以上許してはならない。なぜなら米英当局はバグダッド陥落後、4月一杯をかけて数千人の大捜索を実施したにもかかわらず何も出なかったのだ。
 共同通信によれば、5月5日、ラムズフェルド国防長官自身が疑惑施設に大量破壊兵器はなかった」との結論を下した。つまり自分たちが大見得を切った「パウエル報告」の「疑惑施設」には何もなかったのである。ここが決定的なのだ。
 また米海兵隊のコンウェー中将も5月31日、大量破壊兵器が未発見なのは「驚きだ」と表明。米情報機関の情報に従って「あらゆる武器庫を探したが大量破壊兵器はなかった」と述べ、情報が誤っていた可能性を示唆したという。また同中将は、イラク側が生物化学兵器で米軍を攻撃すると信じていたことも「間違っていた」と述べた。どれもこれもウソだったのだ。
※「イラク兵器捜索の態勢強化 情報誇張の批判受け米軍」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030531-00000031-kyodo-int
※CIA長官が異例の声明 イラクで兵器見つからず(共同通信)2003.05./31
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030531-00000137-kyodo-int
※疑惑施設になし 大量破壊兵器で米国防長官(共同通信)2003.05/05
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030505-00000019-kyodo-int

(4)米英は開戦根拠の集大成「パウエル報告」に基づき大捜索した。そして何もなかった。それが結論だ。
 上記の大捜索は何に基づいて行われたか。それは今年2月5日、国連安保理であれだけ大見得を切った「パウエル報告」である。私たちはあのときのTV映像を鮮明に記憶している。大きなスクリーンに映し出された「明白な証拠」、衛星写真は鳴り物入りで新聞・TVで何度も何度も繰り返し放送され、まるで全てをお見通しかのように、自信たっぷりに米国務長官が報告したはずである。ストロー外相は、「そうだ」「そうだ」と、何度も何度もうなずいていた。
 米英当局が安保理決議1441を出した際、湾岸戦争後12年間にわたる678、687など停戦決議違反、武装解除義務の重大な違反、最後の機会等々、ねつ造の数々を言い連ねてイラクにあらん限りの悪罵を投げつけてきた。それらイラクの大量破壊兵器疑惑の一切合切全部の根拠が、この「パウエル報告」に集大成されていたはずではなかったのか。

 イラクに大量破壊兵器はあったのか、なかったのか。判断するのは何も難しくない。米英当局はこの「パウエル報告」を根拠に開戦に臨んだ。この「パウエル報告」を検証すれば済むことなのだから。米英軍はシラミ潰しに大捜索した。そして何もなかった。それが結論である。
※「米、イラクでの破壊兵器捜索作業に失敗」(韓国中央日報)によると、米ワシントンポスト紙は5月11日、米国がイラク内で行っている大量破壊兵器(WMD)の捜索作業について「米国のWMD捜索チームが、フセイン氏が違法な兵器を隠匿したという証拠を見つけられないまま、活動を終えさせつつある」と伝えた。また「これまで、捜索の責任を受け持っている第75特殊捜索チームが近くイラクを離れるものとみられる」とした後「特殊捜索チームの撤退は、イラク戦の理由に掲げていた主な目的が失敗したことを意味するもの」と指摘した。
http://japanese.joins.com/html/2003/0511/20030511190208200.html
※原文は「Frustrated, U.S. Arms Team to Leave Iraq−Task Force Unable To Find Any Weapons」by Barton Gellman May 11, 2003 by the Washington Post
http://www.commondreams.org/headlines03/0511-01.htm
※英ストロー外相は、すでに4月28日時点で「イラクに大量破壊兵器はないかも知れない」と述べているのである。全くいい加減でデタラメだ。ブレアー、ブッシュ、パウエルらと世界中を脅しつけた人物の無責任さが改めてはっきりした。「STRAW: IRAQ MAY NOT HAVE WMDs By Paul Gilfeather, Whitehall Editor」Apr 29 2003
http://www.mirror.co.uk/news/allnews/page.cfm?objectid=12900576&method=full&siteid=50143

(5)一体誰がどのようにして「イラク大量破壊兵器脅威論」を偽造しイラク侵略へのシナリオをでっち上げたのか。事実関係の徹底解明が必要だ。
 ニセ脅威論とでっち上げによる侵略戦争−−今回明らかになってきたイラク侵略のでっち上げを徹底解明することで、二度と同じ謀略を繰り返させてはならない。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、シリア、イラン等々、ブッシュ政権は、イラク戦の短期圧勝に乗じて悪乗りしている。

 6月4日付の米ニューヨーク・タイムズ紙によると、CIAは、イラクが生物・化学兵器を保有しているとの結論を出したイラク戦争前の重要諜報報告、とりわけ「パウエル報告」の元になった昨年10月の報告について再調査しているという。そしてその再調査をした担当官が「憶測でイラクが兵器開発を続行した、と決め付けられた可能性がある」と語ったという。衝撃的な事実である。
※CIA、イラクの兵器開発に関する戦前の報告を再調査=米紙(ロイター)2003.06/04
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030604-00000182-reu-int
※「10月の機密文書が焦点 CIAなどの情勢分析確度」(共同通信)2003.06/04
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030604-00000134-kyodo-int

 私たち自身の周りからでもいい。できるところからこの問題をアピールしていくことが必要になっている。全世界の反戦平和運動が圧力を加え監視を強化することで、ブッシュとブレアの追及に合流していくことである。


V.開戦前、国際反戦運動も、国連多数派も「イラク大量破壊兵器脅威論」を批判した。そしてそれは正しかった。

(1)「イラク大量破壊兵器脅威論」は米英によるイラク封じ込め戦略を正当化する論理。UNSCOMの元査察団長スコット・リッター氏は正しかった。
 私たちを含めて国際反戦運動は、米英が主張する「イラク大量破壊兵器脅威論」の危険性を真正面から批判した。昨年9月に米英のイラク主戦派とそれに抵抗する残る仏露中などの安保理和平派との妥協の産物として作成された決議1441についても、再び国家主権を蹂躙する屈辱的で強制的な国連査察を押し付けて攻撃の口実作りにしかねないと危惧した。
 米英には1998年に前科があるからである。当時国連査察特別委員会(UNSCOM)による国連査察が途中から米英の介入で急激に変質し、“謀略機関”に転化した経緯がある。クリントン政権時代のこの年、米英が強行した大規模空爆作戦=「砂漠の狐作戦」は、相手に屈辱を強いるような国連査察を強要し、イラク側にはねつけさせておいて、それを口実に空爆を敢行したのだ。
※「国連安保理決議1441に抗議する−−ブッシュは「強制査察」を開戦の口実にするな」(署名事務局)

 そして当時の査察を一手に取り仕切ったUNSCOMの査察団長スコット・リッター氏もまた、自らの7年にわたる、それこそイラク側からアメリカのスパイと追放措置を受けるまで厳しい査察を行った実体験から「イラクの大量破壊兵器は検証可能な形で90〜95%を破壊した」「残りの5〜10%の意味は、イラクが一方的に破壊したので検証の精度が落ちるという意味である」「だからいずれにしても脅威ではない」と断言し、世界中を駆けめぐってイラク戦争反対の論陣を張って回った。彼は6月6日、ブッシュとブレアに対し「君たちのウソを認めよ」と糾弾した。
※リッター氏の証言は「元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッターの証言 イラク戦争 ブッシュ政権が隠したい事実」(ウィリアム・リバーズ・ピット+スコット・リッター〔著〕 星川淳〔訳〕 合同出版)として日本でも出版された。これとは別に日本にも招かれ開戦直前に講演会が行われた。当時の講演内容や関連資料は以下を参照。
http://www.ribbon-project.jp/ritter.html
※1991年〜98年までのUNSCOMによる国連査察の経緯を、スコット・リッター氏自らが監修して制作したドキュメンタリー『査察の真実』がNHKで放送され、多くの反響を生んだ。彼はその映画の中で「砂漠の狐作戦」の謀略の裏話を暴露した。「アメリカの国連大使とUNSCOMの委員長が、査察団の団長である私に、イラクに行って衝突を起こせ、そうすれば、安保理の承認がなくてもアメリカはイラクを空爆できると言ったのです。」と。(紹介 「イラク・査察の真実」署名事務局)

(2)国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)も国際原子力機関(IAEA)も大量破壊兵器の存在に否定的であった。
 開戦前、安保理での主戦派VS査察派との息詰まる論争と対決の中で、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、口をそろえて、「如何なる大量破壊兵器も発見していない」「イラクが核兵器開発計画を再開したとの証拠はない」等々、米英の「存在」と「証拠」に否定的な態度を示した。「未解決の問題はあるが、それは査察を継続すれば解決する」、イラク攻撃ではなく「査察の継続」を繰り返し主張した。
※ブリクス氏が米英を批判 機密情報は「不確実な情報」(共同通信)2003.04/22
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030422-00000240-kyodo-int

 数々の疑問をイラクに対しても表明してきたブリクス委員長は、6月5日付の朝日新聞で、「大量破壊兵器はかなり以前に廃棄されていた可能性が高い」とのべ、むしろスコット・リッター氏に近い見解を示した。米英に批判的ながら国連官僚独特の回りくどい形で、イラクの国連査察への非協力や提出文書の欠落を批判してきたが、それも「イラクが保有のふりをしていた」ためだ、と述べた。
※「ブリクス・国連査察委員長に聞く」朝日新聞2003.06/05。

 いずれにしても、反戦平和運動と国際世論は、国連や米英議会に任しておくことは出来ない。この問題に関心を集中し、査察問題の行方を監視し続けなければならない。そして米英の奥の手である「新証拠」のでっち上げを阻止しなければならない。米英のウソと謀略を暴き立て、イラクの潔白が公式に晴れれば、いよいよ米英による侵略戦争の歴史的犯罪を全世界から断罪する決定的カードを得ることになるだろう。
※<国連査察委>イラクへの査察官復帰を強調 安保理に報告書(毎日新聞)2003.06/03
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030604-00000079-mai-int

(3)ますますはっきりした対イラク侵略の本質:石油略奪と戦争特需、帝国主義的植民地主義的世界覇権。
 イラク大量破壊兵器脅威論がウソとでっち上げであることが事実でもって証明された。それなら米英は一体何のためにイラクを侵略したのか。大量破壊兵器が口実と判明したからには、今回の戦争の本質が何であったのかが、明らかになったのではないか。

 それは第一に、石油略奪と中東支配のためである。すでに全世界の反戦平和運動が早くから見抜いていた。「石油のための戦争反対」「石油のために血を流すな」というスローガンが世界中を席巻した。
※「Wolfowitz: Iraq War Was About Oil 」by George Wright Published on Wednesday, June 4, 2003 by the Guardian/UK http://www.commondreams.org/headlines03/0604-10.htm この記事は曰く付きである。明らかにウォルフォウィッツは「石油のための戦争だ」と認めた。しかしそれを報じたガーディアン(オンライン)で今その記事を見ることはできない。おそらくウォルフォウィッツの方からクレームが付いたのだろう。記事は破棄され、編集局の断り書きが付いている。本文は今「コモン・ドリームズ」というリベラル系サイトでだけ見ることができる。しかしそれを見ても北朝鮮と比較してイラクはやはり石油が理由であることを上塗りしているだけである。
「イラク:石油のための戦争」ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか(署名事務局)

 第二に、戦争特需と軍産複合体へのくれてやりのための戦争であった。ブッシュ政権に石油メジャーと自動車産業や重厚長大産業の経営者やロビイストが群がっていただけではなく、戦争と軍拡経済で潤う軍産複合体の代表者たちも集まっていたことからも歴然としている。
ブッシュ政権を乗っ取った核・軍産複合体。両者の関係を実証的に暴く。「ブッシュ政権と軍産複合体」(署名事務局)

 更に第三に、アメリカが戦争と軍事力で帝国主義的・植民地主義的な覇権を確立するための古典的な帝国主義的侵略戦争であった。「帝国の戦争」と言われている。そして石油がぶ飲み・浪費経済構造の拡大を目指す石油メジャーと自動車産業の利害、軍産複合体の利害を代弁するネオ・コンは、とどまることのない侵略戦争と帝国主義的覇権主義的な内外政策を強行することで、これら産業のボロ儲けを実現しようとしているのである。
※「石油強奪と戦争特需:対イラク戦争は石油=軍事帝国アメリカの“巨大公共事業”−「石油動機説批判」「石油無関係説」のいかがわしさ−」(署名事務局)


W.情報操作・情報ねつ造で戦争をでっち上げ。ウソがばれて窮地に立つ米英政権。

(1)英国内の世論・議会・マスコミの追及とブレア政権の苦しい対応。政権内部で責任転嫁合戦が始まる。
 イギリスでは今、大量破壊兵器の証拠をめぐる論争と併せて、ブレア首相とその政権そのものの信任が問われ始めている。ブレア首相は、大量破壊兵器が発見されなければ、有権者の支持を失う恐れがあることが最新の世論調査で明らかになった。イラクの大量破壊兵器問題が、総選挙で支持する政党の決定に影響を及ぼすとの回答は60%、大量破壊兵器が発見されなければ18%が支持政党を変えると回答した。ウソ・デタラメをやっても、バカな国民はどこまでも付いてくると思い上がったブレアが手痛いしっぺ返しを受けようとしているのである。
※イラクの大量破壊兵器問題、英首相への支持に影落とす(ロイター)2003.06/04
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030604-00000173-reu-int

 ブレアがあまりにも強引だったが故に、そのツケが回ってきているのだ。英下院外交委員会のアンダーソン委員長は6月3日、イラクが大量破壊兵器を保有していることを理由にイラク攻撃に踏み切ったブレア政権の決定が正当だったかどうかについて、公開調査を開始すると発表した。米議会が同様の調査に入ることを決めたのに続く動きだ。首相や外相の証言を求める声も高まっている。
※英議会もイラク戦で調査へ ブレア首相に証言要請も(共同通信)2003.06/04
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030604-00000049-kyodo-int

 イギリスでイラク侵略に批判的で躊躇を見せていた与党議員や国内世論を恫喝し戦争に駆り立てるブレアの決定打、殺し文句は、「45分で大量破壊兵器使用を準備できる」とあたかもイギリスが生物・化学兵器で今にもイラクに攻められるかのように煽ったデマ宣伝であった。ブレアやストローは「自分自身、イギリス政府を信じるのか。それともフセインを信じるのか」と強引に迫って開戦を強行したのである。しかし、実はこの文言は首相府(おそらくブレア首相)が強引にねじ込んだねつ造であることが、最近内部告発で暴露された。
※「Iraq weapons dossier 'rewritten' 」BBC NEWS: 2003/05/29
http://news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/2/hi/uk_news/politics/2945996.stm

 かねてから批判的だった前閣僚・労働党議員から、不満が爆発し始めた。閣内でも労働党内でも混乱が噴出している。先日国際開発相を辞任したクレア・ショート氏は、6月1日付英サンデー・テレグラフ紙でブレアを公然と非難した。「緊急性を作り出すために機密情報に政治的な操作があった。それは首相の政治判断だった。私たちは誤り導かれ、だまされたのだと思う。」

(2)米議会でも追及の手が上がる。政治問題化する「イラク大量破壊兵器」問題。
 「開戦前に情報操作があったのではないか。」−−米国内でもようやく、大量破壊兵器とその証拠が見つからないことで、米議会の一部、メディアの一部が問題視し始めている。CIAなど情報機関のニセ情報に、更にウソの上塗りをするよう圧力を掛けたと目されるラムズフェルド国防長官、ボルトン国務次官、フェイス国防次官らネオコンの中心人物たちが、相次いで弁明に追われ始めた。
※「米政権、イラクの大量破壊兵器めぐる情報操作疑惑を否定」(ロイター)2003.06/05
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030605-00000262-reu-int
※「うその口実設けていない」=イラク戦争で米国防長官(時事通信)2003.05/30
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030530-00000684-jij-int

 ワシントン・ポスト紙は、イラク主戦派の筆頭であるチェイニー副大統領やその主席スタッフであるルイス・リビーが、昨秋CIAを頻繁に訪問し、イラクが大量破壊兵器を保有していること、アルカイダと関係していることをでっち上げて報告せよと圧力をかけた疑惑をすっぱ抜いた。
※「Some Iraq Analysts Felt Pressure From Cheney Visits 」by Walter Pincus and Dana Priest
Published on Thursday, June 5, 2003 by the Washington Post
http://www.commondreams.org/headlines03/0605-01.htm

 議会での追及の先頭に立っているのは民主党のロックフェラー上院議員、グラハム議員。「情報活動の失敗か、情報操作か」を明らかにせよと動き出した。バイデン議員は、ブッシュ政権は「誇大宣伝した。米国の信頼性を傷付けた。」と厳しく批判した。
 彼らは、FBIから何の回答もないために、遂に5月29日の情報委員会で、国務省・CIAの調査を要求した。上院の軍事委員会とともに、共同でCIAのイラク大量破壊兵器情報の調査に乗り出すことが決まった。
※<大量破壊兵器>米議会やマスコミ、開戦前の「情報操作」問題化(毎日新聞)2003.06/02
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030603-00000057-mai-int
※米上院2委員会が調査へ イラクの大量破壊兵器情報(共同通信)2003.06/02
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030602-00000032-kyodo-int

 これとは別に、民主党のクシニッチ議員ら30名の議員が「証拠を見せよ、大統領」という決議を提出、「ブッシュ政権が率いるこの国はウソに基づいて戦争に突入した」と非難した。
※「Kucinich: Show Us The Evidence, Mr. President」
http://www.commondreams.org/news2003/0605-12.htm


X.米英は開戦後も「大量破壊兵器」でウソとデタラメを繰り返す。

(1)国連査察による国際法上正式の査察を妨害し拒否する米英の魂胆:米英による「証拠」のでっち上げの危険。監視の目を緩めるな!
 私たちが危惧するのは、米英が単独で、国際法で決定された国連の正式の査察機関を徹底的に排除して、大量破壊兵器の大捜索をやっていることである。なぜか。言うまでもない。それは隙を突いて、「証拠」をねつ造しでっち上げるためだ。ウソと虚構をベースに侵略戦争までやってのけたのだから、苦し紛れに「証拠」をねつ造することなど朝飯前だろう。
 窮地に立った米にとって、開戦前に米英の思惑通り動かなかったUNMOVICのブリクス委員長は邪魔者以外の何者でもない。ブリクス氏は、今も米英単独の私的な査察を批判し、「占領下で機能しているどんな組織も、国連査察官と同じ国際的な信頼性は持ち得ない」と指弾している。
※<ブリクス委員長>イラクの大量破壊兵器問題で米国批判(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030606-00001020-mai-int

 私たちは主張する。査察は正式の国連査察機関に委ねよ。国際法に基づく「証拠」出ない限り、米英単独で「発見」したものは、一切「証拠」としては認められない、と。ところがブリクス氏はこの6月で退任する。今米英は必至になって自分たちの言うことを聞く次の委員長候補者を捜しているはずだ。UNMOVICはどうなるのか。次の委員長に誰が座るのか。目を離すことが出来ない。
 この問題を絶対闇に葬らせてはならない。私たちの周辺の人々にできる限り真実を知らせて行かねばならない。決して監視の目を緩めてはならない。

(2)侵攻後くるくる変わる大量破壊兵器の所在とニセ情報。ふざけた言い逃れと開き直り。
 イラク侵攻後、米英当局は一体どのようにイラク大量破壊兵器の存在をごまかしてきたのか。ざっと概観しておこう。あーでもない。こーでもない。これだけウソとデマを並べ立てると、真実は一つ。イラクには大量破壊兵器はなかったということが自ずと浮かび上がってくるはずだ。

●「発見したぞ」。でも全部ウソ。
 直近の「発見」は、またまた「移動式トレーラー」。これを生物兵器製造施設だというのだ。しかし6月7日付のニューヨーク・タイムズは、これにはバイオ関連製造に不可欠な滅菌装置がないなど米英専門家の一部がこれに疑義を表明していると報道した。
※「Some Analysts of Iraq Trailers Reject Germ Use」Jun 7,By JUDITH MILLER and WILLIAM J. BROAD The New York Times 。http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&cid=68&ncid=68&e=3&u=/nyt/20030607/ts_nyt/someanalystsofiraqtrailersrejectgermuse

 侵攻直後から同じ事の繰り返し。バスラ周辺や南部で何度も何度も「発見」された。カルバラの移動式実験車はどうなったのか。ナジャフで見つかったとされる化学兵器工場はどうなったのか。スカッド・ミサイルはどうなったのか。化学兵器用防護服はどうなったのか。しかしどれもこれも右翼系翼賛メディアやイスラエル系メディアを通じたニセ情報だったことがすぐに判明。でっち上げに失敗。
※移動式実験室を発見と報道 カルバラでと米CNN(共同通信)2003.04/15
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030415-00000063-kyodo-int
※大量破壊兵器発見できず 戦争の大義欠き、米に焦り(共同通信)2003.04/01
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030401-00000101-kyodo-int
※化学兵器工場を発見か 米英軍、バグダッド南で(共同通信)2003.03/24
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030324-00000055-kyodo-int
※米軍がスカッド説を否定 大量破壊兵器見つからず(共同通信)2003.03.23
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030323-00000075-kyodo-int

●「発見には時間がかかる」「仕方ないから、たれ込みを“証拠”にしよう」。
 ブッシュは4月24日、オハイオ州の戦車工場で演説した。「フセインは大量破壊兵器を12年間にわたって隠し、国連を欺いてきた。見つけるには時間がかかる。」「破棄したか、移動したか、または隠しているか。いずれ、真実を明らかにする。」
 フライシャー報道官は、捜索の成否について、「発見することではなく、その計画に従事したイラク人によって提供された情報にかかっている」と、「発見」を証拠としない考えを苦し紛れに述べた。こんなデタラメを許してはならない。

●本当はシリアにあるんだ。
 なかなかごまかしが通用せず、遂に苦し紛れに「大量破壊兵器はシリアに移動された。」と口走る。しかしシリアが猛反発。もちろん誰も信じなかったために、それもすぐにデマと見破られる。

●今ないのも当然。「トヨタのかんばん方式」なんだ。
 「トヨタのかんばん方式」のように、一旦事が起これば直ぐに組み立てるやり方で、部品や資材の形で存在している、と全く新しい逃げ口上を発案。よくもまぁ、こんなことまで考えるものである。しかしこれも、誰も信じないために、不発に終わる。

●使うヒマがなかったんだ。いや、戦争前に自分で破壊してしまったかも。
 そして今度は、「米英の速攻作戦で使う時間がなかった。」「実は開戦前にイラクが自ら進んで破壊してしまった。」「証拠隠滅を図った。」と、またまた新しい逃げ口上で乗り切ろうとする。もちろん誰も信じない。当然だろう。今にもイラクはイギリスを攻撃するはずではなかったのか。フセインは今にもそれをアルカイダに渡すはずじゃなかったのか。なぜ急にそれを取りやめ、しかもわざわざ証拠隠滅までしなければならないのか。つじつまが合わないではないか。
 もし米英がそう言うなら、米の偵察衛星、諜報機関に全く気付かれずに、しかも全く痕跡を残さずに、どのようにそれを廃棄したのか。その根拠を含め証明しなければならない。
※イラクは開戦前に化学兵器破棄の可能性=米国防長官(ロイター)2003.05/28
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030528-00000452-reu-int
※大量破壊兵器の大半は処分 米高官が言明と英紙(共同通信)2003.05/03
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030503-00000159-kyodo-int
※大量破壊兵器、既に廃棄も 米大統領が言及(共同通信)2003.04/25
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030425-00000036-kyodo-int

●いくら探してもないから誰か捜してくれよ。
 米の情報機関や国防総省の情報は全部ウソだったので結果が出ず、米軍はイラク国民にラジオ放送で懸賞金付きの「有益情報」申し出を呼びかけた。捜査行き詰まりをこれほど白状する出来事はない。
※米軍が兵器探しで懸賞金 イラク国民に呼び掛け(共同通信)2003.05/12
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030512-00000054-kyodo-int

●大量破壊兵器なんて小さい。フセインに大虐殺の方が大事だ。
 米英は必至に墓場を暴く作業にいそしむ。なぜなら大量破壊兵器問題から国内外世論の目を逸らすため。格好の材料「フセインによる大量虐殺」をメディアのエサとしてばらまくためである。しかし世論もメディアも一部の翼賛メディアを除いてごまかされなかった。

●「実はあれは言い訳だったんだ。」
 遂に、遂に、あのネオコンの大将ウォルフォウィッツは口走った。「あれは口実だった」(正確にはconvenient excuse for war、ご都合主義的な言い訳だ)と。彼はこうも言っている。「我々は問題を解決するための官僚主義的な理由」としてこの問題を持ち出した、と。そして「誰もが賛成するであろう一つの理由だった」とも。しかしおかしいことに国防副長官の職にあるこの大物が「言い訳だった」と言い放ったにもかかわらず、一斉に追及されることもなく、無視されようとしている。
※「WMD just a convenient excuse for war, admits Wolfowitz」30-05-2003 By David Usborne
London, The Independent: http://www.muslimnews.co.uk/news/news.php?sub=701

●「ちょっと待ってくれ。」「もうすぐ見つかるから。」
 そして最後は時間稼ぎ。ブレアは繰り返し言う。「もうちょっと待ってくれ。」「証拠は必ず挙がる。」(6/2エビアン・サミットでの会見)そしてこんなふざけたことも平気で言う。「現在重要なのはイラクの再建であり(大量破壊兵器の有無の確認は)最優先の課題ではない。」(5/30ワルシャワでの会見)
※<ブレア英首相>イラク攻撃の根拠「もう少し待って」懸命に反論(毎日新聞)2003.06/03
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030603-00002116-mai-int

●今大勢で捜しているから。もうちょっとだ。
 もう一つの時間稼ぎは、調査団だ。ペンタゴンは5月30日、米、英、オーストラリアからなる1400人規模の大調査団を結成し、大々的な調査を開始すると発表した。これで何回目の調査なのだろうか。4月にも数千人で捜索している。見え透いた時間稼ぎをいつまで続けるつもりだろうか。
※米、兵士ら数千人を動員 大量破壊兵器捜索を強化(共同通信)2003.04/18
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030418-00000106-kyodo-int

(3)最新の逃げ口上:ブッシュとブレアは「情報機関にだまされた」!?。情報機関もこれに応戦。責任逃れ論争の勃発。
 米英政府は逃げ切れなくなり、ついに新しい責任逃れの弁明を思い付いた。米英それぞれの政府が、それぞれの「情報機関にだまされたのだ」と。これほどイラク民衆と国際世論をバカにした逃げ口上はない。トカゲの尻尾切りで乗り切ろうとしているのである。情報機関はさっそくこれに応戦し、醜い責任逃れ論争が勃発した。
※信頼できる情報ない=イラク攻撃前、化学兵器の保有で−米報告書(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030607-00000333-jij-int

 英政府の閣僚が英インディペンデント紙に、「大量破壊兵器が見つからないとすれば、英史上最大の情報機関の失敗だ。」(5月29日付)と述べたという。しかし情報機関幹部は即刻BBCで反撃した。イギリスで今大騒ぎになっている「化学・生物兵器を45分以内に実戦配備できる」という文言を情報機関の意向に反して書き入れたのは首相府であって、自分たちの情報ではない、と。
※「英政府、加筆し危険強調」(朝日新聞)2003.05.31

 これとは別に、英ガーディアン紙は5月31日、2月5日の国連安保理でのパウエル機密報告の直前に会談した際、米諜報機関の情報に「深刻な疑念がある」とストロー外相が述べ、これにパウエル長官が同意したという。リークしたのは英外務省筋、つまりストローが責任逃れを始めたことを示している。
 米『USニューズ&ワールドレポート』誌は、パウエル報告に先立ってリハーサルをした際に、ニセ情報を報告するようホワイトハウス側から圧力を加えられたと報じた。それによればあまりもの疑わしさに長官が激怒し「こんなものは読めない。デタラメだ。」("I'm not reading this. This is bullshit.")とレポートを放り投げたという逸話まで描かれているのだ。今更往生際が悪いのでないか。それなら何人かの外交官がそうしたように、パウエルも正々堂々と国務長官の職を辞して抗議すべきだったのだ。国務省側の責任逃れのための安っぽいサル芝居を見せられているようだ。
※この辺の英ガーディアン紙や米『USニューズ&ワールドレポート』誌の暴露情報については「Bush Administration’s Lies About Iraq’s WMD Unraveling」Dissident Voice News Service Compilation Updated: June 3, 2003に資料集が集められている。http://www.dissidentvoice.org/Articles5/DVNS_Iraq-WMD-Lies.htm
※「Straw, Powell had serious doubts over their Iraqi weapons claims 」Dan Plesch and Richard Norton-Taylor May 31, 2003 The Guardian http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,967548,00.html

 もうたくさんだ。何たる無責任、何と醜い責任の押し付け合いであろうか。しかし罪なき一般市民が7千人以上、兵士を含めると数万人を殺戮したのであり、主権国家イラクを何の理由もなく壊滅させたのである。怒りを抑えることができない。


Y.日本の反戦運動の緊急課題は「大量破壊兵器」を理由にブッシュのイラク侵略支持を打ち出した小泉政権を追及すること。

(1)追及されねばならぬのはブッシュ、ブレアだけじゃない。小泉首相も同罪。ウソに基づく「支持表明」の責任を追及する。
 小泉首相は、日本の反戦・非戦世論をはねつけて、ブッシュやブレアがねつ造した「イラク大量破壊兵器疑惑」を唯一の根拠に、イラク侵略を率先して支持した。私たち日本の運動がやらねばならないのは、米英の世論や運動がブッシュとブレアを追及しているのと同じように、足下で小泉首相のウソを認めさせることであり、ウソに基づく「支持表明」を、今からでも撤回させることである。小泉首相はイラクの、ありもしない「大量破壊兵器」について、ペラペラ何をしゃべってきたか。以下にざっと列挙してみよう。

●3月20日、米英の開戦を支持する「首相記者会見」。
・そもそも今回のイラク問題の発端は、13年前の湾岸戦争。
・イラクは停戦協議を受け入れたが、その停戦条件は大量破壊兵器を廃棄すること。
・その後12年間にわたってイラクはこの停戦決議を守ってこなかった
そういうことから、再度昨年11月、国際社会は一致結束して、大量破壊兵器、あるいは化学兵器、生物兵器、即時無条件、無制限に査察に協力して誠意を示すべきだという最後の機会を与える決議を国連は採択した。(1441安保理決議)
・事ここに至って、イラクは、国連の決議を無視、軽視、愚弄してきた。誠意ある対応をしてこなかった。
・私は、そういう思いから米国の武力行使開始を理解し支持する
※全文はhttp://www.kantei.go.jp/k/speech/2003/03/20_1.html 参照。

●3月20日、総理大臣談話。
・大量破壊兵器の拡散を防止することが我が国を含む国際社会全体の平和と安全にとって極めて重要。
・我が国は、これまで一貫して、イラクの大量破壊兵器の問題について、国際協調の下に平和的解決を目指し、独自の外交努力を続けてきた。
・しかしイラクは、12年間にわたり、17本に及ぶ国連安保理決議に違反し続けてきた。
・イラクは、国際社会が与えた平和的解決の機会を一切活かそうとせず、最後の最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしなかった。
このような認識の下で、我が国は、我が国自身の国益を踏まえ、かつ国際社会の責任ある一員として、我が国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持する。
・我が国は、戦闘が一刻も早く、しかも国際社会に対するイラクの脅威を取り除く形で、終結することを心から望んでいる。
※全文は http://www.kantei.go.jp/k/speech/2003/03/20_2.html 参照。
※また http://www.kantei.go.jp/k/speech/2003/03/20_3.html 参照。

●4月8日、記者団の質問に答えて「いずれ見つかるんじゃないですか。」
 小泉首相は4月8日夜、首相官邸で記者団の質問に、イラクによる大量破壊兵器保有に関し「いずれ見つかると思いますけど。見つかるんじゃないですか」との見方を示した。理由として「イラク国営放送を見ていると随分うそ言ってますね。今まで随分うそついていたから」と指摘した。

−−以上の如く、小泉政権が米英のイラク侵略を支持する“唯一の理由”は、イラクの大量破壊兵器である。そしてその大量破壊兵器を廃棄せず、廃棄を求める国連決議に違反し、無視・軽視・愚弄してきたことである。
−−まず小泉政権が、一体何を根拠に、如何なる調査を行い、大量破壊兵器の「存在」にそこまで確信を持ったのか。それこそその根拠、「独自の外交努力」を続けてきたというなら、その「独自調査に基づく証拠」を、私たち日本の国民全体に明らかにしなければならない。
−−ブッシュ、ブレアと同じように、イラクのフセイン政権を「大量破壊兵器の保有、ないし使用」の切迫を理由に「脅威」を断定した、日本にとって如何に差し迫った脅威があったのか、その根拠を、誰もが納得できる形で国民に向かって説明する責任がある。
−−小泉首相は、反戦・非戦が多数を占める日本の世論に対して、「世論の方が誤っている、自分が正しい」と大見得を切ったはずだ。ではいったいどちらが正しかったのか。今その決着を付けるべき時である。
−−3月20日の首相の「支持表明」をめぐり国会で論戦が行われたが、野党側からは、(1〉イラクに対する査察を継続すべきだった、〈2〉国連安全保障理事会の新決議がないままのイラク攻撃には法的根拠がない、など世論を背景に、「支持表明」の撤回を迫った。では、圧倒的多数の国内外の査察継続の声を無視し否定してまで、また「新決議」も取れないほど薄弱な理由で、強引に「支持」を押し切った、それまで自信がある「イラク大量破壊兵器保有」の証拠とは一体何なのか。首相には説明責任がある。
−−首相は4月8日「いずれ見つかる」と述べた。それから2ヶ月、見つからないどころか、米英の国内外で「実はウソだった」ことが事実上明らかになってきたのだ。首相が「いずれ見つかる」と断言した根拠を今すぐ明らかにすべきである。

(2)イラク大量破壊兵器でのウソ・はったりは、「北朝鮮の脅威」のウソ・はったりにつながる。
 政府与党は、「北朝鮮の脅威」を持ち出して、有事法制強行を突破することに成功してから、まるで軍国主義化・反動化の「打ち出の小槌」のように、「北朝鮮の脅威」キャンペーンをエスカレートさせている。
 しかし今回のイラクの大量破壊兵器問題が、米のでっち上げだとすれば、今ブッシュが封じ込めを強めようとしている北朝鮮の「核開発」の情報もその信頼性が大きく損なわれるだろう。イラク問題と北朝鮮問題は、情報操作とでっち上げによる軍事外交政策という形で連動しているのである。
※北、イランの情報に影響も 情報操作疑惑で米高官弁明(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030605-00000093-kyodo-int

(3)イラク民衆を弾圧し殺す側に立つ自衛隊派兵。断じて許してはならない。
 座視できないことが起ころうとしている。有事法制で味をしめた小泉政権は、物分かりのいい野党民主党と物分かりのいいマスコミを鼻でせせら笑いながら、今度は調子に乗って自衛隊をイラク民衆弾圧のために送り出そうと暴走し始めた。「イラク新法」である。もちろん侵略軍=占領軍への加担など、国際法違反だし憲法違反だ。

 しかしこの法律の危険性は、イラク民衆を弾圧し虐殺する体制作りを積極的に担おうということにある。手の足りない現地米軍を応援することで、抵抗するイラク民衆に血の弾圧体制を敷く手助けをするのだ。イラク民衆の承認なしに治安弾圧部隊の指揮下で弾圧に加わることは正真正銘の侵略軍、敵軍である。戦後始めて日本軍が植民地の民衆を虐殺するという事態が起こるわけである。断じて許してはならない。

 「イラク新法」には、「大量破壊兵器処理支援」が入るという。全くふざけた活動である。存在もしない大量破壊兵器をどのように「処理」するというのか。それとも大量破壊兵器の大捜索に協力しようというのか。「新証拠」でっち上げにまで加担しようというのか。この問題を云々するなら、ありもしない大量破壊兵器を理由にイラク侵略に加担したことそのことを、先ず持って明らかにすべきである。

(4)「イラク新法」国会上程など言語道断。イラク侵略の正当性が根底から崩れ、占領の正当性もなくなったからには、「新法」の前提が崩れる。
 「イラク新法」の国会上程や国会審議は、その前提が成り立たなくなった。まずは小泉首相と政府与党のウソとニセ情報による国民の誤った方向への意図的政治的誘導を糾弾しなければならない。小泉首相がブッシュのイラク侵略を支持した唯一の理由に重大な疑念が生じたわけである。日本の運動の責務は、もう一度原点に帰って、小泉首相に対してありもしない大量破壊兵器をでっち上げた責任を追及しなければならない。今からでも遅くはない。支持を撤回させるところから始めなければならない。そもそもこの戦争は何であったのか、その目的と本質を問い直すところから始め直さなければならない。これは、「イラク新法」が持つ集団自衛権行使、交戦権否定原則の蹂躙という憲法の平和主義を破棄するに等しい憲法論争の以前の問題である。

2003年6月7日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局