わたしの雑記帳

2014/3/22 日本スポーツ振興センターに高校生の死亡見舞金の支払いを求める裁判(3/11) 両親の本人尋問

 2014年3月11日(火)午後1時30分から、東京地裁806号法廷で、平成23年(ワ)第14933 関東地方私立高校・男子生徒(当時高3)指導自殺した案件の民事裁判の本人(原告=両親)尋問があった。
 裁判の経緯や争点については、 予め支援者には裁判の要旨が原告から配られたので、それを引用させていただく。昨年、学校法人とは和解したので、この日の被告は独立行政法人日本スポーツ振興センターのみ。
 裁判長は清水響氏、裁判官は大嶋洋志氏、今泉さやか氏。

 この日の本人尋問では、男子生徒の性格や全く自殺を考えてもいない当日の様子などが、両親それぞれから語られた。

 父親の話。
 家族仲はよかった。中学校時代の成績は中程度だったが、高校で本人が選んだ進学校に行ってから、1年の1学期から成績が振るわなかった。さぼっていたわけではない。頑張っていたが、他の生徒に比べ努力が足りなかったのだと思う。
 1年から2年に上がるとき、赤点があり、仮進級した。
 2年の三者懇で進級がかなり厳しい旨を聞いた。家族は、こんなら勉強で苦しむのなら、他の学校に移ってはどうかと勧めたが、本人は、留年はしない、転校もしない、もっと頑張ると言った。
 息子は学校が大好きだった。親しい友だちが何人もいて、別れたくなかったのだと思う。その後、一生懸命、勉強して、2年生時は赤点がなかった。
 3年生の1学期の定期テストでは、3、4時間の睡眠で試験期間は頑張っていた。
 よく家族で映画を観に行っていた。試験が終わったら、上映中の映画を見に行こうと約束していた。
 試験最終日、一晩、寝ないで勉強していた。気になっていたので、時々、部屋を覗いた。
 当日、駅まで車で送った。それが生前、最後になった。

 午後1時頃、妻とふたりで買い物中に学校から電話があって、飛び降りたと知った。車に乗って病院へ。
 4階から飛び降りたとだけ聞いた。命ないのかな、命だけは助かってほしいと願った。
 急いで行った。到着して30分ほど待たされた。すでに亡くなっていた。

 学校からの説明は、病院で教頭から聞いた。英語のグラマーでカンニングペーパーが見つかったという。
 1年生の時に、赤点をとった科目だった。中間テストの最後の科目だった。他はどうにかなっていたが、疲労が蓄積していて、カンニングしてしまったのではないかと思う。
 当該校では、1つでもカンニングすると全ての科目が0点になる。進級や卒業ができなくなると思っただろう。
 学校は追試を受けられるから大丈夫と言ったが、息子の成績では1回0点だと回復は難しい。
 赤点が3科目なら、学年末に追試を受けられると聞いていた。3年生になったら何回も追試が受けられる、赤点がいくつでも受けられるということは、亡くなってから聞いた。
 1年の時に説明を受けた赤点は3科目までという理解をしていた。
 カンニングが見つかったときの息子の心理は、もうこれで学校を卒業できない。留年だと思っただろう。

 試験が終わったあと、試験監督の教師が息子を連れて職員室に向かった入れ違いに。ホームルームに来た担任教師にカンニングの件を伝えた。教室のある3階から2階に移動中に、生活指導主任に会ったので、事情を話した。
 生活指導主任は、息子に教室に荷物を取って来なさいと言って、教師2人はその場で待っていた。
 教室は試験が終わって、ホームルーム中だった。その状況で、生徒一人にして荷物を取りに行かせるなどあり得ない。私も教師をしているが、カンニングの生徒指導で、飛び降りた事件をいくつか聞いていたから。
 また、県内の学校では、カンニングを発見したら、全科目0点になる厳しい処分は見聞きする中にはない。

 スポーツ振興センターから、学校管理下で死亡した場合、見舞金が出ると知っていた。しかし、スポーツ振興センターは、高校生は基本的に支給しないという。小、中は出すが、高校生になると出せないのは理解できない。
 「指導死」という高文研から出た書籍に、手記を寄せた。
 指導死を防ごうと親たちが集まった。子を亡くした親にとって、何をしても我が子が戻るわけではないが、せめて同じようなことで亡くなる子どもをなくしたい。事故を防ぎたい。それが亡くなった子への供養、親の責任。
 センター給付は防止につながると思う。
 学校に日本スポーツ振興センターに死亡見舞金の申請をしてほしいと言ったら、出ないから無駄だと言われた。
 納得がいかないので、出る出ないは別にして、出してくれと言った。
 却下された理由は教えてもらえなかった。
 その後、高校生は一人前で、責任能力、判断力があるから出さないと言われて、悲しくなった。
 好きこのんで死んだ、判断力があるのに死んだと言われた気がした。

 運用規定に同じような事例がたくさん出て、亡くなった子どもの名誉が傷つけられたと思った。


 母親の話。
 息子は素直で、やさしい子だった。思春期まっただ中だったが、反抗期らしいこともなかった。家や学校で、強いしっ責を受けたこともない。学校はまじめに行っていた。中、高とルール違反をして呼び出されたことは一度もなかった。学校ルールを守る子だった。
 遅刻や欠席も、病気の時以外ない。遅刻はきらいで、いつも時間に余裕をもって出かけた。
 中3の冬休みの模擬試験で、電車で乗り越したため、遅れて教室に入っていくことがいやだったらしく、試験を受けずに帰ってきた。
 中学の時、病気で病院に行ったあと、今は授業中だから、休み時間にあわせて送ってほしいと言った。
 まじめだった。亡くなったあと1週間くらいして、息子が飛び降りた場所な行った、スクールバスの運転手さんがやってきて話してくれた。財布を忘れたのを事務室に届けておいたら、控室までわざわざ礼を言いに来た。あいさつもできて、礼儀正しい子だったと言ってくれた。
 飛び降りたとき、2、3階の教室の窓から、生徒が覗き込んでいて、さらしものになるのはかわいそうと、ブルーシートをかけてくれたという。運転手さんが献花台も設けてくれた。

 高3の時、大学に行ったらギターを弾きたいので、大学生になったら買ってほしいと言った。成績は芳しくないが、大学は行きたいと思っていたようだ。学力にあった大学はあっただろうと思う。
 亡くなった当日の朝、前の晩、ほとんど寝ていない様子で、疲れていた様子だった。
 すぐにエネルギーになるよう、バナナを食べさせた。
 週末、映画を観に行こうと言っていた。玄関で、いってらっしゃいと言ったのが最後になった。

 カンニングについて。普段の性格からして考えられなかった。成績は悪かったが、不正行為をしてまでという子ではなかった。
 試験最終で、苦手な英語のグラマーで追いつめられていたのだと思う。
 教室に鞄を取りに行くように言われ、遅刻でさえできないほど、注目を浴びるのを嫌がった。
 さらしものになるような状態で、鞄を取りに行くことはできなかった。
 その場から逃げたかったのではないかと思う。

 スポーツ振興センターに問い合わせたら、高校生の自殺は判断能力があるから、出ないと言われた。
 正常な判断ができないほど精神的に追い詰められていた。混乱していたことをわかってほしい。
 判断能力があったと言われたのでは、浮かばれない。


 両親に対して、被告の日本スポーツ振興センターからは一切の反対尋問はなかった。
 裁判長は、被告側にのみ、「和解は難しいか」と聞いた。代理人は「はい」と答えた。

 次回、2014年5月30日、東京地裁806号法廷にて、13時15分より判決。
(命日5月29日の翌日)
日本スポーツ振興センターに対し死亡見舞金の支払いを求める裁判について

                                                     2014年3月11日
                                                          原告:父・母


1.事件の概要

 2009年5月29日、私立高校3年生だった次男は、中間試験でカンニングが発覚し、試験終了後、試験監督の教諭に連れられて職員室に向かった。途中の廊下で生徒指導主任が通りかかったので、監督の教諭が事情を説明すると、生徒指導主任は次男に教室へカバンを取りに行くように指示し、二人はその場で次男が戻ってくるのを待った。次男は階段を上って教室に向かったが、教室のある3階を通り過ぎ、4階まで上がって廊下の窓から飛び降りた。

 次男がカバンを取りに行くように指示されたその時間は、教室では帰りの会が行われており、その中に一人で入っていくのは自分が晒し者になると、次男は感じたであろう。また、この高校ではカンニングをした場合、全科目0点となるため、1年生から成績の振るわなかった次男は、これで卒業や進学が絶望的になったと思ったに違いない。心の整理がつかないまま一人にされて、どうしてよいか分からず、自暴自棄になって窓から飛び降りたのだろうと私達は思っている。
 また、次男が亡くなってから3ヶ月後に、日本スポーツ振興センターに死亡見舞金を請求したが、却下された。


2.裁判の経過

 2011年7月、注意義務違反と安全配慮義務違反で高校を経営する学校法人と生徒指導主任を、死亡見舞金の支給を求めて独立行政法人・日本スポーツ振興センターをそれぞれ提訴した。
 ただし、学校法人と生徒指導主任については、学校側が道義的・教育的責任を認めたため、昨年12月に和解に応じた。
 


3.日本スポーツ振興センターの災害給付制度について

 日本スポーツ振興センターの災害給付制度は、学校の管理下で児童生徒が病気や怪我などをした場合、及び死亡した場合に、治療費や死亡見舞金を給付する共済制度である。その掛け金は、中学生までは保護者と学校設置者が折半し、高校生では保護者が9割を負担している。加入については、一応任意という形をとっているが、小中高校生の98%以上が加入しており、強制加入に近いものである。また、引き受け母体は独立行政法人であるから、労災保険と同様に公的な性格を持った共済制度であるといえる。

 センターの災害給付制度では、学校管理下で自殺した場合は死亡見舞金(2,800万円)を支給するが、高校生が「故意に死亡」した場合には支給しないとなっている(センター法施行令より)。


4.日本スポーツ振興センターに対する訴訟の主な争点

(1)学校管理下で児童生徒が自殺した場合、小中学生であれば無条件に死亡見舞金を支払うが、高校生については「故意による死亡」の場合には支払わない、という制限を設けていることについて

(センター側の主張)
 高校生ともなれば当然一人前と考えられることを前提とした立法政策の問題である。

(原告側の主張)
 自殺する子どもは、正常な判断力をなくし、死ぬ以外に逃げ道がないと視野狭窄に陥って自殺をするのであって、そのことに中学生も高校生も区別はない。高校生を一人前とみなすセンターの主張に合理的根拠はない。労災保険や民間の生命保険では、このような場合、大人であっても死亡保険金を支払っている。

(2)高校生の「故意による死亡」についてのセンターの運用基準について

(センター側の主張)
 「故意による死亡」とは、死ぬという認識をもって自殺したものをいう。精神疾患等で死ぬことを認識せずに自殺した場合は「故意による死亡」には該当せず、死亡見舞金の給付対象となる。しかしながら、自殺をする者はほとんどの場合(いじめや体罰や生徒指導を苦にした自殺を含め)、死ぬという認識をもって自殺しているのだから「故意による死亡」であり、死亡見舞金の給付対象とはならない。つまり、「死を認識した自殺」=「故意による死亡」、「死を認識していない自殺」=「故意による死亡ではない」ということである。

(原告側の主張)
 鬱が原因で自殺した者を含め、自殺をするほとんどの者はその行為によって死ぬことを認識している。しかしながら、死ぬことを認識していたことと、法的評価の「故意」とは全く別問題である。法的評価においては「正常の認識、行為選択能力、自殺を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態の自殺は故意とはみなさない」とあり、実際、労災保険や生命保険や共済保険などにおいては、このような状況の自殺に対して保険金を支払わなかった事例はない。法的評価でいう「故意による死亡」とは、保険金目当てや政治的主張を目的とした自殺などに限られており、センターの「故意による死亡」の運用基準は一般の保険金給付基準とかけ離れた独自のものであり、容認できない。
(※次男の場合、加入していた県民共済と民間の学資保険から死亡保険金が支払われている)


5.最後に
 一昨年末に、大阪の桜宮高校で部活動顧問による体罰を苦にして高校生が自殺した事件が新聞やテレビで大きく報道され話題となった。しかし、日本スポーツ振興センターはこれについても、故意による死亡であるという理由で死亡見舞金を支払っていないはずである。これまでも、多くの高校生がいじめや体罰や生徒指導を苦にして自殺をしているが、これらは全て「故意による死亡」とみなされ、死亡見舞金の対象外とされてきた。子どもを自死で失った遺族にしてみれば、子どもがつらい思いを抱えたまま亡くなったという悲しみに加えて、公的機関であるセンターから、傷口に塩を塗るように「あなたのお子さんは一人前で判断力があったのだから、自殺を思いとどまることができたのに、勝手に死んだんですよ」と言われたのに等しい。
 私達はこの裁判を通じて、センターが「故意による死亡」の運用基準を、労災保険や一般の生命保険と同一のものに改めるべきだと思っている。そして更に言うなら、センター法を改正し、高校生の支給条件から「故意による死亡」そのものを削除すべきだと考えている。


Takeda 私見

たとえば、警察庁発表の「平成25 年中における自殺の状況」の「職業別自殺者数」で、
小学生は8人、中学生は98人高校生は214人、大学生は469人となっている。
高校生以上は一人前で判断力があるのであれば、高校生、大学生、大人の自殺は年齢を経るに従って、少なくなるはずだが、現状は逆である。
(子どもの自殺データは PDF グラフPDF)

高校生の自殺は中学生の倍以上ある。これに死亡見舞金を出すとなれば、センターの経営を圧迫しかねないという事情があるのではないか。(もっともサッカーくじTOTOで儲かっている?)
日本スポーツ振興センターhttp://www.jpnsport.go.jp/anzen/home/tabid/102/Default.aspx には、文科省などからの天下りがたくさん来ていると聞く。
(ウィキペディア http://bit.ly/1jfhPre )
(http://www.jpnsport.go.jp/Portals/0/naash-reiki/aggregate/catalog/result/catalog.htm)
同じような事例でも、見舞金が出たり、出なかったり、不透明な部分もあるようだ。

親や税金からも掛金が出ているのに、実質的には学校しか申請が出せず、学校が、学校管理下の死亡や障がいと認めないと、申請さえしてもらえないという問題がある。
2006年の福岡県筑前町のいじめ自殺事件(061011)をきっかけに、2007年、文科省が省令を改正。それまでは出なかった(学校内での自殺やうつ病だったなどの理由、あるいは不透明な中で、出た場合もある)自殺でも、いじめや体罰に起因するなど、学校管理下と認められれば出るようになった。
しかし、高校生は学校内での自殺であっても、対象外になっている。

現在、学校事故全体を把握できる数字は、センター給付のために出された申請内容をまとめたものしかない。
(ただし、被災者や家族が内容をチェックしないまま、学校から申請書が提出されているために、内容は学校に責任が及ばないものになっており、情報開示請求してみると非常に不正確であったということがよくある)
センター給付が出ることで、センターの統計に反映されたり、出費を抑えるために防止策が練られるのではないかと思う。
もちろん、親が子どもの死亡見舞金をもらってうれしいはずがない。しかし、自分たちも払った金で制度として整えられている当然の権利が履行されないとき、むしろ子どもの死が不当に扱われたと感じる。
とくに自殺の場合、センター給付がされるということはある意味、「学校管理下の死亡」と認められたことになる。
少なくとも、学校管理下の死亡と認められない限り、学校現場は事件・事故の再発防止を考えようともしない。
単に金が出る、出ないだけの問題ではない。

なお、センター給付申請の時効は2年。時々、学校が申請を忘れていて時効になったり、弁護士が時効を3年と勘違いしていることもある。センター給付について、知らない弁護士も多い。
センター給付は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令に基づいて支給される。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15SE369.html

センター給付の前身である「学災補償制度を求める運動」については、雑記帳me120518 参照。


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