わたしの雑記帳

2009/12/2 文部科学省の平成20年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果について思うこと

平成21(2009)年11月30日(月)、文部科学省の平成20年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果(暴力行為、いじめ等)についてが、発表になった。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/11/__icsFiles/afieldfile/2009/11/30/1287227_1_1.pdf

調査結果の主な特徴としては、
(1)小・中・高等学校における、暴力行為の発生件数は約6万件と3年連続で増加しており、小・中学校においては、過去最高の件数に上る。
(2)小・中・高・特別支援学校における、いじめの認知件数は約8万5千件と、前年度(約10万1千件)より約1万6千件減少(約16%減)している。
(3)小・中・高等学校において自殺した児童生徒は136人。うち、自殺した児童生徒が置かれていた状況として「いじめの問題」があったケースは3人
とある。

いじめではなく、暴力が問題になりつつある。しかし、今までも、いじめが減れば、暴力が増えている。単に分類項目の付け替えではないかと思う。
いじめは、いじめ自殺があると大きな問題となり、国会でも取り上げられる。上から、数を減らせとのお達しが来る。最も簡単に減らす方法が、この項目の付け替え。
暴力だけでなく、平成17年までは、「児童生徒の問題行動」の「不登校」ででも、数字が操作されていた(たぶん、今でも)いじめで不登校になった児童生徒を分類するとき、不登校に入れるか、いじめに入れるか。いじめに分類すれば、担任教師の指導能力やクラス運営能力が問われる。しかし、不登校に入れれば、生徒の学校に行けなさが問題とされる。
そして、不登校の増加が問題になれば、「30日以上欠席者」という条件をクリアするために、保健室登校を勧めたり、行事などに来させて出席扱いさせる。あるいは、アトピーなど本来の欠席理由ではないことを理由に病欠扱いにする。


いじめの定義は、http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/11/07110710/002.htm
『【平成17年度調査までの定義】
「いじめ」とは、「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」とする。なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。

【平成18年度調査からの定義】
本調査において、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。 「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
(注1)「いじめられた児童生徒の立場に立って」とは、いじめられたとする児童生徒の気持ちを重視することである。
(注2)「一定の人間関係のある者」とは、学校の内外を問わず、例えば、同じ学校・学級や部活動の者、当該児童生徒が関わっている仲間や集団(グループ)など、当該児童生徒と何らかの人間関係のある者を指す。
(注3)「攻撃」とは、「仲間はずれ」や「集団による無視」など直接的にかかわるものではないが、心理的な圧迫などで相手に苦痛を与えるものも含む。
(注4)「物理的な攻撃」とは、身体的な攻撃のほか、金品をたかられたり、隠されたりすることなどを意味する。
(注5)けんか等を除く。 』

文部科学省の定義では、いじめと暴力の分類があいまいだ。
NPO法人ジェントルハートプロジェクトでは、いじめを「心と体に対する暴力」と定義、つまり、いじめを暴力の形態のひとつと捉えている。だから、いじめが減ったが、暴力は増えるという現象は不自然さを感じる。
文部科学省の統計も、いじめと暴力を別々に捉えるのではなく、生徒間暴力のうち、有形の暴力、無形(心理的)暴力として捉えるべきではないかと思う。けんかとの区別をしたいのであれば、互換性のあるもの(やり返したもの)と、一方的なものに細分してはどうかと思う。

かつて、校内暴力が吹き荒れた時代(1970年代後半から増加し、1981年から83年にかけてがピーク)にも、いじめはあった。
84年に7人、85年に9人ものいじめが原因の自殺者を出すなど看過できない状態になって、ようやく、いじめ問題に警察や文部省の目が向くようになったと私は思っている。
今回も、生徒暴力がクローズアップされると、派手な有形暴力にだけ目が奪われがちだが、有形の暴力のあるところには、必ずと言ってよいほど、精神的な暴力、そして金銭や物を巻き上げるなど犯罪行為も伴う。有形、無形すべての暴力は子どもたちに大きな心の傷を残し、人生を狂わせ、時には死に至らせることを忘れてはならないと思う。


文科省分類の暴力行為の定義
(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t20030301001/t20030301001.html参照)

『昭和57年度より、公立中学校、高等学校における「校内暴力」(学校生活に起因して起こった暴力行為であり、対教師暴力、生徒間暴力、器物損壊の三形態がある)の状況について調査を行ってきた。

また、平成9年度から、小学校も対象に加えるとともに、「暴力行為」の発生状況について次のような方法で調査することとした。
「暴力行為」とは、「自校の児童生徒が起こした暴力行為」を指すものとし、「対教師暴力」「生徒間暴力」(何らかの人間関係がある児童生徒同士の暴力行為に限る)「対人暴力」(対教師暴力、生徒間暴力を除く)、学校の施設・設備等の「器物損壊」の四形態に分類する。』

こちらも、いじめと同様、定義と対象範囲が変わり、平成9年以降と以前は比較できないとしている。(平成9年度から特に中学校で一気に上昇)
なお、「生徒間暴力」の例のひとつとして、「高校1年の生徒が、中学校時代の部活の後輩である中学3年の生徒に対し計画的に暴力を加えた」とあるが、これをいじめと区別するのは難しい。
実は、平成10(1998)年の暴力行為は、前年比25.6%も増えている。この年、黒磯市で生徒による女性教師刺殺事件が起きた。いじめ事件と同じで、ひとつ大きな事件が起きると、今まで隠されていたものが噴出する。
そして、この年の児童生徒の自殺者数は192人(前年は133人)。文部科学省は2006年にいじめが原因と思われる自殺の再調査を平成11年度から行ったが、私が調べた新聞等で報道されたいじめが関わっているのではないかとされる児童生徒の自殺者数は15人。本当は、可能な範囲で過去の学校が関係すると思われる自殺すべての検証が必要だと思っているが、少なくとも平成10年から再調査すべきだったと思っている。

なお、今回から初めて、暴力行為の発生件数のうち病院で治療したケースの件数を出していることは評価できる。
『暴力行為の発生件数のうち当該暴力行為により被害者が病院で治療した場合の件数は、「対教師暴力」で1,806 件(発生件数に対する割合は22.2%)、「生徒間暴力」で8,329 件(発生件数に対する割合は25.7%)、「対人暴力」で529 件(発生件数に対する割合は30.7%)の合計10,664 件(発生件数に対する割合は25.2%)。』


さらに、今回、発表になった暴力行為の数字の校内だけ、国立・公立・私立の合計を見ると
対教師暴力 加害者 662 4911 848 6,421
被害者 791 5410 816 7,017
加害者÷被害者 0.8 0.9 1.0 1.1
生徒間暴力 加害者 3,114 21,180 7,646 3,1940
被害者 3,385 19,000 5,552 2,7937
加害者÷被害者 0.9 1.1 1.4 1.1

被害者の数より、加害者のほうが多い場合が、学年が上がるごとに増えている。
そして、本来、対生徒より、対教師のほうが、手ごわそうに思うが、教師に対してはほぼ一対一。生徒同士の場合、一人に対して複数で暴力をふるっている。
おそらく、ここで上がっている「加害者」は直接、有形の暴力を行使した、あるいはけがをさせるほどの行為をした児童生徒のみと思われることから、生徒間暴力とは言っても、一対一ではなく、複数対単数、多勢に無勢であることが予測される。
ますます、いじめとの区別がつきにくい。
なお、教師の体罰については、「体罰ではないかとして問題とされ,学校で調査した事件の状況」(平成15年度のもの。それ以降のものは見つけられなかった!) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/12/04121601/004.htm
教職員 252 479 230
児童生徒 379 783 341
被害生徒÷体罰教師 1.5 1.6 1.5

1人の教師が、複数の児童生徒に体罰を振るっていることがわかる。


文科省の数字の信憑性について、私は疑問を持っている。それでも、いじめも暴力も小学生で激増している。低年齢化は間違いないだろう。
そして、対教師暴力が増えているとしたら、生徒間暴力やいじめを放置したツケが大人たちにも回ってきているのではないかと考える。いじめ、暴力を大人たちから見て見ぬふりという容認をされた子どもたちは、ますます力をつけていく。
弱いものから、より強いものに暴力を振るうことで、自らの力を周囲に見せつけ、ますます恐いものがなくなっていくのではないかと思う。
こういう議論になると、必ずのように、法律で禁じられていて体罰ができないから、子どもを指導できないという理論が出てくる(実際には統計に現れている何十倍も教師による暴力は横行していると思う。これこそ、教師側の自己申告ではなく、児童生徒から直接、汲み上げるべきだと思う)。
しかし、暴力が蔓延している時代だからこそ、教育者として、力に頼らない指導が求められると思う。暴力以外の解決方法を大人が子どもたちに示さなければならないと思う。

いじめる児童生徒への対応のあり方も、もっと見直されるべきだろう。少なくとも、公立学校で、いじめている児童生徒の親への報告が50パーセントを切り、いじめられた児童生徒やその保護者に対する謝罪の指導が公立で39パーセント、私立48.6パーセント、国立50パーセントというお粗末な数字は改善される余地がある。
また、いじめられている生徒への対応においては、「学級担任や他の教職員等が家庭訪問を実施」の項目があっても、「保護者への報告」の項目が、複数回答であるにもかかわらず、ない。項目になければ、学校現場は報告しなくてもよいと受け取るだろう。いじめが子どもの自殺に結びつく重大な危機であることは、すでに多くの子どもの死が立証している。子どもの命を守る気持ちがあるのであれば、自殺は学校と家庭とが連携しなければ防げない。親にこそ、第一に報告するのは学校側の当然の義務だと思う。
そして、「個々のいじめへの対応」を見れば、具体的な対応策に乏しく、しかもほとんど実施されていないことがわかる。
このような状況ではむしろ、いじめの数値だけが減少していくことのほうが不思議だ。


自殺した児童生徒が置かれていた状況

警察庁の「平成2 0年中における自殺の概要資料」(平成21年5月発表)の職業別自殺者数
http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210514_H20jisatsunogaiyou.pdf P11
新聞報道等(子どもに関する事件・事故 1(いじめ・生徒間事件) 子どもに関する事件・事故 2(教師と生徒に関する事件))と比較すると

 
全  体 文科省     0 24 12 36 69 31 100
警察庁 4 5 9 53 21 74 132 93 225
い じ め 文科省           1     2
警察庁           5     6
新聞等         2 2 1   1
教職員との関係での悩み 文科省           1     1
警察庁         2 2   1 1
新聞等           1   1

文科省調査は平成18年度から公立だけでなく、私立や国立の学校も加わったが、相変わらず、警察庁の統計数字とは倍以上の開きがある。
また、平成18年度から、文科省調査で、自殺の原因と思われる項目は複数回答が可能となったが、どれくらい実態をうつしているかは不明だ。
そして、教職員との関係での悩みでの自殺は、かつて「教師のしっ責」という項目で、平成7年に中学生1人いた以降はずっとゼロが続いていたのが、今回、2名となった。(平成19年度は、警察庁調べでは中学生2、高校生3、文科省は0)
しかし、調査結果のまとめ部分にそれが触れられることはない。自殺予防の観点からも、せめて、これを教訓とする注意喚起、通達くらいは出してほしいと思う。


警察庁発表数字との差など、実態が把握されていないことについては、「子どもの自殺予防のための取組に向けて(第1次報告)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/kentoukai/houkoku/07050801/001.pdf のなかでも次のように指摘されている。

「文部科学省の調査では、例えば平成17年度の公立の小学校、中学校、高等学校の子どもの自殺者数は103人であり、警察庁の調査(288人)と大きな差がある。これは、警察庁の調査が国立、私立学校の子どもも対象としていること、調査期間が暦年(1月〜12月)であることなどが考えられるが、保護者との関係などから、学校が把握することには自ずと限界があるとの意見もある。
平成18年には、いじめ自殺が大きな社会問題として取り上げられたが、文部科学省の従来の調査(表1)では、平成11年度から17年度までに「いじめ」が原因とされる自殺は1件も報告されていなかった。これは現状を反映していないものであったため、文部科学省において調査方法に改善に向けて見直しを行ったところである。」

実態との乖離を認識されながらも、相変わらず、自殺した子どもの家族との認識の差も、警察庁統計との差も埋まっていない。
いじめ防止も、暴力防止も、自殺防止も、まずは正しい現実把握からしか、スタートを切ることができないと思うのだが、文部科学省が本気で取組んでいるようには思えない。


追記: 私は文部省のいじめ調査の正しい数字は最初の年だけだと思っている。
昭和60(1985)年度のいじめ発生件数は、小学校69,457件、中学校52,891件、高等学校5,718件の計155,066件だった。
翌61年度には、一気に下がり、小学校26,306件、中学校23,690件、高等学校2,614件の計52,610件。1年間で3分の1になった。
この間、どんな施策があったのか。これだけいじめを減らすノウハウを持ち合わせているなら、その後のいじめ自殺多発は起きなかったと思う。単に、何があったかわからず子どもの状況のおかしさに、調査をしてみればとんでもない数字が計上された。これはまずいと、数値だけが翌年から減らされたのではないか。行政側の言い訳としては、調査に不慣れだったとか、いじめの定義が浸透していなかったとか、いろいろ言えるかもしれないが、それでも教師の目から見て、いじめと感じられるものがこれほどあったということは事実だろう。
なお、昭和60年度の数字は、大河内清輝くんの自殺に端を発し、いじめ問題がクローズアップされ、いじめの定義変更や特殊教育諸学校の調査を加えた平成6(1994)年度(小学校25,295件、中学校26,828件、高等学校4,253件、特殊教育諸学校225件、計56,601件)、いじめ自殺が多発し、再び定義を変え、公立学校に国立、私立学校を調査対象に加えるようになった平成18(2006)年度(小学校60,897件、中学校51,310件、高等学校12,307件、特殊教育諸学校384件、計124,898件)さえ、超えることはない。

いじめ自殺については、その前年の昭和59年度から文部省の統計にあがるようになった。小学生1人、中学生6人の計7人。翌60年度は、中学生9人の計9人。この数字は昭和61年の「警察白書」の「いじめが原因とみられる自殺」の数字と一致する。

当時の経緯を私は知らないが、年間7人ものいじめを原因とする子ども自殺者が出るようになって看過することができず、調査に乗り出した。実態は大人が思っている以上に深刻で、このままでは政治の責任、教育委員会、学校の責任が問われることになる。そこで、減らせという厳命が出た。かといって、どう手を打ってよいか、どうすればいじめが減るのか、現場はどうしてよいかわからない。ただ数字を書き換えるしかなかった。
それを文部省は察知しながら、あえて見ぬふりをして、不自然な数字を信憑性を確かめることなく受け取って、発表した。それが慣例となった。
これはあくまで、私の想像でしかないが、可能性は十分あると思っている。





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