わたしの雑記帳

2005/9/17 小野朋宏くの裁判、傍聴報告。

2005年9月16日(金)、横浜地裁503号法廷で午前10時から、小野朋宏くんの民事裁判の口頭弁論があった(河邊義典裁判長)。

原告(小野さん)と被告(神奈川県)が、互いに書面で反論を提出。法廷でも、口頭にて弁護士から要点が述べられた。
被告側は前回(2005/5/20)、自らが提出した医師の書証をもとに、死因の鑑定の必要性を主張し、原告側の主張に対しては反論してきている。それに対して、原告側は、医師の書証の誤りについて、文書に加えて、法廷で口頭でも指摘した。

1.前提事実に誤りがあるまま、鑑定をしている。
具体的には、医師は被告側が提出した情報のみで鑑定を行っており、そこには、教師らが事故当日に作成した報告書や生徒たちのアンケート結果、原告母親の調書などは含まれていない。
従って、朋宏くんに意識障害があったことや痙攣(けいれん)していたことなどを、前提としていない
医師は、インフルエンザ脳症に疑問を呈しているが、原告側は最初からインフルエンザ脳症を主張していない。

2.救命可能性の意見書について、「今回のように急激に進行する場合に救命は困難」としているが、
@具体的な根拠が記されていない
Aいつの時点で搬送された場合を言っているのかが不明。
救急搬送の機会は何度かあった。
1度目はグラウンドで倒れた時点。仮に過呼吸であったとしても、ペーパーバックセラピーで手当をしても、数分で回復しない場合は、救急車を要請すべきとある。そうすれば、11時くらいには朋宏くんは病院に運ばれていたはずだ。
2度目は保健室に運ばれた時点。顔面蒼白で、意識障害が生じており、11時5分頃には痙攣を起こしている。
その時点(11時前後)で救急車で運ばれていれば、病院では血液検査や脳CT検査、心電図モニター、心臓エコーなどの検査をする時間があった急性脳浮腫であっても、急性心筋炎だったとしても、適切な処置ができたはずだ。

3.ペーパーバックセラピーによる悪化が考慮されていない。
教師らは、朋宏くんを過呼吸と判断していた。しかし、朋宏くんは顔色が悪く、頻呼吸。チアノーゼ状態だった。
酸素が足りない状態であるにもかかわらず、全く逆の手当をした。何度もペーバーバックセラピーを行い、合計にして30分ほども酸素を制限してしまった。また、意識障害にしても、痙攣にしても、酸素補給が必要であるが、誤った処置をした。

被告側は急性心筋炎を朋宏くんの死因として主張している。
しかし、急性心筋炎だったとしても、参考文献には、「見落としてはならない症状」として、「呼吸困難」や「痙攣」をあげ、「救急治療を要するもの」とある。
「ウイルス性心筋炎の急性期死亡率は約10%であり、早期診断、早期治療があれば救命できる」とある。

そもそも、死因が急性脳症であっても、心筋炎であったとしても、死因が何であれ、学校の注意義務は変わらない。今回のいちばんの原因は、教師らが素人診断をし、素人治療をしたことにある。学校内での養護の範囲と医療行為・治療とを混同したところにある
従って、被告側が主張するような、死因に関する専門家の鑑定の必要はないとした。

一方で、裁判長は、裁判所としても、救命の可能性について知りたいと言う。インフルエンザ脳症であれ、急性脳症であれ、心筋症であれ、死亡という結果の重大さから考えれば、中立的な立場の医師に死因について、適切な判断を仰ぎたい。誰に頼めばよいか裁判所としての心当たりはないが、できるだけ早急にしたいと言う。

原告代理人の原田敬三弁護士は死因を特定するのは無理だと食い下がる。何故なら、養護教諭らは体温さえはかっていない。死因を特定するためのデータがないと。

裁判長は、適切に治療をしたとして、救命可能であったのか、延命の可能性はどれくらいだったのか、後遺症などの予後についてはどうだったのか、賠償金を設定するとしても判断する資料が充分ではないとした。
そして、結果的に、鑑定人を選定するにあたって、どういう分野の人に依頼するのか、鑑定内容の事項についても意見を聴きたいとした。リスト方式は医療過誤や一部の交通事故などを対象としているので、今回は使えないとした。
原告と被告との異なる前提条件(痙攣があった・なかった、意識障害があった・なかった、など)については、いろんな可能性を考えて、それぞれの場合にどうだったかを聴けばよいと言う。

被告側は、死因について小児循環器系専門医に意見を求めることが適当であると、医師の書証をもとに主張している。
対して、原告側は神奈川県内の医師は、影響を排除するためにも避けてほしい。県外が望ましいとした。
また、心筋炎の専門家や循環器の専門医に鑑定を依頼することは意味がない。救急医療の専門家にみてもらうのが適当と主張。

次回、10月27日は、ラウンドテーブルにて、非公開で、鑑定人の選出と鑑定項目の決定を行うことになった。
それまでに、医師の選定や鑑定項目についての意見があれば、メモでもいいので出してほしいと裁判長のほうから、要望があった。

当初の予定通り、約30分で口頭弁論は終了。弁護団からの内容説明の席で、はじめて朋宏くんのおばあさんが発言した。「子どもが倒れていたら救急車を呼ぶのが、人として当たり前ではないのか。それをあの状態でタクシーで自宅に返すことが信じられない」「もし、学校側がやることをやってくれていたら、たとえ亡くなったとしても、寿命としてあきらめもする。学校に対してもきっと感謝していただろう」「今はせめて、申し訳なかったという言葉がほしい」

熱中症で亡くなった宮脇健斗くん(S990727)のご両親のことを思い出す。学校で何があったか知らされないうちは、最後を看取ってくれた教師や子どもたちに感謝さえしていた。それが、シゴキ殺されたという事実が隠ぺいされていたことを知り、不信感に変わる。ぶつけようのない怒りに変わる。わが子の死の衝撃のうえに、さらに大きな怒りと悲しみとを背負わされることになった。
もう二度とこの悲劇を繰り返してほしくない。そのための裁判であると思う。行政はそのことをどこまでそれを理解しているだろう。せめて、裁判所には理解してほしいと願う。



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