わたしの雑記帳

2005/4/17 ストリートチルドレンを考える会主催 
「路上の子どもに寄りそって 〜ストリートチルドレン」支援の現場から〜 講演会の報告


2005年4月13日、メキシコからNGOプロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェのスタッフ・ナチョさんが予定通り来日。4月16日にセシオン杉並にて、ストリートチルドレンを考える会主催の講演会があった。参加者は30名を超えて、急遽、イスを増やすなどした。

最初に、会の工藤律子さんから、メキシコのストリートチルドレンについての説明があり、プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェの活動を紹介するビデオが流された。ビデオには、2002年に出会った懐かしいスタッフ、子どもたちの姿もあった(わたしの雑記帳 番外編 2002.メキシコ 参照)。

そのあと、いよいよナチョさんが登場。アイスプレーキングとして、簡単なアクティビティを紹介。
ボールを使って参加者のひとりとやりとり。「真似をして」と、3つのボールをお手玉のように使う。
以前、愛着障がいの子どもたちへのプログラムとして、まず真似をしてもらうという遊びをするという話を聴いた。何気ないゲームのなかにも、こうした意味が含まれているのかもしれない。
メキシコで感じたこと。プロ・ニーニョスのスタッフはどこのNGOスタッフよりも楽しそうに働いている。
活動の基本となる価値観は、自分たちがまず楽しむこと、約束ごとを守ること、正直であること、お互いを尊重すること、公平であること、だという。
ナチョさんはとても真面目で、そして明るくて、周囲をいつも楽しませてくれる。ほっとさせてくれる。
プロ・ニーニョスのスタッフに共通する。

ナチョさんの話は、工藤さんからの質問に答えるという形で進められた。(途中、いくつかのアクティビティをはさんだ)
プロ・ニーニョスには、メキシコの他のNGOとは大きく違うやり方がいくつかある。
多くのNGOスタッフは、首から身分証明証をぶら下げて、自分がNGO職員であることを明示する。子どもたちと仲良くなるために、お菓子などを与える。そして、施設に入ることを根気強く説得する。
しかし、プロ・ニーニョスのスタッフはNGO職員であることを明かさない。路上の子どもたちと仲良くなるためにお菓子を配ることもしない。子どもたちを惹きつけるために、簡単なサーカスの技などを見せたりする。時には、自分はサーカスの人間で、団員のスカウトをしていると嘘をつくこともある。あるいは、ただ仲良くなって遊ぶ。関心を示して寄ってくる子どもたちだけを対象にする。路上での様々な遊びや創造、熟考する必要のある活動を行う。信頼関係ができて初めて、デイ・センターに誘う。しかし、けっして無理には誘わない。

プロ・ニーニョスが大切にしていること。
多くのスタッフが他のNGOを経験している。その中で、同じ失敗をしたくないと模索した結果がここにある。一旦、施設に入ってもすぐに路上に舞い戻ってしまう子どもたち。
大人たちはしばしば、「支援を与える」ことに夢中になりすぎて、子どもたちを「支援への依存症」に陥らせていると考えている。大人の都合で強制的に施設に閉じ込めても、子ども自身がよく考えて、路上を抜け出す決意をし、支援を選んでいかない限り、本当の意味で路上を抜け出すことはできないと考えている。
路上の子どもたちはしたたかに生きている。相手がNGOのスタッフだと知ると、「僕に何をしてくれるの?」と要求する。乱立するNGOを秤にかけて、よりよい条件を引き出そうとする。そうやって、いくつものNGOを渡り歩いたあげく、18歳を迎える子どもたち。メキシコでは18歳から大人と見なされる。
途端に、NGOの支援を受ける資格を失う。もう、誰も見向きもしなくなる。


デイ・センターでは、子どもたちに基本的な生活習慣を教える。衣服を洗濯すること、シャワーを浴びること、食事前に手を洗うこと、食後に食器を洗うことなど。そして、様々なアクティビティ。スポーツをしたり、絵を描いたり、絵本を読んだり、ゲームをしたり。路上とは違う生活を感じてもらう。
子どもたちにはアクティビティを通して、いろんなことを学ぶ価値のある、様々な能力をもつ自分に気が付く。誇りを取り戻していく。
ここでも、もちろんシンナーをはじめとするドラッグを禁止している。しかし、厳しく叱ったり脅してやめさせるのではなく、時に冗談めかしたりしながら、アクティビティに参加する時には、ドラッグはやれないのだということ、ドラッグをやっていてはせっかくの自分の能力が発揮できないのだということを分からせていく。
そして、子どもたちがドラッグを忘れていられるくらい夢中になれるような内容をと常に工夫している。自分たちが楽しまなければ、参加する子どもたちも楽しめないから、まずは自分たちが楽しむことを心がけているという。

デイ・センターに子どもたちが通うようになっても、ここは宿泊施設はないので、夕方になれば子どもたちを路上に返す。そのうち、子どもたちが路上に帰りたくない、ずっとここにいたい、と思うようになってはじめて子どもと担当スタッフとが共に人生計画を立てる。
スタッフは子どもたちの将来や生活に対しての希望を聴く。子どもたちはいろんな希望を言う。そのなかから、現実に本当に何を望んでいるのかを絞りこんでいくという。

人生の選択には、家庭に戻る(家庭への再統合)、定住施設に入る、自立生活を準備するなどがある。
家族は、必ずしも自分の子どもがなぜ路上に出てしまったのかを理解していない。それを話し合いのなかから、根気よく、気づかせていく。子どもが家庭に帰っても1、2年は担当のスタッフが訪問して、その子の様子を確認する。
施設に入る場合、プロ・ニーニョスが信頼できる施設のみを紹介する。子ども自身に見学をさせて選択させる。
自立生活は仕事を探すことが中心となる。ただ、仕事を割り当てるということはしない。自分で履歴書を書いて、面接を受けて就職することを学ばせる。提携している会社はあるが、子どもたち自身が仕事を得る方法を獲得していかなければ意味がないという。プロ・ニーニョスを離れても、子どもたちが自立してやっていけるように。

1997年から2004年末にかけて、375人の少年(プロ・ニーニョスは少年のみを対象にしている)が路上生活から抜け出すことができた。日本に来ているときに、メールで400人になったと報告がきたと、ナチョさんが誇らしげに言う。
50%が定住型施設に入り、41%が家庭に戻った。9%が自立生活を送っているという。

参加者からの「いちばん辛いことは何ですか?」の質問に、ナチョさんは眉を曇らせ、「知っている子どもが死んでしまうこと」と答えた。ドラッグの吸いすぎで死んでしまう子ども。朦朧とした状態で道路を渡って車にはねられた子ども。仲間同士の殺し合いで、命を亡くした子どももいる。警官に虐待されて死んだ子どももいる。以前ほどはそういうことはなくなったが。
うまくいかなかった子どもはたくさんいる。たくさんの子どもたちが死んでいったという。
それでも、助けを必要としている子どもがいる、路上を脱した子どもたちがいる。その子たちを放ってはおけない。人間は素晴らしさ、子どもたちの素晴らしさを信じているという。
よく、「子どもは未来だ」と言う。でも、そうじゃない。子どもは「今」なんだとナチョさんは言う。今の子どもたちに目を向けるべきで、今の子どもたちに、今、どうしたらいいのかを考えることが必要なのだと言う。

「日本人に何ができますか?」の質問に、まず、自分たちの周りにいる子どもたちを大切にしてほしいと言う。そして、ストリートの子どもたちの現実を理解してほしいと言う。メキシコでも、他の国でもストリートチルドレンはたくさんいる。しかし、けっして金をあげないでほしいという。彼らはその金で食べ物ではなく、ドラッグを買う。そして、食べ物や服を与えないでほしいと言う。
そうした行為が、子どもたちの路上生活を容易にする。路上暮らしから抜け出せなくさせている。路上は厳しい、いいものではないと思えば、違う人生を選択しようと思う。安易な援助が、子どもたちを危険な路上に居続けさせているという。

路上で生活することの危険を知り、それが子どもたちにけっしてよくないと確信を持っているからこその言葉であると実感する。路上の子どもたちの行く末は「死」であることを深く心に刻んでいるひとの言葉だと思った。

活動するうえで、ナチョさんが気を付けていること。
・必要以上に子どもたちに馴れ馴れしくしないこと。かえって、警戒心をもたれてしまう。
・ジョークを交えて楽しく接すること。しかし、しつこくなりすぎたり、攻撃的なことは避けるよう気を付けているという。
親しみと愛情を与えすぎないように気を付けているという。子どもがスタッフに懐きすぎると、他のコースを選ぶときの妨げになることがある。子どもを依存的にして、自分がいないとダメだと思わせるようにしてはいけないと言う。どこにいても自分でやってけるようにしなければいけないと言う。

ケニアでストリートチルドレンを支援してる松下照美さんを思った。子どもたちの「お母さん」にはならない。子どもを依存的にしてしまうから。「おばさん」でいる。子どもたちの甘えを時には厳しく振り払う。それでいて、本当にその子の生死がかかっている時には、全力をかけて救おうとする。
本当に子どもたちのためにと活動している人たちの思いは、想像する以上に深い。

今回、ナチョさんに日本に来てもらって本当によかったと思う。もっとも、もっと私たちは学ぶべきことがある。
それから今回、とてもうれしかったこと。2年以上前にほんの2回ほど会った私、スタディツアーの一参加者でしかない私のことを覚えていてくれたこと。きっと覚えていないだろうなと思っていたのに。
私は、ますますプロ・ニーニョスが大好きになった。ナチョさんが大好きになった。

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追記:
とくに面白かったアクティビティ。デイ・センターに通って3カ月目くらいをめどに行うという、役割交替のゲーム。子どもたちがNGOスタッフの役になり、スタッフが路上の子どもたちの役になって、子どもたちが路上の子ども役(スタッフ)に対して、路上生活をやめるよう説得するというもの。
実際に参加者5人を選んで、ナチョさんと会のメンバーの計3人を説得する。路上の子ども役の悪ガキぶり。タジタジのスタッフ役。会場は笑いに包まれた。一生懸命説得しようとして、うまくいかず、かえって路上の子どもたちの言い分に納得させられてしまう参加者たち。
子どもたち自身が、なぜ路上生活をやめなければいけないかをゲームのなかで真剣に考えるだろう。
そして、スッタッフは、子どもたちに接するときの自分の態度を振り返る。威圧的ではないか。やたら質問をしすぎるのは不信感を与えるのではないか。どういう誘い方なら、自然に仲良くなれるか。等々。





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