わたしの雑記帳

2003/6/7 岡崎哲くんの裁判、茨城県警を訴えている国家賠償裁判(5/28)の報告、警察官の証人尋問


5月28日(水)、水戸地方裁判所301号法廷で、午後1時30分から国賠の口頭弁論、当時竜ケ崎警察署の生活安全課課長のO氏の証人尋問があった。いつものように被告弁護士席には6人もの弁護団が並び、こちらは若手の弁護士が2人。

O氏(昭和26年生まれ)は、事件(1998年10月8日)当時、生活安全課課長として、捜査の責任者だった。
中背で、がっちりした筋肉質の体型。威圧的な雰囲気で、いかにも警察官という感じ。
以下に尋問での主だったやりとり内容を報告する。(今回、尋問時間が2時間を超える長時間であったこと、同じ内容が言葉を変えて何度も繰り返されたことでどのように報告をまとめたらいいものか悩んだ。結果、時系列ではなく、以下のように主なポイントごとにやりとりをまとめてみた)

1. 被疑者の父親と兄が現役の警察官ということについて
Q:10月8日の午後5時頃、刑事課から事件を引き継ぎを受けたとき、被疑者(H少年)の父親と兄が警察官だとわかっていたのか?
A:引き継ぎを受けたので知っていた。
Q:そのことを配慮しようとは思わなかったか?警察官が身内の事件がマスコミに漏れたら大きく報道されるだろうと考えなかったか?
A:全く考えなかった。一般の事件と同じように扱った。
2. 哲くんのほうからけんかを誘ったと結論づけた理由
Q.被擬事実の要旨で、被害者(岡崎哲くん)から日ごろ、けんかができるかと挑発されていたというのは被疑者が言っている内容だが、他に証拠づける証言はあったのか?
A:ほかに聞いたものはいない。被疑者の供述が中心だ。
Q:その後の捜査で、学生や教師のなかから、内容を裏付ける証言はあったのか?
A:はっきり覚えていない。
Q:緊急逮捕された被疑者が自分の立場を有利にしようと弁解するのが一般的ではないのか?
A:わからない。場合、場合による。しかし、把握していた内容で判断した。
Q:把握していた内容というのは、被疑者の話だけではないのか?
A:そうだ。
Q:挑発されていたからというのは、自分の非ではなく、被害者の非であるということを言いたかったからだと思うが、どうして、それが信用できると思ったのか?
A:それまで警察が把握した内容を事実として書いた。その時点では信じられると、そのように思った。
Q:わざわざ被擬事実のところに載せたかったからではないのか?補強証拠はないのに、被疑者の言い分を通常載せるのか?
A:載せる。その時、判明していた概要を書いた。
Q:その根拠が被疑者の話だけというのは、被疑者が警察官の身内だから嘘はつかないだろうと考えたからではなかったか?
A:なかった。少年たちの供述と学校の先生の供述に食い違いがなかったから信用した。

Q:事件当時、被疑者はジャージを着ていて、被害者は制服のままだった。客観的事実としては、被疑者のほうがけんかに積極的な気持ちを持っていたのではないのか?けがの具合や服装など客観的な事実からして、被害者はけんかを予想していなかったのではないか?
A:どちらも(けんかに)積極的な気持ちを持っていたのではないかと思っていた。被疑者がジャージを着ていたことは逮捕の時点では認識していなかった。逮捕後、捜査員から連絡があり、わかった。
被疑者からは、今日はやらなくちゃならない。制服を汚すとお母さんに怒られるからジャージに着替えたと説明を聞いている。
3. 哲くんとH少年の一対一の素手でのけんかと判断したことについて
Q:事件の一報はどこから?
A:最初に刑事課に110番通報があった。最初は少年事件かどうかわからなかったので刑事課が対応したが、その後5時前後に、両当事者が中学生ということで、少年を担当する生活安全課に回ってきた。
Q:引き継ぎはあったのか?内容は?
A:刑事課から連絡を受けた。中学生同士のけんかで、被害者は病院で治療中だが、命が危ないということだった。
Q:いきさつについてはどのように聞いていたのか?
A:被擬事実の要旨は刑事課が作成した。被疑者少年と学校関係者から事情を聞いたところ、2人は同級生で、被害者(哲くん)のほうから被擬者(H少年)に「けんかをしよう」と誘われ、「逃げるなよ!」と言われて、決着をつけようとした。被害者が被疑者を蹴ったので激怒して、被害者の左手をつかみ、顔面を手拳で殴打した。被害者は外傷性くも膜下出血の疑いで死亡。内部規定にのっとり本部長の決済をとって少年を緊急逮捕した。
Q:それらはどのような捜査をした結果判明した内容なのか?
A:被擬少年の供述を中心として、学校関係者の聞き込みをした。また被害者(哲くん)の遺体の写真を撮り、検分して、翌日(10/9)、司法解剖した。

Q:哲くんとH少年の一対一の素手でのけんかだと結論づけたのは何故か?共犯や複数犯の可能性は考えなかったのか?判断理由を教えてほしい。
A:関係者の証言や現場の状況から判断した。共犯性とかの事実は出てこなかった。
Q:数人で林のなかに行き、一緒だった3名が待っていたというのは誰が証言したのか?
A:被害者(哲くん)とH少年の2人が現場方面に向かって行ったと、待っていた少年たちと被疑者少年が言った。最後に通りかかった事件とは全く関係のない少年も3人が待っていたと言った。また、現場付近を散歩していた女性が2人を目撃している。
Q:同じ中学校の生徒が通りかかっただけ(事件には無関係)だというのは誰から聞いたのか?
A:本人が言っている。仲間が言っている。

Q:被害者が一方的に複数にやられた可能性について捜査しなかったのか?
A:着目しなかった。
Q:事件当時、「複数の生徒が現場に入っていった直後に事件があった。」「『あっち行った、こっち行った』という複数の少年たちの声を聞いた」というIさんの証言があったのを覚えているか?
A:名前は覚えていない。当日、事件後の騒ぎを聞いたという証言を聞いたという報告は受けている。
Q:事件のどの時点で聞いたか、詰めて調べたのか?
A:記憶にない。
Q:少年2人を目撃した女性の話は調書に載せて、この男性の調書がないのはなぜか?
A:見たとか行動したとかいう直接体験したことを中心に客観的事実で実証しようとした。男性は現場を見たわけではないので、聞いただけでは証拠にならない。散歩で通りかかった女性は、少年2人を見たというので調書に載せた。
Q:これだけ近くにいる人の証言は重要ではないのか?
A:重要かもしれないが、直接事件を見たという供述であれば残していた。直接2人がいるところを目撃したという供述は重要なので調書に残した。


Q:実況検分と少年たちの供述内容は完全に合致したのか?
A:ほぼ合致した。
Q:男性や目撃した女性から聞いた話と生徒の供述と合致しない点があるが?
A:勘違いしたんだと思う。
Q:誰の勘違いか?
A:女性の勘違いだと思う。記憶違いだろう。
Q:少年たちの証言は正しい?
A:事件の次の日に聞いたのだから、生徒たちは勘違いしていない。

4. 暴行態様について
Q:哲くんの解剖の結果、下腹部に出血があったとの三澤医師の証言があったが、覚えているか?
A:覚えていない。
Q:鑑定書は読んでないのか?
A:読んだが記憶にない。今は覚えていない。事件全体を通じて認識したことはない。
Q:被擬少年の供述では、頭部や背部などを手拳で数回殴打したとあるが、腹部への暴行は書いていない。鑑定書とのずれは認識しなかったのか?矛盾しているのではないか?
A:矛盾は感じなかった。今は覚えていない。記憶にない。
Q:写真を見ると、遺体には抉られたようなひどい傷跡があったが、本当に素手だったのか?
A:凶器はない。出てこなかった。
Q:事件直後に撮った写真を見たか?被疑者少年がほとんど無傷であるのに比べて、被害者ばかり一方的に傷があるとは思わなかったか?一対一の単なる素手でのけんかで、おかしいとは思わなかったか?
A:被害者に傷があったことは覚えている。現場の状況からみて解明しないと何とも言えないと思った。最終的には被疑者の供述で、倒れた段階で採石があって傷がついたという。遺体の状況と合っている。矛盾しない。

5. 被害者の着衣等を司法解剖の際、鑑定医に提出しなかった理由について
Q:司法解剖の際、着衣を提出しなかったのはなぜか?
A:着衣は実況検分した。10月8日、病院で治療の際に脱がされていたので、付けない形で遺体を解剖に回した。
Q:鑑識課に長くいるようだが、ふつうは司法解剖の際、着衣を鑑定医に見せるのではないのか?
A:一般的に着衣は鑑定医に見せない。客観的に死因を鑑定してもらうためにつけないようにしている。遺体の様子から判断することを優先している。
Q:鑑定医に着衣を見せることはないのか?
A:鑑定医から要望があった場合は見せる。しかし、今回はなかったので見せなかった。
パンツについた血については後に鑑定に出した。最終的に治療行為の時についた血だと判断した。
Q:いつ、何を根拠に判断したのか?
A:いつ判断したかは記憶にない。体から出血があったという報告はなかったから、判断した。
Q:暴行によって流れ出た血であると考えたことはないのか?
A:そうであるなら、治療行為時に見逃すはずがない。

Q:死因が最終的に心臓疾患によるものと判断されたが、学校でとった哲くんの心電図が添付されていなかったのはなぜか?
A:留意しなかった。
Q:最初、死因が不明ということだったが、積極的に究明しなかたのか?
A:解剖医におまかせすることで積極的に究明した。
6. 両親への対応について
Q:岡崎夫妻の面談はいつ、どこで行われたのか?
A:10月14日午後9時頃、警察署2階の女子休憩室の6畳間で行った。安全課は部屋がせまく、その時は塞がっていて他になかった。
Q:どういう内容を話したのか?
A:対面して、関係者の名前を伏せて、目撃情報を話した。事件現場の付近で3名の少年が待っていたことや、偶然、通りかかった1名が助けを求められて通報したことを話した。
Q:一対一の素手でのけんかであると言われて、両親は納得しなかったのではないか。岡崎さんは調書への署名を拒否しているが。
A:岡崎さんは動揺していたので納得されなくても仕方ないと思った。2度目は署名を求めていない。両親の署名は本件を認定するうえであまり影響がない。
本来なら説明しなければならないということはないが、遺族のことを考えて説明した。自分なりには精一杯説明したが納得してもらえなかった。私としては十分、気を遣ったつもり

Q:両親に解剖結果が出たら説明すると言いながら、連絡すると素人が誤解すると困るからと結果を説明しなかったのはなぜか?
A:説明するひとが素人なので、岡崎さんが誤解しても困ると思って説明しなかった。素人と言ったのは自分が医学の素人であるという意味。

Q:平成11年2月初めに岡崎さんが茨城県警本部に再捜査の要望を出したことは知っているか?
A:本部で一切、対応しているので、自分はタッチしていない。再捜査の要望が出ている事も知らなかった。再捜査には全くかかわっていない。自分がかかわったのは、事件のあった10月8日から被疑者が送致されるまで。再捜査は茨城県警本部の少年課が対応しているはず。



結局、「被疑者の証言だけに頼って事実認定をしたと思われるが?」と原告代理人弁護士に聞かれて、「揚げ足をとってもらっては困る。その前後の信憑性については吟味した。関係者の供述を参考に総合的に判断したと答えながら、一つひとつの判断基準について問いただすと、H少年の供述と仲間の少年たちの供述から判断したとの回答が返ってきた。そうでないものについては、他の被告と同じように、都合が悪いことに関しては「忘れました」「覚えていません」を連発。

ここへきて、加害少年と両親を訴えた東京地裁の第一審で実質勝訴した内容が生きてきたと感じる。今まで少年審判では「ストレス心筋症による心臓死」という病死扱いが、民事裁判で腹部への暴行が原因の死亡と認定されたことの意味は大きい。同時に、本来であれば死因を歪められたこと自体、訴訟の対象としたいところだろう。

今回の証人尋問では、警察捜査のずさんさが明らかにされたと思う。少年はウソをつかないことを前提に、警察が被疑者の言い分だけを聞いて事実認定するならば、すべての少年犯罪は被疑者の有利に働くだろう。警察に専門性はいらない。
そしてもし、これが警察官の身内かばいではない正当な捜査だとするならば、それこそ、茨城県警の事件、特に少年事件はすべて一から洗い直したほうがいい。初動捜査がいい加減だと、後から真実を追求することはとても困難となる。山形マット事件をはじめとして、多くの事件がそれを証明している。犯した罪がきちんと認定され、裁かれること。それが犯罪の最大の抑止力になると思う。一方で、口裏合わせが通用することを覚えてしまった子どもたちは、ばれなければ何をやってもいいと思うだろう。結果的に被害者も加害者も救われない。


次回は7月30日(水)午後3時30分より、水戸地裁301号法廷にて、マスコミ発表をしたI所長とS生活安全課課長の証人尋問が行われる。



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