わたしの雑記帳

2003/4/1 誰にでも襲いかかる! 「共謀罪」「参加罪」とは何か?


2003年3月31日、国分寺本多公民館で行われた、三多摩労働者法律センター(以下労法センターと略)主催の勉強会に参加してきた。講師は海渡雄一(かいどゆういち)弁護士。
許可をいただいたので、導入として、労法センター作成のチラシ文をそのまま掲載させていただく。

                誰にでも襲いかかる! 「共謀罪」「参加罪」とは何か?

 国際的(越境)組織犯罪条約の批准に向けた国内法「整備」の動き(=組織法改悪、日本の刑事法体系の改悪)が急ピッチで進行しています。2月5日の法制審議会総会で「共謀罪」「参加罪」等の新設を盛り込む答申が採択され、閣議決定−今国会上程が予定されています。

 耳慣れない「共謀罪」「参加罪」とは何でしょうか? 取締り対象とされている「重大犯罪」とは、最長4年以上の刑が予定されている犯罪を指し、「傷害」「逮捕監禁」「窃盗」「有印私文書偽造」等(例えば万引きも)。現行刑法で550を越える犯罪が含まれると言います。何でもあり、の取締り法規と言うしかありません。

 また、現在の日本の刑法体系では何らかの実行行為(犯罪行為)があって初めて捜査、取締りが開始されますが、「共謀罪」「参加罪」の場合は、事件や被害者が発生しなくても処罰され、実行行為に加わらない人も「相談」しただけ。「あいづちを打った」だけで捜査対象になります。これでは現行刑法体系を根底からくつがえし、治安弾圧・管理を強力に推し進めるもう一つの法律体系が登場することになります。

 全ての思想・表現・団体活動取締りが強化され、労働運動や反戦平和・環境保護等々を闘うあらゆる運動に襲いかかることは必至です。さらに運動に関わる人々、団体を構成する人々だけの問題だけではなく、全ての国民に対する監視・管理支配が強まります。これでは権力の顔色を伺って相互に牽制しあう「密告社会」の到来に道を開くことにもなりかねません。

 私たちはこの重大な法改悪の動きに注目し、「共謀罪」「参加罪」とは何か、どのような事態が進行しているのか、考えてみたいと思います。多数の皆さんの参加を訴えます。

                                                三多摩労働者法律センター 



海渡弁護士は、この問題を私のような素人にもわかりやすく説明してくれた。とはいえ、私自身がどこまで理解できているかは不明で、誤解もあるかもしれない(それまで何の知識もなく、まるっきりの一夜漬け。不備については、ご了承を)。ただ、関心をもつきっかけになればと思い、内容をここに報告する。

まず、この国際的(越境)組織犯罪条約ができたかといえば、イタリアのパレルモでマフィアに裁判官が暗殺された事件をきっかけにしているという。しかし、人権関係の条約のタイムテーブルが一度として守られないなかで、この条約だけはなぜかトントン拍子に話が進んだ。それというのも、ウィーンに各国法務省の人間、政府の代表が集まって審議されたが、その場に人権を制限される市民の代表は誰も参加していなかったからだという。つまり、事件にかこつけて、為政者にとって都合のいい条約がつくられていったということのようだ(日本でも校長先生の自殺をきっかけに国歌国旗法がアッという間に成立してしまった!)。

では、この「共謀罪」「参加罪」の何が問題かといえば、
●長期4年以上の刑を定めるすべての犯罪にはほとんどの犯罪が含まれる。
「重大な犯罪」と言いながら、実はこの中に軽微な犯罪まで含まれる。つまり何でもありの取締り法になる。

●実行に移しておらず、被害がでていなくても、犯罪にあたることが合議されるだけで「共謀罪」にあたる。
海渡弁護士は、トム・クルーズ主演の映画「マイノリティ・リポート」をわかりやすい例としてあげた。未来に起きると犯罪を予知し、その犯罪者を事前に逮捕できるという未来SF。そのために、主人公は現在、犯罪を何も犯していないにもかかわらず、警察から追われるというストーリーだという。(私は残念ながら観ていない)
同じようにこの「共謀罪」では「未来に起きるかもしれない犯罪でいま逮捕される」。
これは、犯罪の概念を大きく変える。現段階では犯罪を実行に移した段階から犯人とされる(一部、爆弾製造や麻薬所持などは除く)が、これからは計画しただけで犯人にされてしまう。(外国の「共謀罪」では準備行為など、何らかの顕示行為が必要になるが、日本の「共謀罪」案にはそれがない。
犯罪には合意・計画、準備、実行の段階があるが、その最初の段階ですでに罪になる。しかし現実には、計画しても実行に移すひとの割合は極めて低いだろう。誰かを殺したいほど憎んでいても、いざ実行となればできないのが普通の人間だ。現状、その人は犯罪者ではない。しかし、これからは2、3人で、「あいつ殺したい」と話すだけで犯罪者になってしまう。

●警察捜査が前倒しになる。国家権力に都合の悪い人間に対して、捜査が可能になる。
計画段階だけで犯罪になるということは、何か悪いことを話しているひとはいないかと常に監視・捜査できる。すでに盗聴法は成立している。町のあちこちに監視カメラが置かれている。電話・メール盗聴、室内盗聴、それらを駆使して、堂々と犯罪捜査を名目に監視することができる。もちろん、全国民を監視するわけにはいかないので(そのうちそうなるかもしれないが)、まずは国家が「敵」と見なした人間がターゲットにされる。それは必ずしも、暴力団や妖しげな宗教団体だけでなく、国家権力にさからう人間を政府・警察が「敵」とみなせば(当然みなすと思う)、捜査できる。

●「組織的な犯罪の共謀の処罰」に「ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を軽減し、又は免除するものとすること(第6条の2第1項関係)」とある。「密告社会」になる可能性がある。
まるで戦前戦中の日本。共産国のようだと思う。それだけでなく、故意に、悪意をもって「密告」すれば、ひとを罪に陥れることができる。自分から話をもちかけておいて、それに相づちを打ったことを録音でもしておいて、自首をすれば、自分自身の罪は減刑もしくは免除されるが、相手は罪になる。うっかり冗談やグチも言えなくなる。「本気でした」と一人が言えば、通ってしまうかもしれない。

●国際的(越境)組織犯罪条約の批准に向けと言いながら、一番肝心の「国際的」「越境」の要件がない。
この条約は、マフィアなどの国境を越える組織犯罪集団を対象にしているが、日本の法案には肝心な部分が抜け落ちているという。つまり国内の一般犯罪にも適用される。
(これはあくまで私の感想だが、日本政府の真意はむしろここにあるのではないかと思う。「国際条約」の名前を借りて、国内の法律だけではやりにくい言論の取締り監視強化をやってしまおうと考えている。本当は国際などどうでもよく、言論を封じて、国内を為政者の思うままにできる法律を強化したいだけなのではないか。日の丸、君が代の国家国旗法につながるものを感じる

●組織を対象とはいうが、2〜3人のサークルでも対象とされる。
条約では「共謀罪」と「団体参加罪」のどちらかを選べるオプションになっており、日本は「共謀罪」を選んだという。「団体参加罪」の場合、予め犯罪集団として団体を指定しておく必要がある。その団体に所属しているものはすべて取締りの対象になる。たとえば暴力団を指定すれば、暴力団に所属しているひとはすべて罪になる。
比べて、「共謀罪」では、不特定多数が対象になる。会社に、PTAに、町会に、サークルに、NPOなど何らかの集団に参加する私たちは、ほとんど皆、対象になる。

派生するものとして、
●証拠の保全のためにプロバイダーに全てのインターネットとメールの保存を要請できる。
「要請」とは言っても、実際には多くのプロバイダーが「警察の要請」に対して、なかなか「NO!」とは言えないだろう。たとえば、このサイトがお世話になっているJCAでも、この法案には反対している。通信のプライバシーが守られないこと、小さなプロバイダーにとって、全てのデータ保存は存続の危機にさえなるほどの負担となることなど。

そのほか、条約批准にあたっては、
●証人買収等罪の新設(刑事事件の証人に対して食事をごちそうしても罪になる?またはこれを理由に検察側が証人を取り調べることができる。取り調べを受けた証人は恐怖心から検察に有利な証言をしてしまう可能性も)

●ゲートキーパー規制法の案(まだ、条約にはなっていない。弁護士や会計士に対して、依頼者が違法行為をしていると疑いをもったときには通報することを義務付けるもの。今までは守秘義務に守られていたが、このような条約が作られれば、依頼者は弁護士に安心して相談することさえできなくなる。相互の信頼関係に関わる)

なども平行して準備されている。

これだけのことが予測される法案に対して、私たちは余りに知らない。そして、海渡弁護士は必至にあちこちで訴えてきたが、取り上げてくれるマスコミも限られているという。(2003/1/21 朝日新聞 「起きるかも・・・で取締り、危険」 「共謀罪」反対の意見書、 2003/1/31「週間金曜日 冗談も言えなくなる共謀罪の新設 ようこそ、プレ・クライムが裁かれる悪夢の世界へ など)
理由のひとつには、司法改革を目前にして、それぞれが課題をもって活動しており、各弁護士がとても忙しい状態にあること。テロと関連づけて、テロ集団に対するアレルギー反応から、今ならテロを防止するという名目があれば、充分に審議することを尽くさずに何でも通ってしまう下地が世界中にできあがっていること。

しかし、海渡弁護士は言う。国家間の戦争と違って、テロに対する戦争には終わりがないと。交渉する相手がいない。停戦協定も結べない。テロリストがいる限り戒厳令状態はずっと続くことになる。
そのなかで、政府はうまく人々の不安と条約を利用して、国家に反対するものへの金、人が集まる組織、情報を監視状態におきたい。

すでに昨年、テロ資金規制法(me020510参照)は成立してしまった(私は知らなかった)。盗聴法もすでに成立はしているが、令状が必要など使い勝手が悪いことが歯止めになっているという。「共謀罪」が成立すればそれもクリアされてしまう。そしてインターネットの監視。
為政者というものは、法律をつくっても、私たち一般市民が考えているような運用の仕方はしないものだ。むしろ、表面上は国民のためと言いながら、おいしいことを言いながら、裏では別の意図がある。
そして一度、できてしまった悪法を元に戻すのは、並大抵のことではない。
リスクマネジメントは大切だと思う。しかし多面的に考えないと、一方の激しく燃えさかっている炎ばかりに気をとられているといつの間にか、私たちは自由を失う。大切なものを失う。
何でも法案化することは、ほんとうに私たちの身の安全を守ることになるだろうか?運用する者の考えによって諸刃の剣となることを肝に命じておかなければならない。テロや戦争のどさくさにまぎれて、冷静な判断力を失ってはいけない。虎視眈々とチャンスを常にうかがっているものたちがいる。それは目に見える敵より、わかりにくい分、さらにやっかいだ。

一方で未だ毎国会で、盗聴法廃止案が出されているという。あきらめないでコツコツと闘い続けている人たちがいることに少しほっとする。しかし、どうせなら悪法がつくられる前に、本当に自分たちに必要なものは何かを考えて、安易な選び方をしない、連携した運動が必要だと思う。
大量に流される情報に左右されないで、目立たなくても大切な情報があることを肝に命じて。受け入れやすい言葉の裏に潜んでいる危険にアンテナを張って。今、私たちが踏みとどまれるかどうかで、次の世代が決まる。

内面の自由、意見表明の自由が奪われようとしていることに、危機感を覚える。



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