のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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5・11 対「渋谷区路上生活者問題連絡会」団体交渉報告


5月11日月曜日午前9時、のじれんの、野宿当事者とその支援者、総勢20数名 が、渋谷区役所隣にある渋谷区公会堂時計台前に集まった。わたしたちは渋谷 区との話し合いで何を得ることができたのか。

五月一一日月曜日午前九時、「仲間」と「支援」、すなわち野宿当事者とその 支援者、総勢二〇数名が、渋谷区役所隣にある渋谷区公会堂時計台前に集まっ た。本日は、 三月三〇日に渋谷区路上生活者問題連絡会(以下、連絡会と略す) に提出した申入書の回答を受け取る日である。整然と隊列を組んで「わっしょ い、わっしょい」の掛け声とともに区役所庁舎内を横断し、区役所内にある福 祉事務所(保護課)に向かう。仲間のなかには文字を奪われた者もいる。人と 全く会話をせずに何日も過ごす者もいる。自分を上手に表現できない者もいる。 彼ら彼女らにとって、福祉事務所でのやりとりはまさに苦痛である。区役所職 員の言葉や行動は不可解であり、どんな原理に基づいて言葉を発し、行動して いるのか、皆目不明である。人間味の失われた話の通じない壁のように感じら れてしまう。仲間は多様なニーズを訴える。

しかし、職員は法に基づいて訴えを分類し、処理する。彼ら彼女らが普段声に ならない声を「わっしょい、わっしょい」の掛け声として発していたか、残念 ながら確認することはできない。しかし、彼ら彼女らは一団となって掛け声を 発しつつ区役所を横断した。街頭では見て見ぬ振りをされることもある仲間も、 このときは周囲の注目を浴びる。仲間たちの姿を意識せざるを得なかった区役 所職員や区民にとって、掛け声はいかなる叫びに聞こえただろうか。

三月三〇日、渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合(のじれん)は、 連絡会に次のような内容の 申入書を提出していた。要点を抜き書きしつつ、若 干の解説を加える。

1 野宿者の路上脱却のために 生活保護を積極的に適用し、 最後までフォローすること

現行の渋谷区生活保護行政では、明らかに生活困窮者である野宿者が生活保護 申請を行ったとしても、六五歳以上の高齢者、病弱者、障害者しか生活保護を 受給できない。 生活保護法第四条第一項「保護は、生活に困窮する者が、その 利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のた めに活用することを要件として行われる」という規定、すなわち補足性の原則 に基づいた措置だとされる。野宿者は最低限度の生活の維持のために稼働能力 を活用していないとされるのである。しかし、稼働能力を活用するには、稼働 能力を活用する場、つまり就労する場所、就労する機会がなければならない。 現在、係争中の林訴訟の第一審判例には、補足性の原則の解釈に関して次のよ うにある。「保護開始申請者が、一稼働能力を有し、二その具体的な稼働能力 を前提として、三その能力を活用する意思があり、四かつ実際にその稼働能力 を活用する場を得ることができるか否かにより判断されるべきであると解され る。」

2 G荘の設備、待遇を早急に 改善させ、同時に他区の簡易 宿泊所の利用を追求すること

東京都内に被保護者が入所する更正施設は、けやき荘、生活相談一時保護所、 塩崎荘、浜川寮、本木寮、淀橋寮の六カ所しかなく、常に施設の定員数は入所 者で満たされている。そのため、現在、渋谷区生活保護行政は、生活保護実施 にあたって野宿者を更正施設に入所させることができず、一九七五年の東京都 民生局長通達にしたがって、野宿者を民間の簡易宿泊所であるG荘に宿泊させ ている。ところが、このG荘は、旅館業法第四条第二項の規定に基づいて、東 京都の旅館業法施行条例で定められている「換気、採光、照明、防湿及び清潔 その他宿泊者の衛生に必要な措置」の基準を満たしていない違法な営業施設な のである。

洗面台を雑巾で拭き取れば、その雑巾は真っ黒になり、部屋の中にはダニやシ ラミまでもがいる。窓はあるものの採光はほとんどどなく、曇った日には蛍光 灯を点灯しなければ、新聞も読めない暗さである。夜には廊下は電気を消され、 真っ暗闇となる。また、施設の奥には窓がないので、風通しが非常に悪い。夏 には、まさに灼熱地獄と化す。

3 渋谷区のあらゆる場所において 撤去、追い出しという強制手段 を金輪際中止すること

野宿者が公共の場で生活しても問題ないのであろうか。確かに、問題ないとは 言えない。しかし、彼ら彼女らは公共の場で生活したくて生活しているわけで はないことは、明白であるだろう。私有地に侵入して眠るわけにはいかないの で、仕方なく公有地で眠るのである。ある公有地を立退かされたとしても、別 の公有地で眠るしかないのである。

こうした立退きは、一般的にはその過程で、立退き当事者の生活困窮の程度を 悪化させることになるので、可能な限り回避することが望ましいはずである。 また、新しい人権として注目される 居住権の観点からは、公共の場でやむなく 生活することを正当化することが可能であり、通知なしの強制立退きの拒否な ど、ある程度の権利主張が可能になる。

4 「自立支援センター」を区内に 設置することを検討し、東京都 との調整、地元住民の合意を はかるなど、早期開設に向けて 具体的に始動すること

野宿者は、住所不定を理由に住民票が入手できないので、職業安定所で白手帳、 すなわち日雇労働被保険者手帳が交付・再交付されず、仕事を斡旋してもらう ことはできない。しかし、就労が保障されないからといって、生活保護により 生活が保障されるわけではない。前述のように、高齢や病気や怪我などにより 稼働能力が喪失したと判断されなければ、生活保護は適用されないのである。 こうして、野宿者は労働行政と福祉行政の狭間に落ち込むことになってしまう。 つまり、労働行政が就労の機会を与えてくれないにもかかわらず、福祉行政は 稼働能力があるとして野宿者に 生活保護法を適 用しないのである。住所不定に よる履歴書の住所欄の空白や、無所得による求職手段の喪失、そして不況によ る求人の減少等の様々な原因により、一般労働市場で就労できない野宿者は、 生活を保障されることもなく路上に封じ込められる。

こうした状況を打開するための突破口として、労働行政と福祉行政の間隙を埋 めんとする 「自立支援センター」のこれからの運用のされ方が注目される。

5 渋谷区内における野宿者の状況を 具体的に把握するため調査し、 同時に、食糧、生活、仕事など の保障について、柔軟に対応する

野宿者は移動する。当たり前の話であるのだが、この流動性が野宿者の実態を 把握することを困難にしている。また、渋谷区福祉事務所は生活保護を適用し ない野宿者に対して法外で援護を実施している。この法外援護は、あくまでも 生活保護法外の援護であり、応急援護にしかすぎないのであるが、現に野宿を している仲間の利益になる制度であることには間違いない。

6 今後、当事者団体であるのじれん と適宜、協議の場を設け、何事 も話し合いによって解決させていく

連絡会は、のじれんとの団体交渉を「交渉」ではなく「陳情」であると認識し ている。のじれんを渋谷区内の野宿者の利益を代表する団体として認めないの である。「交渉」であれ「陳情」であれ、実質的に話し合いが実施され、のじ れんの要求項目に対して真剣な回答がなされれば、とりあえず現状では問題な しであろう。

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到着後一時間ほど、支援は、体調の悪い仲間や様々なニーズを訴えに来た仲間 と面接相談員の仲介役として行動することになった。土曜日の医療パトロール を引き継いで、毎週月曜日に行われている福祉行動である。土曜日に宮下公園 で共同炊事をした後、仲間と支援で共同炊事に参加しなかった仲間の様子を尋 ねてまわり、体調の悪かった仲間とともに月曜日に福祉事務所へ行くのである。 連絡会との団体交渉がある本日も福祉行動は行われた。

一〇時から窓際の 「びっくり箱」、すなわち面接相談員や現業員が生活保護申請者から聞き 取りを行う面接室で、申入書に対する連絡会からの回答を受け取 り、質疑応答が行われることになった。びっくり箱に入りきれない仲間や支援 は、窓の外のテラスから中の様子を窺う。連絡会宛の申し入れであったのだが、 管理課、企画課、予防課などの職員は現れず、I保護課長と今春の人事異動で 新しく保護課に配属されたK相談係長の二名との団体交渉になった。保護課が 連絡会の窓口になったとのことである。仲間の現状を無視する硬直した「お役 所」的な回答に、仲間や支援から怒声も飛び交いつつ交渉は進行した。

一二時前、仲間の現状を訴えるビラを区役所前で配るために、一部の仲間と支 援が交渉を抜け出す。一二時過ぎに団交が終了する。腹ごしらえをしたのち、 午後からは管理課、企画課、予防課、衛生課を訪れる。保護課の二名だけでは 応答できない項目が多数あったからである。四時近くに、やっと各部署廻りが 終了する。集約の際には、さすがに仲間の間からも疲れの声が聞かれた。午後 から各部署廻りをする破目になったため、思いのほか、長い一日となってしまっ た。さて、今回の連絡会との交渉で、のじれんは具体的に何をかちとることが できたのであろうか。以下、申入書の項目の順番にしたがった集約をまとめる。 今回の団交の結果、「やはり変わるんだ」「より良くなるんだ」という実感は 仲間と共有できたように思う。もしかしたら、こうした意識の変化こそが最も 大きな成果だったのかも知れない。

渋谷区が約束したこと

  1. 生活保護法の理念に基づき、生活保護の積極的な適用を行う。また、 アオカン通院、つまり野宿をしたままの通院をさせない。
  2. 旅館業法で指摘されている全項目についてG荘に立入検査をし、基準を 満たさない項目については文書で改善の指導をすることを衛生課が約束。 (G荘の改善については、一定の進展があったのであるが、この詳細は 次号で報告する。)
  3. 暫くは撤去・追い出しがないことを管理課が確認。
  4. 自立支援センターに関する現状における情報を確認。二三区を5つのブ ロックに分割して、各ブロックに1つのセンターを設置予定。渋谷区は 世田谷区、目黒区、品川区、大田区と共にブロック3に入る。
  5. 法外援護の充実を検討すること、具体的には、三〇〇円を越える交通費、 印鑑、写真代やカップメンの給付を検討すること。(また、履歴書は既 に給付されていることが確認された。今回の申し入れに対する回答の後、 現金給付については、具体的に就労の見込みがある場合には、実際に 三〇〇円以上、一四〇〇円や一〇〇〇円の現金給付が実施されるように なった。渋谷福祉事務所のこの柔軟な対応は評価したい。)
  6. 交渉のさい連絡会関係部署すべての出席を検討することを企画課が約束。 また、次回からの交渉への出席を検討することを衛生課、管理課が約束。

 


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(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org