強制立ち退きに関する決議

国連人権委員会 (1993/77 号)


国連人権委員会は,

「差別防止及び少数者保護」小委員会による 1991 年 8 月 26 日の決議 1991/12 号(強制立ち退き)を想起し,

さらにまた,同小委員会による 1992 年 2 月 2 日の決議 1992/10 号が,1991 年 12 月 12 日に「経済社会文化的権利」部会委員会第6総会が採択した「適切な住宅への権利に関する一般見解」第 4 号 (1991) およびそこで再確認された人間の尊厳と非差別の原則を尊重する重要性について,強く銘記していることも想起し,

すべての女,男,および子供が,平和と尊厳のうちに生活できる安全な場への権利を持つことを再び明言し,

しかしながら,国連統計によれば全世界で十億を越える人々がホームレスあるいは適切な住居を持たぬ状況にあり,しかもその数は増加していることを憂慮し,

強制立ち退きなる行為は,人や家族や集団を無理失理に家族やコミュニティから連れさることによってホームレス状態を悪化させ,住宅と生活条件を劣悪にするものであることを認識し,

また強制立ち退きとホームレス問題は社会的な対立と不平等を尖鋭化し,常に社会の中で最も貧しくまた社会的経済的に環境的政治的に最も不遇で弱い立場にある人々に対して影響するものであることを懸念し,

強制立ち退きは,様々な主体によって実施され,裁可され,要請され,提案され,開始され,黙認されうる,ということに目をむけ,

強制立ち退きを未然に防ぐ究極の法的責任は政府にあることを強調し,

国家機関は適切な保護や補償のないまま人々を大規模に追い立てたり移転させたりする事業に関わるのを慎重に避けるべきである,と述べたところの「経済社会文化的権利」部会委員会第4総会採択の「国際技術援助施策に関する一般見解」第 2 号 (1990) を想起し,

「経済社会文化的権利に関する国際条約」第 16 条および第 17 条に対応して提出された国別報告のためのガイドラインにある強制立ち退きに関わる質問事項に留意し,

強制立ち退きの諸例が「経済社会文化的権利に関する国際条約」の要請に違反していることはまず明らかであり,それが正当化されうるのはごく例外的な場合に限られ,かつ国際法の関連する原理に則ってなされなければならない,と判定した「経済社会文化的権利」部会委員会「一般見解」第 4 号を高く評価し,

「経済社会文化的権利」部会委員会の第 5 総会 (1990) および第6総会 (1991) における強制立ち退きに関する見解を銘記し,

ラジンダール・サチャール氏によって作成された「適切な住宅への権利」についてのワーキングペーパーの中で,強制立ち退きが国際的に住宅危機の主要な原因の一つであるとして指摘されていることも銘記し,

さらに,1992 年 8 月 27 日に採択された小委員会決議 1992/14 号 (「強制立ち退き」) をも銘記したうえで,

1. 強制立ち退き行為は,人権なかんずく適切な住宅への権利に対する重大な違反であることを明言する;

2. 強制立ち退き行為をなくするためにあらゆるレベルで直ちに対策をとることを各国政府に要請する;

3. また,現在強制立ち退きの脅威にさらされているすべての人々に対して,影響をこうむる当の人々の効果的な参加や彼らとの協議,交渉に基づいて,保有条件の法的保障を授与すること,強制立ち退きに対するまったき保障を与えるためのあらゆる必要な措置を講ずること,をも政府に要請する;

4. 強制的に追い立てられた人々やコミュニティに対しては,彼らの願いや必要に見合って,原状回復,補償,および/もしくは適切で十分な代替住宅や土地を,影響をこうむった当の人々やグループとの相互に満足のゆく交渉をへた後に,直ちに与えることを,すべての政府に勧告する.

5. 本決議を,すべての政府,「国連人間居住センター」を含む関連国連機関・国連専門機関,国際地域・政府間機関,NGO,住民組織に送付し,彼らの見解とコメントを求めることを,国連事務総長に要求する;

6. さらにまた,国際法と法制,および前項に則って提出される情報の文責に基づいて,強制立ち退き行為についての分析的報告をまとめ,本委員会第 15 総会に提出することをも,国連事務総長に要求する;

7. 第 60 会総会では第 7 議題「経済社会文化的権利の実現」のもとでその分析的報告を論議し,強制立ち退き問題を引き続き検討するための最も有効な方法について定める;

ことを決定するものである.