山里紀行  W日本  <第145回> 森林認証

(平成15年5月5日発行の「山林・No1428」より転載)

内山 ( たかし )  (哲学者)

  

 上野村の家に、座卓風のヒノキのパソコン用机が置かれている。その机には、小さくFSCの焼き印が押されている。
 使われているヒノキは、FSCの森林認証を受けている。三重県の速水さんの森から出た木で、それを海山町の職人が机に仕上げた。焼き印は、FSCの認証材でつくられた家具であることを示している。
 現在では、持続可能な森林であり、持続可能な森林経営がおこなわれている山から生まれた木を、認証材として認定していこうとする動きが、世界的にひろがってきている。この動きに対応して、日本にも日本的な認証制度をつくろうとする働きかけもはじまっている。いうまでもなく、超零細な所有者が圧倒的に多く、自然も歴史も違う日本では、国際的な認証基準ではうまくいかないことが多い。
 だが、それは簡単なことなのだろうかと私は考えてしまう。むしろ逆に、大きな改革が伴わなければできないことなのではないか、と。
 持続可能な森林の意味を狭くとれば、つまり伐採によって、森林崩壊や消失がおこらないという程度の意味にとれば、日本の森林は、標高の高いところや山腹崩壊が起きる場所を除けば、すべてが持続可能な森林だということもできる。しかし、今日の世界の考え方は、持続可能とはそのことだけを意味しているわけではない。持続可能な生態系への配慮がなされていて、持続可能な森林経営を実現する方針とそのために必要な手段、つまり技術力や労働力を持っている森のことでもある。
 もちろん、このような側面に対しても、適当に帳尻を合わせておくことはできるだろう。一定の広さがある地域単位で認証すれば、そのなかには必ず人工林も天然林もあるのだから、全体としては生態系への配慮がなされている、とみなすこともできるだろう。このような視点にたてば、後は、遅れている間伐くらいしか問題にはならない。また、持続可能な森林経営の方針は、森林計画制度があるのだから十分に打ち立てられており、必要な技術力や労働力も、森林組合などがもっていると認定すれば、日本の森林は、ほとんどが持続可能な態勢をもった森林経営下にある、ということになるだろう。
 だが、そのようなことをしても、何の意味もないに違いない。なぜなら、今日の森林所有者の大半は、認証材として認定されるか、されないかにかかわらず、材を出荷しようという気持ちをほとんどもっていないからである。たとえ認証材になって多小高く出荷することができたとしても、今日の木材価格では木を伐る気にはなれない。それ以上に、何十年もかかる育林とつきあう気持ちを失っている。
 だが、それが悪いということでもない。なぜなら、日本の多くの森林所有者は、言葉は悪いが、森林から必要なものをその都度つまみ食いをするために、森林を所有してきたからである。かっては、山からマキや柴をつまみ食いしてきた。家を建てるときには建築材をつまみ食いした。そして、炭や建築材の値がよいときには、それらを出荷するためにつまみ食いした。
 そうしながら暮らしのなかで森を使っていくことのなかに、日本の森林経営も展開してきたのである。林業を媒介にした森林経営をめざしてきた少数の山持ちや、そのような伝統のある地域の人々とは、根本が違う。
 それを戦後の林業政策が、強引に林業経営に転換させようとし、その失敗が林業と森林の荒廃としてみえてきたのが今日である。これほどの補助金をつぎ込みながら、所有者が森を守る意欲を失っていく制度もめずらしい。とすれば、どこかに重大な考え違いがあったと思うほうが、妥当であろう。森林管理の方法を林業経営へと誘導したことによって、森からつまみ食いすることによって暮らしてきた大半の山村の人々は、基本的な森と人との関係をこわされた。それが、今日の山村の人々の森離れの根底にある。
 だから、たとえば日本には森林計画制度があるといっても、多くの森林所有者はその存在をも知らないし、知っていても、それはお上がつくった制度だという気持ちしかもっていない。林業は、森林組合などの事業体が補助金をもらうための産業であり、その全国一律的な補助金基準に合わせるために、しばしば環境上マイナスな作業もおこなわれている、というような感覚で、今日の多くの山村の人々は林業をみているのである。
 とすれば、この現実のなかで、日本的な森林認証制度をつくったところで、何かが生みだされるということはないだろう。
 いま日本で必要なことは、持続可能な森林の前に、持続可能な地域をつくることであろう。そして持続可能な地域をつくるためには、森と人との関係はどうあり、森はどうあったらよいのかを考える。その順序が逆であるかぎり、山村の人々の気持ちは動かないだろう。

 

 大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に 掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを転載させていただけることになりました。 感謝申し上げます。
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