|
山里紀行 W日本 <第132回>
気楽な森
(平成14年4月5日発行の「山林・No1415」より転載)
内山
節
(哲学者)
今日の森林政策はどうあるべきかと問われれば、私は、森とともに暮らす社会をつくるための政策、と考える。農山村の人々が森とともに暮らすためにはどうすればよいのか、都市の人々が森とともに暮らしていると感じられる社会をつくるには、どうすればよいのか、である。
戦後の日本の林業は、所有者にとっては、負担の大きい施業を基本に置いてきた。もちろん、それを負担とは感じず、当然のことと考えて実施してきた林業経営者もいる。だが大多数の零細な森林所有者にとっては、現在の林業のかたちはあまりにも負担が大きく、それゆえに、まずいと思いながらも、十分な手入れをできなかったのが現実である。
とすれば、もっと気楽に森とともに暮らすには、どうしたらよいのかを考えた方がほうがいい。
私は、たとえば間伐は、そのためにおこなうのだと思っている。大多数の森林所有者にとっては、それは、優良な木材を生産するためのものではなく、実際には、早く手のかからない森にするためにおこなわれている。あるいは、次のように述べてもよい。林業経営のために間伐をしようという提案は、いまでは、大多数の森林経営者たちの心を動かさない。それよりは、将来、大きな負担を強いられることなく、気楽に森とともに暮らせるようにするために、いま間伐をしておこうという提案のほうが、よほどその気になってくる。
そして、だとするなら、間伐の方法も変えてもいい。台風などの災害に対する少々のリスクを覚悟して、強間伐をおこなうのもひとつの方法だろうし、除伐をやめて早期に混交林化を計る方法もあるかもしれない。下層木がはえていて、植栽した木の成育が悪かったり、搬出がむずかしい場所の森は、思い切って植栽した木を除伐してしまう手もあるだろう。森とともぬ暮らすことのできる農山村をつくるためには、林業的な森林管理をすすめることより、天然林の間伐によって、景観を向上させながら、茸や山菜の出やすい森をつくったほうが良い場合だってある。
もちろんそう述べたからといって、私は林業を否定しているわけではない。そればかりかこれからの循環的な資源利用を考えれば、林業は欠かすことのきない行為でもある。しかし、そのことはわかっていても、木材を生産し、有効に利用する社会の基礎は、森とともにくらす農山村をつくることによってしか、実現できないだろう。森林所有者が負担であるような状態では、それは実現できない。
今日の農山村では、林業を何とか維持して維持していこうという政策がおこなわれればおこなわれるほど、森林は森林組合や事業者の生活の手段という色彩を強めてしまって、所有者は森から離れていってしまう。
だから私は、現在の森林政策は、農山村の人々が気楽に森とともに暮らせる状態を、早くつくりだすために、おこなわれる必要があると考えている。そして、都市の人々が、それぞれの立場から森とかかわっていく社会をつくるには、どんな政策が必要かを考えていったほうがいい。
ところで、そんなふうに私が感じる背景には、次のような気持ちもある。今日の私たちの感覚のなかには、いまのような経済社会に対するアキた感情が芽生えている。戦後の日本も、そして世界も、経済の発展を追い求めてきた。そこには、経済の発展が人間を豊かにすると信じられた時代があった。ところが、現在の私たちは、この発想にアキてきている。経済はそれなりに重要でも、経済がすべてではないと感じはじめた。
そして、経済的な論理の対極にあるものとして、今日の人々は自然を感じはじめている。だから、経済の論理で自然と向きあってはいけないと感じ、自然とともに暮らすという言葉のなかに、人は経済だけで生きるものではない、という思いを重ね合わせている。 森は、いまではこのような対象なのである。それは、林業経営者にとっても変わらないのだと思う。そうでなければ、これほど林業経営が苦境に立たされているにもかかわらず、なおも林業を継続しようとする人々がいることは理解できない。経営が成り立たないのなら、さっさと経営を閉じてしまってもよさそうなのに、なおも林業を守ろうとする。それは、経済だけでは測れない価値を、林業にみいだしているからであろう。 とすると、森を経済という縛りから、解放してもよいのではないだろうか。といって、それは、森から人が離れることではない。むしろ逆に、気楽に森とともに暮らせる社会をつくり、気楽に森を所有できる社会をつくりながら、林業活動を維持しようとする人々ももっと気楽に林業ができる。そういう現実をつくりだすには何が必要かを考えたほうがいい。 そんなことを考えながら、今年も私は、各地の森や山村を歩いている。
大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に
掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを転載させていただけることになりました。
感謝申し上げます。 なお「山林」のバックナンバー及び新刊は大日本山林会にお申し込み
頂けば入手が可能です。定価400円。詳細は大日本山林会 (пE03-3587-2551:Fax・03-3587-2553:振替口座・00190-8-5792)迄お問い合わせください。
|
山里紀行・目次へ 山里紀行・‘02年5月へ 山里紀行・‘02年3月へ |