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山里紀行 W日本 <第129回> 山里文化祭の閉幕
(平成14年1月5日発行の「山林・No1412」より転載)
内山節 (哲学者)
上野村の山里文化祭では、十月二十一日に、山女(やまめ)の産卵をみるという企画があった。こんな小さな企画に参加者がいるのかと思っていたところ、十人ほどの申し込みがあった。
担当者は大変だった。二,三日前から産卵のみられる川を探し、当日は早朝にもう一度確認のために川にでかけた。相手は天然魚である。私たちの希望どおりには動いてくれない。 その日、山は紅葉の季節を迎えていた。私たちは森の下を流れる沢を歩き、岩陰に身をひそめた。その先の淵の中で山女が泳いでいた。参加者たちが目を輝かせた。 その一行のなかに、担当者の姿はなかった。彼は神楽の舞手で、この日は彼の集落の秋祭りが入っていた。こういう時、担当者は準備だけをして、当日は他の者が担当を代理する。こういうやり方も、四月から文化祭をつづけてきたメンバーたちは馴れている。
参加者のなかに、上野村出身者がいた。おそらく四、五十年前に、都市に移ったのだろう。「若い頃は、上野村出身だとは恥ずかしくて言えなかったのよ」。昼になり、紅葉の森の中で昼食をとっていたとき、彼女が言った。「でも最近ではだんだん言えるようになったのは、私が変わったのかしら。それとも、社会の雰囲気が変わったからなのかしら」。
彼女は、偶然出身の村で山里文化祭をつづけていることを知った。そして、何度も来るようになったのだと言う。一過性のイベントを行なうのではなく、なんでもない村の時間を文化として大事にしようとする企画が気に入った。そんなことを説明しながらつづけた。「これからは胸を張って言うわ。私の生まれた村は、どこよりも文化を大切にしている村だって」。
十一月に入ると、山里文化祭への上野村の人々の参加がふえてきた。十一月の五日と六日だけで、二百人をこえる村人が私たちの企画に姿をみせた。千七百人の村だから、かなりの割合である。「手伝うことがあったら協力するから」。村人が気軽に声を、かけてくれる。
その後も小さな企画がつづき、山里文化祭は十二月九日に幕を閉じた。四月から十二月までの文化祭。上野村の時間の流れのなかに文化がある。この文化を、村人自身の手で再発見し、表現しよう。それが私たちの考え方だった。 成功したのかどうかはわからない。中心になったメンバーは、仕事を休んで準備にあけくれたこともあって、昨年はかなりの減収になった。もちろん、私たちはそのことをお互いに心配し合っていたけれど、それを許したメンバーの家族にも感謝するしかない。メンバーの一人が過労から、十一月に二度も入院した。私たちはかなりの無理を重ね、クタクタになっていた。終わったらとりあえず温泉にでも行こうと約束していたのに、十二月に入るとその気力もなくなっていた。
それでも、主催した「おてんまの会」のメンバーたちは、満足感を漂わせている。村民の自主的な企画として、やり抜くことができた。村民の自主的な活動を、村役場や教育委員会、県が応援して、地域とは何かをとらえなおす。このかたちは、これからの村づくりに生かされてくるだろう。自治は役場の仕事ではなく、住民の仕事だ。そのことを私たちは宣言するきっかけをつかんだ。村で暮らしつづけた村のはえぬきの人々、Uターンの人たち、Iターンの人。その三者がもっている能力を有効に結ぶとき大きな力が発揮されることを、私たちは確かめることができた。
十二月九日以降も、「おてんまの会」の会合はつづいている。どんな方法をつくりだせば、山里文化祭を何年もつづけることができるのか。昨年で昨年で活動を終了させようと考えているメンバーは一人もいない。村の「文化財」を登録していこうという動きもある。自然の「文化財」とたくみな技をもつ村人を「文化財」として登録していく。上野村を自然と職人の村にししたらどうか。その職人には、伝統技術の職人だけではなく、暮らしの職人も農の職人も、山の職人もふくまれるはずだ。 顔を合わせるとそんな議論がすすんでいる。役場もこの活動をつづけて欲しいと考え、しかし昨年のメンバーたちの苦労と負担を知っているから、役場からは言いだせないでいる。別個に、林業者の集まりや農業者の集まりをつくろうという動きもある。上野村の森と人の関係を村民が自主的に考えるグループをつくったらどうか。これからの村の農のあり方を提案するグループはつくれないか。子供たちと一緒に村の図書館を村民がつくり、行政がそれを応援する活動も、目標に上っている。県も村も、それが可能ならと応援する気でいる。 二〇〇一年の山里文化祭。村人たちは何かをやりとげた。そして、予想以上の成果を得たという思いをいだいて、新しい年を迎えた。
大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に
掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを転載させていただけることになりました。
感謝申し上げます。 なお「山林」のバックナンバー及び新刊は大日本山林会にお申し込み
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