(平成13年11月5日発行の「山林・No1410」より転載)
内山節 (哲学者)
四月からつづいている山里文化祭は、順調に展開している。それにしても無茶な計画を
立てたものだと、主催者である「おてんまの会」のメンバーも笑っている。一年の暮らしのなかに文化がある、その文化を
自分たちの手で表現してみようという企画、百をこえるプログラムが、次々と実行に移されている。
「自分の仕事を放り出して、”おてんまの会”のことばかりしてはいられない」。メンバーたちは、そう言いたくなるときも
あったはずである。しかし、誰もそのことを口にしなかった。他のメンバーを思いやる言葉は発しても、自分のことになると、
誰もが大丈夫だと言いつづけた。そのことに支えられて、四月三日にはじまった山里文化祭は、いま十一月のクライマックスを
迎えている。
九カ月間、毎週土曜、日曜に何かが企画されていく山里文化祭。それが打ち抜けた理由のひとつには、
村を守ろうという意識があったのかもしれない。近隣の市町村では、農協や森林組合の合併がすすみ、いまでは市町村合併の話も
でている。しかし、その動きに、上野村は背を向けてきた。上野村の農協も森林組合も、今日なお単独である。
ここは独立村だという意識が村人には強く、その姿勢をこれからも貫こうと思っている。この村を守ろうという意識が、
どこかで山里文化祭を支えていることは確かだ。
かっての上野村は、現在の長野県佐久地方から、埼玉県の秩父盆地へと
抜ける街道とともに展開してきた村である。上州の山村といいながら、信州から武州へ、そして江戸へとつながる結びつきの
なかで、仕事をし、暮らしを営んできた。上州の中心部との関係は歴史的に弱い。
それは交通路が、上州の中心部と結ばれていなかったからである。いまでこそ、群馬県の藤岡市へと向かう道が、
メインストリートのようになっているが、この道が主要道路となったのは、この道の改修がすすんだ戦後になってからのことで
あった。それまでは藤岡へと抜ける道は悪路で、馬による輸送も途切れがちになる山道がついているだけであった。経済の
面でも、文化や民族的習慣の面でも、だから上野村は、信州や武州との結びつきを強くもっていた。
その歴史が、いまでも村人の記憶のなかに残っている。ここは上州の一寒村ではなく、独自の文化をもつ独立村だという
意識として。それが村の人々のプライドの高さをつくりだしている。上野村のことは、すべて上野村の人間が決めるのだ。
東京にも前橋にも、口は出させないという気持ちが、村には当たり前のことのように定着している。
それは、いまでも変わることはなく、ゆえに、農協や森林組合の合併を推進しようという意見は、村では一度も聞いたことが
ない。今日の市町村合併の動きとなれば、村では、議論する必要もないこと、といった雰囲気である。独立村意識の高い上野村の
人々にとっては、それは論外のことなのである。
といっても、現在の時代風潮のなかで、この一、七八九人の村が守り抜けるのか、という危機感はもっている。そして、
その危機感が、村に蓄積されている文化を再発見しよう、という「おてんまの会」の呼びかけと、どこかで結ばれていた。
独立村を守り抜くためには、合併を推進する人々の論理とは違う村の論理を、打ち立てなければならない。この村の論理は、
上州の独立村であるがゆえにつくられた村の文化のなかに、あるのではなかろうか。村の仕事の文化や暮らしの文化を
みつめなおす。経済的合理性だけでは語ることのできないむらの暮らしを、いま村の文化として提案していく。その活動を、
「おてんまの会」という村人の自主的な集まりの手で実行することによって、独立村に暮らす村人の思想的立場を再確認する。
そんな気持ちがなかったならば、九カ月間にもわたる山里文化祭は打ち抜けなかっただろう。
面白いのは、この気持ちが、
最近都市から村に来た、いわゆるIターンの人たちにも浸透していたことである。「おてんまの会」自身、村に暮らしつづけた
人々とUターンの人たち、Iターンの人たちの結びつきで運営されている。それに上野村は、早くから都市からの移住者を積極的に
受け入れてきた村でもあり、都市の人々との交流のなかに村はあるという考え方を、もってきた村である。現在では百人ほどが
都市から来た村人だし、役場でも農協でも、村の主要産業のひとつである木工の仕事のなかでも、たくさんのIターンの人々が
働いている。独立村であるということは、決して閉鎖的な村であるということではない。
そういう新しく来た人々もまた、いつの間にか、ここは独立村だという意識をもっている。村に受け継がれてきた記憶が
浸透している。
私たちは、いまそのことのなかに、村の力を感じとっている。
大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に
掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを転載させていただけることになりました。
感謝申し上げます。 なお「山林」のバックナンバー及び新刊は大日本山林会にお申し込み
頂けば入手が可能です。定価400円。詳細は大日本山林会 (пE03-3587-2551:Fax・03-3587-2553:振替口座・00190-8-5792)迄お問い合わせください。
なお「おてんまの会」のHPはこちらからご覧になれます。
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