山里紀行  W日本  <第140回> 二〇〇二年の冬

(平成14年12月5日発行の「山林・No1423」より転載)

内山 ( たかし )  (哲学者)

  

 年々変化していく気候が、森の木々も、畑の作物も途惑わせているようだ。季節の変わり方が読めない一年が、村ではつづいている。十年前なら、十月中旬には紅葉をする山は、十一月に入っても、まだ紅葉しきれずに初秋の面影を残していた。秋の茸は全般に不作で、それも早く出すぎたものもあれば、遅く出すぎたものもあるといったふうで混乱していた。
 それでも冬は確実に近づいてきている。年末には我が家でも恒例の餅つきがおこなわれ、一年を閉じるだろう。我が家では集落の家々の餅も一緒につく。そんなことをしながら、村では、読みきれない自然と季節につつまれながら、村人は変わることのない村の暮らしを維持しようとする。
 村にいると、いろいろな話が風の便りのように伝わってくる。企業がリストラをすすめてるせいもあるのだろうか。それとも時代の変化なのだろうか。どこの家の子どもが村に帰りたがっている、という話がこの一年は多くなった。
 自然にとっては、気候の変化はゆっくりであるほうがよいだろう。あまり急激な変化は自然を途惑わせる。同じように、社会の変化も、村にとってはゆっくりであるほうがいい。早すぎる変化は、十分な対応を困難にさせる。といっても、現在の村は、あまりゆっくり事を進めているわけにはいかない。村の外からは、いろいろな圧力がかかってくる。上野村は市町村合併を拒否している以上、村の予算も厳しくなっていくだろう。この一年は、その対策も駆け足でおこなってきた。ますます苦しくなる農業、林業をどうするのか。土木関係の仕事も減っていくだろう。まるで、せっぱつまった勝負が、毎日つづいているような感覚だ。それは上野村にかぎらず、今日の日本の山村に共通するものだろう。
 今年の九月十四日から十六日には、群馬県で前橋を中心に「森林と市民を結ぶ全国の集い」が開かれている。森林ボランティアの全国集会、八回目を迎える。
 この第八回大会では、いくつかの点でこれまでとは異なる試みがおこなわれた。ひとつは、第七回までの主催者が森林ボランティアのつくる「実行委員会」と、国土緑化推進機構であったのに対して、今回は、群馬県、群馬県緑化推進委員会、林野庁関東森林管理局が加わり、五者共催のかたちになった。群馬県では、この数年、県民が参加する群馬県づくりが急速にすすめられてきた。さまざまなボランティアグループや文化グループが生まれ、行政と協力し合いながら群馬県をつくるかたちが、少しずつ定着してきている。だから、群馬県では、森林ボランティアと林務部の人々も、お互いに協力し合うパートナーであり、森林ボランティアの集会に主催団体として県が加わっても、少しも不思議なことではない。それは、これからの県行政のあり方を示しているだけである。またこの動きをみながら、国有林も積極的に市民との協力関係をつくりだそうとしてきた。
 これからの森づくりは、県民と行政が一体となってすすめるという姿勢が、第八回大会の主催者のかたちにも表現されている。それが今回の大会のひとつの特徴とすれば、もうひとつの特徴は、この大会に合わせて、県民の側から「森と人の未来のための群馬ビジョン」を発表したことである。総合的な森林政策を県民の側でつくり、発表する。それをたたき台にして、これからの群馬の森を誰が、どのようにしてつくっていくのかを、行政と県民が話し合い、行動していく。そんなかたちが生まれたのである。
 そして、この全国集会をきっかけにして、いくつかの森林に関わるネットワークが群馬の地に生まれたことが、第三の特徴である。そのひとつは、林業にかかわる人々のネットワークで、はじめはIターン、Uターンのかたちで、林業の現場で働いている人々のネットワークとして構想された。中心になったのは、Iターンで働いている人々である。ところが準備的な会合を重ねているうちに、森林組合の専務理事や総務課長といった人々のなかからも、加わる人々がでてきて、そういう立場の違う人々が、これからの林業、森林、労働、村の暮らしなどを対等に議論し、森の守り手づくりをすすめようという雰囲気が生まれてきた。もちろん、県はこの動きを応援する姿勢をみせている。
 こうして「森林と市民を結ぶ全国の集い」を群馬で開いた以上、それをきっかけにして、県民が主人公になった群馬の森づくりをすすめていこうとする方向が、ひとつのかたちをみせはじめた。
 冬の暮らしの準備が、少しずつすすんでいく上野村。そして群馬県。自然や社会の変化に途惑いながらも、人々は少しずつ歩みを重ねてきた。

 

 大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に 掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを転載させていただけることになりました。 感謝申し上げます。
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