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山里紀行 W日本 <第125回>村の正念場
(平成13年9月5日発行の「山林・No1408」より転載)
内山節 (哲学者)
「村は正念場を迎えつつある」。上野村の山里文化祭を展開してきた「おてんまの会」のメンバーには、そんな意識が芽生えてきている。もちろん、山里文化祭もこれから秋にむけて、これまで以上に忙しくなるだろう。しかし、それだけのことなら、その体勢は何とか準備してきた。 山里文化祭は、村の文化を視野におさめながら、村人たちがこれからの村づくりの活動をしていく、という性格をも併せもっている。メンバーたちは、村の文化を継承していくなかに村の継承を考え、失われかけていた村の文化を掘り起こしていく活動に、忘れられた村の「資源」を再発見する活動を重ね合わせてきた。村に生まれ村で暮らしつづけた人の力と、Uターン者の力、Iターン者の力を結集してすすめられている山里文化祭のかたちに、これからの地域づくりの方向性を感じ取り、文化祭をとおしておこなわれる都市の人々との交流が、地域づくりには欠かせないこともつかんできた。
山里文化祭をすすめればすすめるほど、メンバーたちは、これからの上野村づくりが気がかりになる。そして、「正念場を迎えた」という意識が高まる。 市町村合併の動きにどう対処していったらよいのか。上野村の人々は、合併は絶対にしないという気持ちでほぼ結束している。といっても、中央の強引な動きのなかで、いつまで抵抗しつづけられるのか、という不安はよぎる。すでに隣村も、その隣の町との合併協議に入っているし、総務省案では、上野村のような小さな村が独立村でいつづけた場合、村行政の大半の機能を県に移すという案までが議論されている。 予算面ではかなりの不利を甘受せざるを得なくなるかもしれない。合併を拒否する以上、国にも県にも頼らない村づくりを急がなければならないだろう。農業も林業も壊滅的で、村の木工や観光も景気低迷の影響を受けている現状で、それを実現していくにはどうしたらよいか。 といっても「おてんまの会」のメンバーには「追いつめられた」という気持ちはそれほどない。むしろ、知恵を働かせるときがきた、というような感覚のほうが勝っている。 山里文化祭だって、八ヵ月以上もつづけることは、無理を承知で立ち上げたものだ。中心的なメンバーは、自分の仕事を休まなければならないことも多く、今年はかなり収入が減るだろう。といっても、そんなものは、覚悟してしまえば何とかなるものだという自信を、いまはメンバーたちはもっている。 合併の動きに対してだって、どんな苦労があっても反対する覚悟さえ固まってしまえば、あとは知恵と工夫で何とかなるだろう。メンバーたちは、そんな気持ちをもっている。 もちろん、これからの村づくりの一発逆転のような案は、あろうはずはない。村とは過去の蓄積の上に、新しい蓄積を重ねながら生きてきた社会である。これまでの蓄積と調和しない新しい試みは、農業や林業もそうであるように、うまくはいかない。村づくりは、いわば地味な蓄積を増していくところにしかないだろう。 とすると、どんな蓄積を重ねていけばよいのか。すぐれた森づくり。その森を活用する技、畑と農の技の維持。美しい川の維持。集落の人々の結びつきや伝統文化。村らしさを損なわない新しい試み。そういったものを、ひとつひとつ積み重ねていくなかからしか、強い基盤をもった村はつくりだせないだろう。 今年の春、村と農協が、村人に休耕地に大豆をつくらないかと呼びかけた。有線放送で連日放送がおこなわれた。種用の豆は無料で配布する。つくり方の講習会をおこなう。 山里文化祭のなかで、私たちは昭和二十年代まで村でおこなわれていた、昔の製法による味噌の復元を試みた。どうやら、うまくいっている。その結果、この味噌づくりに農協が本気になってきた。せっかく造るのなら、大豆も百%村の大豆にし、村のにおいの感じられる大豆にしよう、ということになった。これまで造ってきた現代の製法の味噌もできるだけ村の大豆にしようという気運がでてきて、村人への大豆作付けの呼びかけがはじまった。 一方で、六月の末には村独自のインターネットのプロバイダーも営業を開始した。月五百円で通信料込みの使い放題である。受信速度が六メガだから、電話の百倍ほどのスピードである。これまで受信に百秒かかっていたものが、一秒でできるようになったと思えばよい。実際に使ってみると、私もこのスピードには驚いた。 もっとも「おてんまの会」のメンバーたちは、こちらは村づくりには大豆ほどにも役立たないかもしれない、と言って笑っている。 こんな変化のなかで、私たちは十二月まで山里文化祭をつづけている。
大日本山林会のご好意により月刊誌「山林」に
掲載中の「森づくりフォーラム」代表理事内山節のエッセイを期間限定で転載させていただけることになりました。
感謝申し上げます。 なお「山林」のバックナンバー及び新刊は大日本山林会にお申し込み
頂けば入手が可能です。定価400円。詳細は大日本山林会 (пE03-3587-2551:Fax・03-3587-2553:振替口座・00190-8-5792)迄お問い合わせください。
なお「おてんまの会」のHPはこちらからご覧になれます。
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