ただいまご紹介いただきました古橋でございます。本日お集まりになりましたみなさま方は、現在の日本の森林事情について大変な危機感を持って、常日頃、その実践活動を通じ、あるいは提言を通じてご努力をなさっている方々でございます。その日頃のご努力に対しまして、心から御礼を申し上げたいとともに、敬意を表するものでございます。
さて、私が林政審議会の会長をしておりました、平成9年12月18日に、林政審は「林政の基本的方向と国有林野事業の抜本的改革」という答申を政府に提出をいたしました。そのときの答申は、まさに林政審の委員の手作りというべきものでございまして、林野庁当局と大変な議論を、今までの考え方を打破するために大変な議論をした結果、まとめたものでございます。
この答申の直後、私は林政審議会会長を辞任したのでございますけれども、会長辞任に際し、二言だけ言ったことがございます。一つは、この林政審議会の答申を国民の理解を得ながら、これから具体的に実行していくということのためには、やはり基本法的なもの、森林に対する基本法が必要であると。したがって、林業基本法というようなものを抜本的に見直す必要があると、それを早くやってほしいということ。
二番目に、これから環境問題で炭素税なり環境税なりという問題は必ず出てくるのであるから、そういう問題が出てきたときに、その税源というものを森林の整備の方に持ってくるように、寝ぼけていてはダメだぞということをいったのであります。
そこで、その後この林政審の答申が出ましてから、各方面でいろんな議論が進められましたけれども、昨年の10月11日に林政審は、「新たな林政の展開方向」と題する報告書を提出されて、またそのなかで、林業基本法の見直しということを提言されております。さらに林野庁は平成12年12月に、林業基本法の抜本的改正の前段階として、「林政改革大綱とそのプログラム」というものを発表いたしまして、この3月中に国会に提出をするという方向であるというふうに聞いております。
林政審議会の最近における報告と、林野庁が進めます改革大綱をつくるに際しましては、林野庁なり林政審はある程度国民の意見は聞いたというふうに承っておりますけれども、私は、当面の基本法の改正そのもの、すなわち基本法の改正にどういうものを盛るんだ、という問題について、そしてそれと個別法との関係はどうなるんだというような関係について、この3月にこの基本法を国会に提出するという今の段階になっても、国民の目に明らかになってこないということは、きわめて私にとっては残念なことであります。あれほど国民参加のもとによる林政を進めていこうといった経緯からしても、基本法というものはまさに国民の協力を得ながら林政を進めるためのものであります。したがって、大きな林政の方向ということが言われるならば、基本法をテコにして、それに基づいて国民の理解を得ていくという問題について、なぜもっと国民の間に意見が起こるようなことがないのかということが、非常に残念であります。
私は林政審議会会長の時に、国有林というものは名実ともに国民の森である、そしてそれが林野庁とか労働組合のものではない、そして国民の参加によって国民のために活用するものであるということを主張し、さらにそのときに地球温暖化防止についての京都会議というものもありましたので、民有林についても、国民のこの考え方を押し進めていこうということを主張したものでございます。
国民の参加による森づくりを行うためには、この答申の作成段階から広く国民の意見を聞く必要があり、私は林政審議会の会長として、会議の都度、終わった後二つの記者会見を行って、記者の人たちと議論をしたのであります。
また、最近私は「男女共同参画社会基本法」というものの起草の小委員長を務めまして、これについても基本法をつくったわけでありますけれども、これにつきましても、基本法の内容について政府から正式に審議会に諮問があり、それについて内容を議論し、それをその都度記者発表をすると同時に、その論点を整理して、全国の国民のみなさまに意見を聞いたのであります。
今回の基本法の改正に当たって、その内容の改正について、森林整備について国民の協力を得るために、国民一般に広く理解を求める必要があるのでありますけれども、このような段階になってもまだその内容が出てこないということに対して、大変私は残念に思っておりますし、早く国民の意見を聞くべきであると思っております。
しかし、林野庁から基本法の論点整理であるとか骨子というものを私には見せてきておりませんので、私は林野庁が発表しました林政改革大綱であるとか、あるいは既存の基本法、最近におきましては食糧・農業・農村基本法というようなものを踏まえて考えまして、私として基本法に盛り込むべき事項はどういうものであろうかということをとりあえず考えまして、みなさまに発表したいと、こういうふうにおもいます。そして、この私が申し上げます論点について、みなさま方においてどんどん議論をされて、これに基づいて基本法そのものに国民の関心が高まって、国民の参加による国民の森林づくりというものが展開されることを切に望むものであります。
さて、一般に基本法というものは、三つの機能を持っております。一つは政策内容に対する枠付け機能であり、二番目は政策の決定過程に対する枠付け機能であり、三番目は誘導的機能と呼ばれるものであります。そこで、林業基本法の見直しを議論するに当たって順次申し上げていきたいと思っております。
まず第一に技術的な話からでありますが、改正の形式をどうするか。一部改正でいくのか全面改正でいくのか。私はまさに、今までの林業による予定調和論から直していくわけですから、全面改正をすべきであると、まだ林業基本法の条文を一部残して、それを部分的に改修していくということではダメなので、今や全面改正をすべきであると思っております。
次に基本法の名称であります。森とむらの会は「森と木とむらに関する基本政策」12の提言がだされておりますが、森とむらの会ですから、むらという言葉が入るわけでありますが、森は森林、木は木材と林業と木材産業、むらというのは村落、山村であります。森づくりフォーラムからは「森林・林業・山村・流域基本法」というふうに、流域がその中に入っております。これはまあ、理念というものを、この政策の理念をどうするかに掛かってくるわけでありますけれども、いずれにいたしましても、私はこの名称の中に、山村と森林と林業という言葉は是非入れてほしいと思っております。しかしいろいろと漏れてくる話は、山村というのは山村振興基本法があって、これは国土庁の所管になっておると。林野庁はまだ山村についての総合調整権はない。一般的な窓口にはなったんだけれども、調整権はないのでとグジョグジョといっておりますので、役所同士の調整に任せておいたのでは、私はなかなかうまくいかないと。したがってこういう問題こそ、今回行政改革で問題になっております政治主導で、こういう山村というものを基本法の名称の中に入れ、かつ山村についての理念をこの中に入れるべきであると、こういうふうに思っております。
次に先ほど申し上げました林業基本法の一つである、政策内容に対する枠付け機能について申し上げたいと思います。この枠付け機能と申しますのは、国であります。国は行政と司法とを両方決めますが、国に対して個別法令の立案、改正、運用に当たりましては、基本的な方針、基本理念等を提示して政策が実質的な総合性が図られるようにするというのが、この政策内容に対する枠付け機能でありまして、行政当局者、あるいは裁判官がいろんなことを判断する場合に、この基本法の理念というものを参考にしなければいけないというものであります。
それでは基本法に掲げる理念は何であろうかということですが、改革大綱から林野庁は三つを考えているのかなと私は思っておりますけれども、我々国民として、その三つで足りるのか、そして、その三つをこの基本法の中に入れるのは何故かという問題についてもっと議論をしなければいけない。例えば、森づくりフォーラムの方で流域の問題というものが出てきました。あるいは地方自治という関係からいえば、地域適材というようなものが基本理念の中に入るのか入らないのか。この基本理念というのが、一つの国民のための、国民の賛同を得ながら森林行政を進めていくときの大切な事柄でありますから、この基本法の中に理念というものを何にするかということは大変重要な問題であります。それを単に、もう法制局との間でつくりましたからこれです、と言われたのでは、私は国民づくりの森林は出来ていかないと、こういうふうに思います。
林野庁の方で考えられている林政改革大綱の中で見ておりますと、理念として考える第一は、「多様な機能の持続的発展のための適切な森林管理」ということが、まず第一にあげられてくると思います。それはまさに、森林というものの多様な公益的機能というものが非常に重要であり、また、それを持続的に適切に管理するということが必要であるからであります。ただ、法律上はそれで済むのでありますけれども、今後この森林の多面的機能というものを国民の中に、頭の中で分かっていてもダメなので、実質的に生活の中において、経験的に多面的機能というものを理解してもらう必要がある。そこで、前回の私の答申の時には、森林の機能というものについて八つ、それも事務当局がイヤというほど、なぜその多面的機能というものが公益的機能をもたらすのかという関係というものを、大学の先生なりいろんな方から説明を聞きながら、国民に分かりやすく説明しようと書いたのであります。そして私は、森林の多面的機能というものを国民の中に理解させていくためには、学校教育も必要でありましょうけれども、まさに都市においてそういうものを実感できるような森林博物館は出来ないか、あるいはそんな大物でなくても、都市の中における森林コーナーと、森林の機能を具体的に目で分かる、体験できるような森林コーナーというものをつくるべきではないかと。上野の国立博物館に行きましたけれども、なかには鳥獣やなんかはいっぱいありましたけれども、森林の機能そのものを理解できるようなものはございませんでした。
次に、この第一の理念に関係して申し上げたいことは、重視すべき機能に応じた森林の管理を推進するということ。そしてそのために、林業というものも必要でございましょう。そして林業というものが適正に行われなくなったときには、それに対して適切な管理が行われるような仕組みを作っていく必要があるということだと思います。それがいわゆる公的関与の問題でございます。この場合、森づくりフォーラムでは森林というものを公共空間と認識することによって提言をされておりますけれども、一つのご見識だと思っております。
平成9年の答申の際に起きましては、森林と民有林を含めまして、森林というものを公共財としてどういうふうに位置づけるかを巡りまして、大変議論が分かれたところでございます。結局一部の森林所有者の意見もあり、民有林の経営というものは、公共の利益に反しない範囲において森林所有者の意志に基づき行われることが基本であるというふうにした経緯がございます。公共の利益というものは、私は最近は範囲が広がってきておると、そして、森林所有者の森林の適切な義務というものが大きくなってきていると認識しております。
それから、森づくりフォーラムにおきますフォレストミニマム、所有森林の計画公示制度、保続対象森林制度の創設、というような概念につきましては、さらにまた管理放棄森林の第三者への権限移動というご提言も、私は注目に値するものと思っております。私は従来から、保安林の他に、第二保安林というものをつくると、そしてそれは、流域毎にゾーニングをして、本当に最低限直さなくちゃいけない、保持すべきものと、その程度じゃないけれども、今の地域の流域の問題として国土保全であるとかいろんな関係から見て、それほどではないけれども規制の緩やかな保安林をつくれと主張して参りました。そして、それによって相続税というものを、そういう転用規制ということを課することによって、相続税についての減免をしようということをしてきたのでございますが、そういうようなことにおきまして、この計画公示制度というものは非常に興味ある議論ではないかと、こういうふうに思います。
それから、ここに理念として森林というものがあがってきた。林業じゃなくて森林がまずあがってきたということは、従来のような政策の主たる目的というものを木材生産として、林業を通じて森林の木材生産機能を最大化することが結果として森林の公益的機能を発輝するという予定調和の考えた方が成り立たなくなったということで、この森林というものの適切な管理というものを第一の理念として掲げたということを、私は適切なものであると。そういう意味からもこの理念があがってきたというふうに思います。
第二の理念は、森林資源の持続的利用を担う、林業と木材産業の発展であります。これを理念として掲げる理由は、林業・木材産業は、木材生産を通じまして、森林の適切な管理に資するとともに、就業機会の少ない山村地域等の活力の維持などに、重要な役割を果たしているということ。森林から生産された木材は、永続的に再生産を行うことが可能な資材であるということや、加工エネルギーが少ないということなどによって、環境への負荷が少ない優れた素材であるということでございます。
森づくりフォーラムにおきまして、この林業については、スギ・ヒノキを中心とした人工林というものは、ストック型の森林整備として、長伐期により環境保全を図ると。そして、広葉樹林を対象とした雑木林林業というものはフロー型の森林整備として短伐期による環境保全を図るという考え方が示されておりますけれども、これも注目に値するご見解ではないかと思います。
次に、基本法に掲げるべき第三の理念は、山村の振興であります。山村地域は林業生産活動や日常的な森林管理活動を通じて森林の多様な機能の発揮を促し、安全で豊かな国土の形成を図る上で重要な役割を果たしているからであります。平成9年の林政審答申の検討に際しまして、山村振興については国土庁主管の山村振興法というものがあるから、この中に入れないでくれというのが、事務当局からの強い要望でありましたけれども、私は森林というものを議論する限り、山村というものを無視することは出来ない。特に世間一般において山村はかわいそうだから援助してやるんだという考え方は今や直して、山村に都市の住民は恩恵を被っているのだということのために、新しい山村哲学というものをうち立てなければいけないので、これは絶対譲れないということで、この山村の項目を答申のなかに掲げた経緯がございます。
しかし今やまた、この行政改革を終えた後においても、山村振興というものが理念にはあがるかも知れませんが、一つの基本施策としてあがってこないかも知れない。あるいは基本法の名称にのらないというようなことでは、全く私は残念でたまらないと。これこそ政治的な力によって、森林・林業・山村基本法というようなことをきちんと書くようなことにしてほしいと、こういうふうに思っております。
第二番目に、政策決定過程に対する枠付け機能について申し上げたいと思います。これは、政府に対して、政策決定過程の手続きの仕組みを義務づけるもので、通常三つの事項が最低限掲げているものであります。すなわち基本計画の作成義務、責任の所在、地方公共団体・国民の責任をどういうふうに書くか、そして最後に審議会等の推進体制というもの、この三つが政策決定過程に対する枠付け機能というものであります。
第一に基本計画でございますけれども、この基本計画をつくる理由と申しますのは、政策の推進に当たって行政の各部署が政策項目を基本理念に沿って矛盾なく、かつ総合的に一体的に実施に移すということ。また、経済・社会情勢の変化等に適時適切に対応して、効率的な施策を展開していく必要があるからであります。いわゆる計画による調整という問題でありまして、現行林業基本法におきましても、基本計画という条文がございまして、10条でありますけれども、政府は森林資源に関する基本計画並びに重要な林産物の需要及び供給に関する長期の見通しを立て、これを公表しなければならない、という規定がございます。そして、この現在の資源基本計画の内容でございますけれども、私が林政審議会の会長の時に審議会で承認したものでございますが、その内容は森林資源に関する基本構想、森林資源の目標、目標を達成するための方法、目標を達成するための課題、それからもうひとつが長期見通しというものであります。そこで、基本法上、これがどういう問題点があるだろうかということになりますと、この基本計画というものに盛り込むべき事項を何にするのか、そして、盛り込むべき事項を法定する必要があるのかないのか。ただ基本事項をつくるというだけなのか、盛り込むべき事項もある程度法定すべきではないか。もし法定するとした場合においては、どの程度のものを規定するか。それは基本法ですからなかなか改正が出来ませんから、計画の作成に当たっての考え方を書くべきかどうか。ここらのところが大変な議論になります。
それからまた、こんどの林野庁の大綱からみますると、それで予想される内容は、森林の整備目標及び森林の利用目標ということが書いてあります。そうすると私は、山村整備計画は入っていないなと直感をいたしまして、そうすると、新しくできる基本計画というものが、森林・林業基本計画と、森林・林業・山村基本計画ではなくなるなというふうに考えたのであります。これもまた残念な話である。こういう問題はもっともっと国民の間で議論すべきではないかというふうに思います。
基本計画の第二番目に問題になるのは、自給率に関する規定を食糧・農業・農村基本法の例にしたがって規定すべきかどうかという点であります。平成12年の林政審の報告におきましては、関係者の取り組みを同一の目標に向けて一体化するとともに、関係者が分かりやすい形で進捗状況を総合的・客観的に評価できる指針として、長期目標は必要である。しかし、その率としての国産材が国内の木材消費をどの程度充足しているかという率というものをつくることは否定的であります。否定的な理由として三つを掲げておりますが、森林の多彩な機能の発揮に向けた直接の指針にはならないということ。それから我が国の木材蓄積というものは年間需要量の30倍以上に達しているほか、世界的にも当面木材供給不足の可能性が少ないということ。三番目に食料消費と異なって、木材の消費が景気の動向等により大きく左右されると。これを分母にする率については国産材の利用が拡大したかどうかを検証する資料としては適当ではないというようなことで、これは木材自給率をつくるということについては否定的であります。ただ私は、木材消費という点だけではなくて、多面的な機能を持つ森林という、発揮すべき森林面積というものを流域毎に明らかにして、その面積・蓄積量というものを常に、ある程度維持し、そして目標面積を立て、それとの関係において、直接的な関係ではないけれども、外国産木材との関係について検証をするという指標を私はつくるべきではないかと、こういうふうに思っておりますし、こういうふうなところを議論をすべきだと思っております。その問題はまさに、森林法の森林計画の内容になるわけであります。
森づくりフォーラムでは、それと関係して、地球温暖化防止のための建築資材、化石燃料における木材の代替による需要量、木材需要における国産材の需要量、持続可能な森林経営からの木材調達率というようなものを考えて、いろいろ検討すべきであるというご提言をいただいておりますけれども、自給率というものを定めないにしても、なにか国土の最低ミニマム、森林ミニマムというものがフォーラムからも出ておりますけれども、こういうものを前提とした国産材あるいは国内の森林、そして海外の森林、それも地球規模における必要性というようなものについての理論構成をこれからしていく必要があると思っております。
基本計画の基本法上の第三の問題点についてですが、今度の林業基本法の改正において、森林と林業というものが一体的に基本法のなかで捉えられることになります。したがって私は、基本法の基本計画のなかに、この基本計画を実現するための森林法上の森林計画との関係を少なくとも基本法のなかに書いておくべきではないかと思います。さらに進んで、森林計画の基本的な考え方というものも、基本法のなかに規定した方がいいのではないかと。私は森林法も、本来は森林法の基本的な考え方は基本法のなかに持ってくるべきだという考えだったのでありますが、なかなかそうは、林野庁は捉えてないようでございます。
この森林計画制度というものは、本来森林法に規定すべきであるという考え方に立ちますと、なかなか基本法の議論とはならないのでありますけれども、しかし森林法の議論としても、森林計画制度については、改善すべき点がいっぱいございます。いろいろな議論が出てきておりますけれども、上から下への計画というものを市町村、都道府県、全国というふうに下から上へ上がっていく計画というものをつくるべきであると。私が先ほど申し上げたゾーニングということを通じてこの計画をつくっていくというのは、まさにそういう考え方であります。そのために森とむらの会におきましては、いくつかの提言をしておりますけれども、森林計画作成に当たって、森林計画作成の圏域内の多様な主体の参画の義務づけ、二番目に現行森林計画で欠落している部分、いわゆる多面的な機能の発揮であるとか、生物の多様性の発揮、あるいは保健休養、教育的な機能というものの整備目標というものも、この森林計画のなかで規定すべきではないかということ。三番目に森林計画の作成に当たっては、土地利用計画、国土利用計画、環境基本計画等々との整合性を図る。これは当たり前でありますが、間伐をしない無間伐施業、低コスト施業等の伐採の多角化など、森林整備手法について、地域の独自性を認める必要があると。したがって、一番最初の理念のなかで地域の適正というようなことが理念に入るか入らないかということも、非常に大きな問題だと私は思っております。森とむらの会がいっている四番目は、森林計画作成の際、国有林計画との調整、協力体制を明確にするということであります。これについては、私が林政審の時に国有林と民有林との計画を一本化しろと。夜を徹して議論をした経緯がございます。しかし、私の方が降りまして、一本化について可能性を含め検討をするというふうに、答申の時はなりました。しかしこれも、本来のことを考えれば、こういうものに付いてやる努力がなければならないと思います。
森林計画の実効性を期待するための計画と実績に対する是正の処置が必要。これも森とむらの会で提言しておりますが、森づくりフォーラムにおきましては、所有森林の計画公示制度と先ほど申し上げましたゾーニングによる保続対象森林制度の創設、それから管理放棄森林の第三者への管理権限の委譲というようなことをいっておられます。
基本計画の基本法上の第四の問題点は、見直しというものは、現在の林業基本法では必要に応じ見直すというふうに書いてあります。そうしますと、なかなか仕事をしようと思わなければ見直しをしない。よほど必要にならないとやらないということになりますので、これについては私は見直しの時限、全国森林計画というものは5年ごとに見直しをすることになっておると。したがってそれと同じように、森林・林業・山村基本計画も5年ごとに見直しを義務づけた方がいいと考えております。
政策決定機能の過程に対する枠付け機能の、責任の所在を明確にするということについて、次に申し上げたいと思います。明確化をする必要というのは、基本理念に沿って政策を総合的・効率的に実施するためには、国、地方公共団体、国民のそれぞれの役割、責任の所在と範囲を明確に、その連携を図っていかなければならないからであります。従いまして、基本法というものにはこの国、地方公共団体、国民の責任の範囲というものを書いているのであります。現行林業基本法におきましても、第7条におきまして、国の責任に関する規定ということで、国の施策というところに詳しくいろいろと書いてあります。それから、地方公共団体の施策に付きましては、国の施策に準じた施策を講じる努力義務があると書いてあります。国民に対する責務については、林野の所有権者と林野の使用収益権限を持っているもの、それは効率的に利用するという努力義務が課せられてあります。
これについての問題点でございますけれども、まずは国の責務、これは食糧・農業・農村基本法の例に倣い、あるいは最近におきます基本法の考え方によりますと、国の責務というものは、基本理念に則り、森林・林業・山村に関する施策を総合的に策定し、実施するというような書き方になる。細かいことは別に書いております。それからもう一つの国の責務として、基本理念に関する国民の理解を深める努力義務、それから国有林経営に関する責任という、これについて、先ほど申しましたとおり民有林と国有林との協調、役割分担というようなことについて、ここで明らかにする必要があるというふうに思います。この具体的な国の責務に付きましては、後ほど申し上げます基本的施策というもののなかに入れるということになるのではないかと思います。
次に地方公共団体の責務でありますけれども、国の施策に準じた施策を講ずる努力義務でよいのかどうか。これに加えまして、地方自治の推進の見地から、地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し実施する責務、というものを加える必要があるのではないか。私が参加しました男女共同参画社会基本法の基本計画の、地方公共団体については地方独自の、というものを法文のなかに入れておりますし、食糧・農業・農村基本法もそういうことが書いております。それから地方公共団体の役割のなかで、都道府県の役割と市町村の役割の分担というものを、法律のなかで明確にすべきかすべからざるかというものも、一つの課題であります。市町村というものを重視してくると、ここいらの役割分担というものを法律のなかで明らかにしていく必要があるのかどうか。さらにまた、地方公共団体のなかでも公有林を持っているところがある。国有林についてはある程度書き込んでありますから、地方公共団体についても公有林について書かなくていいのかという気がいたします。ここらのところは、立法者がいろいろと議論をしていると思いますけれども、国民の間で議論をして、おかしい点は国会に提出されてから修正をしてもらったらいいと、それがまさに政治の優位だと、そういうふうに思っております。
次に国民の役割であります。それでは国民をどの様に分類するのか。現行法におきましては、森林の所有者と便益・収益権限者というふうに書いてございますけれども、森林の受益者である一般国民というものを、どういうふうに加えるべきか。あるいはそれによって森林ボランティアというようなものを、どういうふうに位置づけるか。さらに、責任の内容を国民の場合はそこに規定するのか。責任の程度というのはどうするのか。努力義務にするのか、あるいはもっと強めていくのか。それこそ地方公共団体の施策に実質的に協力するというような努力義務にとどめてしまっていいのか、というようなことであります。私は国民が参加する点を含めまして、労働力の提供であるとか、税金を含めまして資金を提供するとか、そういうことについて法律に原案として出して、そして国民の間に議論を求めて、それについての議論をするという過程が必要なのではなかったかと、こういうふうに思っております。
次に、この国、地方、国民という関係のなかにおいて、流域管理システムのなかで流域の関係者というものがお互いに協力していくということを書いた方がいいのか悪いのか、ここいらのところも一つの問題点ではないかと、こういうふうに思っております。
政策決定過程に対する第三の問題は、推進体制の問題であります。この推進体制というものを書くのはどうしてかと申しますと、基本理念に沿って政策を総合的、効率的に、かつ国民の信頼や意見を得ながら推進していくためには、基本法にそのような政策を推進する体制を持つという必要があるからであります。国民の代表の意見を入れた審議会というものをつくっていくということが必要であるからであります。改正基本法においての問題点は特にはないと思っております。この林業基本法においては、第4章かなんかで林政審議会というものを書いてありますけれども、この林政審議会は、今回の行政改革の一環によって、これは森林法におきます中央森林審議会というものと合併をしております。それに基づく組織、権限というものがすでに整備をされました。したがってそれをそのまま、新しい森林・林業・山村基本法のなかに持っていけばいいと思います。ただ私は、今後のこの形は出来たけれども、その運営はどうなるかというところに、大変な心配をいたしておるわけであります。森林という技術的な問題点、森林・林業基本法の方におけるいわゆる事務的な問題、これらの間がよく協力をして、日本の森林について総合的な政策が提言・実施されるように、一つ努力をしてほしいと。お互い、技術屋、事務屋ということをいわないで、両者が一致して新しい審議会というものをもり立ててほしいというのが私の希望であります。
基本法の第三番目の効果というのは誘導的効果というものであります。基本法はその同一分野の施策というものを実際に実施に移すということに関しましては、それは個別法令の機能といたしまして、ただ条文といたしましては、政府の施策を実施するための必要な法制上または財政上の措置、その他の措置を政府は講じなければならないという規定を設けております。これは現在の林業基本法においてもありますので、それはそれでよろしいというふうに思います。そして今度の、林野庁が出しました林政改革大綱ということのなかには、備考欄に、やれ森林法を改正する、森林組合法を改正するという予定が出ておりますけれども、それがまさにそういうことをやるということを書かざるを得なくなったということが、基本法の誘導的機能であります。財源についても、基本法にちゃんと書いてあるから、もってこいという足がかりになるのではないか。また、税金について、相続税の問題について、森林整備の観点からおかしいということが理屈づけられたならば、そういう規定があるから、これに則っていうべきではないかと、こういうふうに思うわけであります。
そこで、次に、誘導的効果との関係から、基本的施策という考え方について申し上げたいと思います。個別の実施施策については基本法に規定してないのでありますけれども、実施施策についての基本的な考え方、それに必要な施策等については基本法に書いてはいけないというのではなくて、書いてもいいのであります。しかし、あまりたくさん書くと、基本法として読みづらくなる。そこらのところが、なかなか難しいのでありますが、最近における食糧・農業・農村基本法を見ると、けっこういろんなことが書いてございますので、私は今回の法律でもある程度書いてほしいと思っております。そこで、何を基本施策として基本法のなかに掲示するのか。これが大きな議論であり、それこそ国民の間で議論すべき問題であるというふうに思っております。そこで、私として、とりあえず改革のなかから、基本法のなかに乗っけるべき基本的施策はなにかなというものを、一応考えてみたので申し上げたいと思います。
基本的施策の第一に追加すべきものは、多様な機能の発揮のための森林の管理の推進ということであります。そして、その内容としては森林整備事業として、間伐の計画的実施であるとか、病虫害や鳥獣の被害対策、あるいは所有森林等の森林管理に掛かる責任の明確化、管理が行われない場合の森林管理保全措置、こういうようなものを抽象的に書くのかどうか知りませんけれども、書くことが第一のなかの第一番目であり、二番目に、森林の利用の措置としてのボランティア活動との連携であるとか、農山村の保全整備、こういうものを含めました、国民に開かれた森林の整備というようなことも基本施策に掲げられるべきではないか。三番目は、森林整備に対する理解の醸成と森づくり運動の展開ということ。これは林野庁が出しました改革大綱のなかのどの部分を乗っけるかという問題だと思います。しかし、どれを乗っけるかというのはまさに政策当局者の重点事項はなにかと、優先順位を決める重要な問題でありまして、そういうものこそ、もっと国民に意見を聞くべきであります。あるいは有識者の意見を聞くべきであるというふうに思います。
追加すべき基本施策の第二は、林業施策に関するものでございます。基本法の内容としては、地域林業の経営体制の整備であるとか、林業就業者の確保育成であるとか、林道・機械化等の効率的かつ適切な森林整備のための生産基盤等の整備等でございます。そしてこの中で、林業就業者の確保育成ということに関しまして、食糧・農業・農村基本法におきましては、女性の参画の規定を独立の条文で入れております。私が関係しております、男女共同参画会議におきましても、各法律が出てきますと、これが女性について規定しているかどうか、どういうふうに考えているかどうかを審査することになると思いますけれども、いまのところは基本法のなかに入れないんじゃないかと。確かに農作業における女性の役割と、林野事業における女性の役割は違っていると思います。農作業の場合においては、まさに家庭と作業とが一緒になり、6割以上を婦人が担っている。しかし林野の実際の作業においてはまだ少ないかもしれない。しかし、山村の事業と、山村における産業における二次産業、ようするに加工業をやっている、あるいはこれから必要とするグリーンツーリズムということでこういういろんなホテル的なものをつくっていくというときにおける女性の役割というのは、非常に大きいわけでありまして、私はこれを基本法のなかに入れてほしいと、入れるべきではないかと考えております。
基本施策としての第三は、木材産業の振興に関係するものでありまして、木材の加工体制の改善、流通の合理化と情報化の推進、木材産業の再編整備の推進等の木材産業の改善に関する事項と、それから木材の利用に関するものでありまして、国民への普及の啓発、住宅への地域材利用の推進、公共部門等における地域材利用の推進、木質資源の多角的利用の推進等の、木材利用の推進に関する事項というものを基本施策のなかに入れるべきではないかと思います。
第四番目の基本施策としては、森林・林業・木材産業に関する研究技術開発の推進ということだと思います。このために、大綱のなかにも出ておりますけれども研究技術開発及び林業普及指導事業の効率的・効果的な推進に関する規定というものを設けるべきだと思いますし、特に私は環境問題というものが出てきたときに、アメリカのオレゴン州等において、向こうは大学等においては、どういう森林施業が炭酸ガスの固定化に一番いい施業になるのかという問題について、大変熱心な研究をしております。こういうような問題についても、具体的に基本法のなかに試験研究の推進ということを書くことによって、そういうものの内容を進めていくことが必要だと思います。
第五番目の基本施策としては、山村対策であります。現在の林業基本法には山村対策の規定はございません。食糧・農業・農村基本法では、この3つの条文を設けて、農村の振興ということをいっております。そしてまた、そのなかの中山間地域の振興として、そのなかでそれを根拠として直接支払制度というものを考えているわけでございます。林政改革大綱におきましては、山村地域の活性化として、就業機会の創設確保、定住条件の整備、都市と山村の交流の促進等の総合的施策の促進と森林整備のための地域による取り組みによる推進というものを掲げております。私は、基本法として掲げるにはこういうようなことでいいのではないかというふうに思います。これの関連の議論において、直接的支払制度というものが、森林保全と、今申し上げたもののなかの山村整備のなかの4番目に森林整備のための地域による取り組みの推進というものに関係して、今議論されております。森づくりフォーラムの提言におきましては、造林補助金制度を改善することによって、実質的な所得補償制度を創設すべきであるというご提言がございます。これも注目すべき議論だとは思いますけれども、私は従来から、定住条件を整備することによって通年雇用をせざるを得ない、それにともなう社会保障関係費というものを雇い主が負担するのは大変であるので、そのための経費につかうべきではないかということを言っておることを、念のために申し上げておきます。
さらにまた、山村については、山村・森林オンブズマン、オンブズマンではいけないのでオンブズパーソンということでございますけれども、オンブズパーソンというものについての提言を前からしております。この山村地域に発生する多種多様な問題を解決するために、流域単位で、山村住民の意見を広く汲み上げて、これを広く行政一般に反映させる、私見として、米国における山村地域開発協会というような山村オンブズパーソンを設置すべきではないかと。これは基本法に書くのか、あるいは基本法にはこういう山村地域住民の苦情を処理するというようなことを整備の施策のなかに入れるということが必要なのかも知れませんけれども、これをどういう形にして基本法のなかに入れるか、入れないのか、入れなかった場合には具体的にどういう形でこれを実現していくかということを行政当局に求めたいと思っております。
次に第6番目の基本施策としては、現行林業基本法にございますような、林業行政機関及び林業団体に関するものであります。今後、これについて議論すべき問題は、行政組織の整備及び行政経営の改善、団体の整備のために必要な具体的な内容を考えて、この規定を作っておくということであります。
行政組織の整備及び林業団体の整備に付きましては、この林政改革大綱におきましては、まず森林組合につきましては、森林組合の機能の充実のなかで、地域の森林の管理を責任を持って担う主体として、地域の森林の巡視・調査の機能や、市町村との適切な役割分担、連携の充実を含む体制の整備を図るというふうに規定しておりまして、平成14年の通常国会に向けて、森林組合法の見直しをするということをいっております。まだ時はあるのでありまして、私たちはこの森林組合の問題について大いに議論をしなければなりません。森林組合の改革の検討の方向として、2つの方向があると思うのであります。
森林組合のなかで今持っている公的な機能、管理的な機能、それと実際に他の団体と競争されている林業作業班的なもの、こういうものを分離してやって、そして公的仕事というものについて、それに公的法人としての性格を付与してこれを地域における森林管理の責任主体とするのか、あるいは現行の森林組合というものを内容をもう少し改装して、もっと地域住民がもっと入れるようにするとか、いろいろ内容を広くして、そして森林組合をむらづくりをするときの一つの責任主体とするのか、こういう方向があると思います。ただその他に森づくりフォーラムの方では、こんな森林組合ではダメなので、公的なものにおいては流域森林委員会、森林委員会、民有林における森林官、流域地域の国有林管理委員会、こういうような構想を掲げられておられます。これも一つのこれから議論すべき大きな題材であろうかと思います。いわゆる森林委員会ということは、農業委員会というものを考えられたものだと思いますけれども、現代の森林の持つ公共財としての役割を考えれば、抜本的改革の一つとして、私は検討に値するのではないかと思います。私どもが答申の時には、森林・林業活性化センター、あるいは活性化協議会というものを強化して公的機能というものを進めるべきだということを提言してきたところであります。
それからもう一つ森林組合につきましては、農林業協同組合についてでありますけれども、平成9年の林政審の時に、林業事業体の育成強化の一環として、森林組合の育成強化をうたったなかで、選択的な森林・農業協同組合を作るべきだということを私はいっていたのでありましたけれども、一部委員の大変な反対によりまして、書くことは出来ませんでした。大激論、怒鳴り合ったものですから、ただ、森林組合の今の合併の推移をふまえつつ、長期的な検討課題というふうにした経緯がございます。しかし森づくりフォーラムの提言では、農林漁業一体の協同組合、あるいは山村協同組合などを創設するように改革するということが提言されておりまして、私も意を強くしたところでございます。
以上基本法の内容について私が考えていることを申し上げましたが、私としてはこういう議論をどんどん出していくことが必要だと考えております。
もう一つ忘れておりました。第7番目は林業分野における国際的な取り決め、国際的協力ということも基本施策には入ってくるべきだと思います。世界におきます持続可能な森林経営の推進のための国際協力、地球温暖化防止等への積極的取り組み、地球規模での環境問題や森林資源の持続的利用の観点から、適切な木材貿易、この適切な木材貿易というところに付いて、特に注目をしていただきたい。こういうことを書かなければいけない。現在の林業基本法では必要な輪入について、需給及び価格の安定を図るために外国産の木材について輸入の適正円滑化等必要な施策を講じると、いずれにも読めるのでありますけれども、どういう場合にやるかという哲学が入っておりませんので、こういうところも注目すべきだと思います。
だいぶ時間を超過して恐緒ですけれども、先ほど誰かがいわれましたように、21世紀は環境の世紀、そしてまたNPOの世紀であります。まさにこの循環型社会というものを形成し、まさにNPOの方々がここでやっておられるということが、まさに21世紀を本当に先取りしてやっていただいていると思っております。そして、多くの関係する方々が、この改革の問題について、貴重なご提言をいただいているということは、私は大変力強く感じております。
そして、このようなNPOが活動していくためには、まずNPOが行政と適切な緊張関係を持たなければならない。そして緊張関係を持つためにはNPO側が相当エンパワーメントをして努力していかなければならない。そしてそのためには、現在は情勢が整ってきておる。政府は情報公開をやり、地方分権によって自らの行政はすぐ地方でとれる、政策評価を政府がやって、それに対するパブリックメントを政府が求める、さらに情報革命によって情報は瞬時に入ってくる。そういうように、NPOがエンパワーメントをする機会は非常に増えているのでありますから、したがってこのNPOによって自ら政策をどんどんつくって、提言をしていただくというのが必要だと思うのであります。そして役所側というのは、どんどん人が変わっていきます。そしてまた、その機運というものが、私の時はずいぶん機運があがったなと思いましたけれども、今はどうか知りませんけれども、こういうふうに常にNPOが同じことを繰り返し繰り返し言うということが必要だと思います。そしてそのためにも、自分たちが言っていることが正しいのだということを理解するためにも、そういう意見を同じくする方々が集まって、一堂に会して議論をするという機会を持つということは大変重要だと思っておりますし、本日の機会がそういう機会になるということを心から祈念いたしまして、長くなりまして恐緒ですけれども、私の基調講演といたします。ご静聴ありがとうございました。
|